高瀬舟 舟での生活

高瀬舟

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/02 03:50 UTC 版)

舟での生活

近世以降に普及した高瀬船の船乗りは、陸上の宿に泊まることはほとんどなく、船上で寝起きしていた。川水を飲料水に使用し、や瓦竈(かわらくど[* 3]などの炊事道具や布団を積み込んでいた。浮世絵師葛飾北斎の手になる『富嶽三十六景 常州 牛堀』には、水上生活者の範疇にある彼らの暮らしぶりが描き込まれている(■右列に画像と詳説あり)。近世以降の高瀬船は、土足で入ると縁起が悪くなるといって水できれいに洗った足半(あしなか。足裏の半ばまでしかない、草履の一種)を履いて船に乗った。[14]。 

船頭歌

高瀬舟が荷積して山峡の船路を上るのは大変な重労働であった。岡山では、船頭は川底に竿を着け、その端を自分の胸に当て、舟尾に向かってふんばり歩いて舟を押し進めながら、寂声(さびごえ。枯れて渋みのある声)ででまかせ歌を歌う。「ヨーイヤナー、ソーリヤーヨー 赤いやつを出してヨー せんたくしとるノー」[15](縁起担ぎの一つで、赤い色を吉兆として喜んだ。)

各地の高瀬舟

備中・美作の高瀬舟

旭川流域の高瀬舟

  • 真庭市勝山の高瀬舟
真庭市勝山の高瀬舟の関連遺構
勝山町並み保存地区裏の高瀬舟発着場
真庭市勝山の旭川河岸にある舟宿跡

岡山県真庭市勝山[gm 2]明治初期の真島郡勝山村江戸時代における美作国真島郡勝山村、幕藩体制下の美作勝山藩知行高田村)には、かつて高瀬舟が行きかっていた発着場が残っている。かつてここでは川下からや海産物・干し海老ほしえび)・畳表たたみおもて)などの生活必需品の多くが高瀬舟によって山間部へもたらされ、さらにここから山中地域(旧・真庭郡域)へ送り出されていた。そして、山中地域からは木炭・蒟蒻(こんにゃく)などの物資を積み下ろしたりなど、物資の集散地になっていた[16]。 岡山方面への舟は、午前中に荷積みをし、落合で1泊した後、翌日、岡山まで下る。その翌日に荷を下ろし、終わり次第戻って荷を積む。岡山からの帰りは4日程度かかっていた。[17]

江戸時代中期にあたる享保17年(1732年)の『高田村絵図』に描かれた高瀬舟の発着場は、現在の中国勝山駅の裏辺りであり、「浜」と呼ばれ、岡山まで18(約70.69km)、蔵から年貢米を積み出していたと思われる[18]

明治時代[いつ?]には370艘ほどが稼働しており、そのうち、落合(明治半ばにおける真島郡落合町、現・真庭市落合地区[gm 3])に100艘、久世(明治半ばにおける大庭郡久世村、現・真庭市久世[gm 4])に30艘、勝山(明治半ばにおける真島郡勝山町、現・真庭市勝山)には48艘程度の船が発着していた[19]

  • 真庭市落合の高瀬舟

吉井川流域の高瀬舟

津山市の高瀬舟の関連遺構
津山市船頭町の吉井川河川敷に残る高瀬舟発着場跡。現在は河川敷が造成されている。
高瀬舟発着場後に残る「なげ」[20]

津山市船頭町吉井川河川敷に、かつて高瀬舟の船着き場として利用されていた石積みの護岸が残っている。これは森忠政1603年に津山に入封し、津山城を拠点に津山のまちづくりに取り掛かるが[21]、その中で治水対策として吉井川左岸に堤防を築いたあとに船着き場を整備したものである[21]。合わせて、他の町でも見られるように、同種の職人を町の中の一定の区画に集める中で、船着き場の周辺に舟運関係者を集めて現在の船頭町となる[21]

山城の高瀬川の高瀬舟

駿河の富士川の高瀬舟

利根川の高瀬舟

関連作品

美術

高瀬舟をかなり詳細に描いたものとしては、霞ヶ浦に停泊する利根川の高瀬船を描いた葛飾北斎名所浮世絵富嶽三十六景 常州牛堀』(■右列に画像と詳説あり)や、江戸本所の四ツ木通用水(通称曳舟川)での高瀬船の曳舟の様子を描いた歌川広重の『名所江戸百景 四ツ木通用水引ふね』[7]などがある。ほかにも、多くは画面上の“脇役”としてではあるが、浮世絵師を中心に様々な絵師によって描かれている。

文学

森鷗外短編小説高瀬舟』では、江戸時代における京都高瀬川と高瀬舟が物語の舞台背景になっている。


注釈

  1. ^ 出典資料が示す地域は押し並べて「岡山県」であるが、室町時代末期ということでは換言が必要。現在の岡山市周辺一帯を中心地と解釈したうえで、「備中国の中心部と美作国の中心部を核とする地域一帯」との旨で「備中国・美作国(現在の岡山県岡山市周辺一帯に相当)」と書き換えた。
  2. ^ 「242 文化十四年(一八一七)二月 忍藩御手船新艘注文帳」(埼玉県立文書館所蔵 正田家文書)拠り、(行田市史編さん委員会『行田市史 資料編 近世1』2010年所収)。
  3. ^ 瓦竈(かわらくど)とは、材で作られた移動式の(くど)。画像資料(瓦クド - 一宮市博物館データ検索システム)。

出典

  1. ^ 潮来市牛堀(地図 - Google マップ…※該当地域は赤い線で囲い表示される)
  2. ^ 真庭市勝山(地図 - Google マップ…※該当地域は赤い線で囲い表示される)
  3. ^ 落合地区の代表的区域として、真庭市古見(地図 - Google マップ…※該当地域は赤い線で囲い表示される)
  4. ^ 真庭市久世(地図 - Google マップ…※該当地域は赤い線で囲い表示される)
  1. ^ "高瀬舟". 精選版日本国語大辞典. コトバンクより2023年3月27日閲覧
  2. ^ a b c d kotobank-高瀬舟.
  3. ^ a b 国史大系. 第4巻 日本三代実録”. 国立国会図書館デジタルコレクション(公式ウェブサイト). 国立国会図書館. 2019年5月11日閲覧。※該当文のある頁は「六百四十四」、コマ番号330の右ページ14行目。
  4. ^ 「吉井川を科学する シリーズ『岡山学』2」(岡山理科大学『岡山学』研究会。2004年。72頁所収。
  5. ^ a b 千葉県立関宿城博物館 平成17年度企画展「高瀬船物語」図録”. 日本財団図書館(公式ウェブサイト). 日本財団 (2005年). 2019年5月10日閲覧。
  6. ^ 小糸川倶楽部 (2008年8月6日). “小糸川の川舟 - 平成20年度記録集” (PDF). きみつアーカイブス(公式ウェブサイト). 君津市. 2019年5月11日閲覧。
  7. ^ a b 江戸東京博物館 図書室 (2015年6月8日). “江戸時代の舟運で使用した小舟を上流に移動させるには。(2003年)”. 公式ウェブサイト. 東京都江戸東京博物館. 2019年5月14日閲覧。
  8. ^ 『みんなで学ぶふるさと美作のあゆみ』美作国建国1300年記念事業実行委員会、2014年、72頁所収。
  9. ^ a b c 常州牛堀”. 葛飾北斎「富嶽三十六景」解説付き. 企画工房 ライフデザイン社. 2019年5月10日閲覧。
  10. ^ a b c 行田市史編さん委員会(2010)498頁。※【特記】原文によれば、高瀬船は利根川舟運の代表的な川船、とのことであるが、その意味での高瀬船は「近世以降に普及したほうの高瀬船」であり、また、利根川に限ったものではない。
  11. ^ 岡山県史.岡山県史編纂委員会.昭和58年3月31日.321,322頁。
  12. ^ 行田市史編さん委員会(2010)494-498頁。
  13. ^ 「みんなで学ぶふるさと美作のあゆみ」(美作国建国1300年記念事業実行委員会。2014年。73頁所収)
  14. ^ 「岡山県史 第15巻 民俗1」(岡山県史編纂委員会。1983年。320頁)
  15. ^ 「岡山の庶民夜話」(日本文教出版株式会社。昭和62年3月1日。77,78頁)
  16. ^ 岡山県郷土文化財団「岡山の自然と文化 14 ―郷土文化講座―」p219-220、1995年3月31日発行。
  17. ^ 勝山町史編集委員会 『勝山町史(前編)』 勝山町、1974年、702頁。
  18. ^ 「旭川を科学するPart2 シリーズ『岡山学』4」 岡山理科大学『岡山学』研究会 p45、2006年12月10日発行。
  19. ^ 勝山町史編集委員会 『勝山町史(前編)』 勝山町、1974年、703頁。
  20. ^ 『絵図で歩く津山城下町』吉備人出版、2016年、138頁。 
  21. ^ a b c 『日本風俗史学会会誌17号』1979年、70頁。 
  22. ^ a b c d 【事業所特集】落合羊羹!!”. 公式ウェブサイト. 真庭商工会 (2016年8月16日). 2019年5月14日閲覧。


「高瀬舟」の続きの解説一覧




高瀬舟と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「高瀬舟」の関連用語

高瀬舟のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



高瀬舟のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの高瀬舟 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS