IPCC第4次評価報告書 統合報告書

IPCC第4次評価報告書

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/20 23:02 UTC 版)

統合報告書

3つの作業部会による報告内容を踏まえた統合報告書(Synthesis Report; SYR) が2007年11月のIPCC総会(スペイン)にて採択され、同年末に公開された[9]。内容は、統合報告書のSPMに要約される[10]

IPCC議長のPachauri博士は、AR4 SYRの発表の際、下記のようなメッセージを世界に発信した[11]

  • 気候変化はあらゆる場所において、発展に対する深刻な脅威である。
  • もう疑っている時では無い。我々を取り巻く気候システムの温暖化は決定的に明確であり、人類の活動が直接的に関与している。
  • 現在進行している地球温暖化の動きを遅らせ、さらには逆転させることは、我々の世代のみが可能な(defining)挑戦である。

そして、次のガンジーの言葉で締めくくっている:「この世界の内に望む変化に、あなた自身が成ってみせなさい。」[11]

使われている表記

AR4では、下記の用語・表記を用いている[8][12][13]

不確実性(uncertainty)

IPCCは評価の不確実性について一貫した用語使用を求めており、AR4では次の表記が使われる。 [14] [15] [16]

可能性(likelihood)

成果や結果の可能性が確率として表現できれば確率ごとに下記用語を用いるが、確率は専門家の判断に基づき必ずしも客観的手続きによって得られない。

  • 発生確率>99%:「ほぼ確実である」(virtually certain)
  • >95%:「可能性が極めて高い」(extremely likely)
  • >90%:「可能性が非常に高い」(very likely)
  • >66%:「可能性が高い」(likely)
  • >50%:「どちらかと言えば」(more likely than not)
  • <33%:「可能性が低い」(unlikely)
  • <10%:「可能性が非常に低い」(very unlikely)
  • <5%:「可能性が極めて低い」(extremely unlikely)

ただし、2008年3月の訳語見直し[16] 以前の気象庁訳は、上記の「非常に」が「かなり」とされていた。

確信度(confidence)

基礎となる科学的知見(underlying science)への確信度を専門家の判断に基づき表現する場合に下記表記が用いられる(一部紹介)。

  • 10のうち9以上が正しい:「確信度が非常に高い」(very high confidence)
  • 10のうち8が正しい:「確信度が高い」(high confidence)

2008年3月の訳語見直し[16] 以前の気象庁訳は、「確信度」でなく「信頼性」を使っていた。上記で「非常に」が「かなり」となっていた。

意見一致水準と証拠量

第三作業部会の報告書では、不確実性を、専門家の意見の一致水準(level of agreement)と、証拠の量(個々の原典の質と量)(amount of evidence)の二種類の尺度についてそれぞれ3段階の用語で表現する。

気候変化・気候変動 (climate change)

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)および気候変動枠組条約の名称の「気候変動」は英語ではclimate changeである。IPCCでは自然変動と人間活動の影響を区別せずに含むが、気候変動枠組条約は人間活動に起因する気候の変化に限定する違いがある。

対応する日本語は、もし「変動」と「変化」を区別するならば「気候変化」が適切である。本記事では組織・条約・文書の固有名以外に「気候変化」を用いた。気象庁は「気候変化」を用いる事が多く、IPCC第4次評価報告書についても2007年発表の訳文[17] で「気候変化」を用いていた。2008年3月に他の部会報告書の日本語訳と用語を統一するため「気候変動」に変更した[16][18]

AR4に見つかった誤りと訂正

AR4には下記のような誤りが見つかり修正された。懐疑論者の攻撃対象になったがいずれもAR4の結論を揺るがすものではないとされる[5]

こうした誤りを受けIPCCや国連は、インターアカデミーカウンシル(InterAcademy Council, IAC)に対し、IPCC全体に関する独立したレビューを要請し、より厳密さや信頼性を高めることを表明している[19][20]

ヒマラヤの氷河の将来見通し

第二作業部会報告書のアジアの章(10章)のヒマラヤの氷河に関する節(10.6.2節)で、ヒマラヤの氷河消滅時期を「2035年まで」とした記述が科学的根拠不十分な情報に基づいていたことがわかり[21][22]、IPCCはこれを訂正した[23]。ヒマラヤを含む地球全体で氷河の後退傾向が見られ、海面上昇や飲料水確保へ悪影響が懸念されることに変わりなく[5]、IPCCは前述の訂正とあわせ、統合報告書(49ページ)の氷河に関する結論は変更の必要がないという声明[23] を出した。

オランダの海面下の面積比率

第二作業部会報告書のヨーロッパの章(12章)で、オランダ国土の55%が海抜以下と記したが、オランダ国立環境評価機関が作成した文献の誤りを引き継いだ、洪水の被害を受けやすい地域を含む面積比であった[24]。オランダ政府の指摘で、IPCCは2010年2月、正しい数値は26%だと訂正した[25]

アマゾンの熱帯雨林の乾燥に対する脆弱性

第二作業部会報告書のラテンアメリカの章(13章)で、アマゾンの熱帯雨林が乾燥の影響を受けやすいことにつき、査読を受けない論文が根拠とされていたことが問題になった。専門家により報告書の文献選択は最適でなかったが内容を裏づける査読済み論文が存在し論旨を変更する必要がないと判断された[5][26]


  1. ^ IPCC第4次評価報告書について環境省
  2. ^ 「ココが知りたい温暖化」のIPCCに関するQ&A
  3. ^ a b c d e f g IPCC の役割とIPCC の評価プロセスの主要な要素、2010年2月4日
  4. ^ 環境省によるAR4の要約プレゼンテーション
  5. ^ a b c d Attacks on the Intergovernmental Panel on Climate Change Obscure Real Science”. Union of Concerned Scientists (2010年2月10日). 2010年5月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月16日閲覧。
  6. ^ Intergovernmental Panel on Climate Change
  7. ^ Table10.7, Figure 10.33
  8. ^ a b AR4 WGIII SPM 要約(環境省)
  9. ^ AR4 SYR
  10. ^ AR4 SYR SPM
  11. ^ a b IPCC総会(Spain, Valencia, 2007.11.17)に於けるPress Presentationのスライド
  12. ^ AR4 WGI SPMの要約(環境省)
  13. ^ Glossary(IPCC)
  14. ^ AR4統合報告書(英語)P.27(PDF P.5)
  15. ^ AR4 第一作業部会報告技術要約(日本語訳)”. pp. 2-4 (PDF pp.6-8). 2016年1月16日閲覧。
  16. ^ a b c d 気象庁 (2008年3月28日). “IPCC第4次報告書における訳語の見直しについて”. 2013年6月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月16日閲覧。
  17. ^ AR4 第一作業部会報告 政策決定者向け要約 気象庁訳” (2007年). 2009年3月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月16日閲覧。
  18. ^ AR4 第一作業部会報告 政策決定者向け要約 気象庁訳” (2008年). 2013年1月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月16日閲覧。
  19. ^ 国連及び気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の要請に応じたIPCC のプロセスと手続についての科学アカデミーによる独立レビューの実施 IPCC, 2010年3月10日, 環境省の日本語訳
  20. ^ 温暖化報告書の誤りをめぐり、IPCCの調査を依頼 国連 AFP BB News, 2010年3月11日
  21. ^ Pallava Bagla: Himalayan glaciers melting deadline 'a mistake' BBC, 2009年12月5日
  22. ^ Tracking the source of glacier misinformation”. Science. American Association for the Advancement of Science (2010年1月20日). 2010年1月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月16日閲覧。
  23. ^ a b ヒマラヤの氷河の融解に関するIPCC声明 IPCC, 2010年1月20日, 環境省による日本語訳
  24. ^ Netherlands Environmental Assessment Agency: Correction wording flood risks for the Netherlands in IPCC report 2010年6月16日更新
  25. ^ U.N. climate panel admits Dutch sea level flaw ロイター, 2010年2月13日
  26. ^ Roger Harrabin: IPCC under scrutiny BBC, 2010年1月30日






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