飲酒運転 アルコール依存症

飲酒運転

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/19 08:21 UTC 版)

アルコール依存症

常習的に飲酒運転を繰り返す運転者が存在し、その規範意識の欠如の一因としてアルコール依存症が指摘されている。アルコール依存症は自らの意思で飲酒行動をコントロールできなくなり、強迫的に飲酒行為を繰り返す精神疾患である。精神疾患として酩酊し、その結果自己抑制を失い、その状態で自動車などを運転する状況は著しく重大な結果を招く[48]

諸外国の飲酒運転禁止法

飲酒運転に関する法律は、国によって異なる。差異としては、犯罪に問われるまでの血中アルコール濃度の許容限界値が挙げられる。

北米

全米50州で運転者の血中アルコール濃度が0.08%を越えると飲酒運転(DUI:Driving Under the Influence、DWI:Driving While Intoxicated若しくはDriving While Impaired、OWI:Operating While Impaired)[注釈 9] の摘発対象となり、21歳未満の者については飲酒自体が禁止されているため、血中アルコール濃度が0.08%を越えなくても、摘発対象となる(いわゆる「ゼロ・トレランス方式」)[49]

ヨーロッパ

デンマークでは2015年大ベルト海峡で不審な動きをしていた貨物船を発見した海軍の艦艇が兵士を送ったところ、ロシア人の船長が泥酔状態だったことが発覚し拘束される事件が起きている[50]

ポーランドパイェンチュノでは、町内の道路を戦車T-55で暴走した男が飲酒運転の容疑で逮捕される事件が2019年6月13日に発生した[51]

ラトビアでは飲酒運転が社会問題となっているため、2022年11月に改訂された法律により、血液中のアルコール濃度が0.05%以上ある状態で車を運転した者は自動車を没収されることとなったが、12月時点で保管場所に困るほどの車両が没収されている[52]

中南米

トリニダード・トバゴドミニカ国でも飲酒運転を行う者が多く、飲酒運転による交通事故が多発している[53][54]

韓国

大韓民国(韓国)では、血中アルコール濃度数値が0.03%以上の状態で運転すると違法となる[55]警察は事前通知なしに飲酒検問所を運営する場合が多く、飲酒測定を拒否すると刑事犯罪となる。飲酒運転は、運転免許停止または欠格事由に該当する。

しかし致死事故の場合、韓国の飲酒運転致死事件の量刑基準は最大懲役8~10年だが、実際に韓国の裁判所で下す判決は懲役3年であることが多い。甚だしい飲酒運転の再犯者にも、最低刑量である懲役3年を宣告する場合が一般的で、韓国国内ではこれに対する批判が多い。このため、韓国が世界で最も飲酒運転事故被害の危険性が高いという指摘もある[56]

中国

中華人民共和国では経済発展と共に自動車の使用数も増加し、2011年まで自動車事故死者数が10年続けて世界一の交通事故大国であった[57]。2009年には、杭州南京市等で飲酒運転による交通事故が頻発、飲酒運転による事故の増加と交通マナーの悪さも相まって、市民の中から飲酒運転の罰則の強化を求める声が高まり、それを受けて2011年5月に施行された「刑法改正」に「危険運転行為」の項目が追加された[58]

中国での飲酒運転は、飲酒駕車(酒気帯び運転)と酔酒駕車(酒酔い運転)の2つに大別されるが、酒気帯び運転の再犯の場合は拘留(10日以下)と罰金(1,000~2,000)、さらに運転免許取消といった、同国としては厳しい罰則になった[58]。また酒酔い運転についても、「危険運転行為」の中で初犯、再犯に関わらず「酒酔い運転およびスピード出し過ぎ運転は極めて悪質な行為であり、拘留・罰金処分を課す」と定めており、飲酒運転の罰則が「行政処分」から「刑事罰」に改定された[59]。刑罰が厳格化された2011年5月以降の酒酔い運転の検挙件数は、その前2年間との比較で4割減少している[60]

飲酒運転で複数の相手を死亡させる、事故現場から逃走するいった悪質事例では、危険な方法で公共の安全を害する罪で、無期懲役あるいは死刑になる可能性がある[61]

台湾

台湾では、飲酒運転による死亡事件が相次いでいることから日本の連座制にならった酒駕罰則強化が2019年7月1日から実施された[62]

オセアニア

オーストラリアでは、血液中のアルコール濃度が0.05%以上ある状態で車を運転することが禁止されている[63]。ただし、オーストラリアでは上位概念で自動車が定義されて無く、ピクニックテーブルにエンジンを取り付けた「エンジン付き移動式ピクニックテーブル」などの飲酒運転を取り締まる事ができずに、地元警察は「危険だから」という理由で行わないで欲しいと見解を出している[64]なお、日本では一般的に車台を原動機などで駆動する物を自動車としており、ピクニックテーブルに原動機を付けたものも自動車とされる。

脚注


注釈

  1. ^ 道路交通法にいう道路には、道路法に基づく「道路」だけでなく、都市計画道路、港湾道路、農道林道自動車道なども含まれる。
  2. ^ 鉄道車両については、マスメディアなどや一般の間では運転士の認識から「飲酒運転」と称する場合も多い。ただし車両等の飲酒運転と区別するために、鉄道車両、軌道上の車輌、無軌条電車、航空機または船舶については「飲酒操縦」等と表記する立場がある(酒酔い及び酒気帯び操縦の罰則強化[リンク切れ])。なお、道路にある路面電車については道路交通法の飲酒運転の適用を受ける。
  3. ^ a b c ALDH2欠損型および・またはADH1B低活性型の体質の人など。日本人では2 - 3%程度見られる。
  4. ^ ここでいう濃度は、呼気1リットル中のアルコール濃度(ミリグラム毎リットル)である。血中アルコール濃度による場合には、呼気の場合における 0.15 mg / 0.25 mgが、それぞれ法令上、0.3 mg / 0.5 mg の血液1ミリリットル中のアルコール濃度(ミリグラム毎ミリリットル)に対応する。なお、違反点数13点となる呼気中アルコール濃度 0.15 mgは、体質・タイミングなどにもよるが、ビールなどを少し飲んだことでも超えうる濃度である。
  5. ^ もっとも、憲法38条はいわゆる黙秘権司法機関から被疑者被告人への自己に不利益な供述強要の禁止)を定めるものと一般に解されているため、職位上の不利益処分を免れることまでをも保護の対象とするものでないとする声もある。なお、憲法38条に関して、麻薬取り扱いについてであるが、黙秘権の事前の放棄という理論を採用した判例もある(最判昭和29年7月16日)。
  6. ^ 運行供用者責任、すなわち飲酒運転車両の所有者・使用者であれば別段
  7. ^ ALDHのタイプにより異なる。
  8. ^ 酒税法上、アルコールを1%以上含む飲料が酒とみなされており、1%未満であれば清涼飲料水として扱われる。またアルコール含有量の表示については、%未満第1位での四捨五入による表示が可能である(0.50%から0.99%⇒「1%」、0.01%から0.49%⇒「0%」)。なお一般的分析試験での検出限界は0.01%単位である。
  9. ^ 日本では飲酒運転と薬物を摂取しての運転(麻薬等運転)は罪状が区別されているが、DUIやDWIは運転中の飲酒及び薬物両方の摂取を摘発するものである。

出典

  1. ^ a b 「小型船 飲酒運転に罰則/東京、茨城など 自治体、条例で対応」『読売新聞』夕刊2022年5月21日(社会面)
  2. ^ Preventing road traffic injury: A public health perspective for Europe
  3. ^ 小林ひとし (2014年10月20日). “お酒は脳の麻酔?”. ALL About. 2022年8月28日閲覧。
  4. ^ 道路交通法”. e-Gov. 2019年12月28日閲覧。
  5. ^ お酒と健康百科 飲酒運転(刑法・道路交通法)[リンク切れ]キリンビール
  6. ^ 「薬用養命酒」に関するお問い合わせ”. 養命酒. 2022年8月28日閲覧。 “「薬用養命酒」は医薬品ですが、アルコール分が14%含まれております。飲酒運転は法律で禁じられていますので、運転前の服用はお控えください。”
  7. ^ History Of Drunk Driving
  8. ^ Driving Drunk: A History of Drunk Driving in America
  9. ^ First drunk driving arrest
  10. ^ 法令名 道路交通法 法令番号(昭和三十五年六月二十五日法律第百五号)
  11. ^ 交通違反の点数一覧表”. 警視庁 (2019年12月1日). 2020年5月23日閲覧。
  12. ^ 飲酒運転事故における自動車保険の補償範囲について”. 日本損害保険協会. 2020年5月23日閲覧。
  13. ^ 週刊朝日 2009年9月4日増大号 堺屋太一 憂いの熱弁 飲酒運転の厳罰化が日本を滅ぼす
  14. ^ 兄弟死亡事故の容疑者はしご酒、店の言い分 読売新聞 2011年12月17日
  15. ^ 飲酒運転撲滅をめざし 職員家族へ親書『朝日新聞』1976年(昭和51年)5月16日朝刊、13版、23面
  16. ^ 2006年9月20日、NHKニュース
  17. ^ 「酒気帯び検挙:朝日新聞記者を書類送検へ」(2006年9月20日、毎日新聞
  18. ^ 「山梨放送部長が飲酒運転で事故=男性軽傷、現場から逃走」(2015年5月8日、時事通信
  19. ^ 「酒気帯び運転の疑いで甲府市議逮捕 駐車場フェンスに衝突」(2015年7月9日、産経新聞
  20. ^ 「年金機構甲府所長を逮捕 業務車で当て逃げ、酒気帯び容疑」(2016年2月19日、産経新聞)
  21. ^ 「酒気帯び容疑で山梨県主幹逮捕 ガードパイプ衝突、届けず」(2017年6月16日、産経新聞)
  22. ^ 「酒気帯び運転容疑で警察官逮捕 駐車場で衝突事故 山梨」(2017年7月15日、朝日新聞)
  23. ^ P.11 発議第8号 村山隆議員に対する辞職勧告決議[リンク切れ] - 山形県議会
  24. ^ 飲酒運転で懲戒免を停職に緩和 最高裁判決受け兵庫・加西市 産経新聞 2009年11月10日
  25. ^ 公務員の飲酒運転:「原則懲戒免職」緩和の動き] 毎日新聞 2010年6月27日
  26. ^ 飲酒事故:元教頭が逆転敗訴 退職手当不支給で大阪高裁 毎日新聞 2012年8月25日
  27. ^ “神奈川飲酒ひき逃げ 和解 遺族と非訴追の同乗者ら” (日本語). 産経ニュース. (2018年11月28日). https://www.sankei.com/article/20181128-DQGTJINRBJNLHMGSEYSH436K6M/ 2018年11月28日閲覧。 
  28. ^ 飲酒運転、広がる地域格差[リンク切れ] 日経NEEDS 2006年10月25日
  29. ^ 北海道飲酒運転の根絶に関する条例(2016年7月13日閲覧)
  30. ^ 7月13日は「飲酒運転根絶の日」です(2016年7月13日閲覧)
  31. ^ 飲酒運転 | 根絶へ情報続々 道警がサイト、3週間100件超 常習者を検挙/提供飲食店近くで検問強化毎日新聞2015年9月25日9時0分配信(2015年12月22日閲覧)
  32. ^ 飲酒運転の情報提供 北海道警察(2015年12月22日閲覧)
  33. ^ 2015年8月27日12時32分の投稿北海道文化放送公式Twitterアカウント(2015年12月22日閲覧)
  34. ^ 安全運転管理者の業務の拡充等”. 警察庁. 2023年6月6日閲覧。
  35. ^ 【飲酒運転高速バス】前代未聞!? 乗客22人の大型バスが高速道を暴走(レスポンス 2012年7月8日)2014年9月15日閲覧。
  36. ^ 【飲酒運転高速バス】過去最大!! 75日間の路線休止命令(レスポンス 2012年7月14日)2014年9月15日閲覧。
  37. ^ アルコール検知器の義務化! | 自動車総合安全情報”. 国土交通省. 2020年6月10日閲覧。
  38. ^ 国土交通省 運航規程審査要領細則
  39. ^ 国交省、日航に立ち入り検査…飲酒副操縦士逮捕」『YOMIURI ONLINE(読売新聞)』、2018年11月27日。2018年11月28日閲覧。
  40. ^ “国交省、JALとANAに立入検査 パイロット飲酒で” (日本語). Aviation Wire. https://www.aviationwire.jp/archives/161281 2018年11月28日閲覧。 
  41. ^ 例えばロッテの洋酒入りチョコレート菓子「ラミー」・「バッカス」の場合、酒入りであるため運転の際に食べるなとパッケージに明記されている。またロッテ公式の特設サイトに於いても同様の注意書きがある。
  42. ^ 2005/12/24号 日本医事新報 P25-29 参考[リンク切れ]
  43. ^ 其の52 奈良漬|蔵元だより|日本酒五橋蔵元 明治4年創業 酒井酒造 公式ホームページ によれば奈良漬け1切れが約0.4%のアルコールを有するとされる。
  44. ^ 酒かす汁2杯食べて 「飲酒運転検挙」の真相 - ライブドアニュース によれば、酒気帯び運転で摘発された人物は「友人宅で酒かす汁を2杯飲んだ」と主張している。
  45. ^ 『アルコール健康読本』大阪精神保健福祉協議会:編
  46. ^ 飲酒運転摘発逃れに悪用-「奈良漬」60切れ食べなきゃ無理 (2/2ページ) - MSN産経ニュース - ウェイバックマシン(2009年2月12日アーカイブ分)[リンク切れ]
  47. ^ 飲酒運転防止コンセプトカー”. 日産自動車. 2020年5月23日閲覧。
  48. ^ 背景にある「アルコール依存症」という病気
  49. ^ https://www.dmv.ca.gov/portal/dmv/?1dmy&urile=wcm:path:/dmv_content_en/dmv/teenweb/crazy_btn3/tolerance
  50. ^ デンマーク海軍が不審船を発見、正体は泥酔船長の貨物船 - AFPBB
  51. ^ 春山優花里 (2019年6月17日). “嘘のような本当の話 ポーランドで酔っぱらいが市街地を戦車「T-55」で暴走、49歳の男を飲酒運転の容疑で逮捕”. ねとらぼ. ITmedia. 2019年9月26日閲覧。
  52. ^ 「飲酒運転で車没収」の国、ウクライナへの“寄付”開始 ウ軍と病院へ没収車が到着 日本車の姿も”. 乗りものニュース. 2023年3月13日閲覧。
  53. ^ 安全対策基礎データ トリニダード・トバゴ”. 外務省 (2020年3月19日). 2020年5月22日閲覧。
  54. ^ 移動手段・交通とその関連用語
  55. ^ 국가법령정보센터” (朝鮮語). Law.go.kr. 2017年6月11日閲覧。
  56. ^ 만취 차량에 15m 날아가 숨졌는데‥"징역 3년이라고요?"” (朝鮮語). 2023年4月13日閲覧。
  57. ^ 中国の自動車事故死者数、10年連続して世界一 レコードチャイナ 2012年3月12日
  58. ^ a b 飲酒運転に対する罰則を強化 ―道路交通安全法の改正― Topics in 上海”. 茨城県上海事務所 (2011年6月1日). 2020年5月22日閲覧。
  59. ^ 酒酔い運転したら即、刑事罰 日経ビジネス、2011年6月3日
  60. ^ 厳罰化から2年 飲酒運転事故4割減=中国 人民網日本語版 2013年5月2日
  61. ^ 女が飲酒運転で6人死傷の事故、死刑の可能性も―中国”. レコードチャイナ (2019年7月8日). 2019年7月23日閲覧。
  62. ^ 飲酒運転罰則厳格化、同乗者にも罰金 台湾国際放送 2019年4月2日
  63. ^ 飲酒運転の規則は?”. オーストラリア観光局. 2019年6月6日閲覧。
  64. ^ 「エンジン付き移動式ピクニックテーブル」の使用が西オーストラリアで深刻な問題に 2022年8月28日閲覧


「飲酒運転」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「飲酒運転」の関連用語

飲酒運転のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



飲酒運転のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの飲酒運転 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS