銃剣 現代の銃剣

銃剣

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/12 14:12 UTC 版)

現代の銃剣

AKM用の銃剣とその鞘
銃剣側の穴に鞘側の突起を差し込んで組み合わせることで、ワイヤーカッターとして使用可能

軍隊では依然として銃剣の戦闘訓練が行われており、銃の故障や弾切れが起こった際でも戦闘能力を完全に喪失することからは免れるため、兵士の士気の支えとして銃剣は依然重要である。また、外見の威圧感は治安任務においても有用である。教育面では、新兵の基礎訓練の一環として、銃剣で古タイヤや藁人形・紙製の仮標などを繰り返し突かせることで、相手の顔が見える距離で人を攻撃して殺傷する行為への訓練を積むために用いられる。死んだふりをする敵兵をチェックするための道具としても使用される。

戦後のドイツ連邦軍では国民に対して威圧的な印象がある銃剣を制式配備せず、多目的ナイフ(カンプメッサーないしフェルトメッサー)のみで近接戦闘を行うものとしていた。儀仗用のKar98k小銃とG3アサルトライフル最新式のG36アサルトライフルには着剣装置があり、連邦軍からも銃剣自体の予算要求はされているがその配備はごく少数にとどまりほぼ配備されていない。

銃剣を装着したまま発砲すると、銃口のジャンピングが抑制されるため、弾道が低落する。しかし手から最も離れた銃口近くに重量物をとりつけるとモーメントが大きく、保持が難しくなるので、射撃精度を上げる目的で着剣することはない。保持、また、発射時に衝撃波が銃剣に反射して、銃弾に干渉するため、集弾密度が拡散する。また、発射薬に含まれる硫黄硝酸などの酸化粒子が銃剣に付着し、発錆を促進する弊害もある。

現代の銃剣は剣形銃剣がほとんどである。塹壕を掘るためのスコップの代用とする想定は以前からなされていたが、AKシリーズの銃剣に見られるように、近年では銃剣の多機能化が進んでいる。M9A1 銃剣のように、コンバットナイフに着剣装置をつけたといったほうが妥当な製品も登場している[4]。すなわち手持ちのナイフとしての性能が高く、なおかつ多くの機能を併せ持つ。鉄条網などを切断するワイヤーカッター、ドライバーなどに使用でき、サバイバルナイフのように中空のに雑具を収納できる。現代では、工具としての利用にも適したサイズのナイフを歩兵が携帯し、銃剣と兼用する運用がなされている。

日本自衛隊は発砲が非常にまれなことから(海外活動においても、弾倉内に弾を入れておくことが禁止されている場合すらある)、カンボジアでのPKO活動の際に、隊員が64式小銃から弾倉を外しているのに気付いた政府軍兵士や現地人から「案山子」などと馬鹿にされる場合もあったといわれる(杉山隆男『兵士に聞け』など[信頼性要検証])。そのような場合でも、着剣した小銃の威嚇効果は大きく、現地の自衛官が「一番頼りになった道具は銃剣でした」と言った、というジョークも生んだ[要出典]

ロシア語で銃剣をштык(シュティク)と言うが、銃剣と共に「兵士」を指すこともあり、複数形штыки(シュティキ)が「兵士たち(軍隊)」を意味することがある。

イギリス軍においては、第二次世界大戦後に銃剣突撃が実施された事例が複数知られている。フォークランド紛争中、マウント・ロングドンの戦い英語版においてはイギリス陸軍落下傘連隊第3大隊英語版B中隊第3小隊所属のイアン・マッケイ英語版軍曹が銃剣突撃を指揮し、マウント・タンブルダウンの戦い英語版ではスコッツガーズの兵士が銃弾を使い果たした末にアルゼンチン軍陣地に対する銃剣突撃を行った[5]。2000年代に入ると、イギリスでも銃剣は軍の近代化の中で廃れていく装備と捉えられるようになったが、以後も何度かの銃剣突撃が行われている。2004年、イラクに展開していたイギリス陸軍アーガイル・アンド・サザーランド・ハイランダーズ連隊英語版マフディー軍による待ち伏せ攻撃を受けた際、同連隊は彼らを砲撃していたマフディー軍の迫撃砲陣地に銃剣突撃を敢行した[6]。2009年にはアフガニスタンにてイギリス海兵隊第45コマンド部隊英語版所属のブラッドリー・マローン伍長(Bradley Malone)が武装勢力に対する銃剣突撃を指揮した[7]。2011年、アフガニスタンにて陸軍プリンセス・オブ・ウェールズ・ロイヤル連隊英語版所属のショーン・ジョーンズ下級伍長(Sean Jones)は、パトロール中に武装勢力の待ち伏せを受け、銃剣突撃によってこれを撃退した[8]

アメリカ陸軍における大規模な銃剣突撃は、現在まで1951年にルイス・ミレット大尉が指揮したものが最後の事例とされている。1970年代初頭には当時の主力小銃M16に銃剣格闘に耐えうる強度が無いとされたことなどから一時銃剣格闘訓練が停止されたが、1980年代初頭にはフォート・ベニング基地に新たな銃剣訓練コースが建設され、戦闘の基礎としてだけではなく士気および体力を向上させる訓練の1つとして、訓練用模擬銃を使う銃剣訓練が再開された[9]。その後、2010年に基礎戦闘教練(Basic Combat Training)の大規模な制度改革が行われ、この際に銃剣格闘の課程が廃止された[10][11]。初等訓練副司令(Deputy Commanding General for Initial Military Training)として改革を主導したマーク・ハートリング英語版将軍は、銃剣格闘課程の廃止に関して退役軍人からの反発があったことや、これらの訓練に精神的なメリットがあるとする主張に触れつつ、「銃剣格闘が重要であるならば、何故それを基礎教練でしか教えないのか」「戦時には優先して教えるべき事項が多数ある」と語った[12]。ただし、新制度においても白兵戦訓練の一環として銃剣やナイフを用いた訓練が実施されているという[13]。また、アメリカ海兵隊では全ての隊員を対象とした銃剣格闘訓練が続けられている。すなわち民間人を兵士として作り上げる為、銃剣で古タイヤなどを繰り返し突かせることで目の前に敵がいたら本能的に攻撃するように鍛え込む目的で、特に新兵訓練で重要視されている)。

訓練としてはパジルスティックを使うスポーツ型、木銃を使う銃剣道などの武道型がある。実物の剣付き銃を使う場合、単独または組手方式による型稽古のほか、紙・布で作られた仮標や、古タイヤや人形を実際に突く方法がある。


注釈

  1. ^ 武器等製造法第2条第1項第5号、武器等製造法施行令2条1号
  2. ^ 武器等製造法第3条、第4条

出典

  1. ^ Needham, Volume 5, Part 7, 456.
  2. ^ Binglu 《兵錄》, Scroll 12.
  3. ^ 官軍兵士軍服 付 外套・シャツ - 港区の文化保護目録 | 港区立郷土歴史館”. www.minato-rekishi.com. 2021年7月6日閲覧。
  4. ^ 新たに「コンバットナイフ」としての役割が与えられ(中略)『M9銃剣』などがその代表『図解ミリタリーアイテム (F-Files)』146Pより引用
  5. ^ Last charge for the bayonet - a victim of modern warfare”. The Telegraph (2002年9月15日). 2015年12月1日閲覧。
  6. ^ Argylls fight hand to hand in Iraq”. The Scotsman (2004年5月17日). 2015年12月1日閲覧。
  7. ^ Royal Marine awarded gallantry medal proposes at Buckingham Palace”. The Telegraph (2009年12月12日). 2015年12月1日閲覧。
  8. ^ Soldier who led Afghanistan bayonet charge into hail of bullets honoured”. The Telegraph (2012年9月28日). 2015年12月1日閲覧。
  9. ^ ARMY RESUMES BAYONET TRAINING”. The New York Times (1981年11月7日). 2015年12月1日閲覧。
  10. ^ 2010 brings major transformation to Basic Combat Training”. U.S. Army (2010年7月19日). 2015年12月1日閲覧。
  11. ^ Army drops bayonets, revamps training”. Army Times (2010年3月16日). 2015年12月1日閲覧。
  12. ^ One less skill for soldiers to master at boot camp: bayonet training”. The Christian Science Monitor (2010年9月28日). 2015年12月1日閲覧。
  13. ^ Has the Army eliminated bayonet training?”. Stars and Stripes. 2015年12月1日閲覧。
  14. ^ 写真の説明文では、第1の標的を銃剣で突き、第2の標的を射撃すると記述されている。
  15. ^ a b c 「国際協調」のオバマ氏と「強いアメリカ」のロムニー氏 最後の討論会で激突(日本語) 産経新聞(MSN産経ニュース)の記事(2ページ構成の2ページ目)。2012年10月23日配信、2013年1月5日閲覧
  16. ^ 英文では“You mentioned the Navy, for example, and that we have fewer ships than we did in 1916. Well, governor, we also have fewer horses and bayonets, because the nature of our military’s changed. We have these things called aircraft carriers, where planes land on them. We have these ships that go underwater, nuclear submarines.”となっている
  17. ^ a b 池原麻里子「アメリカ大統領選挙UPDATE 8:「2012年ディベートの総括」(日本語) 東京財団による2012年の合衆国大統領選に関するレポート。2012年10月30日掲載、2013年1月5日閲覧
  18. ^ a b 世界・地域分析レポート 2012年10月24日 (PDF)(日本語) 三井物産戦略研究所が発表している世界情勢等に関する分析レポート。2ページ目に「軍馬と銃剣」発言に関する記述がある
  19. ^ a b c いざ、天下分け目の関ヶ原「オハイオ」へ 外交論争でロムニーを一蹴するも、支持率は変わらず(日本語) 日経BPに掲載された、ジャーナリスト高濱賛の記事。2012年10月29日掲載、2013年1月5日閲覧
  20. ^ a b UPDATE7: 米大統領選最終討論会、大統領がロムニー氏を猛攻 オバマ氏勝利との見方優勢(日本語) ロイター通信が「軍馬と銃剣」発言が出た大統領候補討論会について報じた記事。2012年10月23日配信、2013年1月5日閲覧
  21. ^ a b c 第3回米大統領候補討論会 ライブブログ (日本語) ウォールストリート・ジャーナル (WSJ) 日本版が「軍馬と銃剣」発言が出た大統領候補討論会についてライブ形式のブログで報じたもの。2012年10月23日配信、2013年1月5日閲覧
  22. ^ a b c “So, Does the Military Still Use Bayonets?” (英語) オバマ大統領の「軍馬と銃剣」発言を受けて、「軍は今現在も銃剣を使用しているのか」という点を特集したタイム誌の記事。2012年10月23日配信、2013年1月5日閲覧
  23. ^ a b c d “How Many Bayonets Does the U.S. Have? Quite A Few” (英語) オバマ大統領の「軍馬と銃剣」発言を受けて、「軍は今現在いくら銃剣を保有しているのか」という点を特集したアメリカ・ABCニュースの記事。2012年10月23日配信、2013年1月5日閲覧
  24. ^ a b “Obama Wins Twitter War With ‘Horses and Bayonets’” (英語) オバマ大統領が「軍馬と銃剣」発言で注目を集めたことで、2012年の大統領選挙での「Twitter戦争」を制したと評するABCニュースの記事。2012年10月23日配信、2013年1月5日閲覧


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