74歳ザ・グレート・カブキさん、ムタに捧げた最後の赤い毒霧に込められた思い…金曜8時のプロレスコラム

グレート・ムタ引退試合でリングに登場したグレート・カブキ(カメラ・今成 良輔)
グレート・ムタ引退試合でリングに登場したグレート・カブキ(カメラ・今成 良輔)

 “東洋の悪魔”グレート・ムタ(武藤敬司の化身)がプロレスリング・ノア「GREAT MUTA FINAL “BYE―BYE”」(22日・横浜アリーナ)で引退し、“魔界”に帰還した。同時にリングから去る決意をしたのが、“ムタの父”ことザ・グレート・カブキ(74、本名・米良明久)さんだ。

 ムタの相手チーム、丸藤正道、AKIRA、白使が入場した後に、カブキさんのテーマ「ヤンキーステーション」が流れた。イントロの鼓の音がアリーナに鳴り響くと「おおおーっ」というどよめきが起きた。

 “東洋の神秘”は、長い花道をゆっくり歩き、ロープ中段ではなく下段をまたいでリングイン。ダブルヌンチャクを四方に披露し、鎖帷子(くさりかたびら)の頭巾(忍者マスク)を開けて隈(くま)取りメイクを見せると、天井に向かって赤い毒霧を噴射した。これが露払いとなり、味方のダービー・アリン、スティング、そして主役のムタを迎え入れた。

 現在、東京・文京区で居酒屋「かぶきうぃずふぁみりぃ」を経営しているカブキさんは、2017年12月22日にプロレスリング・ノアの後楽園ホール大会で現役選手を引退。それ以降は「全日本プロレス50周年記念大会」(昨年9月18日・日本武道館)などのビッグマッチ限定で、リングに上がり「ヌンチャクの舞い」(毒霧付き)を披露。入場パフォーマンス後も味方のセコンドに付き、相手への毒霧アシストで盛り上げてきたが、この日はリング上でムタと記念撮影をすると、ゴングを前に通路を下がっていった。

 誰もがムタの一挙手一投足に夢中になっているなか、バックステージに去ったカブキさんを追いかけた。「お疲れ様でした」と声をかけると、メイク越しに穏やかな笑みを浮かべ「もうこれが最後ですね」とつぶやいて、ドレッシングルームに消えた。マネジャー役の安子夫人が「メイクしてリングでパフォーマンスすることはもう無いと思います」と教えてくれた。

 レジェンドレスラーは、往年の名曲で入場するだけでもいいから出てきてほしいと思ってきたが、カブキさんの“舞い”は試合に匹敵するエネルギーを要するのだろう。毒霧も相当な肺活量が求められ、猫背になった74歳にとって、天を仰いで勢いよく霧を噴き出すのが困難になってきたようだ。ムタに捧げた最後の毒霧は赤だった。

 以前、カブキさんから聞いたことがあった。「緑がメインですけど、本当に会場のライトに映えるのは赤なんですよ。でも血のように見えるから、テレビでは嫌がられたんですね」かつてゴールデンタイムで放送された日本テレビ系「全日本プロレス中継」の常連だったカブキさん。テレビマッチでは確かに緑が多かった。近年はその緑がかすれがちに。最後の赤い毒霧は、オヤジの存在証明だった。

 居酒屋「かぶきうぃずふぁみりぃ」の人気メニュー「毒霧ハイボール」は赤と緑があり、毒は入っていないが、どちらも色鮮やか。メイクをしなくても凄みがにじむレジェンド店主がカウンター越しに出してくれる“毒霧”はいつまでも現役であってほしい。(酒井 隆之)

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