電子カルテ 今後の展望

電子カルテ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/05 09:19 UTC 版)

今後の展望

標準化

電子カルテを採用していても、他院に紹介状を書く際にはデータや診療画像をフィルムや紙に印刷して患者に持たせる以外にないのが、ほとんどの病院での現状である。国内の標準化については、厚生労働省が主体となり国内推奨フォーマットを規定している。認定は、厚生労働省から委託を受けているHELICSが審査を行っており、2013年時点で、HL7を踏襲したデータ連携仕様や、標準コードが認定されている。

また、地域医療連携に置いては、厚生労働省からSS-MIXというデータ蓄積仕様が提示されている。NEC富士通などの電子カルテ主要ベンダーはSS-MIXを踏襲した地域医療連携システムを提供しており、国内における地域医療連携はこの仕様に基づいている箇所が大半を占める。

日本独自のフォーマットとしてXMLで表現するMML (Medical Markup Language) [2]が提案されている。MMLは (NPO) MedXMLコンソーシアム[3]で開発・改良が進められている仕様で、日本医師会標準レセプトソフト (ORCA) と電子カルテを接続する仕様にもMMLの部品であるCLAIM[4]が採用されている。また、MMLを実装したEHRシステムであるiDolphin(Dolphin Project)がNPO日本医療ネットワーク協会[5]によって開発されており、稼働しているプロジェクトとしては、宮崎(はにわネット)[6]、熊本(ひご・メド)[7]、京都(まいこネット)[8]があり、終了もしくは停滞しているプロジェクトとしては、東京(HOTプロジェクト)[9]が挙げられる。

特定非営利活動法人 日本医療ネットワーク協会[10]による、全国版医療情報センター(Super Dolphin)[11]構築に関する活動も実施されている。

近年では世界的なEHRの動きを受け、各国でデータ交換の標準化・共通化が行われている。その一つが先にあげたHL7である。HL7アメリカを中心とした電子カルテフォーマットの標準化であり、日本でもJAHIS[12]が中心となり、アメリカのHL7をベースに日本独自のカスタマイズを加えた診療情報の標準交換規約が制定されつつある。また、各システムに役割(アクター)を割り振り、アクター間の動作をワークフローとして定義するIHEという活動も行われている。

電子カルテの入力について

カルテはその性格上、聴診や触診所見、入院後の経過等につき、自然言語や図面を使って記入されることが多い。これが年齢や処方内容等、容易に構造化できる情報とは違うカルテ保存での技術上の難題となっている。保存される情報の粒度を上げ、細かい入力欄を設けるほどに入力時間が増加し自由度は減少する。一方で、自然言語による記述は現状では、のちの情報の再利用や検索に支障を来たし、医療情報の構造化という意味では一歩譲る(しかし、構文解析エンジンや検索エンジンなどの進歩により、自然言語による揺らぎがある記述でも、実用上大きな弊害のなくなる可能性はある)。

上記のような入力インタフェースの問題については、様々なベンダーより音声認識文字認識という形で提案がなされている。しかし、現実的に大規模病院においても運用上全く問題ないレベルに達しているかは疑問が残り、さらなる動作検証や技術向上が望まれる。

電子カルテ=診療録という扱いであるがために、医師法第24条1項に、医師は患者を診療したら遅滞なく「経過を記録すること」が義務づけられている。

現在、大規模、中規模病院向け電子カルテにて、文脈の形態素解析による所見記載内容の自動要約機能を有するシステムがリリースされているが、医師の記載する自然言語に完全対応とは至らず、さらなる検証や技術向上が望まれる。但し、この機能を使用することにより構造化された所見、具体的な状況では、医師毎に違う表現となる所見の統一化、記載語句の違いによる曖昧さの回避、蓄積所見データの分析時に、効果を発揮する。

法制上記載しなければいけない、もしくは作成しなければいけない記録の記載、作成漏れの監査機能有するシステムの構築が求められる。外来患者の電子カルテ上の記載監査としては電子カルテ上で患者の診療録を閉じる時点で監査機能が働くべきタイミングであり、入院患者においては、日々の回診業務後に患者カルテを開き、所見並びにオーダエントリを完了し患者の診療録を閉じる時点で監査機能が働くべきタイミングだと考えられるが、このような機能を有するシステムは、ほぼ存在していないのが現状である。

データの2次利用

電子カルテに蓄積されるデータは、個々の患者への診療の記録であると同時に、症例データベースとしての役割も担う。類似症例の分析を通じて、医療の質の向上に役立てられる。近年では、病院経営の観点から、医療行為の効率化の一検証手段としての役割も担うようになった。医療に携わる様々なスタッフがそれぞれの見地から直接・間接的にデータの2次利用を行っている。入力の効率化を目指して発展してきた電子カルテ・アプリケーションは、このような状況下において更なる機能追加を求められてきている。現在では、これらの多様性に対応すべく、電子カルテ・データベースを中心とするデータ2次利用環境の構築が活発に行われている。

一般的には、電子カルテ及び他の部門システムからの日々作成されるトランザクションデータをDWH(データウェアハウス)に蓄積し、そのデータを基に経営分析、医療行為分析等を行う場合が多い。昨今ではDWH(データウェアハウス)を使用せずに経営諸表の出力ができるシステムもリリースされている。

一部の電子カルテシステムでは、DB(データベース)に問い合わせする条件(検索条件モデル)を電子カルテ上の機能を用いて病院側にて作成を要する場合がある。この場合、検索結果で得られる情報精度並び真正性は、病院側が保障しなければいけない場合が多い。特に、個々の病院にて必要とされる統計資料は、診療形態、施設基準等の法制にて要求される内容も違いがあり、病院内の部門から業務上求められる統計資料等も同様に違いがある。そのため、あらゆる病院に対応できる汎用の問い合わせ条件(検索条件モデル)は、ほぼ存在しない。存在する場合としても汎用統計であるためカスタマイズが必要となり別途カスタマイズ費用を求められる場合がある。

2次利用のデータは、ドリルダウン等の横断、縦断検索が可能なことが前提で考えられているため、時間軸を持った3次元データになり膨大なデータ量となる。2次利用を行うシステムでは、膨大なデータを処理する能力を有する必要があるため、DWH(データウェアハウス)構築費用が高額になる場合がある。蓄積データが増えることでもハードウェアのスケーラビリティ向上のために追加費用を要する。

DWH(データウェアハウス)を構築していない病院情報システムでは、日々の医療業務中に電子カルテのDB(データベース)並びに医事会計システム、その他の部門システムに対して、直接、問い合わせを行い統計結果をはじき出している事例があるが、結果として、各システムに対し多大な負荷をかけている時がある。システム導入初期費用を抑えるためにDWH(データウェアハウス)構築をせずにシステム運用を開始したところ、各部門システムを跨いだ統計処理を実現しなくてはいけない状況、並びに各部門システムへの問い合わせ負荷を軽減させなければならない状況で、DWH(データウェアハウス)を追加導入する場合もある。追加導入の場合、各部門システムの情報をDWH(データウェアハウス)に集約する仕組み等の構築が必要であるため病院情報システム初期導入時に一括導入しておいた方が、トータルコストを抑えることが可能な場合が多い。

会計時に関する機能

外来会計・入院会計において、電子カルテの記載内容並びにオーダ内容を、医事会計のタイミングでレセプトコンピュータで精査し、診療報酬の返戻を抑えるための「点数請求監査判定」を行うシステムも望まれるが、出来高払い、DPC(包括払い)同様にほぼ存在していないのが現状である。一部のシステム会社からレセプトチェック、DPCコーディングチェック等のソフトウェアがリリースされているが、上記のような監査業務までには結びついていない場合が多い。

地域医療連携に関する機能

「厚生労働省電子的診療情報交換推進事業」(SS-MIX:Standardized Structured Medical record Information eXchange)[13]に対応した、電子カルテが既にリリースされており、他のベンダーとの相互データ連携は可能となった。データの連携方式としては、中継サーバーを介したデータ送受信方法とDVD/CD等の可搬媒体を用いたデータの授受の方法が上記規格に定められている。

地域連携クリニカルパスに関する部分に関しては、k-mix[14]の事例のように、運用が開始されている。

電子院外処方箋発行への対応

総務省健康情報活用基盤構築実証事業「処方情報の電子化・医薬連携実証事業」にて、処方箋の電子化が求められている。合わせて、厚生労働省による「医療情報ネットワーク基盤検討会」にて、処方箋電子化を実現に向けた検討がなされている。内閣官房・厚生労働省・経済産業省・総務省・民間企業等々、官民一体のプロジェクトとなっており、モデル事業の実施は経済産業省が行っている。

2023年1月26日から、電子処方箋の運用が始まった[15][16]

遠隔医療モデルへの対応

医師間 (DtoD)のモデル、医師と患者の間 (DtoP)のモデル、医師と患者の間を医師以外の医療従事者が仲介する (DtoN)モデルを想定した、遠隔画像診断 (DtoD)遠隔病理診断 (DtoD)遠隔コンサルテーション・カンファレンス・教育 (DtoD, DtoN, NtoN)遠隔診療 (Dto(Nto)P)遠隔健康管理・遠隔健康相談等へのシステムとしての対応が求められる。既に一部の医療機関では遠隔画像診断、遠隔病理診断等の遠隔医療モデルに対応している事例がある。

医療DX

2022年6月、第2次岸田内閣において閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針2022)に、電子カルテの導入・標準化も含めた「医療DX」の必要性が、以下のとおり述べられた。

(社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進)

医療・介護費の適正化を進めるとともに、医療・介護分野でのDXを含む技術革新を通じたサービスの効率化・質の向上を図るため、デジタルヘルスの活性化に向けた関連サービスの認証制度や評価指針による質の見える化やイノベーション等を進め、同時にデータヘルス改革に関する工程表にのっとりPHRの推進等改革を着実に実行する。

「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」及び「診療報酬改定DX」の取組を行政と関係業界が一丸となって進めるとともに、医療情報の利活用について法制上の措置等を講ずる。そのため、政府に総理を本部長とし関係閣僚により構成される「医療DX推進本部(仮称)」を設置する。
「経済財政運営と改革の基本方針 2022」本文 P32

これを受け、2022年10月12日、内閣官房に「医療DX推進本部」が設置された。2023年6月2日の第2回会合にて「医療DXの推進に関する工程表」が発表された[1]。電子カルテの標準化と導入推進について、下記の計画を示した。

  • 標準規格化すべき項目
    • 3文書6情報(診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報(救急及び生活習慣病)、処方情報)の共有を進め、順次、対象となる情報の範囲を拡大
    • 2023年度 - 透析情報及びアレルギーの原因となる物質のコード情報
    • 2024年度 - 蘇生処置等の関連情報や歯科看護等の領域における関連情報
  • 閲覧・共有の仕組み作り
  • 標準型電子カルテ(電子カルテ情報共有サービス(仮称))
    • 標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテ(標準型電子カルテ)の 整備
    • 2023年度 - 必要な要件定義等に関する調査研究
    • 2024年度 - 開発に着手し、一部の医療機関での試行的実施。電子カルテ未導入の医療機関を含め、電子カルテ情報の共有のために必要な支援策の検討。すでに電子カルテが導入されている医療機関においては、標準規格に対応した電子カルテへの改修や更新を推進
    • 遅くとも2030年 - 概ねすべての医療機関において、必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す

また上記の目標を推進するため、社会保険診療報酬支払基金を医療DXに関するシステムの開発・運用主体の母体とし、抜本的に改組する。








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