iPS創薬、数年後に世界初実用化へ 慶大がALS治療薬

慶応大の研究チームは2日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って発見した、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の治療薬候補について、ビッグデータの活用で高い効果を確認できたため、来年にも最終段階の治験を行い、数年後の実用化を目指すと発表した。iPS創薬による治療薬の実用化は、世界初となる見通しという。

治療薬候補は、脳神経系の難病であるパーキンソン病の治療薬として広く使われている「ロピニロール塩酸塩」。既に初期段階の治験を終え、令和3年に有効性の確認を発表していた。

だが今回、1万人以上のALS患者の病状を登録している国際的なデータベースを使い、改めて治験の結果を詳細に比較検討したところ、1年間の服用で病気の進行を約7カ月遅らせられることが判明。既存薬を上回る有効性だったため、最終段階の治験に進み実用化を目指すことに決めた。

岡野栄之(ひでゆき)・慶応大教授は記者会見で「来年にも(最終段階の)治験を行い、順調に進めば数年後の実用化を目指す」と話した。

また治験の過程で、患者ごとに異なるロピニロール塩酸塩の効果を、事前に判定する手法も開発。患者ごとに投与のやり方を変えるテーラーメード医療も実現できそうだとしている。

チームは、ALS患者の細胞から作製したiPS細胞を使って病気を起こす神経細胞を体外で再現し、約1200種類の既存薬を投与する実験を実施。最も抑制効果があったロピニロール塩酸塩を患者に投与する初期段階の治験を平成30年に始めていた。

ALSは、脳や脊髄の神経細胞に異常なタンパク質が蓄積し、運動機能のまひや呼吸不全を起こす難病。国内患者数は約1万人で、根本的な治療法はない。

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