参院選買収、取り調べで利益誘導疑い 録音データ、最高検が調査

河井克行元法相が実刑となった参院選広島選挙区の買収事件で、公選法違反の罪に問われた元広島市議が録音した任意聴取の音声データについて記者会見する田上剛弁護士=21日午後、広島市
河井克行元法相が実刑となった参院選広島選挙区の買収事件で、公選法違反の罪に問われた元広島市議が録音した任意聴取の音声データについて記者会見する田上剛弁護士=21日午後、広島市

令和元年の参院選広島選挙区を巡る買収事件で、河井克行元法相(60)=実刑確定=から現金を受け取ったとして東京地検特捜部の任意の取り調べを受けた元広島市議(67)が、検事から不起訴処分を示唆された後、現金が買収目的だったと認めたかのようなやり取りの録音データがあることが21日、分かった。有利な処分を示唆して事件の構図に沿った供述を引き出した利益誘導の疑いがある。最高検も録音データの内容を把握しており、詳細を調査している。

元広島市議は、公選法違反(被買収)の罪に問われた木戸経康(つねやす)被告。21日に会見した木戸被告の弁護人によると、被告は市議だった平成31年4月に元法相から30万円を受け取ったとして、令和2年3~6月にかけて9回、任意で事情聴取を受けた。4、5回目の聴取からやり取りの録音をはじめ、約7時間あるという。

被告は当初、現金に買収の趣旨があったことを否定したが、検事は「議員を続けてほしいと思っている」「そのレールに乗ってもらいたい」などと述べ、聴取を継続。被告はその後、買収の趣旨を認めた供述調書に署名した。

検察当局は被告を一度、不起訴としたが、検察審査会が「起訴相当」と議決したのを受けて4年3月、被買収の罪で略式起訴。被告は議員辞職したが、略式起訴を不服として正式な裁判を求めた。

弁護側は裁判の公判前整理手続きで、買収を認めた供述調書に信用性がないことを示すためとして録音データを証拠請求したが、検察側が調書の証拠提出を見送ったため、裁判所はデータの証拠請求を却下。公判では示されない見通し。

木戸被告の初公判は今月27日に開かれる。弁護側は「現金を受領した認識がなかった」と無罪を主張するとともに、検察側の取り調べには利益誘導の疑いがあり、起訴自体が無効とも訴える方針。

河井元法相の公判では、弁護側が買収の趣旨を認めた地元議員らの取り調べで「検察による利益誘導があった」などと主張したが、確定判決は、違反はなかったとして弁護側の主張を却下。当時の選挙情勢や現金が配られた相手や時期などの状況から買収の趣旨を認め、元法相に実刑判決を言い渡した。

広島地裁で行われている被買収側の公判でも、他の地元議員から、検事が不起訴を示唆したり元法相を立件するために有利な供述を誘導したりする発言をしたとの主張が相次いでいる。

最高検は「公判の推移を踏まえつつ、適切に対応する」とコメントした。

参院選広島選挙区買収事件

令和元年の参院選広島選挙区で河井克行元法相が地元政治家ら100人に計約2900万円を配り、妻の案里元参院議員の集票を依頼したとして、東京地検特捜部が河井夫妻を公選法違反罪で起訴、後に有罪が確定した。現金を受領した100人は全員不起訴とされたが、検察審査会がうち35人を「起訴相当」と議決。検察当局は同法違反罪で9人を在宅起訴し、25人を略式起訴した。略式起訴後に正式裁判を求めた3人を含む12人の公判が順次始まり、一部は有罪が確定している。

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