現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. ニュース
  3. 国際
  4. フォーリン・アフェアーズ リポート
  5. 記事

キケロ兄弟の選挙戦術 ―― 現代に生きる古代ローマの知恵と戦術

2012年6月10日発売号

    キケロ兄弟の選挙戦術 ―― 現代に生きる古代ローマの知恵と戦術

    クィントゥス・トゥッリウス・キケロ/共和政ローマ法務官

     紀元前64年、共和制ローマの弁護士、雄弁家として知られるマルクス・トゥッリウス・キケロはローマの最高権力ポストである執政官に立候補する。当時、キケロは42歳。頭脳明晰な彼はすでに大きな名声を手にしていた。

     通常なら、貴族階級の生まれではない人物が執政官候補とみなされることはない。だが、この年の他の候補たちは魅力のない人物ばかりで、少なくともキケロの弟クィントゥスは、うまく選挙キャンペーンを展開すれば、兄マルクスが執政官に選ばれる見込みはあるとみていた。当時、ローマ市民の男性は投票権を持っていたが、投票システムは複雑だった。

     富裕層が大きな力を持っており、選挙で勝利を収めるには彼らの社会的、政治的な後見が欠かせなかったし、選挙には賄ろ、そしてときには暴力がつきものだったが、選挙そのものには秩序があり、一定の公正さを持っていた。コメンタリオラム・ペティショニス(選挙に関する小ハンドブック)は、クィントゥスが兄マルクスのためにまとめた選挙をいかに戦うかのメモと言われている。 

     この解釈を支持する研究者もいれば、このメモは誰か他の知恵者がまとめたと考える研究者もいる。

     いずれにしても、この手引書の著者が紀元前1世紀におけるローマ政治のかなりの事情通だったことに間違いはなく、ここに書かれていることは現在にもそのまま通用する部分がかなりある。

     次に掲載するのは、フィリップ・フリーマンによるコメンタリオラム・ペティショニスの新訳(How to Win an Election: An Ancient Guide for Modern Politicians) からの抜粋、そして著名な政治コンサルタント、ジェームズ・カービルによるコメンタリオラムの現在の政治への意味合いについての分析。(編集部)●

    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

    兄マルクス・キケロへ

    ■すべての好意とつながりを動員せよ

     その才能、経験、努力ゆえに、あなたは人が自分のものとできるすべてのスキルをすでに我がものとしておいでです。互いに相手を想う者として、あなたの選挙について、私がこのところ昼夜を問わず考えていることをここにお知らせしたいのです。

     まず、あなたが備え持つ強みを認識すること。・・・数においても多様性においてもあなたほど豊かな支持者に恵まれている候補はそう多くはありません。公的な地位を持つ人々、商人階級の多く、そしてローマ市民たちもあなたを支持しています。

     あなたがこれまで法廷でうまく弁護してきた、さまざまな社会的バックグラウンドを持つ人々のことも忘れてはいけません。もちろん、あなたを支持している利益集団のことも。そして、常にあなたの側にいる友人たちだけでなく、あなたを尊敬し、あなたから学びたいと考えている若者たちも力になるはずです。

     彼らに有益な助言を与え、一方で彼らに助言を請う。そうすることで、こうした支援グループがあなたによせる信頼を維持できます。今こそ、すべての好意を動員すべきです。

     何かをあなたに負っている人々に対しても「これまでの借りを返すためにも、自分を応援してほしい」と言うのを忘れずに。一方、そうでない人々にも「自分を支持してくれれば、恩義に感じ、報いるつもりだ」と伝えるのです。もちろん、貴族階級の支持、特に、執政官の経験がある人々の支持を取り付ければ、大きな力になります(訳注1)。仲間入りをしたいと望む人々に、兄さんには「その価値がある」と納得させることが大事です。

     こうした特権階級の人々との関係を忍耐強く育んでいくのです。兄さんと友人たちは、執政官経験者たちに、あなたが伝統主義者であることを納得させなければなりません。決して大衆に迎合し、便乗するタイプの人物だと思われないように。

     「いかなる問題であっても、私が民衆の立場を支持しているようにみえるとすれば、それは、民会(市民集会)での支持を得るための方便だ」と説明するのです。そうすれば、有力者たちは、あなたのために影響力を行使してくれるか、少なくとも、あなたに敵対的な行動をとることはないはずです。

    〈続きはフォーリン・アフェアーズ・リポート6月号〉

    (C) Copyright 2012 by the Council on Foreign Relations, Inc., and Foreign Affairs, Japan

    PR情報
    検索フォーム

    フォーリン・アフェアーズ リポート バックナンバー


    朝日新聞購読のご案内
    新聞購読のご案内 事業・サービス紹介
    • 中国特集