鞭毛菌類
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特徴
古典的な意味で「菌類」とされていた生物のうち、生活環の一時期に鞭毛をもつ細胞(遊走子や配偶子)を形成するものは、鞭毛菌類とよばれる[6][7][8]。鞭毛菌類は、主にツボカビ類(広義)、サカゲツボカビ類、卵菌類を含む。これらのグループは鞭毛細胞の特徴で区別できる(下図2)。ツボカビ類は細胞後端から後方へ伸びる1本の鞭毛をもつ[6][7][8](下図2a)。ただし広義のツボカビ類のうちネオカリマスチクス類の一部は、後方へ伸びる多数の鞭毛をもつ[9](下図2b)。これらの鞭毛は装飾構造をもたず、尾型鞭毛(またはむち型鞭毛)とよばれる[6][9]。一方、サカゲツボカビ類は細胞前端から前方へ伸びる1本の鞭毛をもつ[6][7][8](下図2d)。この鞭毛には管状小毛が付随しており、羽型鞭毛とよばれる[6]。卵菌類では、サカゲツボカビ類と同様に前方へ伸びる羽型鞭毛をもち、それに加えて後方へ伸びる尾型鞭毛をもつ[6][7][8](下図2e, f)。
鞭毛菌類の栄養体は多様であり、単細胞で全実性(菌体全体が遊走子嚢になる)のものや、分実性で単心性(1個の遊走子嚢と仮根からなる)のもの(下図3a)、分実性で多心性(複数の遊走子嚢が仮根状菌糸でつながっている)のもの、発達した菌糸を形成するものなどが知られる[8][10](下図3)。菌糸を形成するものでは、菌糸はふつう隔壁を欠く多核菌糸である[8][10](下図3c)。
ネコブカビ類は植物寄生性の生物であり、古くはふつう粘菌類に分類されていたが、鞭毛細胞を形成することから鞭毛菌類に分類されることもあった[10]。ネコブカビ類の鞭毛細胞は、細胞腹面(側面)から前後に伸びる尾型鞭毛をもつ[10](上図2c)。ネコブカビ類の栄養体は、細胞壁を欠く多核体(変形体)である[10][11]。現在では、ネコブカビ類はいくつかの鞭毛虫やアメーバ類、放散虫、有孔虫とともにリザリアに属すると考えられている[11][12]。
注釈
出典
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