顔料 顔料の概要

顔料

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/18 02:45 UTC 版)

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粉末状の天然ウルトラマリン顔料
合成ウルトラマリン顔料は、化学組成が天然ウルトラマリンと同様であるが、純度などが異なる。

特定の波長を選択的に吸収することで、反射または透過するを変化させる。蛍光顔料を除く、ほぼ全ての顔料の呈色プロセスは、自ら光を発する蛍光燐光などのルミネセンスとは物理的に異なるプロセスである。

顔料は、塗料インク合成樹脂織物化粧品食品などの着色に使われている。多くの場合粉末状にして使う。バインダー、ビークルあるいは展色剤と呼ばれる、接着剤溶剤を主成分とする比較的無色の原料と混合するなどして、塗料やインクといった製品となる。実用的な分類であり、分野領域によって、顔料として認知されている物質が異なる。

顔料の世界市場規模は2006年時点で740万トンだった。2006年の生産額は176億USドル(130億ユーロ)で、ヨーロッパが首位であり、それに北米アジアが続いている[1]。生産および需要の中心はアジア中国インド)に移りつつある。

呈色の物理学的原理

様々な波長(色)の光が顔料に当たる。この顔料の場合、赤と緑の光は吸収され、青い光だけを反射するため、青く見える物体として図示されている。ただし、現実の顔料はこのように単純ではなく、光線自体に分光特性は存在しても色がある訳ではないし、三原色として機能する絶対的な光も存在しない。

顔料は特定の波長の光を選択的に反射または吸収するため、色があるように見える。白色光は可視光スペクトル全体をほぼ均等に含んでいる。この光が顔料に当たると、一部の波長は顔料に吸収され、他の波長は反射される。この反射された光のスペクトルが人の目に入るととして感じられる。単純に言えば、青い顔料は青い光を反射し、他の光を吸収する。顔料は蛍光物質や燐光物質とは異なり、光源の波長の一部を吸収して除去するだけであり、新たな波長の光を追加することはない。

顔料の見た目の色は、光源の色と密接に関連する。太陽光は色温度が高くスペクトルも均一に近いため、標準的な白色光と見ることができる。人工的な光源にはスペクトルになんらかのピークや谷間がある。そのため、太陽光の下で見たときとは色が違って感じられる。

色を色空間で数値的に表す場合、光源を指定しなければならない。Lab色空間の場合、特に指定がない限り D65 と呼ばれる光源で測定したと仮定される。D65とは "Daylight 6500 K" の略で、ほぼ太陽光の色温度に対応している。

色の濃さや明るさといった属性は、顔料と混ぜ合わせた別の物質によっても変わってくる。顔料に加える展色剤や充填剤もそれぞれに光の波長の反射・吸収のパターンを持ち、最終的なスペクトルに影響を与える。同様に顔料を混ぜる量によっては、個々の光線が顔料粒子に当たらずに反射されることもある。このような光線が色の濃さに影響する。純粋な顔料は白色光をそのまま反射することはほとんどなく、見た目の色は非常に濃いものとなる。しかし大量の白い展色剤などと少量の顔料を混ぜると、色は薄くなる。

顔料の化学的分類

顔料にはその組成から、無機顔料と有機顔料の2種類に大別される。無機顔料は、有史以前から使われていた鉱物の加工品である天然無機顔料と、化学的に合成された合成無機顔料に区別可能である。有機顔料は、藍玉のように植物から採った不溶性を示す染料前駆体をそのまま顔料として使用するものと、植物や動物から抽出される染料をレーキ化させたものが古くからある。現在工業的に使われているものの大半は石油工業によって成立する合成有機顔料である。合成有機顔料には化学構造自体が不溶性を示すもの(不溶性色素)と、水溶性の合成染料を不溶化させたレーキ顔料(lake, lake pigment)がある。

それぞれの顔料にはカラーインデックスによって分類番号および分類名が付与されている。例えば、二酸化チタン(チタン白)のColour Index Generic Name[2] はPigment White 6、Colour Index Constitution Number[3] は77891である。

無機顔料

無機顔料は大別して天然鉱物顔料と合成無機顔料に分類される。有機顔料に比べてはるかに生産量が多いため、日本工業規格(JIS)では特に生産量の多い12品目を統一規格の対象として規定している。

