F-15J (航空機)
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近代化改修
大きく分けて、F-15J/DJの中後期生産型にあたるJ-MSIP機(J:899-965、DJ:063-098)を対象とした近代化改修計画と、それより前の初期生産型のPre-MSIP機を対象にした近代化改修計画との2種類がある。
J-MSIP機の近代化改修
- J-MSIP機の近代化改修計画は計画当初は改修の進捗状況によって形態一型と形態二型に分けられており、いずれも三菱重工業を主契約としていた。だが実際に機体を改修する予算計上が進むにつれ当初の改修計画が変更されたため、この区分は正式に使われなくなった[54]。しかし、実際には当初計画の改修項目を多く踏襲して改修しているため、本項目では計画の推移を判りやすくするため、便宜上、形態一型相当と形態二型相当の呼称を使用して記述する。
- 中期防衛力整備計画(平成17~21年度)においては、当初は期間中に26機を量産改修する予定だった。ところが米国のF-22Aの輸出規制措置により、老朽化したF-4EJ改を代替する予定だった第4次F-X機の選定を2008年(平成20年)以降に先送りとしたため、J-MSIP機の近代化改修でF-4EJ改の減勢による防衛力低下を補う必要が生じた。このため2008年(平成20年)度と2009年(平成21年)度に、当初は形態二型に予定されていた統合電子戦システムの搭載と次期輸送機の調達を先送りして、浮かせた予算を多数の近代化改修に割り当て、これに合わせて2009年(平成21年)度に中期防を改訂して改修機数を48機とした。2010年(平成22年)度からは、先送りされた統合電子戦システムの搭載予算が「F-15の自己防御能力向上」名目で別途計上されている。この時点では4個飛行隊分の88機を対象に近代化改修を行うとされていた[55] が、中期防衛力整備計画(平成26~30年度)における「F-15の近代化改修」機数が26機と明記されたため、J-MSIP機の近代化改修機数は98機に増加、さらに2014年(平成26年)8月に近代化改修機数はJ-MSIP機全機である102機であるとされた[50]。しかし平成31年行政事業レビューでは94機、うち納入済み90機とされている[56]。令和元年度の防衛白書の解説「戦闘機体制の構築」では近代化改修を行っていない機体が8機あるとされた。
- 航空雑誌等ではこれらの改修機のことを纏めてF-15J改と呼んでいる。また、海外では「近代化」を意味する「modernized」の頭文字のMが付加されてF-15MJと呼ばれている。
- 形態一型相当
- 「F-15の近代化改修」名目で予算計上が進められた。
- 実施された改修内容
- 4.-8.は以前から別途実施されてきた改修であり、本来「F-15の近代化改修」とは別であるが、改修予算計上段階で本計画に統合された。当初、試改修初号機(12-8928)には4.-8.は実施されなかった。
- セントラルコンピューターの再換装(CP-1075A/AYK→CP-1075C(P)/AYK)
- 火器管制レーダーをAN/APG-63から改良型機械式アンテナアレイのAN/APG-63(V)1へ換装。バックエンドの一部が共通しているため、アクティブフェーズドアレイ(AESA)のAN/APG-63(V)3への再改修も容易である。
- 空調設備(LPWS[注 10]→HPWS[注 11])と発電装置(50KVA→75KVA)の改良(これに伴い、操縦席後方右側面の空調用丸型排気口を廃止)
- AAM-4/-4Bの運用能力獲得
- 通信装置への電波妨害対処機能付加
- 飛行記録装置の搭載
- 射出座席の改良
- 戦術データ交換システム端末(MIDS-LVT(3))の搭載に向けた空間と配線の確保[57]
- 進捗状況
- 平成9年(1997年)度:システム設計に着手
- 平成10年(1998年)度:細部設計開始
- 平成11年(1999年)度:一部機材の購入予算の計上を開始
- 平成12年(2000年)度:セントラルコンピューターや火器管制レーダー等の主要機材の購入予算を計上
- 平成14年(2002年)度:試改修作業開始。三菱へF-15J試改修初号機(12-8928)引き渡し
- 平成15年(2003年)度:7月24日、試改修初号機初飛行。10月21日に飛行開発実験団へ再納入、技術的追認を実施[58]
- 平成16年(2004年)度:2機分の改修予算を計上[59]
- 平成17年(2005年)度:4機分の改修予算を計上[60]
- 平成18年(2006年)度:2機分の改修予算を計上[61]
- 平成19年(2007年)度:F-2一括取得のために、改修予算の計上を見送り。9月12日の量産改修初号機(12-8948)納入後、年度内に2005年度予算計上分までの計6機を納入[55]。
- 平成20年(2008年)度:残りの2機を納入[55]。
- 形態二型相当
- 引き続き「F-15の近代化改修」名目で予算計上が進められた。全94機の計画数のうち試改修機2機を除く92機が予算計上されており形態一型相当の8機分についても再度計上された。
- 実施された改修内容
- 形態一型相当の改修要素に当初計画の形態二型から「統合電子戦システムの搭載」を割愛した次の要素を追加している。
- ヘルメット装着式表示装置(HMD:Helmet Mounted Display。JHMCS[54] を採用)搭載によるAAM-5の完全な運用能力獲得
- 戦術データ交換システム端末(MIDS-LVT(3))の搭載[57]
- 不良問題
- 平成26年6月、会計検査院からライセンス契約に基づき作成されたソフトウェアに係るライセンス上の制約から、修理等が行われていない状態となっているセントラルコンピュター13個(11億5267万円)、レーダー・データ・プロセッサー5個(13億3439万円)の修理を行うように改善要求が出された[62]。その後、会計検査院は空自が対策を講じてセントラルコンピューターとレーダー・データ・プロセッサーの修理に着手し、今後は同様の事態が発生しない様に対策を立てていることを確認した[63]。
- 進捗状況
- 平成14年(2002年)度:開発開始。
- 平成19年(2007年)度:3月8日に形態二型試改修初号機(32-8942)を飛行開発実験団に再納入し実用試験を開始し、一連の試改修事業を年度内に終了した。
- 平成20年(2008年)度:20機分の改修予算を計上。この一括調達により約168億円の経費を節減した[64]。「統合電子戦システムの搭載」は当初計画の形態二型から分離されて先送りされることになった。
- 平成21年(2009年)度:22機分の改修予算を計上。中期防期間内で定められた改修数26機を超過するため中期防を改訂し48機とした。38機分のレーダー装置(AN/APG-63(V)1)の先行購入予算も計上した[65]。
- 平成22年(2010年)度:2機分の改修予算を計上。12機を納入[55][66]。
- 平成23年(2011年)度:8機分の改修予算を計上[67]。10機を納入[55]。
- 平成24年(2012年)度:補正予算分と合わせて6機分の改修予算を計上[68][69]。10機を納入[55]。
- 平成25年(2013年)度:6機分の改修予算を計上[69]。9機を納入[70]。
- 平成26年(2014年)度:12機分の改修予算を計上[71]。11機を納入[72]。
- 平成27年(2015年)度:8機分の改修予算を計上[73]。8機を納入[72]。
- 平成28年(2016年)度:8機分の改修予算を計上(補正予算)[74]。8機を納入[75]
- 平成29年(2017年)度:4機を納入[75]。
- 平成30年(2018年)度:8機を納入[56]。
- 令和元年(2019年)度:4機を納入[76]。
予算計上年度 | 部品調達 | 改修 | 納入 |
---|---|---|---|
平成16年度(2004年) | - | 2機 | 0機 |
平成17年度(2005年) | - | 4機 | 0機 |
平成18年度(2006年) | - | 2機 | 0機 |
平成19年度(2007年) | - | 0機 | 6機 |
平成20年度(2008年) | 20機 | 20機 | 2機 |
平成21年度(2009年) | 60機 | 22機 | 0機 |
平成22年度(2010年) | 0機 | 2機 | 12機 |
平成23年度(2011年) | 0機 | 8機 | 10機 |
平成24年度(2012年) | 0機 | 6機 | 10機 |
平成25年度(2013年) | 0機 | 6機 | 9機 |
平成26年度(2014年) | 0機 | 12機 | 11機 |
平成27年度(2015年) | 0機 | 8機 | 8機 |
平成28年度(2016年) | 0機 | 8機 | 8機 |
平成29年度(2017年) | 0機 | 0機 | 4機 |
平成30年度(2018年) | 0機 | 0機 | 8機 |
令和元年度(2019年) | 0機 | 0機 | 4機 |
合計 | 80機 | 100機 | 92機 |
- 自己防御能力の向上
- 開発段階では「F-15の近代化改修」の形態二型の一要素であったが、調達予算計上段階からは「F-15の自己防御能力向上」名目で別途予算計上が進められている。形態二型相当機に対する上書き更新であると見られる。
- 実施された改修内容
- 統合電子戦システムの搭載(レーダー警戒・電波妨害・射出型妨害の3装置の能力向上)、統合表示機能が追加される[77]。
- 進捗状況
- 開発段階では「F-15の近代化改修」の形態二型の一要素であったが、調達予算計上段階からは「F-15の自己防御能力向上」名目で別途予算計上が進められている。形態二型相当機に対する上書き更新であると見られる。
予算計上年度 | 改修 | 納入 |
---|---|---|
平成22年度(2010年) | 2機 | - |
平成23年度(2011年) | 2機 | - |
平成24年度(2012年) | 3機 | - |
平成25年度(2013年) | 0機 | - |
平成26年度(2014年) | 0機 | 4機 |
平成27年度(2015年) | 0機 | 1機 |
平成28年度(2016年) | 0機 | -機 |
合計 | 7機 | 5機 |
- IRST装置(F-15)搭載改修
- 進捗状況
- 平成15年(2003年)度:開発開始。
- 平成20年(2008年)度:5月頃から形態一型のF-15J 試改修初号機(12-8928)を使用してIRSTの搭載実験を開始。
- 平成22年(2010年)度:開発完了。名称を「IRST装置(F-15)」に決定[78]。
- 平成23年(2011年)度 - 平成26年(2014年)度:技術試験において、遷音速飛行領域(マッハ0.9~1.2)でセンサー部から生じる衝撃波がピトー管と干渉して高度・速度表示に誤差が生じることが確認されたことから、F-15近代化改修機の ADP(Air Data Processor)/OFP(Operational Flight Program)を改修し、IRST非搭載機相当まで影響を抑える対策を採る[79]。これにより、平成24年(2012年)度の改修予算の計上を見送り[注 12][68]。
- NVG(夜間暗視装置)搭載改修
-
- 進捗状況
- 平成26年(2014年)度:1機分の改修予算を計上[71]。
近代化改修機の能力向上
- 2019年10月29日に米国防総省が米連邦議会に通知した内容によれば、航空自衛隊向けの再改修はJapanese Super Interceptor(JSI)と呼ばれ、パッケージには”レイセオンのAN/APG-82(V)1 AESAレーダー最大103基、ハネウェルのADCPⅡミッションコンピューター116基、BAEシステムズのAN/ALQ-239「DEWS」統合電子戦システム101基、JMPS(任務計画システム)、SAASM GPSモジュール、ARC-210通信機”が含まれることが明らかとなっている[83]。アップグレードに機体時間の延長も含まれるかどうかは不明[84]。
- スタンドオフミサイルに関しては、2017年に導入を表明したF-15Jへの搭載が報道された「JASSM」や「LRASM」などを統合する予定で[85]、2018年度予算で搭載に必要な機体改修を行うための適合性調査費用としてF-35A用のJSM取得も合わせ22億円が計上された[86]。
- しかし、改修にかかる設計費や部品、工具などが高騰し、初期費用が1000億円以上に上ることが判明し、当初の予定より大幅に遅れる見通しであることが判明[87][88]、費用をめぐって日米間の協議も難航したため、岸信夫防衛相が改修計画の精査を指示し[89][90]、改修に先立って必要となる設計費や作業用の施設などを整備するための初期経費として、2020年度予算などで米国政府や日本のメーカーと予定していた390億円分の改修契約は中止された[89][90][91]。
- 防衛省はJ-MSIP機の再近代化改修について、開発元の米国側から改修費の大幅な増額を求められたことを受け、LRASMの導入は困難と判断して見送ることで費用低減が見込めることから、事業継続は可能との結論に至った[92][92][93]。LRASMの導入見送りによる代替となる対艦攻撃能力は陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾を元に開発される新型の国産長射程ミサイルを改良し、F-2戦闘機などに搭載することで確保する考えだとしている[92]。また、電子戦装置については当初計画ではDEWSを導入予定だったものの、事業見直しの結果、米空軍のF-15EXに導入されるBAEシステムズのAN/ALQ-250 EPAWSS(Eagle Passive Active Warning Survivability System)に変更された[94]。
- このほか、「F-15への国産レーダー等搭載化に関する検討役務」として国産レーダー搭載に関する検討も実施されていたが実現しなかった[95]。従来改修で搭載してきたAAM-4及びAAM-5について搭載可能にするかどうかは米企業と政府で調整中とされている[96]。
- 中期防衛力整備計画 (2019)期間中に20機の予算化を予定しており1機当たり単価は約35億円とされていた[97]。
- 2022年2月には、能力向上改修の対象機は近代化改修実施済みの単座型68機である旨が防衛装備庁より発表された。
Pre-MSIP機の近代化改修と今後
- F-15Jは内部の配線がH-009規格(通称フーナインと呼ばれ電磁ノイズに脆弱で生産性が悪い為F-111とF-15しか採用例がない)で製造された前期型(Pre-MSIP)と、MIL規格の一つであるMIL-STD-1553B規格で製造された中後期型のもの(J-MSIP)がある。MIL-STD-1553Bで製造されていた機体は改修が比較的容易であったため近代化改修された。H-009規格で製造された機体を近代化改修するには
- 内部配線をMIL-STD-1553Bまたはその上位規格のMIL-STD-1760に対応したものに交換する。
- H-009規格に対応した搭載機器を新たに開発する。
- H-009規格からMIL-STD-1553Bに変換する。(NASAの実験機で改修例はあるが、アビオニクスを接続し作戦行動をする為には適応試験が必要)
- のいずれかが必要である[105]。このため前期生産型のPre-MSIP機においては、1機(42-8832)が修理を兼ねてJ-MSIP機に改修された以外は、機体寿命に対して改修期間と費用が莫大となるおそれがあるため、J-MSIP機のような大幅な近代化改修を実施しない予定である。
- しかし、新開発の「自衛隊デジタル通信システム (JDCS (F)) 」を搭載して、J-MSIP機と同様に戦闘機間や自動警戒管制システム(JADGE)とのデータリンクを実現する計画があった。JDCS(F)は、機体の残余容積やデータ処理能力の不足に対応することなしには搭載の困難なMIDS-LVT端末の、およそ半分の経費で搭載可能である。また、これらはF-2戦闘機にも搭載される予定である。JDCS(F)搭載試作改修機(62-8867、82-8897)には左主翼上面付け根に専用のブレードアンテナが装備されている[106]。
- 約100機のPre-MSIP機は改修せず、そのまま第5世代ジェット戦闘機のF-35Aの調達によって代替することも検討されている[107]。このため、20機が予算計上されたF-2とは異なり、量産改修の予算計上はなされなかった。31中期防ではF-35Aでの代替及びF-35Bの新規取得の方針が示された。
- 2023年5月現在、Pre-MSIP機が退役した後に搭載されているF100エンジンを取り外しF-15やF-16の運用国向けに輸出することが検討されている。ただし防衛装備移転三原則に抵触するため規制を緩めることが必要となっている[108]。
注釈
- ^ ただし、1980年代頃までは米空軍の機体も航空自衛隊と同じFS36375とFS36320で塗装されていた
- ^ 国産化率(ライセンス生産含む)は70%、輸入比率は30%である[21][22]。
- ^ J/DJともに国産化を承認されなかった部品については米国の有償援助で輸入するか、同等の国産機器で代替した(部品一覧については各担当メーカー表を参照)現在でも故障した際の修理のために、胴体部以外の治具を保管している
- ^ 2005年(平成17年)のアメリカ空軍での再編成による第18アグレッサー飛行隊の創設までアグレッサー部隊でF-15を運用していたのは航空自衛隊の飛行教導隊だけだった(イスラエルでは第115飛行隊 (en) がA-4 (航空機)を運用している)
- ^ うち1名は対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件にて警告射撃の実行経験者
- ^ 脱出時にキャノピーで頭部強打
- ^ 2011年7月6日付けの琉球新報報道により、事故発生3日前に嘉手納基地で行われたアメリカフェスト2011で展示されていたうちの1機であったことが判明している。
- ^ 10月31日F-2B離陸直後に墜落し炎上した事故への対策。F-2の項目参照
- ^ LAU-114はAAM-3の搭載改修などでアンビリカルコネクターのピンアサインを使い切っており、新たに追加することが困難であるための苦肉の策である。
- ^ low Pressure Water Separator、低圧除湿装置
- ^ High Pressure Water Separator、高圧除湿装置
- ^ 概算要求では2機を計上していた。
出典
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