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特集

リンネ
植物にかけた情熱の人

JUNE 2007

文=デビッド・クアメン 写真=ヘレン・シュミッツ

年で生誕300年を迎えるスウェーデンの博物学者カール・リンネ。近代的な分類法や生物の命名法を考案した情熱の研究者の素顔に迫る。

 スウェーデンは春の訪れが遅い。1707年5月23日、ステーンブルーフルトという小さな村の牧師補の家に男の子が生まれたときも、外気は冷たく、地面はぬかるみ、木々は葉をつけていたが、花はまだ咲いていなかった。

 牧師だった父親のニルス・リネウスは、アマチュアの植物学者で熱心な園芸愛好家でもあった。元々は「インゲマンの息子」という意味のインゲマションを姓の代わりに名乗っていたが、大学の入学手続きのために正式な姓が必要になると、セイヨウボダイジュを意味するスウェーデン語の「リンド」にちなんで、リネウスと名乗ることにした。それほど植物好きだったのだ。母親のクリスティーナは教区牧師の娘で、出産当時はまだ18歳だった。二人は男の子をカールと名づけた。両親は赤ん坊の揺りかごを花で飾ったとも言われているが、これはカール・フォン・リンネが世界的に高名な植物学者になった後で付け加えられた逸話かもしれない。

 幼いころのカールはむずかっていても、花を握らせればおとなしくなったという。カールにとって、花は自然の美と多様性に目を向けるきっかけになった。花は美しく多様なだけではなく、何らかの意味を秘めているのではないかと、早い時期から感じていたようだ。

 少年になったカールは、すぐに花だけでなく、植物やその名前にも強い関心を示すようになった。カール少年は近所で採集した草花の名前をしつこく父親に尋ねたが、「まだ小さかったので、教わった花の名前を忘れてしまうこともよくあった」との記録もある。あるとき父親はとうとう堪忍袋の緒が切れ、「また名前を忘れたら、もう教えてやらないぞと幼いカールを叱りつけた。それ以来、少年は全身全霊を傾けて花の名前を覚えるようになった」という。

 リンネは、科学者として成長していく過程で、植物の名前と多くの関連情報にこだわり続け、驚異的な記憶力でそれらを覚えていった。だが、偉大な植物学者、多作のアイデアマン、名前を暗記する達人といった説明は、リンネの一面を表しているにすぎない。それだけでは、リンネが生前に得た名声の大きさと、今なお色あせない科学史上の重要性を理解することはできないだろう。リンネは情報をいかに整理し、表現するかを総合的に研究した「情報の設計者」とでもいうべき存在だった。

 百科事典やインターネットのホームページに載っている簡潔な伝記では、リンネは生物を分類した「分類学の父」と記されている。現在も生物の学名表記に使用する「ラテン語による二名法」の発案者と紹介されているかもしれない。こうした記述はもちろん正しいが、生物学におけるリンネの重要性を理解するには不十分だ。

 リンネは私たち現世人類をホモ・サピエンス(Homo sapiens)と名づけ、大胆にもサルと同じグループに分類したという説明もあるだろう。これも事実だが、少々誤解を招きかねない。リンネは進化論者ではなかった。生物の起源については当時の主流だった神による創造説を心から信じ、自然の研究は神が創造した世界の神秘的秩序を明らかにする作業だと考えていた。特別に信心深かったわけではなく、自然界に神の意志以外の力は一つも存在しないと妄信しているわけでもなかった。リンネが今日でも偉大な科学者と尊敬されている理由は、自然の多様性に高い価値を認め、すべてを解明しようとしたからだ。人類は世界中のあらゆる生物を発見し、名前をつけ、数え、理解し、ありがたく鑑賞しなければならないというのが、リンネの信条だった。

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