古来、顔料は油脂類を燃やした際のを使用した黒色以外は自然の鉱物を粉砕したものが主体であった。黒色の煤は現在カーボンブラックと呼ばれ、非常に多様な用途に使用されている。書道で使うの高級品は昔ながらの油煙(ランプブラック)を使うが、一般的には天然ガス石油を不完全燃焼させて作ったファーネスブラックが使用されている。また絵具では植物を燃やしてつくった植物性黒動物を燃やしてつくった骨炭も使われている。ラピスラズリを使ったウルトラマリン青孔雀石を使った緑青などは高価であり、高級な絵画や装飾物に使用された。赤色弁柄天然酸化鉄赤)や辰砂(硫化水銀)が使われた。

現在工業的に使用されているものは、アンバーシェンナといった天然土由来の褐色顔料や、炭酸カルシウム色)、カオリン(粘土、淡色)などが多い。これらの天然鉱物顔料のうち、淡色ないし無色の顔料は、淡色の塗色を作るときに使われる。また、レーキ顔料の製造における担体としても使われる。特殊な例として白色雲母を粉砕して使うパール顔料(真珠様光沢を有する)がある。天然鉱物顔料は今日では顔料工場にて微粉砕されており、使用目的に応じた化学的処理を受けて出荷されている品種も多い。

化学的に合成された純然たる合成無機顔料は、1704年にドイツで合成された紺青(プロシア青)以来、数多くの品種がある。白色顔料は今日ではチタン白(二酸化チタン)や亜鉛華(酸化亜鉛)が使われており、古くから白粉に多用され中毒を起こして問題になっていた鉛白油絵具以外には使われなくなった。代表的な合成無機顔料としては他に合成酸化鉄赤、カドミウム黄ニッケルチタン黄ストロンチウム黄含水酸化クロム酸化クロムアルミ酸コバルト、合成ウルトラマリン青等がある。無機顔料は一般的に有機顔料に比べると着色力、鮮明さ、透明性に欠けるが、耐光性が良く塗料などに多用される。銀色金色(銀色を黄色く着色したものが多い)の塗料やインクに使われるアルミニウム粉も無機顔料である。なお、陶磁器に使われるセラミック顔料も、無機化合物でありかつ顔料であり、無機顔料である。

日本工業規格で規定されている顔料

有機顔料

Pigment Red 170
青味赤のモノアゾ顔料

有機化合物を成分とする顔料を有機顔料と呼称する。有機顔料はその化学構造から大きくアゾ顔料と多環顔料に類別されるのが普通であるが、色相によっても区分することもあり、不溶性色素とレーキ顔料に分類されることもある。 有機顔料は構造中に不飽和二重結合を有し、共鳴エネルギーを光から吸収して安定する。この特定吸収波長域が可視光域(380-780 nm)の一部にあると、顔料を通過または結晶中で反射した光は、それ以外の波長で構成される色の着いた光となる。

主に、多環顔料(polycyclic pigment)、アゾ顔料の2種類がある。一般に、アゾ顔料は多環顔料に含めない。一般に、有機顔料は高分子化すると耐久性が高まるが、コストの上昇や分散性の低下などのデメリットを伴う。このため、低分子であっても高い耐久性を有し、鮮明なものを求める研究がされる。

アゾ顔料の中心となる窒素同士の結合は、鮮明な化合物を生じるが、耐久性に難がある為に、耐久性の高い構造を組み込むなどして耐久性の高い顔料にする工夫が知られている。

顔料として使用出来る植物由来のや、マダーレーキに代表されるアントラキノンレーキ顔料のように、植物動物から採取した染料をレーキ化した顔料もある。ただし、今日使われている有機顔料の多くは、石油由来の原料に石油化学的加工を重ねることによって製造したものである。無機顔料が鉱物の精製を経て、工業的に製造されることとは対照的である。

多環顔料

多環顔料は、顔料としての機能を有する縮合環化合物。構造に着眼して分類すると多種の顔料が工業化されている。アゾ顔料に比べて耐久性が高い顔料が多い。多環顔料の代表的なものにフタロシアニン顔料がある。フタロシアニン顔料フタロシアニンブルーの内よく使われるものはを含んだ有機化合物で、鮮明な青色を呈し、耐光性も良好。緑色のフタロシアニングリーンも同系統の化合物。キノン構造を有するアリザリンをレーキ化して顔料として用いている事実がある。Pigment Red 177のように、顔料であることからレーキ化が不要なアントラキノン顔料もある。色相ごとに分けて列挙する。

アゾ顔料

アゾ顔料は、窒素原子同士の二重結合を有する化合物であるアゾ化合物のうち、顔料としての機能を有するものを指す。レモンイエロー(緑味黄)からルビー(青味赤)を呈色する。一般にアゾ結合は他の発色団に比べて、可視光域の特定吸収波長を強く吸収し強い発色をする。中黄色を呈するベンジジンイエロー(; Pigment Yellow 14)の透明タイプ、青味赤を呈するブリリアントカーミン6B(; Pigment Red 57:1)等、着色力が強く鮮明でかつ透明が高いのが特徴で印刷インキに多用されるが、耐光性に難がある。 ただし、例えばイミダゾールの水素と化合していない窒素と水素を結合させ2個の窒素原子と結合している炭素に化合している水素を酸素で置き換えた構造として説明可能なイミダゾロン基を導入することによって、分子構造に水素結合を引き起こすことで高い耐久性を実現することが可能である[4]。このように、難点とされている耐光性・耐候性を向上させたアゾ顔料もある。これらは主に塗料の着色剤、顕色成分として用いられている。 芳香族アミンとカップリング成分の反応によって水中で合成される。種類ごとに分類すると以下のものがある。

分子量が大きいほど堅牢性は向上するといわれており、堅牢性は、モノアゾ<ジスアゾ<縮合ジスアゾの順で高い。ただし、ベンツイミダゾロンに分類されるモノアゾ顔料とベンツイミダゾロンに分類されるジスアゾ顔料はこの限りではない。

  1. 分子構造中にアゾ基を1つ有する、モノアゾ顔料。モノアゾに金属を配位したレーキ顔料もモノアゾ顔料に分類される。
  2. 分子構造中にアゾ基を2つ有し、中央の配向構造を中心とした高い対称性を示す、ジスアゾ顔料。着色力の高さが特徴。
  3. 分子構造中にアゾ基を2つ有し、中央の配向構造を中心とした高い対称性を示す、縮合反応を用いて製造される、縮合ジスアゾ顔料。着色力も高い。

レーキ顔料

レーキ顔料は、水溶性を有する有色物質(染料)を電離させ、担体としての金属イオンと電気的に結合させ、不溶性のものにしたものである。この一連の操作をレーキ化不溶化などと呼ぶ。

カルボニウム染料などの染料(可溶性色素で有機化合物で、染色における使用実績のあるもの)も、レーキ化して顔料として使用されることがある。かつて使われていたクェルシトロンレーキなどの、動植物由来の染料を不溶化して顔料としたものも、レーキ顔料である。

赤色のレーキレッドC、ウォチュングレッドなど、濃度が高く色相が鮮明なのものが多い。これらの顔料は印刷インキに使用される。アリザリンレーキ絵具に使用されるが、屈折率が一般的な固着成分に近いため高い透明性を示す顔料で、その独特な色合いや高い透明性から好まれており、高い需要がある。高い透明性が要求されるインクジェットプリンターにおいてもマゼンタに採用されるキナクリドン顔料よりも屈折率が低い。つまり、この意味での透明性はアリザリンレーキの方が高い。

蛍光顔料

蛍光顔料インクによるペイント。ブラックライト照射による発光。

蛍光顔料は、主にフォトルミネセンスにより呈色する顔料である。

その内、有機質のものとして、樹脂(高分子)に蛍光染料を固着し微細化したものがある。 顔料化により、蛍光染料には無い耐久性(耐候性、耐薬品性、耐熱性など)や発色性(インク化時に展色材の種類に影響されない)、隠蔽性などを有する蛍光色素となる。 通常光下で鮮やかに各色(イエロー、オレンジ、ピンク、グリーン、ブルー、ホワイト等)に呈色し、ブラックライトなどのUV光下ではより強く発光する。 これらの有機蛍光顔料は、ネオンカラー(汎用の蛍光塗料や蛍光インク)の色素として使用される[5]。顔料の通常反射に加えてフォトルミネセンスで発色するため一般顔料に比べてより鮮明に見える。これら可視タイプの他に、通常光下では無色でブラックライト下で各色に発色する不可視タイプのものもある。

