高分子 高分子の概要

高分子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/25 20:44 UTC 版)

高分子の種類

高分子はその由来によって、自然界の産物である天然高分子(: natural macromolecule)と、人工的に合成された合成高分子(synthetic macromolecule)、天然高分子から化学的に誘導された半合成高分子(semisynthetic macromolecule)に分類される。さらに、高分子を構成する分子によって有機高分子(organic macromolecule)と無機高分子(inorganic macromolecule)にそれぞれ分けられる。天然の有機高分子は生物によって合成されるため、生体高分子とも呼ばれる。これらの分類方法とは別に、特に生体高分子において繰り返し構造の規則性での分類もある。ただ1種の構成単位が単一の連結法で繰返された構造を持つ化合物を規則性高分子(regular macromolecule)という。2種以上の構成単位の繰返しからなる構造をもつ、あるいは構成単位の連結法が単一でない構造をもつ高分子を不規則性高分子(irregular macromolecule)という。

天然高分子
有機かつ規則性高分子
ポリアミン、一部の脂質セルロースアミロースデンプンキチン天然ゴム
有機かつ不規則性高分子
ポリペプチドタンパク質DNARNA、一部の脂質リグニン、アスファルテン
無機高分子かつ規則性高分子
二酸化ケイ素水晶石英)、雲母長石石綿、天然由来の炭素同素体(ダイヤモンド黒鉛)、閃亜鉛鉱ウルツ鉱
合成高分子
有機かつ規則性高分子
合成樹脂(プラスチック)(ポリ塩化ビニルポリエチレンフェノール樹脂など)、シリコン樹脂(シリコンゴム、シリコンオイル)、合成繊維ナイロンビニロンポリエステルポリエチレンテレフタラートなど)、合成ゴム
無機かつ規則性高分子
ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリシラン、窒化硫黄ポリマー、ガラス、合成ルビー、合成された炭素同素体(人工ダイヤモンド、人工グラファイトなど)
半合成高分子
有機かつ規則性高分子
三酢酸セルロース、二酢酸セルロース、硝酸セルロースセルロイド、再生高分子(再生繊維レーヨン)

また、共重合体の単位構造配列による分類方法もある。

  • ランダム共重合体
  • 交互共重合体
  • ブロック共重合体
  • グラフト共重合体

高分子の分岐の程度で以下のように分ける[3]

線状高分子 (liner macromolecule)
実質的または概念的に、相対分子質量の小さい分子(単量体など)に由来する単位が線状に数多く繰返された構造をもつ高分子
星型高分子 (star macromolecule)
1個の分岐点から線状分子鎖(腕)が出ている高分子。星型高分子の腕が構成(化学構造)および重合度に関して同じである場合、その高分子のことを規則性星型高分子 (regular star macromolecule)という。異なる場合は混合鎖星型高分子 (variegated star macromolecule) という。ただし、規則性星型高分子の規則性とは骨格構造の規則性であり、規則性高分子の規則性とは若干意味が異なる。
櫛型高分子 (comb macromolecule)
線状側鎖が出ている三叉分岐点(定義 1.54 参照)を主鎖(定義 1.34 参照)に数多くもつ高分子。主鎖中の分岐点間の副分子鎖および主鎖の末端の副分子鎖が構成(化学構造)および重合度に関して同じであり、側鎖も構成(化学構造)および重合度に関して同じである場合は、その高分子を規則性櫛型高分子 (regular comb macromolecule) という。
ブラシ状高分子 (brush macromolecule)
少なくとも数個の分岐点が3よりも多く枝分かれしている高分子

構造

高分子は1種類あるいは数種類の繰り返し単位(repeating unit)から成る。殆どの場合、繰り返し単位は原料の単量体に由来する。高分子の構造は繰り返し単位の化学構造だけでなく、繰り返し単位の結合や重合度によって異なる。これらの要素によって決定される高分子の構造を一次構造という。

一次構造は、その高分子が生成された反応の素過程を記録している。生体高分子の一方の末端には開始剤(の断片)が存在する。もう一方の末端には、反応停止剤といった、重合の停止反応に由来する断片が存在する。両末端の間は成長反応の様子を示唆する。単量体が共役二重結合や三重結合を有していた場合、シス-トランス異性など、不飽和結合に関する幾何異性の情報を高分子の構造から知ることができる。

高分子の部分や官能基は、自己の他の部分や官能基と分子間力イオン結合水素結合双極子相互作用ファンデルワールス力)によって相互作用している。この相互作用は、高分子鎖の骨格に沿って近いもの(分子式上での隣接および近接部分)の間にも遠いものの間にも生じる。前者の相互作用を近接相互作用: next-nearest-neighbor interaction、後者を遠隔相互作用という。遠隔相互作用が生ずる理由は、高分子が折れ曲がることにより分子式上で遠く離れていても空間的に近づくためである。加えて、溶液の場合、溶媒や他の溶質とも分子間力や配位結合での相互作用が生じている。

これら相互作用は高分子の立体構造を決定的に支配する。相互作用が存在しない理想鎖の場合、高分子は無数の立体構造を取り得る。なぜなら、相互作用がなければ高分子の各結合は自由に回転できるためである。しかし、現実には相互作用により分子間回転は制限され、高分子が取り得る立体構造は制限されている。高分子の構造が決定されている例としてはタンパク質や核酸の四次構造である。

溶液中の高分子の立体構造は刻々と変化し、見掛け上、高分子は運動している。これは、熱運動する溶媒分子との衝突による。高分子のこの運動をミクロブラウン運動という。

位置規則性

単量体がアルケンであるビニル重合では、頭-尾結合(head to tail)と頭-頭結合(head to head)の2通りの結合様式が、置換基の立体障害や電子的特性に応じて生じる。これを位置規則性という。一方ラクトン環状エーテルなどのや環状化合物を単量体とする開環重合では、開裂が起こる場所によって頭-尾結合と頭-頭結合の起こる割合も変わる。

立体規則性

プロピレンなどの重合において、重合することによってできた四級炭素不斉炭素原子であり、重合法によってはこの不斉炭素の絶対配置に規則性が現れる。これを立体規則性(タクティシティー、tacticity)という。すべての不斉炭素が同じ絶対配置を持つような構造をイソタクチック(アイソタクチック)といい、絶対配置が交互に並ぶものをシンジオタクチックという。また、全くランダムになった構造をアタクチックという。立体規則性はNMRを用いることで評価ができる。

チーグラー・ナッタ触媒によって合成されたポリプロピレンはイソタクチックであるが、通常のラジカル重合で合成したポリプロピレンはアタクチック構造である。

幾何異性体

ジエン系モノマーの重合では、1,2-構造、シス 1,4-構造、トランス 1,4-構造といった異性体構造が生じる。

共重合体の構造

共重合体には、ランダム共重合体(―ABBABBBAAABA―)、交互共重合体(―ABABABABABAB―)、周期的共重合体(―AAABBAAABBAAA―)、ブロック共重合体(―AAAAAABBBBBB―)、の4種類の構造がある。 また、ブロック共重合体の一種にグラフト共重合体と呼ばれるものがあり、これは幹となる高分子鎖に、異種の枝高分子鎖が結合した枝分かれ構造をしている。

多数の枝からなる樹木状(多分岐高分子)のデンドリマー、ハイパーブランチポリマー、ロタキサン、高分子カテナン水素結合静電気力配位結合のような弱い結合力で結びつけた自己集積型高分子、などの新構造高分子の合成も近年注目されている。


  1. ^ IUPAC Gold Book, macromolecule (polymer molecule)”. IUPAC. 2017年4月16日閲覧。
  2. ^ IUPAC Gold Book, polymer”. IUPAC. 2017年4月16日閲覧。
  3. ^ a b 国際純正応用化学連合(IUPAC)高分子命名法委員会による高分子科学の基本的術語の用語集”. 公益社団法人高分子学会. 2017年4月17日閲覧。
  4. ^ 倉田道夫「高分子鎖の広がりと排除体積効果」『高分子』第32巻第1号、1983年、26-29頁、doi:10.1295/kobunshi.32.26 


「高分子」の続きの解説一覧




高分子と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「高分子」の関連用語

高分子のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



高分子のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの高分子 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS