高等専門学校 高等専門学校の概要

高等専門学校

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/04 13:40 UTC 版)

主に中学校卒業程度を入学資格とし、修業年限5年(商船学科のみ5年6か月)間の課程のもと、主に工学技術商船系の専門教育を施すことによって、実践的技術者[注釈 1]を養成することを目的にした教育機関である。

2024年4月4日時点で58校(国立51・公立3・私立4)[3][4]、本科の入学定員は約1万人と、大学や入学時の学齢が同じ高等学校と比べ、少規模な学校種となっている[5]

「完成教育」を標榜する教育機関であることから、5年制の課程を終えた卒業生の過半は就職を選択してきた。就職希望者に対する求人倍率は常に高校卒・大学卒を大きく上回り就職率はほぼ100%となっている[5]。更に進学意欲のある学生には、それに応えるために高専卒業生を受け入れ対象にする2年制の専攻科が各校に設置されている[注釈 2]。 20%~50%の高専卒業生は大学進学を希望し、これら志望者には本科卒業後に主に国立大学理工学部3年次(大学、学部によっては2年次)への編入が認められている[5]学士も修了した際には、更には大学院進学の道もある[6]

本科(5年課程)の卒業生は準学士と称することができる。本科卒業後に専攻科(2年課程)を修了した者は、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構の審査に合格することにより学士(主に工学)の学位を取得できる。高専内部では便宜的に、5年制の課程を本科もしくは準学士課程、専攻科を学士課程と称している。

長岡工業高等専門学校
大島商船高等専門学校

注釈

  1. ^ 高専関連の種々の文書では、「中堅技術者」「中級技術者」「実践的技術者」等の記述がある。たとえば、文部科学省「今後の国立高等専門学校の在り方に関する検討会(第1回)」(2002(平成14)年8月22日)に国立高等専門学校協会が提出した資料「国立高専における法人化問題検討の現状」では、高専の目的を「『即戦力を持つ中級技術者』の養成」と記載し、同検討会の答申「国立高等専門学校の法人化について(中間報告)」(2003(平成15)年2月5日)[1]では「実践的技術者」と記述されている。
  2. ^ ただし、大阪公立大学工業高等専門学校は2024年度から専攻科が廃止予定。
  3. ^ 高専創設当時、大学においては前期(1-2年間)の教養課程と後期(2-3年間)の専門課程に分離したカリキュラムが一般的であった。それに対して高専は、早期に専門教育を開始し、徐々に専門科目を増やすくさび形教育を行うことに特別の意義づけがなされていた。しかし、現在では、大学でも教養課程の廃止等により、くさび形教育が浸透し、高専に特徴的な教育課程とはいえなくなった。
  4. ^ 都立工業高専都立航空高専は2006年(平成18年)3月に合併し、都立産業技術高専となった。工業航空の両校は、合併以前の在学生が卒業した2010年(平成22年)3月に閉校した。札幌市立高専は2006年(平成18年)4月に開学した札幌市立大学デザイン学部に移管され、2006年度(平成18年度)より本科の学生募集を停止。本科在学生が卒業した2009年(平成21年)3月に本科を廃止、専攻科の在学生が卒業する2011年(平成23年)3月に閉校した。また、高専全体の志願者減などを理由に2009年(平成21年)10月、国立8校が再編統合の対象となり4校に再編された。2023年に私立の神山まるごと高専が新設された。
  5. ^ 下記の例外がある。College of Maritime Technology(商船高専全校)、Technical College(金沢高専、近畿大学高専)、College of Industrial Technology(都立産業技術高専)、College of Aeronautical Engineering(都立航空高専)、School of The Arts(札幌市立高専)、Polytechnic(サレジオ高専)。なお、独立行政法人国立高等専門学校機構は、組織名の英語表記Institute of National Colleges of Technology, JapanをNational Institute of Technologyに変更し、それに伴い、2015年度(平成27年度)より国立高専機構の各高専の英称をNational Institute of Technology,○○(学校名) College(略称は、例えば東京高専であればNIT, Tokyo College)に変更された。
  6. ^ 私立の高専には45人の学級定員が認められていたが、現在では全3校(サレジオ、金沢、近大高専)とも40人の学級定員となった。
  7. ^ 「アメリカ(米国)教育使節団報告書(第1次)」(1946年(昭和21年)3月31日)による。米国教育使節団報告書(文部科学省サイト掲載の要旨)
  8. ^ ただし、「旧制高等学校並」の認定を受けた旧制専門学校から旧制大学に進学することもできた。
  9. ^ 飯吉弘子「戦後日本産業界の人材・教育要求変化と大学教養教育 (特集 「大学」の機能分化と大卒労働市場との接続)」『日本労働研究雑誌』第54巻第12号、労働政策研究・研修機構、2012年12月、8頁、NAID 40019506842 
  10. ^ 同時期に創設された他の工業短大は、その後4年制大学に改組された。
  11. ^ 都立工業は都立工業短大の付属工業高校であった。改組に伴い、工業短大は分離され、後に4年制大学に昇格した。
  12. ^ 新設時、前身校の在学生を高専に転編入させた私立大阪は1964年(昭和39年)、都立工業は1965年(昭和40年)、久留米は1966年(昭和41年)に卒業生を出している。
  13. ^ 国立高専1期校からはじめて卒業生の出た1967年、大学・短大卒業生のうち就職希望者の就職率は90.2%だった一方、高専の卒業生は「国立14校、公立2校、私立4校の計20校とも、一人の落ちこぼれもない「完全就職」という売れっ子ぶり」と報道された(朝日新聞1967年6月17日付)。
  14. ^ 国立高等専門学校協会 (1982, pp. 38–39, 232–233)によると、国立高専1期校初の卒業生(1967(昭和42)年3月卒)のうち、現役で大学に編入したのは福島3人、新居浜1人、佐世保1人の5人のみ(浪人後進学した者を含めると計18人)だったが、翌年12人、翌々年19人、1970年(昭和45年)32人と徐々に拡大した。当初、高専卒の編入を受け入れたのは、東北大学茨城大学静岡大学山梨大学など。とりわけ山梨大は、進学先を求めていた高専卒業生のために臨時の特別編入枠を設けて対応した。その後、「編入学生の真摯な勉学態度と優秀さに(ママ)立証され」、東工大、電通大、東京農工大などが比較的早期に高専卒の編入学生受け入れを開始した。一方、千数百人の1期卒業生のうち、やむなく1年次からの大学進学を選んだ卒業生は100人前後にも及んだ。
  15. ^ ただし、福島高専・宇部高専は情報学、富山商船高専は流通学と、理工系という名目で開講できる学際分野であった
  16. ^ 札幌市立はインダルトリアル・デザイン学科という工業の一分野として設立
  17. ^ さらに2008年(平成20年)4月には首都大学へ運営移管
  18. ^ 国立高専機構は、これを「スーパー高専」としての「高度化再編」としている。
  19. ^ 再編された高専では、本科の学生数・学科数が減っても、専攻科の定員増に伴う専任教員、拠点地区校としてのセンター専任教員などの配置により、教員の総数に大きな変動はなかった。各種の予算措置においては、再編された高専に重点的に予算配分される傾向があるとされている。
  20. ^ 徳山高専や鈴鹿高専のように、合格後に公立高校の入学試験を受験することが可能な学校もある。
  21. ^ ただし、高等専門学校設置基準第2条(教育水準の維持向上)の2項に「高等専門学校は、その教育内容を学術の進展に即応させるため、必要な研究が行なわれるように努めるものとする」とされ、研究を行うことについての努力義務が明示されている。
  22. ^ 理数系の一般科目も同様。たとえば、数学は工業に必要な内容の履修を重点的に課し、早期に大学レベルの数学(微分積分学・線形代数学など)を履修するカリキュラムとなっている。工学に必要な応用数学も履修する
  23. ^ 国立高等専門学校協会『国立高等専門学校三十年史』(1992(平成4)年)には「高等専門学校の性格とその教育目的から、教官は高等学校と大学の現職者からのみではなく、産業界の第一線で活躍中の技術者か、かつて活躍した経験豊富な技術者を加えるのが適切妥当であろうとして、いずれの学校の創設人事も規(ママ)を一にした方針で進められた」「高等学校からの場合は、県内または隣県の高等学校の当該教科のトップクラスの者を県教育委員会等の斡旋によって(教員)候補者とするの方法を取ったが、高等専門学校の5年の一貫教育は教官の職務内容も高等学校の教諭とは質を異にし、むしろ大学の教員に準ずることへの配慮も内蔵(ママ)して行わなければならなかった。また、大学からの場合は学究的であって且つ教育に熱意のある人の方針であった」(p20)、「高専の教員構成は、創設に際し、大学、企業、高校の3者の出身教官で出発した点を特長としている。そして、実際に仕事をした経験のある企業出身教官の存在は、大学とは異なる高専の実践的技術教育の質を高めてきた」(p153)などの記述がある。
  24. ^ 中央教育審議会 大学分科会 高等専門学校特別委員会 - 文部科学省 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/016/gijiroku/07051717/004.htm 1. 高等専門学校教育の現状と評価 『15歳の柔軟な頃から技術者としてのトレーニングができる点が、ほかでは絶対にまねができない強みである。』 『大学は3,4年生で工学の基礎を行うが、高専の準学士課程ではそれはほとんど済んでいる。』 『若い頭に実践的な技術力を身につけさせることができるという点が高専の長所。』
  25. ^ 基本は3年次編入学であるが、専攻分野が異なったり教養学部が独立している場合など、大学のカリキュラム編成によっては2年次編入学になる場合がある。また編入先の専攻分野が異なる場合は、3年次編入ではあっても専門科目の認定単位が不足し、必然的に留年する場合がある。教員免許の取得を目指す場合も、一般教養科目に加え教職科目を履修する都合により留年を伴う場合がある。
  26. ^ 高専の専攻科(2年制)を修了または修了見込みの者が、大学改革支援・学位授与機構に課題論文を提出し審査に合格すると、学士学位を取得することができ、大学院修士課程への入学資格を得ることができる。
  27. ^ 第4学年または第5学年まで在学した場合であっても、認定される単位数は第3学年までとなる。

出典

  1. ^ a b c UNESCO (2008年). “Japan ISCED mapping”. 2015年10月31日閲覧。
  2. ^ 学校教育法第115条1項
  3. ^ 高等専門学校(高専)について”. 文部科学省. 2024年4月4日閲覧。
  4. ^ a b 高等専門学校の学科一覧(令和6年4月現在)”. 2024年4月4日閲覧。
  5. ^ a b c 高専を倍増しよう 東北大名誉教授・前大学評価・学位授与機構教授 徳田昌則”. 全国高専卒業生の会 HNK. 2022年6月17日閲覧。
  6. ^ 国立高等専門学校の学校制度上の特色”. www.kosen-k.go.jp. 2023年7月2日閲覧。
  7. ^ 国立高等専門学校協会 1982.
  8. ^ 国立教育研究所編『日本近代教育百年史』第10巻、産業教育2、1973年(昭和48年)、p.434ほか
  9. ^ a b 大学生よりも優秀?高専生が注目される理由”. 東洋経済オンライン (2019年10月8日). 2019年11月29日閲覧。
  10. ^ 旧文部省・大学審議会総会への審議経過報告「短期大学及び高等専門学校の在り方について」、2000年(平成12年)11月22日
  11. ^ ““高専”アジア進出!~人材獲得の新たな挑戦~”. NHK NEWS WEB. (2018年6月9日). オリジナルの2018年6月9日時点におけるアーカイブ。. https://archive.ph/CwmX7 
  12. ^ 有, 伊藤 (2021年5月18日). “起業家がつくる新設高専に寄付12億円……“神山まるごと高専”財団、カリキュラム概要を発表”. www.businessinsider.jp. 2021年5月18日閲覧。
  13. ^ 第28回国会閣法143号
  14. ^ 第30回国会閣法7号
  15. ^ 第31回国会 閣法26号
  16. ^ 第38回国会閣法174号
  17. ^ 国立高等専門学校協会 1982, p. 38.
  18. ^ 各高専の募集要項または選抜基準を参照。
  19. ^ 高等学校(主に工業や理数・情報に関する学科)・中等教育学校を卒業または卒業見込みの者など。
  20. ^ 学校教育法施行規則第179条にて、第91条の高等学校の規定を準用。
  21. ^ 学校教育法第70条の4
  22. ^ 中等教育学校の後期課程、特別支援学校の高等部および高等専修学校(専修学校の高等課程)を含む。
  23. ^ 専修学校の専門課程
  24. ^ a b 学校教育法第90条第1項の「通常の課程による12年の学校教育を修了した者」に該当する。
  25. ^ [2]
  26. ^ a b 各高等専門学校のカリキュラムを参照
  27. ^ a b c 大学(短期大学を含む)、専門学校専修学校の専門課程)
  28. ^ a b 文部科学省・高等専門学校の充実に関する調査研究協力者会議(第1回)- 資料3 「高等専門学校の現状について」2015年5月27日 (PDF)
  29. ^ 独立行政法人国立高等専門学校機構 > 各種資料・データ > ■ 高専卒業生の産業別就職者数
  30. ^ 北海道医療大学入試情報
  31. ^ 長岡技術科学大学 入試情報(学部3年)
  32. ^ 豊橋技術科学大学 募集要項(工学部3年次)
  33. ^ 国立高等専門学校機構
  34. ^ [理由の一つに一般社員による工業高等専門学校本科専攻科修了者の扱いに齟齬が見られる為、研究職開発職に内定されやすい大学院修士課程への進学を推奨している。]
  35. ^ [3]
  36. ^ 卒業する加害学生9人戒告 いじめで生徒自殺 山口・大島商船高専:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 朝日新聞社 (2021年9月24日). 2023年6月6日閲覧。
  37. ^ a b 高専のいじめ被害者が要望書 高専対象外は防止法の不備”. 教育新聞 (2019年9月5日). 2023年6月6日閲覧。
  38. ^ “自殺図り後遺症”訴訟 賠償命令受け高専側が控訴|NHK 青森県のニュース”. NHK NEWS WEB. NHK. 2023年6月6日閲覧。
  39. ^ いじめ防止対策推進法 第二条 この法律において「学校」とは、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校(幼稚部を除く。)をいう。
  40. ^ 第204回国会 参議院 文教科学委員会 第3号 令和3年3月16日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム シンプル表示”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年6月2日閲覧。





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「高等専門学校」の関連用語

高等専門学校のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



高等専門学校のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの高等専門学校 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS