霜
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/18 16:08 UTC 版)
表面霜・内部霜
積雪の表面や内部にも霜は生じ、前者は雪面霜(せつめんじも)や表面霜、後者は雪中霜(せっちゅうじも)や内部霜と呼ぶことがある[2][12][13]。雪面霜には羊歯状(シダの葉状)や微細な毛状の結晶がみられ、霜の華、霜花とも呼ばれる[25][26]。表面霜に一晩で大きな結晶を生じるのは、湿度が90%以上と高く2 - 3 m/sの微風のときが条件として報告されている[27]
内部霜は深部霜(depth hoar)とも呼ばれ、積雪の中に温度差があるとき、乾燥した積雪内部の地表に近いところに生じる。新雪は古い雪に比べて熱伝導率が低いため、日射や放射冷却の程度に差が生じる。相対的に暖かい部分から蒸発、冷たい部分へと昇華して、積雪は次第に霜に置き換わってゆく。この性質の積雪をしもざらめ雪という。形は骸晶(コップ)状や六角板・六角柱状の微小結晶。雪渓や氷河の割れ目(クレバス)にも同様の霜(crevasse hoar)を生じる[27][28][29][30]。表面霜およびしもざらめ雪はそれぞれ積雪分類のひとつとなっているが、雪の粒子同士の結合が弱く、このような積雪層の上に雪が乗っているとき雪崩のすべり面になりやすいことが知られている[28]。
霜の結晶
霜の結晶は雪の結晶(雪片)と同じように様々な形があって、主に針状、うろこ状、羽根状、扇子状等の類型が知られている[31][2][32]。微細な霧が凍った不定形の氷の微粒子を含む場合もあるが、過飽和度が高いときにみられる[32]。
窓の霜では様々な形状の結晶を観察することができ、模様の発達したものを花に例えて霜花、霜の花、氷の花と呼ぶことがある[33][34]。窓の霜は一部が物体に付着しており水蒸気は不均一に集まるため、その結晶形は雪の結晶ほどは対称にならない[32]。
また、雪面や雪の上にある物体のほか、氷、特に湖や河川の氷(結氷)の表面に生じるような、結晶が目立って発達した霜を指して霜花(霜の花)、フロストフラワー(frost flower)、霜紋と呼ぶこともある。形状は主に羽状、ひげ状または花のような形。結氷に生じる霜の花は、相対的に暖かくて水蒸気の源となる、氷が張っていない場所や氷の薄い場所の周辺に生じやすい[33][26][35]。
低温で氷床が広がる南極では、雪まりもと呼ばれるものが報告されている。雪面において、針状の霜の結晶が集まった球形の塊が小さな窪みにいくつもたまるもの。ドームふじ観測拠点で1995年に発見されており、同じような現象の記述はアムンセンやサイプルの著書にも見出せるという[36]。
-
十字状の霜
-
枝状の霜
-
シダの葉状の霜
-
車の窓についた窓霜
-
穴あき模様の窓霜
-
地面に張った霜
-
強い霜が降りた風景
-
日光が当たる部分は霜が解けていく
-
フェンスに付いた霜(樹霜)
-
六角板・樹枝状結晶が発達した樹霜
-
液体窒素タンク周りの冷たい配管に生じた霜
-
羊歯状結晶が見える積雪表面の霜
-
コンコルディア基地(Concordia Station)の近くで撮影された雪まりも
類似の現象
- 霜柱(しもばしら)は、気温が低いときに地中の水分が地表に染み出して柱の様な形に凍ってできるもので、霜とは別の現象である[37][31]。
- 凍露(とうろ)は、0℃以上の物体表面に水蒸気が凝結してできた露が、その後冷えて凍ったもので、結晶構造はほとんど見られない[10][31]。霜と見分けることが難しい場合があって、観測の場面でそのようなときは霜に含めることがある[12][13]。
- 樹霜(じゅそう)は、霜と同じように水蒸気が物体表面に昇華してできる氷の結晶。霜が地面付近の物体に付くのに対して、樹霜は地面から離れた高い枝などにも付く。霧氷の一種であり、着氷性の霧の粒が付着してできる球状の氷の粒が混じっていることがある。また風上側に厚く成長しやすいという特徴がある[2][31][38][39]。
- ヘアーアイス(英語: Hair ice)(ice wool, frost beardとも) - 朽ちた木から出る絹のように細い氷。この現象は特定地域でしか起こらず、原因が長らく不明だったが、2015年に真菌のExidiopsis effusaが原因だと判明した。
注釈
- ^ 太陽放射と地表からの赤外線放射(外向き長波放射)の差。プラスは太陽放射が多く、マイナスは地表放射が多いことを示す。
- ^ 高山気候も参照
- ^ 海洋性気候も参照
- ^ アメリカ合衆国農務省作成のハーディネスゾーン (Hardiness zone) を日本向けにしたもの。
出典
- ^ a b c “frost”. Glossary of Meteorology(気象学用語集). American Meteorological Society(AMS, アメリカ気象学会) (2024年3月30日). 2024年4月23日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 最新 気象の事典、223頁「霜」(著者:石井幸男)
- ^ a b c d e f 『新編農学大事典』、1344-1347頁「低温障害」(著者: 真木太一)
- ^ a b c d 最新農業技術事典 2006, p. 864「霜害」
- ^ a b 『新編農学大事典』、289頁
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q Richard and J. Paulo (2005), CHAPTER 1 - INTRODUCTION
- ^ a b c d e f g h Kalma, et al. (1992), p.6.
