鬼
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中国の鬼
中国で鬼(拼音: 〈グゥイ〉)という場合、死霊、死者の霊魂のことを指す[注 2]。日本で言う「幽霊」の方がニュアンスとして近い(中国語版ウィキペディアの記事『鬼』は、日本語版『亡霊』にリンクされている)。中国語では、直接『鬼』と呼ぶのはタブーであることから、婉曲して好兄弟ともいう。また日本にもこの思想が入っており、人が死ぬことを指して「鬼籍に入る」などと言う言い方がある他、元来の意味合いと混交したイメージでも捉えられている。
中国文学者・駒田信二によれば、中国では幽魂・幽霊・亡魂・亡霊などが人間の形で現れたものを鬼といい、多くは若い娘の亡霊で、この世の人間を恋い慕って情交を求めてくる。見た目は人間と変わらないばかりか、絶世の美女であることも多いため、現れるのを待ち望んで契りを結ぶ話(唐『才鬼記』、「州長官の娘」)や、別れをかなしむ話(六朝『捜神記』、「赤い上着」)、再会の約束をはたそうとする話(唐『酉陽雑俎』、「夫人の墓」)などもある。人間に生きかえる話(唐『広異記』、「生きかえった娘」)や、子供を生む話(「赤い上着」)、妊娠中に死んで墓の中で子を生み育てる話(宋『夷堅志』、「餅を買う女」)、密通により身ごもる話(宋『夷堅志』、「孕った娘」)などもあり、一般には、人間は亡霊と情交しつづけているといずれ死ぬ、というのが中国の亡霊(鬼)説話の主流であるという[9]。
日本でも教養ある平安貴族の中には、死霊の意味で「鬼」という言葉を用いている事例があり、藤原実資は関白藤原頼通が伯父藤原道隆の「鬼霊」[注 3] によって病に倒れた(『小右記』長元2年9月13日・18日条)と記し[10]、藤原頼長も鳥羽法皇の病が祖父白河法皇の「鬼」に憑かれたものである(『台記』久安元年12月4日・11日条)と記している[11]。また、この時代に描かれたと推測されている『吉備大臣入唐絵巻』にも、奈良時代に唐で客死した阿倍仲麻呂が家族のことを心配して遣唐使時代の同僚であった吉備真備の元へ鬼の姿で現れるが、赤い褌をした裸の姿で、頭には一本角と逆立つ髪の毛、真っ赤な肌、大きな口に鋭い歯、手足の指は3本ずつ、という姿になっていた。これを見た真備は人に会う格好ではないと追い払ったところ、後日になって今度は衣冠を整えた仲麻呂が再び真備を訪れたが赤い肌と3本指は隠せなかった様子が記されている[8]。
また、中国では鬼とは亡者(幽霊)に限らず、この世のものでないもの、化け物全般を指す言葉でもあり、貝塚茂樹によれば、鬼という字は「由」と「人」から成り立っており、人が由、すなわち大きな面をかぶっている形を表したもので、古代国家の祭祀の主宰者であった巫が降霊術を行うとき、異形の面をかぶった姿を象形化したものであろうとされている[12]。
注釈
- ^ 「人神 周易云人神曰鬼〈居偉反和名於邇、或説云於邇者隠音之訛也。鬼物隠而不欲顕形故以称也〉」(『和名抄』)など
- ^ 例:論語先進篇『季路問事鬼神、子曰、未能事人、焉能事鬼』、「先祖の神霊にどうお仕えすべきか」と聞く子路に対し孔子は「生きている者にさえきちんとお仕えできていないのに、どうして、死者の魂にお仕えすることができよう」と応えている。
- ^ 道隆は当時の頼通の居所である東三条殿の以前の所有者で同邸内にて病死していた。
- ^ 若尾の同書に述べられている。
- ^ ペンギンの漢語表記として「人鳥」があるが、「王様人鳥」という表記は確認できない。
- ^ ペンギンの漢語表記として「人鳥」があるが、「皇帝人鳥」という表記は確認できない。
出典
- ^ 門賀未央子「青・赤・黄・白(緑)・黒 鬼が五色のわけ」八木透 監修『日本の鬼図鑑』青幻舎、2021年 ISBN 978-4-86152-866-8 P160.
- ^ a b 小学館『日本大百科全書』鬼の項目(渡辺昭五 記名の版)。
- ^ a b c d 吉成勇編 『日本「神話・伝説」総覧』 新人物往来社〈歴史読本特別増刊・事典シリーズ〉、1992年、244-245頁。ISBN 978-4-4040-2011-6。
- ^ 小山聡子 2020, p. 159.
- ^ 小山聡子 2020, pp. 159–164.
- ^ 西郷信綱 『梁塵秘抄』 ちくま学芸文庫 初版2004年(元は筑摩書房で1976年発刊) ISBN 4-480-08881-4
- ^ 『古代研究II 民俗学篇2』 折口信夫 解説 池田弥三郎 角川文庫 1975年 p.47
- ^ a b 小山聡子 2020, p. 158.
- ^ 中国のほんの話(46)中国の亡霊説話 蔭山達弥、Gaidai bibliotheca : 図書館報. (186) (京都外国語大学, 2009-10-10)
- ^ 小山聡子 2020, pp. 152–153.
- ^ 小山聡子 2020, pp. 154–155.
- ^ 中国のほんの話(37)中国の怪奇小説 蔭山達弥、Gaidai bibliotheca : 図書館報. (177) (京都外国語大学, 2007-07-09)
- ^ 火田, 博文 ([2019]). 本当は怖い日本のしきたり オーディオブック. Pan roringu (Hatsubai). ISBN 978-4-7759-8631-8. OCLC 1108314699
- ^ 若尾五雄『鬼伝説の研究』大和書房、1981年。後に『日本民俗文化資料集成』第8巻(妖怪) 谷川健一 編、三一書房、1988年、『民衆史の遺産』第2巻(鬼) 谷川健一、大和岩雄 編、大和書房、2012年、ISBN 978-4-479-86102-7、に収録。
- ^ 村上政市 1997, p. 12.
- ^ Abe, Mikio; 阿部幹男 (Heisei 16 [2004]). Okujōruri "Tamura sandaiki" kō : Tōhoku no Tamura-gatari : seisei to denshō (Shohan ed.). Tōkyō: Miyai Shoten. ISBN 4-8382-9063-2. OCLC 54917236
- ^ a b 村上政市 1997, p. 6.
- ^ 玄奘 (中国語), 大唐西域記/11, ウィキソースより閲覧。
- ^ “自宅で腐乱死体となっていた独居女性、検視と弔い方 『鑑識係の祈り――大阪府警「変死体」事件簿』より〈4〉”. JBpress(日本ビジネスプレス). 2023年9月30日閲覧。
- ^ a b 露崎史朗. “言語: ラテン語・ギリシャ語”. 公式ウェブサイト. 北海道大学. 2019年5月18日閲覧。 “diabolicus 鬼の, 大きく荒々しい”
- ^ 『鬼の念仏』 - コトバンク
- ^ “<コラム>「鬼太郎」の「鬼」は…私の説明に中国人観光客が笑い出す”. レコードチャイナ (2017年12月9日). 2017年12月23日閲覧。
鬼と同じ種類の言葉
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