一方、無機質のものは、(無機)蛍光体と呼ばれ 希土類元素ドープした金属酸化物などがある。それ自体が水・油に不溶で微粉末で顔料として解釈される。主にブラウン管蛍光灯冷陰極管白色発光ダイオードなどの蛍光発光物質として使用されている。通常光下では無色(主に不透明白色)でブラックライトなどの短波長光下で各色に発色する(ルミライト印刷)。一般的に、有機質の不可視蛍光顔料に比べて高価・高耐久性である。 広義には光照射を止めても残光発光する無機の蓄光体燐光)も含まれる。


  1. ^ Market Study: Pigments”. Ceresana Research. 2010年8月8日閲覧。
  2. ^ 俗に、カラーインデックス名。ただし、Colour Index Constitution Numberをカラーインデックス名とする誤用もある。
  3. ^ 俗に、カラーインデックス番号。ただし、Generic Nameをカラーインデックス番号とする誤用もある。
  4. ^ 『有機顔料ハンドブック』 橋本勲 カラーオフィス 2006.5
  5. ^ SINLOIHI 蛍光塗料・蛍光顔料シンロイヒ
  6. ^ 一見敏男 (1980). “顔料の色の話”. 化学教育 (日本化学会) 28 (1): 32-35. NAID 110001822628. 
  7. ^ 大塚淳. “顔料”. 日本大百科全書(ニッポニカ). 小学館. 2016年12月9日閲覧。
  8. ^ a b c 顔料技術研究会編 『色と顔料の世界』 三共出版 2017 ISBN 978-4-7827-0759-3 pp.213-219.
  9. ^ 『世界大百科事典 第2版』 平凡社、2009年。
  10. ^ Kassinger, Ruth G. (2003-02-06). Dyes: From Sea Snails to Synthetics. 21st century. ISBN 0-7613-2112-8. http://books.google.com/books?id=5pWAWgq5My4C&printsec=frontcover&dq=Dyes:+From+Sea+Snails+to+Synthetics&hl=ja&ei=NlJfTIWyFoy4vQO71_iZDA&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=1&ved=0CCsQ6AEwAA#v=onepage&q&f=false 
  11. ^ Theopompus, cited by Athenaeus [12.526] in c. 200 BCE; according to Gulick, Charles Barton. (1941). Athenaeus, The Deipnosophists. Cambridge: Harvard University Press.
  12. ^ Michel Pastoureau (2001-10-01). Blue: The History of a Color. Princeton University Press. ISBN 0-691-09050-5 
  13. ^ Jan Wouters, Noemi Rosario-Chirinos (1992). “Dye Analysis of Pre-Columbian Peruvian Textiles with High-Performance Liquid Chromatography and Diode-Array Detection”. Journal of the American Institute for Conservation (The American Institute for Conservation of Historic &#38) 31 (2): 237–255. doi:10.2307/3179495. JSTOR 10.2307/3179495. http://links.jstor.org/sici?sici=0197-1360(199222)31%3A2%3C237%3ADAOPPT%3E2.0.CO%3B2-7. 
  14. ^ Amy Butler Greenfield (2005-04-26). A Perfect Red: Empire, Espionage, and the Quest for the Color of Desire. HarperCollins. ISBN 0-06-052275-5 
  15. ^ a b Pigments Through the Ages”. WebExhibits.org. 2007年10月18日閲覧。
  16. ^ Rossotti, Hazel (1983). Colour: Why the World Isn't Grey. Princeton, NJ: Princeton University Press. ISBN 0-691-02386-7 
  17. ^ Simon Garfield (2000). Mauve: How One Man Invented a Color That Changed the World. Faber and Faber. ISBN 0-393-02005-3 
  18. ^ Jeff Behan. “The bug that changed history”. 2006年6月26日閲覧。






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