ジェイコム株大量誤発注事件 ジェイコム株大量誤発注事件の概要

ジェイコム株大量誤発注事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/30 03:29 UTC 版)

当日の値動き
ジェイコム株の値動き

ジェイコム社

この事件で注目を受けたジェイコム株式会社(現・ライク)は、人材派遣業を主とする企業である。特に、携帯電話・情報通信の営業支援・販売促進業務のアウトソーシングを行う会社として知られている。

なお、本件には全く関係ない、社名やブランド名が似ているジュピターテレコム(当時の社名。ブランド名の表記はJ:COMで読みがジェイコム。ケーブルテレビやインターネットプロバイダ、電話事業。現・JCOM株式会社)や、JTBグループの株式会社ジェイコム[2](イベント等の総合プロデュース業)、その他全国にある同名のジェイコム社にも、本事件に関して問い合わせが殺到した。

事件当日

2005年(平成17年)12月8日午前9時27分56秒、この日マザーズ市場に新規上場された総合人材サービス会社ジェイコム(当時。証券コード:2462)の株式(発行済み株式数14,500株)において、みずほ証券の男性担当者が「61万円1株売り」とすべき注文を「1円61万株売り」と誤ってコンピュータに入力した。

この際、コンピューターの画面に、注文内容が異常であるとする警告が表示されたが、担当者はこれを無視して注文を執行した。「警告はたまに表示されるため、つい無視してしまった」(みずほ証券)という。 この注文が出る直前までは、90万円前後に寄り付く気配の特買いで推移していたが、大量の売り注文を受けて初値67.2万円がついた。その後、通常ではありえない大量の売り注文により株価は急落し、9時30分にはストップ安価格の57.2万円に張りついた[1]

この大量の売り注文が出た瞬間から電子掲示板で話題騒然となり、様々な憶測が飛びかった。「誤発注である」と見て大量の買い注文を入れた投資家がいた一方で、価格の急落に狼狽した個人投資家が非常な安値で保有株を売りに出すなど、さまざまな混乱が生じた。

担当者は、売り注文を出してから誤りに気付き、1分25秒後の9時29分21秒に取消し注文を送ったが、東京証券取引所のコンピュータプログラムに潜んでいたバグのため、この取り消し注文を受け付けなかった。合計3回にわたって売り注文の取消し作業を行ったが、東京証券取引所のホストコンピューターは認識しなかった。「東京証券取引所と直結した売買システム」でも取り消そうとしたが、こちらにも失敗した。東京証券取引所に直接電話連絡して注文の取り消しを依頼したが、東京証券取引所側はあくまでもみずほ証券側から手続きを取るように要求した。その間にも買い注文は集中しはじめ、約定されてしまう危険性があったことから、みずほ証券は全発注量を「反対売買により買い戻す」ことを決定する。

反対売買の執行によってすべての注文が成立し、株価は一気に上昇、9時43分には一時ストップ高77.2万円にまで高騰する。その後、他の証券会社や個人トレーダーの利益確定売りや押し目買いなどにより、株価は乱高下をともない高騰し、結果として10時20分以降はストップ高である77.2万円に張り付いた。みずほの反対売買にもかかわらず、すでに注文を出されていた9万6236株の買い注文については相殺しきれず、そのまま市場での売買が成立した。

事件当日の憶測

事件発生当初、「この誤発注の主体者が誰であるか」について様々な憶測情報が流れ、ジェイコム(当時)上場の主幹事である日興コーディアル証券がその当事者ではないかとの観測が流れたことから、同社株が前場引け時点で前日比100円安と急落した。日興シティ・日興コーディアル・マネックス日興グループ3証券は急遽、「この売り注文には無関係である」との声明を出す事態となった。

また、市場全体もこの誤発注の当事者を「さやあて」する思惑や連想などから、前場中頃から証券株、銀行株などに売りが波及していた。これが後場(午後)に入ると、さらに「誤発注した証券会社が、穴埋めのために自己売買部門で利の乗っている銘柄に売りを出すのでは」との見方が広がり、日経平均株価は下げ足を速めて全面安の展開となり、15時の大引け日経平均株価は、前日比301円30銭(1.95%)安の1万5183円36銭と、年初来3番目の下げ幅となった。

発表

事件の当事者がみずほ証券であることが明らかにされたのは、大引け後に同社が会見を開いた18時前のことである。誤発注であることと、その当事者が即時に明らかにされなかったこと、また当日の12時頃に大株主のみずほコーポレート銀行および農林中央金庫にだけ優先的に誤発注の経緯を報告していた事実については、市場の透明性を損なうと非難する声もあった。

翌日以降

事件発覚後、すぐに関係機関による内部調査が行われ、翌9日以降ジェイコム株の取引は一時停止された。発行済み株式総数の42倍にのぼる売り注文に対して、実際に約定された枚数は9万6236株であった。

売り方であるみずほ証券は、存在する総株式数の6.6倍もの引渡しを求められる格好となり、通常での取引決済が不可能となっていることから、日本証券クリアリング機構は現金による解け合い処理(強制決済)と裁定し、すでに買われた株は、事件発生の直前に寄りつきつつあった価格を参考に一株91.2万円での買戻しとした[2]。現金による強制決済は1950年の旭硝子(現・AGC)株以来、55年ぶりとなった(1950年の強制決済については山一證券を参照のこと)。

この誤発注、および強制決済によりみずほ証券が被った損失は、407億円とされる。

取引が再開された12月14日以降、ジェイコム株はストップ高の連続で、一時220万円超の価格をつけた。その後、2006年1月には過熱感が落ち着き、150万円前後まで値を下げた。


  1. ^ この際、東証などで見られる特別気配(特買い・特売り)による売買の一時停止措置は機能せず、途中に示された買い注文を約定しながら数十秒でストップ安にいたる。
  2. ^ 株式会社日本証券クリアリング機構による「ジェイコム株式に係る決済条件の改定について」の発表
  3. ^ https://www.fsa.go.jp/singi/mdth_kon/siryou/20060316/01_5.pdf
  4. ^ 株誤発注訴訟:法廷闘争、長期化か…みずほ証券控訴(毎日新聞、2009年12月18日)
  5. ^ みずほ証券の株誤発注裁判、東証に107億円の賠償命令、過失は7割(ITpro、2009年12月4日)
  6. ^ 大和田尚孝 (2009年12月14日). “みずほ証券の株誤発注裁判、東証は控訴せず”. 日経コンピュータ. 2020年7月15日閲覧。
  7. ^ みずほ証券誤発注:損賠訴訟 みずほ証券が控訴(毎日新聞、2009年12月19日)
  8. ^ 誤発注訴訟、長期化へ みずほ証券が控訴(日本経済新聞、2009年12月18日)
  9. ^ 東証、みずほ証券に賠償金支払い 誤発注問題で132億円(日本経済新聞、2009年12月20日)
  10. ^ みずほ控訴に「こちらも控訴」東証社長(産経新聞、2009年12月22日)
  11. ^ 「新システムarrowheadは今日時点で100点の出来」東証斉藤社長が会見(ITpro、2010年1月28日)
  12. ^ みずほ証-東証誤発注裁判、高裁がIT企業の責任に言及(ITpro、2013年8月6日)
  13. ^ 上告の提起及び上告受理申立てに関するお知らせ(東証、2013年8月7日)
  14. ^ 東京証券取引所に対する損害賠償請求訴訟の上告のお知らせ(みずほ証券、2013年8月7日)
  15. ^ 東証への賠償命令確定=107億円、株誤発注訴訟-最高裁(時事ドットコム、2015年9月4日)
  16. ^ 浅川 直輝 (2015年9月14日). “みずほ証-東証の誤発注裁判、10年経て終結、問われ続ける「責任の所在」”. 日経コンピュータ (日経BP). https://xtech.nikkei.com/it/atcl/column/14/346926/091000339/ 2017年11月14日閲覧。 
  17. ^ 日本の長者番付に「無職」が登場すること自体は珍しいことではない。[1]
  18. ^ 億超えトレーダーが絶対に教えたくない アベノミクス株投資の法則. 扶桑社. (2013). ISBN 978-4594608521 


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