頭髪 手入れ

頭髪

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/14 12:57 UTC 版)

手入れ

人間の見た目を大きく左右する要素であるため、美容と言う概念では毛髪の手入れに気を使うことも多い。頭髪の長いロングヘアになるほど、手入れの時間が増える傾向にある。

特にクチクラ(キューティクル)は水分を含むと膨張するため、摩擦で剥がれやすくなる。その結果としてクチクラが少なくなると、毛の内部が空洞化して痛みやすくなる。

洗髪の際は予めブラッシングや事前のお湯洗いなどで汚れを落とし、きめ細かくしたを使って汚れを吸着させながら低摩擦で洗浄し、乾燥させる際は髪についた水気をある程度抜いたうえで髪にタオルと熱しすぎない程度に温風を髪をに当てて乾かし、さらに冷風で冷却してからブラッシングすることが推奨される。

利用

付け毛(かつら、ウィッグなど)

古来、付け毛(つけげ)は、身体や時には物を飾るために、あるいは無くした髪を補うために、ヒト(人類)が手にすることのできる素材の一つであったかも知れないが、考古遺物記録として遺されたものは確認できない。

国際貿易センター(ITC)の統計によれば、2012年段階で中華人民共和国(中国)が生産する人毛製品は、世界の流通量の大半を占める[17]。特に、ファッションの一部として用いられるヘアーエクステンションウィッグは、中国の中でも安徽省阜陽市太和県一帯において加工、流通の集積が進んでおり、原材料も地元中国のほかミャンマーベトナムなどからも取り寄せられている[17]

人間だけでなく、フィギュアなど人形にも使われる。

人毛は貿易やインターネットオークションを含む個人間売買といった商取引の対象にもなる[18]。長くて美しい髪ほど高値がつく[18]

19世紀半ばのヨーロッパでは銀の2倍の価値があったため、髪を奪う髪泥棒英語版が存在した。こういった報告は、髪の需要があった広い地域で見られる。

病気などで髪を失った人への寄付として、ヘアドネーションという取り組みがある。

関連する作品
  • 髪盗人
  • 賢者の贈り物 - 夫は妻の髪に似合う髪飾りを送るために大事にしていた懐中時計を売り、妻は夫が大事にしている懐中時計の鎖を買うために髪の毛を売る短編小説。
  • 羅生門

生薬

古来、東洋医学中国医学、古来日本の漢方医学など)では人毛を生薬として利用してきた。中国医学では黒焼きにしたものを「乱髪霜」と呼び、止血効果があるとされる。値段は長さ50センチメートルほどの髪が、1キログラム当たり5400(約9万円)程度で売れることもある。

刷毛

刷毛としての利用は、伝統工芸技術として日本で発展してきた漆工芸において、漆刷毛(うるしばけ)という形で昔から欠かせないものになっている[19]。これは、高品質な一本物の長い人毛(直毛)を束ね、漆糊(うるしのり。澱粉に生漆〈きうるし〉を混ぜ込んだもので、布や木などの接着剤)で固めて板状に加工し、それを白木の板で挟み込んで刷毛の形に整えたもので[19][20]、日本における刷毛の原型とされている[19]。漆刷毛は鉛筆の芯のように先端から柄尻まで固めた人毛が詰まっているので、鋭さが鈍ってしまった鉛筆の先を削って尖らせるのと同じように、使うことで乱れてしまう先端部を小刀などで削って刷新しながら消費してゆくものである[19][20]。毛は一本物であるため、抜け落ちて塗り面を乱すということが無い[19][20]仏教が伝来して日本各地に寺院が建立されてゆくなかで、仏像や美術用具、その他に漆を塗るために使われるようになったとされている[19]塗師によれば、現在でもの尻尾の毛以外の他素材で代用することは考えられない。代用が利かない理由の第一はその長さで、全長200~250ミリメートルという漆刷毛に必要な長さの毛は、人毛と馬の尻尾の毛くらいでしか安定して確保できないことがある[19]。そして人毛が素材として最高級である理由は、馬の毛では太過ぎて漆を塗るのには刷毛目が立ち過ぎて不向きなことにある[19]。その点、人毛の太さはちょうど良く、刷毛目も立ちにくいという[19]。なお、昔から海女の髪が良質とされている[19]。海水にさらされて適度に脂が抜けるため、漆の含みが良いという[19]。また、現在(※令和時代初頭)の漆刷毛職人にはストックしてある明治時代の女性の頭髪を材に生産している者もいるが、これもやはり適度に脂が抜けるからという。ただ、今では刷毛用の国内産の人毛は入手困難になってしまっており[20]、ほとんどが中国産になっている[20]。2010年代後期後半時点で、漆刷毛職人の工房は大阪市にある老舗1軒[19]東京にある1軒しかない[20]

落ち買い

江戸時代の日本の都市部は、高度に発達したリサイクル社会であり、当然のこととして髪の毛もリサイクル(再生利用)の対象であった[20]。多くの人々が生活するなかで日々生み出される大量の髪の毛を買い集めて回る人々がいて[20]、そのほとんどが女性であった[20]。こういった人々を江戸では「おちゃない」と呼んでいたが[20]、これは「落ち買い(おちがい)」が訛った名称であった[20]。江戸市中には「おちゃない、おちゃない~♪」という売り詞(うりことば)が響き[20]、そうして彼女たちが集めた髪の毛を、毛屋(けや)や髢屋(かもじや)が買い取っていた[20]。「毛屋」というのは、おちゃないから買い取ったり自分たちで集めた髪の毛を利用者に売り渡す[20]、髪の毛専門のである。集められた髪の毛は、日本髪(かもじ。髪を結うときに足りない部分を補うもの)や、刷毛(漆刷毛を含む)の材料となる[20]。前述したように、髢に加工するものは髢屋が直接買い取ることもあった[20]。また、当時は神社に髪の毛を奉納する習慣もあったため、神社がそれを天日干ししておくと、おちゃないや毛屋が買い取りにきた[20]

L-システイン

パンなどに含まれている食品添加物のL-システインには、中国の人毛から製造したものが出回っている[21]欧州連合(EU)の法律では、人毛から作られたL-システインを禁止している[21]

人毛醤油

遺髪等

頭髪は、人が死後に遺す物として代表的な一つであり、これを遺髪(いはつ)という。特に伝統的な日本文化の下では、遺品として敬意を払われるべき対象物である。死にゆく自身がどうあってもこの世に残したい思いがある時、古来の日本人は遺髪にその念を籠め、遺族の手に渡ることを願った。遺族らもその文化を共有しているので、故人の頭髪は特別視されるのである。

検体として

犯罪現場などに残された毛髪は血液型検査やDNA型鑑定の対象となり、被害者や被疑者の同定に役立つ[22]

毛髪中に微量で含まれる成分が医療や研究で注目される[4]。例として中長期のストレス指標となるコルチゾールや病気の早期発見のマーカーとなるカルシウムが挙げられる[4]。毛髪の分析により、健康状態や病気を把握する手法を研究する毛髪診断コンソーシアムが、日本理化学研究所など20研究機関により組織されている[23]

吸着材

人間の髪で作った油吸着材は、髪の毛1グラムあたり0.84グラムの原油を吸着することが明らかになったという。これは油流出事故で通常使われるプラスチック素材の一種ポリプロピレンで作られた吸着材より大幅に多い。 リサイクルした髪の毛にはもっと日常的な用途もある。例えば排水溝の周りに設置すれば、豪雨の際、雨水に流されるエンジンオイルなどを集められる。あるいは食用油を吸い取る生分解性のグリーストラップ(油阻集器)にも使われている。[24]

マルチング材

リサイクルされた髪の毛は、植物の成長に必要な肥料や根元を覆うマルチング材としても使用できる。 チリのアタカマ砂漠では、ヘアマットを土壌に置くと、使用する水の量は48%も少なくて済むという実験結果が出た。また、髪の毛でマルチングしたおかげで窒素が増えて土壌の健康状態も改善し、収穫量が32%増えたという。[25]

文化史

頭髪は、単に人体の一部という役割を超えて、神聖視されたり、特別な意味合いを付与されたりすることもあった。旧約聖書の『士師記』においてサムソンは髪を切られたためにその力を失った。現在でも正教会においては、地域によっては気候・習慣等の要因から髪を切る修道士もいるが、修道士は頭髪を切らない事が基本的伝統とされる。

また、芸術作品では悲嘆する場面で髪を振り乱す、髪を掻きむしるなど、髪を使った感情表現が古代ギリシアの時代から見られる。古代の地中海世界では髪は感情や生命力が宿る場所とされ、葬儀の際には死者や参列者の髪を切って奉献し喪に服した[26]

