鳥海山 採石問題

鳥海山

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/08 00:24 UTC 版)

採石問題

1980年代後半から、鳥海山の南麓にある吉出山で業者による採石が始まっていたが、近年、大規模な掘削が行われるようになり、山の景観が大きく損なわれ、水資源の汚染も懸念されたため、遊佐町の町民等が事業の中止を求める事態となった[32][33]

現在、採石を行っているのは川越工業(秋田県にかほ市)一社のみであり、同社が所有する臂曲(ひじまがり)地区で行われている採石が問題視されている[32]

同社の採石事業についての山形県認可の期限が2013年9月12日までだったため、同年5月中旬から、JA庄内みどり遊佐地区農政対策推進協議会や町環境保全会議により、採石に反対する署名活動が行われ、同年7月3日と25日に、山形県に対し、事業の不認可の要請とともに、56426筆(うち遊佐町民10427筆)の署名が提出された[32]

こうした採石反対運動に対し、山形県は、採石法による申請については、同法の第33条の4に定める基準(公共の福祉に反するとき)に該当すると認められるときは認可してはならないこととされている旨を述べたうえで、2013年4月に山形県水資源保全条例が制定されたことにも触れ、事業の認可申請書には地元との協定書を添付するよう指導しており、問題となっている事業についても厳正に審査するとの見解を示した[33]

川越工業は2013年7月に採石事業認可の再申請を行い、8月に町民説明会を実施[34]。同社は臂曲地区の約9 haの土地で採石を続ける意向を示し、標高320 m以上で安山岩約33万トンを採石したいとした[34]。同じ8月、同社は、遊佐町女鹿地区(鳥海国定公園に含まれる)での採石事業において、自然公園法の規定にある制限(地下2 m)に反し、地下8 mまで掘削を行っていたことが、山形県の調査で明らかとなった[34]。なお、同社は2012年にも違法行為で行政指導を受けていた[34]

遊佐町は、2013年10月31日、町議会全員協議会で、川越工業が採石を行っている地区の約50 haの土地を町が購入する案を示した[32]。町長(時田博機)は、「採石を止めるためには他に方法がない」とした[32]。議員からは、採石のたびに土地を購入することになりかねないという声もあった[32]。地元の住民からも、掘削で荒れた後の土地を町が購入することに反対する声が出た[34]。町が購入の意志を示せばすぐに採石が止まるわけではなく、実際に購入されるまで採石が続くという点にも、反発があった[34]。なお、川越工業は土地の売却に前向きな姿勢を示していた[32]

2013年11月29日、遊佐町と川越工業は、採石場の土地を町が買い取ることを前提とした協定を締結した[35]

2013年12月3日、山形県は、川越工業の採石事業について、計画どおり、2016年12月2日までの継続を認可した[35]

2018年8月21日、山形県遊佐町の臂曲(ひじまがり)地区で計画されている採石事業をめぐり、採取区域の拡大などの申請について山形県が書類不備を理由に拒否したのは違法だとして、秋田県にかほ市の採石業「川越工業」が県を相手取り処分の取り消しを求めた行政訴訟の判決で、山形地裁の貝原信之裁判長は県の拒否処分を取り消した。[36]9月7日、山形県は、山形地裁判決について、控訴を断念した。[37]


注釈

  1. ^ a b 『続日本後紀』承和7年(840年)7月26日の条、『日本三代実録』元慶8年(884年)9月29日の条および仁和元年(885年)11月21日の条では大物忌神が石の兵器(『日本三代実録』の記述によれば石の)が振ったとの記述が見られるが、これは石器を含んだ古代遺物の包含層が雨や波の浸食によって削られ、土中の石器が表出したものを、当時の人々が「大物忌神が石の鏃を降らせた怪異」と理解した可能性がある事を『山形郷土研究叢書第7巻 名勝鳥海山』および(姉崎岩蔵.鳥海山史)では述べている。

