サウンド流用に伴う問題点とは?

 2017年8月30日~9月1日の期間、パシフィコ横浜にて開催された日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2017。最終日の9月1日に行われたセッション“『映画のようなゲームサウンド』が成功しない本当の理由 FINAL FANTASY XVサウンド制作での事例”の模様をリポートする。

 セッションの講師を務めるのは、スクウェア・エニックス サウンド部の菅沼篤氏。サウンドを担当した作品は、『ファイナルファンタジーXIII』シリーズ、『ファイナルファンタジーXV』(以下『FFXV』)、映画『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』など。CEDEC 2012、IGDA Japan SIG-Audio#9での講演実績もある。
 冒頭で菅沼氏は、今回の講演テーマについて、「ゲームの『FFXV』と映画版の『FFXV』を同時に進めていたとき、“映画のようなゲームサウンド”というフレーズが、ずっと気になっていたんです」とコメント。「追求したら成功するのかな? という話はおもしろいかもと思いました」とテーマ決定の経緯を語った。

『ファイナルファンタジーXV』サウンド制作事例に見る ゲームのサウンドは映画に迫れる!? オーソリティーが問題点を解説【CEDEC 2017】_01
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▲サウンドデザイナーとして数々の作品を手掛けてきた菅沼氏。
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▲サウンドクリエーター、あるいはその志望者だろうか。会場には多くの来場者が詰めかけた。

 まず菅沼氏が触れたのは、『FFXV ユニバース』の開発に当たっては、二フル軍や武器、魔法など、多くのアセットをゲームと映画で流用する必要があったという点だ。だがサウンドの流用には、いくつか課題があることが発覚。菅沼氏はおもな問題点を3つ挙げ、ときにはデモ映像も公開しながら、いかに解決していったかの過程を順次説明してくれた。

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▲最初に、サウンド流用を妨げる大きな問題点が3つ紹介された。

ゲームと映画の音楽の違い

 問題点その1は、ズバリ“映画のサウンドを直接ゲームに実装できない!?”ということ。その大きな要因として、菅沼氏は、ゲームと映画ではサウンド制作のスケールが異なる“制作環境の違い”をまず指摘。またほかの要因として、“モノラルとステレオの問題”、“空間処理の差異”ということも挙げた。

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▲ゲームと映画では、サウンド制作の環境が大きく異なる。

 “モノラルとステレオの問題”とは、ステレオチャンネルの音がぶつかり合って聞こえにくくなる状況をどうするかということ。たとえばバトルシーンでは、銃撃戦のSEとボイスが重なったり、カーチェイスシーンでは、エンジン音やサイレンに、無線ボイスや音楽が重なったりする場合もある。
 そこで菅沼氏が取った解決案は、ボイスやエンジン音などをモノクロにしてバランスを取るという手法。ステレオとモノラルの振り分けにより、音のぶつかり合いを軽減する形だ。

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▲ステレオ音源が重なると、聞きづらい状況が生まれる場合もある。

 ゲームと映画では、空間処理をする方法も異なる。それによりサウンドの直接流用が難しくなることが、“空間処理の差異”という問題。これについて菅沼氏は、カテゴリー別に距離減衰カーブを使用することで対応したそうだ。
 また空間処理ではもうひとつ、“サラウンドリバーブ”も採用。これは簡単に言うと、場所や状況により音声の響きかたのパターンを変える技術で、よりリアルなサウンドを表現することが可能になる。ここではデモ映像が流され、実際にエリアが変わることでサウンドも変化することがアピールされた。

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▲音の種類で距離による聞こえかたを分けて、クリアーな空間音響を実現。
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▲エリアごとに響きかたのパラメータを変えている。
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▲実例として『FFXV』のゲーム映像が流された。

ストーリー表現による音楽演出

 問題点その2は、“ストーリー表現の違い”。映画はリニアストーリーで、ゲームはインタラクティブストーリーなゆえ、その違いによりサウンド流用時に問題が生じてしまう。映画はストーリーに沿って進行するため、「バトルの中でセリフのみ目立たせる」や、「敵にとどめをさすSEのみ大きくなる」といった演出が可能だが、オープンワールドで突発的なことが起きるゲームでは、なかなかそういった対応は難しい。

 この問題に対しては、自社のエンジンであるSEADでプログラム制御を行い、インタラクティブな展開に対応できるようサウンド仕様を設計したと菅沼氏は語る。
 「さまざまなシーンで整合性が求められるため、開発にはとても頭を悩ましましたね」(菅沼氏)。

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▲映画とゲームでは、ストーリーの性質により表現方法が異なってくる。
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▲インタラクティブな展開に対応するサウンドシステムを構築。
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▲タイタン戦ほか、モンスターとのバトルシーンが実例として紹介された。

 もうひとつ紹介された解決法は、「スナップショットMix手法でインゲームミックスを行う」というもの。これも要は、場面場面に応じてサウンド効果を変えていく手法だ。デモ画面では、ドライブする主人公たちが天候の変化を受けたり、モンスターと遭遇したりするシーンとともに、変化するサウンドの響きかたも味わえた。

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▲モンスター戦、トンネル内、雨や晴れなど、状況によりサウンドも変化。

ラウドネス基準値にも要注意

 3つ目の問題点は、“音声のラウドネス基準値”。これもゲームと映画とでは違うため、ダイナミックレンジを変える必要があるということのようだ。基本的に、映画よりゲームはダイナミックレンジが狭くなりがちだが、狭くなり過ぎると演出が安っぽくなると菅沼氏は言う。
 解決策として菅沼氏が提唱したのは、「自分の作品について最適なリファレンスを作り出す」ということ。それについては、一般のDVD、ブルーレイのホームシネマ作品の音声も参照できる場合もあるそうだ。

『ファイナルファンタジーXV』サウンド制作事例に見る ゲームのサウンドは映画に迫れる!? オーソリティーが問題点を解説【CEDEC 2017】_24
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▲ラウドネス基準値については、市販の映画ソフトなどの音声も参照になるとのことだ。

 セッションはこれにて終了となったが、最後は菅沼氏が近況報告として、『FFXV』ウィンドウズ版の開発進行状況を公開。ドルビーアトモス対応になったことが発表された。ということは、サウンドにはさらに磨きがかかるのだろうか? こちらも大いに期待したい。

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▲『FFXV』ウィンドウズ版の開発も順調に進行中とのこと。