離婚後共同親権 離婚後共同親権の概要

離婚後共同親権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/17 21:12 UTC 版)

国際的には共同の親権や共同の子育てをベースに結婚しているときと同様に離婚後も原則として父母が共同で親権を行使する制度が主流であるのに対し、日本では「親の子どもに対する責任」が極めて曖昧[1]な事から議論に発展する様相を呈する。

概要

日本では、未成年の子がいる夫婦が離婚をするときは、父母のどちらかを親権者に指定する必要があり、離婚届に親権者を記入し、戸籍にそれが記載される(b:民法第819条)。したがって、現行法では離婚後は単独親権となるが、離婚後共同親権では一方の親が単独で親権を行使するのではなく離婚した両親の合意に基づき親権が行使されることになる。

なお、現行法でも未成年の子が外国と日本の二重国籍であるとき、外国で離婚が成立している場合など、離婚方法によっては戸籍に共同親権と記載されることがある。(H01-10/02民二3900通達

親権とは、民法第四章第二節『親権の効力』が規定され、下記の5項目が対象となる。

日本も締約した子どもの権利条約では、別居が始まればただちに恒常的な親子の交流を始めるように求めている[2]

離婚後に子と別居している親が負担する養育費は、b:民法第877条の扶養の義務が根拠であり、別居している親と子の交流である面会交流は、家庭裁判所の実務[3]として認められており、養育費と面接交渉はb:民法第766条類推適用として『離婚後の子の監護』に含まれるものであり、法務省法制審議会の答申[4]を見ても、親権としての議論に含まれないという考え方が、実定法として一般的な解釈である。民主党は民法766条の改正をして、養育費と面接交渉権の明文化を政策パンフレットに記載している[5]

離婚後共同親権の議論は、日本弁護士連合会家事法制委員会[6]や日本家族<社会と法>学会[7]などが詳しい。

現在では離婚後共同親権については、日本の民法では不可能であり、離婚時には必ず親権者を決定する必要がある。すなわち片親の親権を剥奪する必要がある。このため、子の争奪をめぐって夫婦間で熾烈な争いが演じられる例が多い。夫婦間の感情的葛藤がさらに高まり、亀裂は深まることにより、なんら罪のない子供が被害を受けるケースが多くなっている現状があり、他の先進国並みに離婚後共同親権の確立を求める声も強い[8][9][10]

ただし、共同親権とは、両親の合意により親権を行うことと定義されるため、両親が離婚後人間関係のこじれ等から何も合意できない、さらには会うことさえできないような場合は、合意自体ができないため、親権を行使できなくなってしまう。この場合、子は法的には放置されたような状況に陥ってしまう。また、現在では離婚後共同親権自体が存在しないため、「離婚後共同親権行使のための調停」などという物は存在しないが、そのような制度ができたとしても、両親の対立のため家庭裁判所の調停が必要となってしまった場合には共同親権が望ましいとは言えないとの意見もある(後述)。

共同親権では、二人の親の間の対立は、時間の経過とともに次第に改善するが、単独親権では、二人の親の対立は、次第に悪化する[11]

離婚後共同親権、および離婚後共同監護は今後議論されるべき家族法の問題であり、現在も離婚後共同監護については法的には可能という考えも存在する。

子どもの権利に関する国連の委員会は、単独育児は、そうすることが子どもの最善の利益にかなう場合だけに限定しなければならないという考えを支持している[12]ジュディス・ウォーラースタインは、親が離婚した子どもの精神的な予後が悪いことを見出した。調査により、ジュディス・ウォーラースタインの知見は事実であると認めている国、国際機関もある[13]。親が離婚した後も、子どもの育児には両親の協力が必要であると考えられる[14]

千葉景子法務大臣は、平成22年3月9日の衆議院法務委員会で「離婚したあとも、両親がともに子どもの親権を持つことを認める『共同親権』を民法の中で規定できないかどうか、政務3役で議論し、必要であれば法制審議会に諮問することも考えている」と述べた[15]。 また、「子どもの最善の利益を考えたとき、どちらの親も、子の親として接触できることが大事だと思う」と明言をしたが、これは民主党の政策パンフに記載してある面接交渉権法制化の内容であり、離婚後共同親権の議論とは直接関係しない。 この法務大臣の発言により、これまでは面接交渉を否定する判決すら出していた家庭裁判所[要出典]の運用も、別居親への面会交流に積極的になってきている、という意見もある[要出典]

この後、自民党の馳浩衆院議員は平成22年10月29日の衆院法務委員会で、自民、民主両党などの国会議員が超党派で来年の通常国会への提出、成立を目指す「親子の交流断絶の防止に関する法律」(仮称)の詳細を明らかにした。 親権のない親と子どもの面会を保障するもので、一方の親による子供の連れ去り禁止▽親子の引き離し禁止▽養育計画作成の義務化の3項目を盛り込んでいる。

離婚後共同親権のメリット

子どもの精神的な予後が改善する

子どもが精神的に発達するには、父親と母親の双方の関与を必要とする。両親は、それぞれの方法で世界を子どもに紹介する。父親も母親も子どもの発達に重要な役割を果たしている。離婚の悪影響を最小限にするには、子どもが双方の親と、充分な関わり合いを維持することが必要である。ヨーロッパ諸国や南北アメリカ大陸諸国が共同親権に移行した最大の理由は、この点にある。(父親の役割を参照)。

父親と母親の争いが減る

双方の親が、子どもを奪い合えば、対立関係は悪化し争いは激化する。共同親権制度により、子どもを奪い合う必要が無くなれば、双方の親が、子どもの精神的な成長のために、協力する関係が構築される。

ただし、子どもを受け渡す機会が増え、父親と母親が接する機会が増えるので、全体の10~15%のケースでは、争いは悪化する。

離婚率が低下する

欧米では、共同親権に移行すると、1~2年以内に、その地域の離婚率が低下することが観察されている。

養育費の支払いが増える

子どもと非同居親(多くは父親)が一緒に過ごす時間が増えるに連れて、支払われる養育費の額が増える傾向がある。これも、子どもの精神的な予後を改善させる要因の一つである。

子どもの利益に合致する

「両方の親を持つ」というのは、子どもの権利である。子どもは両方の親に育てられることにより精神的な発達を遂げる。双方の親が、子どもの権利を擁護し、子どもの利益を守ることは、子どもと非同居親との関係を改善させるだけでなく、子どもと同居親自身との関係も改善させる。

法律婚から事実婚への移行が容易となる

夫婦別姓を希望する夫婦が事実婚に移行する際に、親権が問題になる場合があり、その問題を回避することができる。ただし、この問題は選択的夫婦別姓制度の導入によって解決を図る方がより抜本的である。


出典

  1. ^ 世界の離婚事情…日本は「子どもに対する責任」が曖昧【棚村教授に聞く・上】 弁護士ドットコム、2017年5月28日
  2. ^ 「子どもの権利条約」全文(政府訳) 第9条及び第18条
  3. ^ [1]面接交渉調停
  4. ^ [2]民法の一部を改正する法律案要綱
  5. ^ 育ち・育む”応援”プラン [3]ひとり親家庭になったとき
  6. ^ [4]家庭裁判所シンポジウム「離婚と子どもII―共同親権を考える」
  7. ^ 日本家族〈社会と法〉学会
  8. ^ 在日米国大使館
  9. ^ Kネット
  10. ^ 2010.3.9 衆議院法務委員会 
  11. ^ American Coalition for Fathers and Children Child Custody, Access and Parental Responsibitity, Executive Summary ⅳ
  12. ^ Birks, Stuart (June 2002). INCLUSION OR EXCLUSION II:WHY THE FAMILY COURT PROTESTS?". Centre for Public Policy Evaluation College of Business, Massey University. Retrieved on 2007-04-13.
  13. ^ 棚瀬一代『離婚で壊れる子どもたち : 心理臨床家からの警告』光文社〈光文社新書〉、2010年。ISBN 9784334035501 
  14. ^ Greif, Geoffrey L. (1997), Out of touch: when parents and children lose contact after divorce, Oxford [Oxfordshire]: Oxford University Press, ISBN 0-19-509535-9 
  15. ^ NHKニュース H22.3.9
  16. ^ 金持ちにはわからない「親ガチャ」の悲しさ残酷さ 東洋経済オンライン 2021年12月28日
  17. ^ あなたの親は「毒親」かも? 親子関係について調査 「親が毒親だった」6割以上! 約4割が「親の扱い方や関係に一抹の不安」人生がうまくいかないのは「こじらせ親子関係」に原因が!? PR TIMES 合同会社serendipity 2021年12月8日
  18. ^ 【令和版】離婚原因ランキングトップ10 離婚弁護士ナビ 株式会社アシロ 2022年10月26日
  19. ^ 「子どもの権利条約」全文(政府訳) 第19条及び第20条
  20. ^ 民法改正案、審議入り 嫡出推定を見直し―衆院 時事通信社 2022年11月1日
  21. ^ 民法、子への「懲戒権」削除へ 体罰禁止を明記、改正要綱案 共同通信社 2022年2月1日
  22. ^ 離婚後の「共同親権」導入へ試案 法制審、8月末にも  時事通信社 2022年6月22日
  23. ^ 離婚後の「共同親権」導入していいの? DV被害が続く懸念 法改正した欧米でも見直しの動き 東京新聞 2021年6月30日・7月1日
  24. ^ Shared parenting ISBN 978-1587613463
  25. ^ Joint Custody & Shared Parenting ISBN 978-0898624816
  26. ^ Planing for Shared Parenting
  27. ^ The Best Parent Is Both Parents: A Guide to Shared Parenting in the 21st Century ISBN 978-1878901569
  28. ^ Parenting after Dicorce ISBN 978-1886230842
  29. ^ Parenting Plans オーストラリア政府
  30. ^ The American Bar Association Guide to Family Law The American Bar Association; 1996 "Although divorces may be emotionally contentious, most divorces (probably more than 95 percent) do not end up in a contested trial. Usually the parties negotiate and settle such things as division of property, spousal support, and child custody between themselves, often with an attorney’s help."
  31. ^ How do I Avoid Child Custody Battles?
  32. ^ Lamb, Michael E.; Professor Michael E. Lamb (2010), The role of the father in child development (5 ed.), New York: Wiley, p. 209, ISBN 0-470-40549-X 
  33. ^ Webster Watnik (2003), Child Custody Made Simple: Understanding the Laws of Child Custody and Child Support (Revised ed.), Single Parent Press, p. 32, ISBN 0-9649404-3-4 

注釈

  1. ^ 特に子が乳幼児・幼少期である場合は選択が出来ない。また、子が選択可能か否かを法的に、杓子定規で図ることは出来ない。


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