関節炎 関節炎の概要

関節炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/02 23:18 UTC 版)

関節炎
概要
診療科 リウマチ学
分類および外部参照情報
ICD-10 M00-M25
ICD-9-CM 710-719
DiseasesDB 15237
MedlinePlus 001243
MeSH D001168

代表的疾患

急性か慢性か、単関節炎か多関節炎かといった観点で纏められることが多い。

成人の急性単関節炎

単関節炎は感染症、結晶誘発性、物理的要因によるものが多い。

細菌性関節炎

淋菌性関節炎は若年者に多い。移動性の関節痛が特徴的である。高齢者、免疫不全状態の患者では非淋菌性関節炎が起りやすい。

結晶誘発性関節炎

痛風偽痛風である。偽痛風は高齢者で膝、手首、肩などの大関節に多いことが特徴とされている。痛風は閉経前の女性には殆ど認められない。

外傷性

外傷。過多運動によっておこる関節炎である。全身症状が認められないのが特徴である。

急性多関節炎の初期

急性多関節炎の初期は急性単関節炎のように見えることもある。急性多関節炎で紛らわしいものとしてはウイルス性関節炎、ライム病、脊椎炎、回帰性リウマチ、無菌性壊死などがあげられる。

急性多関節炎

ウイルス性多関節炎

ウイルス感染による関節炎は通常は急性多関節炎のパターンとなる。III型アレルギーの機序で感冒後に皮疹、関節炎がおこるヒトパルボウイルスB19によるもの、HBV、HCV、風疹、インフルエンザ、HIVなどによるものもここに含まれる。

淋菌性関節炎

淋菌性関節炎は遊走性単関節炎の他に、多関節炎の形態もとる。[1]

細菌性心内膜炎
慢性多関節炎の早期

慢性多関節炎の早期は急性多関節炎のように見えることもある。このような疾患には関節リウマチ、SLE、血管炎といった結合組織疾患も含まれる。

その他

敗血症、リウマチ熱、ライム病、血清病様反応でも認められることがある。

慢性単関節炎、関節症

慢性単関節炎は非炎症性の関節症、炎症性の関節炎で分類されることが多い。

非炎症性慢性単関節症

変形性関節症

頻度としては最も多いのが変形性関節症である。

無痛性骨壊死

大腿骨頭壊死が有名である。アルコール、ステロイド剤の摂取歴が重要となる。

神経原性関節症

糖尿病患者などで認められる。痛みが軽い割に骨破壊が著しいのが特徴である。

外傷性

炎症性慢性単関節炎

慢性多関節炎の早期
結核性関節炎

股関節に多い。ほぼすべての患者でPPD陽性である。

傍腫瘍性症候群

慢性多関節炎

関節リウマチヘバーデン結節
関節痛を来す疾患では頻度が多いもの。関節リウマチでは抗CCP抗体CRPが陽性となる。ヘバーデン結節では、血液検査での異常はみられないことが多い。
リウマチ性多発筋痛症
高齢者で頚部、肩、腰部の症状が特徴的である。巨細胞性動脈炎の合併は日本では稀である。
結晶誘発性関節炎
偽痛風痛風で多関節炎を起こすこともある。高齢者の大関節炎ならば偽痛風、痛風単関節発作の既往があれば痛風を疑う。血液検査により尿酸値を測定することで判別できることが多い。
全身性ループスエリテマトーデスや皮膚筋炎などの膠原病(結合組織疾患)
膠原病では病変の主座とは別に関節炎による関節痛を来すことがしばしばみられる。
反応性、乾癬性関節炎
STD、腸炎、乾癬などの既往が重要である。

アプローチ

関節痛患者診療は以下の点に留意しながら診療を行う。関節痛に対する9stepアプローチといわれる。

Step1 診察する場所による有病率の違いを意識する。

一般の診療所、特に整形外科外来で関節痛を訴える患者の割合は変形性関節症や筋骨格痛などの疾患頻度が高くなる。総合病院のリウマチ膠原病科の外来では関節リウマチや自己免疫性疾患が多くなる。夜間の救急外来では感染症など全身疾患の一症状としての関節痛、結晶誘発性関節炎(痛風や偽痛風)、化膿性関節炎などの頻度が高くなる。急性発症の経過の関節炎では致死率の高い化膿性関節炎も含まれるため注意が必要である。

Step2 関節痛か関節周囲痛か確認をする

関節外の痛みを関節痛と訴える場合もあるので疼痛部位を確認する。関節近くに疼痛部位がある場合は関節痛と関節周囲痛を区別する。関節裂隙での痛み、全ての関節可動域方向での痛みがある場合には、関節痛が示唆される。関節炎は他動的に動かしても関節痛が認められ、どの方向に動かしても痛みがあることが特徴とされている。運動時痛とは関節障害を疑う徴候であるが、腱鞘炎の場合、自分で動かすと痛いが他動的に動かすと痛みを感じないとされている。自動痛よりも他動痛が大きい場合は関節周囲痛が示唆される。関節痛の場合は非炎症性の関節痛と関節炎を区別する。関節周辺に腫脹、圧痛、熱感、発赤など局所の炎症所見があれば関節炎が疑わしい。大関節の腫脹はわかりにくいことも多く、可動域の制限の方が他覚的に確認しやすい場合がある。関節炎では関節全体に炎症が波及し関節可動域に制限が出る。安静時痛を伴う場合には関節炎を、安静時痛を伴う場合は関節炎を、安静時痛を伴わず活動時もしくは活動後に増悪する場合には非炎症性(変形性関節症など)を鑑別に考慮する。

Step3 疼痛関節数を確認する

単関節痛と多関節痛では想起される鑑別疾患が大きく異なる。1関節の痛みを訴えるのが単関節痛である。2〜3関節程度の少関節痛は、多関節痛に移行する前の段階をみている可能性がある。4関節以上の観察痛があった場合は多関節痛として評価する。

Step4 急性と慢性の時間経過を区別する

痛みの持続期間が6週間以内の場合は急性、6週間以上の場合は慢性と評価する。

Step5 年齢と性別から鑑別疾患を想起す。

若年から壮年の男性では痛風、脊椎関節炎、反応性関節炎、淋菌性関節炎が想起される。若年から壮年の女性ではパルボウイルス感染症、関節リウマチ、SLEが想起される。高齢になると男女を問わず偽通風、変形性関節痛、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、悪性腫瘍関連の頻度が増える。また全年齢を通じて女性の場合は甲状腺疾患、自己免疫疾患(関節リウマチ、SLE、シェーグレン症候群全身性強皮症)、サルコイドーシスなども想起される。

Step6 疼痛関節の分布から疾患を想起する

上肢では手指のPIP関節/MCP関節/手関節を中心に分布する多関節痛なら関節リウマチ、手指の遠位のDIP関節中心ならば変形性関節症や乾癬性関節炎が想起される。下肢の膝関節中心ならば血清反応陰性脊椎関節炎、結晶誘発性関節炎、変形性関節症、関節リウマチなどが想起される。足趾のMTP関節の単関節炎ならば痛風を考える。また、ある関節が痛くなり、関節痛が軽快するタイミングで別の関節が痛くなる場合、移動性があると表現する。移動性関節炎の場合は反応性関節炎、結晶誘発性関節炎、淋菌性関節炎、リウマチ熱感染性心内膜炎などが想起される。左右非対称性の関節炎の場合は脊椎関節炎(乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、反応性脊椎炎、炎症性腸疾患に関連する関節炎など血清反応陰性関節炎)を想起する。付着部炎(腱や靭帯が骨につく部位の炎症)を伴う場合も脊椎関節炎が想起される。背部痛、腰臀部痛、胸鎖部痛などが腱や靭帯の痛みの好発部位である。またソーセージ様の両手指のむくみも同様に付着部炎の所見である。

Step7 問診での鑑別

問診で特徴ある疾患を想起することができる。

症状

問診項目 鑑別疾患
腹痛/長期の下痢/血便 炎症性腸疾患
日光過敏症/頬部後半/精神神経症状 SLE
ドライマウス/ドライアイ シェーグレン症候群
発熱(特に38度以上) SLE、成人Still病、血管炎、感染性心内膜炎、結晶誘発性関節炎、化膿性関節炎
繰り返す口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍/陰部潰瘍 ベーチェット病
炎症性腰痛(45歳までの発症、徐々に出現、3ヶ月以上持続、朝のこわばり、運動により改善) 脊椎関節炎
レイノー現象 シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、MCTD、強皮症

生活歴

問診項目 鑑別疾患
アルコール多飲歴/利尿薬内服 痛風
山登り・屋外作業 リケッチア関連感染症
出身地(特に九州) HTLV-1関連関節炎
性交渉歴 HBV/HCV/淋菌/HIVなどの性感染症
小児との接触歴 パルボウイルス感染症
海外渡航歴 デング熱、チクングニア熱、その他渡航感染症
Step8 身体所見での鑑別

身体所見で特徴ある疾患を想起できることがある。

身体所見 鑑別疾患
結膜炎 シェーグレン症候群、反応性関節炎
ぶどう膜炎 ベーチェット病、サルコイドーシス、炎症性腸疾患、強直性脊椎炎
側頭動脈の発赤・腫脹 側頭動脈炎
耳下腺腫脹 シェーグレン症候群
耳介の発赤 再発性多発軟骨炎
口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍 ベーチェット病
口腔内齲歯 シェーグレン症候群、感染性心内膜炎
乾癬様皮疹 乾癬性関節炎
慢性遊走性紅斑 ライム病
筋力低下 筋炎
結節性紅斑 ベーチェット病、サルコイドーシス、炎症性腸疾患、溶連菌感染症
ソーセージ指、皮膚硬化 全身性強皮症、MCTD
ゴットロン徴候 皮膚筋炎
爪周囲の出血点 全身性強皮症、皮膚筋炎
眼瞼・舌裏側・手指。足趾の出血点、心雑音 感染性心内膜炎
ばち指 肥大性肺性骨関節症、肺癌
外陰部潰瘍 ベーチェット病
Step9 診断のための検査

単関節炎の場合は化膿性関節炎や結晶誘発性関節炎の評価目的の関節穿刺を行う。多関節炎では関節リウマチの疾患頻度が高く、その他の自己免疫疾患のスクリーニングを合わせておこなう。多関節炎の評価のためによく行われる検査ではCRPやESRを含めて一般採血、尿検査(定性、沈渣、g/Cr比)、甲状腺機能、リウマトイド因子、抗CCP抗体、抗核抗体、手指・足趾のX線撮影、疼痛部位のX線撮影が行われる。


  1. ^ 岡田 定 編: 「最速!聖路加診断術」 pp 162-166
  2. ^ ノーベル賞を補完する「クラフォード賞」 読売新聞(2017年12月10日)2018年1月13日


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