日本の平安時代貴族女性において、髪の長さは美しさであった。村上天皇の宣耀殿の女御の髪の長さは、『大鏡』に記述がある。

ネグロイドでは、頭髪をそのままにしておくと、きつく曲がって成長し、ドレッドと呼ばれる独特の髪形になる。アメリカ合衆国においては、1960年代まではコーカソイドのネグロイド(アフリカ系アメリカ人)に対する人種差別が根強く、ネグロイド自身も差別される事を嫌って、化学処理や装置を使って毛を真っ直ぐにする場合があった(いわゆるストレートパーマ)、1960年代以降、公民権運動が成果を上げてネグロイドの地位が向上すると彼らの考えも変化発展し、縮毛を活かしたドレッドやアフロヘアーを誇示するようになり、コーカソイドにも浸透するようになった。


  1. ^ a b c d e 清水 2011, p. 20.
  2. ^ a b c d e f g h タカラベルモント株式会社 2022, p. 13.
  3. ^ a b c d e 清水 2011, p. 22.
  4. ^ a b c d e f g タカラベルモント株式会社 2022, p. 20.
  5. ^ a b c d e f タカラベルモント株式会社 2022, p. 14.
  6. ^ a b c タカラベルモント株式会社 2022, p. 15.
  7. ^ a b c タカラベルモント株式会社 2022, p. 18.
  8. ^ 【元気でキレイに】梅雨時の髪/手入れで傷み抑えて水分と油分整え『朝日新聞』土曜朝刊別刷り「be」2021年6月12日9面(2020年6月26日閲覧)
  9. ^ Solan, Matthew (2021年9月1日). “You don't say? Hair today, gone tomorrow” (英語). Harvard Health. 2022年6月1日閲覧。
  10. ^ 清水 2011, pp. 20–21.
  11. ^ 毛根鞘とは?抜け毛・薄毛との関係を解説|男性ホルモン研究所”. 男性ホルモン研究所. 2022年4月28日閲覧。
  12. ^ 縮れた髪の毛は初期人類の脳が大きくなるのに有利だった?(National Geographic、2023年)
  13. ^ 【見逃し配信】チコちゃんに叱られる5月3日拡大版<植物/髪の毛/電車/カッターの刃/再放送/NHK/TVer>2024年5月3日FYouTubeULL LIVE(YouTube)
  14. ^ a b c タカラベルモント株式会社 2022, p. 11.
  15. ^ a b 清水 2011, pp. 22–23.
  16. ^ a b c d e f 清水 2011, p. 23.
  17. ^ a b Tom Hancock「中国の人毛加工製品、輸出が急成長」『AFPBB New』AFP、2014年8月22日。2014年8月23日閲覧。
  18. ^ a b 【ニュースQ3】長くきれいな髪は高値 ネットで「人毛売買」」『朝日新聞デジタル』朝日新聞社、2019年11月26日、朝刊。2019年11月27日閲覧。
  19. ^ a b c d e f g h i j k l 漆刷毛”. ハケ市(河合刷毛ブラシ工業有限会社). 2019年12月29日閲覧。
  20. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 加藤千晶. “漆刷毛が繋ぐもの”. ウルシスト千晶のうるしのはなし. FEEL J株式会社. 2019年12月29日閲覧。
  21. ^ a b “Is there human hair in Dutch bread?” (英語). DutchNews.nl. (2014年2月5日). http://www.dutchnews.nl/news/archives/2014/02/is_there_human_hair_in_dutch_b.php/ 2019年12月29日閲覧。 
  22. ^ 科学警察研究所 法科学第一部 生物第一研究室. “毛髪の異同識別に関する研究”. 公式ウェブサイト. 科学警察研究所. 2019年12月12日閲覧。
  23. ^ コンソーシアムとは”. 公式ウェブサイト. 毛髪診断コンソーシアム. 2019年12月12日閲覧。
  24. ^ “髪の毛をリサイクル、驚きの様々な活用法、「フジロック」でも”. ナショナルジオグラフィック. (2023年7月28日). https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/070300340/?ST=m_news#:~:text=%E6%B0%97%E5%80%99%E5%A4%89%E5%8B%95 
  25. ^ “髪の毛をリサイクル、驚きの様々な活用法、「フジロック」でも”. ナショナルジオグラフィック. (2023年7月28日). https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/070300340/?ST=m_news#:~:text=%E6%B0%97%E5%80%99%E5%A4%89%E5%8B%95 
  26. ^ 小池 1999, pp. 25–29.


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