出典

  1. ^ 地図閲覧サービス 2万5千分1地形図名:鳥海山(新庄)国土地理院、2010年12月31日閲覧)
  2. ^ a b 日本の主な山岳標高:山形県国土地理院、2010年12月31日閲覧)
  3. ^ 『日本百名山』深田久弥(著)、朝日新聞社、1982年、ISBN 4-02-260871-4
  4. ^ (日本語) 【秋田弁と鹿児島弁】どちらにも同じ意味で使う方言が結構あります。東北と九州という離れている地域なのにどうしてでしょうか?, https://www.youtube.com/watch?v=0KNZa0-BtIM 2023年8月7日閲覧。 
  5. ^ <みちのく>鳥海山に「種まきじいさん」が出現 田植え準備を促す合図”. 河北新報. 2023年4月27日閲覧。
  6. ^ 土屋巌、「鳥海山貝形小氷河の雪氷気候学的研究 (1) 一年々変動と年層構造」『雪氷』 1977年 39巻 2号 p.65-76, doi:10.5331/seppyo.39.65
    土屋巌「鳥海山貝形小氷河の雪氷気候学的研究 (3)」『雪氷』第40巻第1号、日本雪氷学会、1978年、10-21頁、doi:10.5331/seppyo.40.10ISSN 03731006 
  7. ^ 加藤萬太郎「412 鳥海山の形成過程と氷河の痕跡」『日本地質学会学術大会講演要旨』第1997巻第104年学術大会(97'福岡)、1997年、304頁、doi:10.14863/geosocabst.1997.0_304_2 
  8. ^ 鈴木正崇 2012.
  9. ^ 岩崎敏夫 編 『東北民俗資料集(二)』 萬葉堂書店 1972年10月 の「鳥海山信仰」に収録された山形県飽海郡遊佐町の民間伝承より。話者は遊佐町の高橋佐太郎。
  10. ^ 水野裕「鳥海山麓の火山噴出物とその地形について」『東北地理』第14巻第3号、1962年、103-106頁、doi:10.5190/tga1948.14.103 
  11. ^ a b 飛島ってどうやってできているの”. 酒田市教育委員会 企画管理課. 2020年1月6日閲覧。
  12. ^ 光谷拓実『年輪年代法と文化財』至文堂〈日本の美術〉、2001年、98頁。ISBN 4784334211NAID 40003011166NCID BA51825778 
  13. ^ a b 栗本康司、大山幹成、斎藤一樹、工藤佳世、足立幸司、高田克彦、「鳥海山の岩屑なだれにより埋没した樹木(埋もれ木)の研究」『秋田県立大学ウェブジャーナルA(地域貢献部門)』 4巻, 2017-03-31, p.10-18, 秋田県立大学(地域連携・研究推進センター) ,NAID 120005994744
  14. ^ 鳥海山 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 中野俊[リンク切れ]
  15. ^ a b c 鳥海山 有史以降の火山活動 気象庁
  16. ^ 群馬大学教育学部 早川由紀夫研究室 『稲荷山の鉄剣と榛名山の噴火』
  17. ^ 林信太郎, 南裕介「1801年(享和元年)夏に鳥海山で発生した火山泥流」『秋田大学教育文化学部研究紀要 自然科学』第72巻、秋田大学教育文化学部、2017年、27-32頁、ISSN 2433-4960NAID 120006312517 
  18. ^ 宇井忠英、柴橋敬一、「鳥海山 1974年の火山活動」『火山.第2集』 1975年 20巻 2号 p.51-64, doi:10.18940/kazanc.20.2_51, 日本火山学会
  19. ^ 鳥海の噴煙、第一報は機長 45年前の全日空社報見つかる」『山形新聞』、2019年3月1日。2019年10月29日閲覧。
  20. ^ 加藤萬太郎「264 鳥海山麓の火砕流・泥流堆積物の分布と形成過程」『日本地質学会学術大会講演要旨』第1986巻第93年学術大会(86・山形)、1986年、370頁、doi:10.14863/geosocabst.1986.0_370 
  21. ^ a b c 鳥海山 - 岩屑なだれ堆積物・崩壊堆積物 及び 扇状地堆積物 産総研地質調査総合センター
  22. ^ 吉田英嗣「土砂供給源としてみた日本の第四紀火山における巨大山体崩壊」『地学雑誌』第119巻第3号、東京地学協会、2010年、568-578頁、doi:10.5026/jgeography.119.568  p.571 より
  23. ^ 加藤万太郎「B.P2600年の鳥海山大爆発と象潟泥流について : 火山および火山岩」『日本地質学会学術大会講演要旨』第1978巻第85年学術大会(1978 清水)、1978年、271頁、doi:10.14863/geosocabst.1978.0_271 
  24. ^ 中島台・獅子ヶ鼻湿原 鳥海山・飛島ジオパーク
  25. ^ 姉崎岩蔵.鳥海山史.
  26. ^ 今村明恒「奥羽地方に於ける上古の地震活動に就て」『地震 第1輯』第11巻第4号、日本地震学会、1939年、168-181頁、doi:10.14834/zisin1929.11.168 
  27. ^ a b c d 安斎徹・橋本賢助・阿部正巳 『山形郷土研究叢書第7巻 名勝鳥海山』 国書刊行会 1982年11月 より。
  28. ^ a b 谷川健一 編 『日本の神々 -神社と聖地- 12 東北・北海道』 (株)白水社 1984年6月 より。
  29. ^ a b c 山形県 『山形県史 通史編第1巻 原始・古代・中世編』 山形県 1979年3月 より。
  30. ^ 山形県神社庁五十周年記念事業実行委員会出版部 編 『山形縣神社誌』 山形県神社庁 2000年4月 より。
  31. ^ 鳥海山麓で原油が噴出、有望油田『山形新聞』(昭和16年5月9日夕刊)『昭和ニュース辞典第7巻 昭和14年-昭和16年』p758 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
  32. ^ a b c d e f g 「鳥海山南麓岩石採取問題 遊佐町が業者の土地購入方針」(『荘内日報』2013年11月1日)
  33. ^ a b 「鳥海山麓東部地区における岩石採取について」(山形県ホームページ、2013年6月17日)
  34. ^ a b c d e f 「遊佐町、土地購入の方針」(『朝日新聞』2013年10月30日)
  35. ^ a b 「鳥海山採石 山形県、業者計画を認可」(『河北新報』2013年12月4日)
  36. ^ 山形県遊佐町の採石訴訟、県の申請拒否処分を取り消し 山形地裁”. 産経新聞. 2018年11月21日閲覧。
  37. ^ 山形県遊佐町の採石事業訴訟、控訴断念”. 産経新聞. 2018年11月21日閲覧。






鳥海山と同じ種類の言葉


固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「鳥海山」の関連用語

鳥海山のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



鳥海山のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの鳥海山 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS