夫婦別姓で伝統が脅かされる?
「家族の一体感や絆を壊す」「結婚制度を弱体化する」「我が国の伝統が脅かされる」「親子で名前が違うと、子どもがかわいそう」——。現在、日本で夫婦別姓に反対して聞かれるこうした意見は、実はフィンランドでも1980年代に主張されていた。
フィンランドでは、1930年から1985年まで、女性は結婚すると夫の姓に改姓する、または旧姓と夫の姓を組み合わせた複合姓(詳細は後述)にすることが義務づけられていた。
女性だけに改姓、または複合姓を義務づけるあり方を見直すきっかけとなったのは、1979年に採択された国連女性差別撤廃条約である。その条約は、結婚と家族関係における女性差別を禁じ、男女は結婚に関して同じ権利を持つとする条項を含んでいる。
男性は旧姓を保持できるのに、女性にだけ改姓、または複合姓を義務づけるのは、それに反することになる。フィンランドは翌80年、国連女性差別撤廃条約に署名したが、批准するためには、法律を改正する必要があった。
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法務省は、 男性も女性も旧姓を保持できる、どちらも複合姓にできる等、選択肢を増やした改正案を準備した。両親が別姓の場合の子どもの姓については、両親が決めることができる等の案も盛り込まれた。
この改正案が国会に提出されたのは、1982年。女性議員のほとんどがその法案に賛成した。現在、女性の国会議員の割合は47%だが、当時は30%である。
しかし、この改正案は強い反対を引き起こし、冒頭にあげたような反対意見が出された。反対したのは、「キリスト教連合」と「フィンランド地方党」系の党である。