- ^ a b c d e 『新編農学大事典』、307頁(著者: 原薗芳信)
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 『新編農学大事典』、1340-1344頁「霜害」(著者: 鈴木義則)
- ^ a b c 最新 気象の事典、352頁「露」(著者:田中豊顕)
- ^ 前野紀一. "霜点温度". 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』. コトバンクより2024年4月23日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k 大田正次「霜」、日本大百科全書
- ^ a b c d e f g h 菊地勝弘. "霜". 平凡社『改訂新版世界大百科事典』. コトバンクより2024年4月23日閲覧。
- ^ a b 高瀬 2005, p. 565.
- ^ a b c d 日本国勢地図帳(1977)
- ^ a b Kalma, et al. (1992), p.5.
- ^ “frost hollow”. AMS気象学用語集 (2024年3月30日). 2024年4月23日閲覧。
- ^ “frost-free season”. AMS気象学用語集 (2024年3月30日). 2024年4月23日閲覧。
- ^ a b “Frost and Freeze Information” (英語). Northern Indiana Weather Forecast Office (2022年9月). 2024年4月27日閲覧。
- ^ a b 矢澤(1991)
- ^ a b 最新農業技術事典 2006, p. 1503「無霜地帯」
- ^ 坂崎(1998)、§3-1,「日本ハーディネス・ゾーンマップ」
- ^ 坂崎(1998)、§3-2
- ^ Kalma, et al. (1992), pp.6-10.
- ^ “surface hoar”. AMS気象学用語集 (2024年3月30日). 2024年4月23日閲覧。
- ^ a b “ice flowers”. AMS気象学用語集 (2024年3月30日). 2024年4月23日閲覧。
- ^ a b 雪と氷の事典、209-211頁(著者:遠藤八十一)
- ^ a b 雪と氷の事典、91-92頁(著者:秋田谷英次)
- ^ “depth hoar”. AMS気象学用語集 (2024年3月27日). 2024年4月23日閲覧。
- ^ “crevasse hoar”. AMS気象学用語集 (2024年3月26日). 2024年4月23日閲覧。
- ^ a b c d 気象庁(1998)『気象観測の手引き』
- ^ a b c 新版 雪氷辞典、71頁「霜」(著者:水野悠紀子)
- ^ a b 最新 気象の事典、223頁「霜花」(著者:善如寺信行)
- ^ 宇田川 2021, p. 37「氷の花」
- ^ 新版 雪氷辞典、71頁「霜の花(湖氷の)」(著者:東海林明雄、直木和弘)
- ^ 雪と氷の事典、345-346頁「雪まりも」(著者:亀田貴雄)
- ^ 最新 気象の事典、223頁「霜柱」(著者:石井幸男)
- ^ 大田正次. "樹霜". 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』. コトバンクより2023年3月2日閲覧。
- ^ 新版 雪氷辞典、76頁「樹霜」(著者:竹内政夫)
- ^ 久保祐雄. "凍害". 平凡社『改訂新版世界大百科事典』. コトバンクより2024年4月23日閲覧。
- ^ a b c 最新農業技術事典 2006, 「耐凍性」
- ^ a b c 最新農業技術事典 2006, 「凍害」
- ^ a b c d e f g h 日下部正雄「凍霜害とその防ぎかた」(pdf)『天気』第1巻第1号、日本気象学会、1954年、8-11頁、CRID 1520009407917409920。
- ^ 田沢博「作物霜害の機構についての提言」『農業気象』第32巻第3号、1976年、145-147頁、doi:10.2480/agrmet.32.145。
- ^ a b c 『新編農学大事典』、806-807頁(著者: 小池説夫)
- ^ a b Richard and J. Paulo (2005), CHAPTER 2 - Recommended Methods of Frost Protection
- ^ “警報・注意報の種類”. 気象庁. 2012年12月20日閲覧。
- ^ “HomeGlossary > Frost Advisory” (英語). National Weather Service(アメリカ国立気象局). 2024年4月27日閲覧。
- ^ a b c d e f 宮澤清治「防災歳時記(4) ―静かな災害《霜害》―」『季刊消防科学と情報』第44号、消防科学総合センター、1996年3月、doi:10.11501/3201177。
- ^ 県当局、救済低利資金の融通要請へ『信濃毎日新聞』昭和2年5月13日夕刊(『昭和ニュース事典第1巻 昭和元年-昭和3年』本編p539 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年)
- ^ 宇田川 2021, pp. 48, 50, 52–53.
- ^ 「事故ファイル 視界を妨げる、フロントガラスの霜」『JAF Mate』2022年2月号、JAF出版社、2022年2月、ISSN 03861996。
- ^ “冷蔵庫/ワインセラー よくあるご質問 冷蔵庫に霜がつく”. サポート(個人のお客様)(panasonic.jp/support/). パナソニック株式会社. 2024年4月23日閲覧。
- ^ “冷蔵庫 よくあるご質問 冷蔵庫内に付いた霜は取った方が良いですか?”. 日立の家電品 お客さまサポート(kadenfan.hitachi.co.jp/support/). 日立グローバルライフソリューションズ株式会社. 2024年4月23日閲覧。
- ^ “冷蔵庫 よくあるご質問 冷凍室内や冷凍した食品に霜がつきます。”. 日立の家電品 お客さまサポート(kadenfan.hitachi.co.jp/support/). 日立グローバルライフソリューションズ株式会社. 2024年4月23日閲覧。
- ^ a b c "霜". 小学館『精選版日本国語大辞典』. コトバンクより2024年4月23日閲覧。
- ^ "霜月". 小学館『精選版日本国語大辞典』. コトバンクより2024年4月23日閲覧。
- ^ 宇田川 2021, pp. 48–49「霜」
- ^ 宇田川 2021, p. 51「霜凪」「霜晴れ」「霜日和」
- ^ 宇田川 2021, pp. 49, 50, 53「霜傷み」「霜枯れ」「霜焦げ」「霜割れ」
- ^ 宇田川 2021, p. 52「霜焼け」
- ^ “permafrost”. AMS気象学用語集 (2024年3月29日). 2024年4月23日閲覧。
- ^ “frost heaving”. AMS気象学用語集 (2024年3月30日). 2024年4月23日閲覧。
- ^ 坂内徳明「スラヴ神話」『新版 ロシアを知る事典』川端香男里ほか(監修)、平凡社、2004年1月、400頁。ISBN 978-4-582-12635-8。
- ^ Deirdre, Holding (2014-09) (英語). Armenia with Nagorno Karabagh : the Bradt travel guide (Fourth ed.). Chalfont St. Peter. pp. 96. ISBN 9781841625553. OCLC 883465141
- ^ Bartholomew F. Bland; Laura L. Vookles; William H. Gerdts; Laura L. Vookles (2010) (英語). Paintbox Leaves: Autumnal Inspiration from Cole to Wyeth. Hudson River Museum. p. 41. ISBN 0943651301
- ^ Tveten, John L; Gloria Tveten (2008) (英語). Nature at Your Doorstep: A Nature Trails Book. Texas A&M University Press. p. 47. ISBN 1603440364
- ^ "ジャック・フロスト". 平凡社『世界大百科事典(旧版)』. コトバンクより2024年5月9日閲覧。
- ^ 谷口幸男. "北欧神話". 平凡社『改訂新版 世界大百科事典』. コトバンクより2024年5月9日閲覧。
- >> 「霜」を含む用語の索引
- 霜のページへのリンク