金英哲 金英哲の概要

金英哲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/27 17:12 UTC 版)

キム・ヨンチョル
金英哲
生誕1946年(75 - 76歳)
政党朝鮮労働党
金英哲
各種表記
チョソングル 김영철
漢字 金英哲
発音 キム・ヨンチョル
英語表記: Kim Yong-chol
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大量破壊兵器開発や、天安沈没事件延坪島砲撃事件ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントへのハッキング事件などの国際テロリズムに関与しているとされ、アメリカ合衆国欧州連合諸国、オーストラリア大韓民国の世界31カ国から独自制裁を課されている[1][2]

略歴

両江道出身。万景台革命学院金日成軍事総合大学を卒業。1962年より朝鮮人民軍15師団DMZ民警中隊で勤務し、人民軍少佐であった1968年プエブロ号事件での軍事停戦委員会の連絡将校を務めた[3]1989年2月の人民武力部副局長就任以降、少将中将の地位で対南(対韓国)業務を継続して担当し、南北将官級会談の北朝鮮側代表として活動した。

2009年朝鮮民主主義人民共和国国防委員会政策室長となる。同年に上将に昇進し、党作戦部党対外情報調査部軍総参謀部偵察局が統合して発足した朝鮮人民軍偵察総局の初代総局長に就任する[4]2010年3月の天安沈没事件を主導した「強硬派」とされ[5]、同年9月の第3回党代表者大会で党中央軍事委員会の委員に選出された。

2012年2月15日付で上将から大将に昇進したが[6]、同年秋に行われた大規模検閲で中将に降格される。これについては、偵察総局内での旧党作戦部と旧軍偵察局間の勢力争いが原因とされている[4]

降格から3ヵ月後の2013年2月に大将への復帰が確認され、2012年12月の事実上の弾道ミサイル発射実験や2013年2月の3度目の核実験で、外交的な対北朝鮮包囲網が強まる中、3月5日に金英哲が朝鮮中央テレビで「休戦協定の白紙化」を宣言し、4月には各国の特命全権大使を呼び出し北朝鮮からの退避勧告を伝えるなどし、強行外交を主導した[7][8]

2014年3月に行われた第13期最高人民会議代議員選挙で代議員に再選された。

韓国国家情報院によると、2015年4月に大将から上将に降格された[9]

2015年8月4日、非武装中立地帯 (DMZ)に仕掛けられた地雷の爆発で韓国軍兵士2人が重傷を負う事件があった。この地雷埋設を主導した人物として疑われている[10]

2015年12月29日に死去した金養建の後を継いで対韓国政策を司る党中央委員会書記局書記(対南担当)、党統一戦線部長に就任したと見られた[11]2016年2月11日、朝鮮中央通信がラオスへ訪問する朝鮮労働党代表団の団長として金英哲を党中央委員会書記の肩書きで紹介し、党書記を務めていることが確定した[12]

また2016年5月に開催された朝鮮労働党第7次大会で党統一戦線部長に就任していたことも確定し、序列が18位になっていたことも確認された[13]。同大会では党中央委員会政治局員と党中央軍事委員会委員、党中央委員会書記に代わって新設された党中央委員会副委員長に就任し[14][15]、同大会終了時点で党内序列も12位に昇格したことが確認されている[16]

これに続いて、同年6月29日に開催された第13期最高人民会議第4回会議では、国防委員会に代わって新設された国務委員会の委員に選出された[17]。しかし、韓国統一省によると高圧的態度などの理由により2016年8月中旬までの約1カ月間農場で革命化教育を受けたという[18]

2018年2月25日に韓国で行われた平昌オリンピック閉会式に北朝鮮代表団の一員として出席したが、天安沈没事件を主導した強硬派の来訪については韓国国内から遺族や保守系野党を中心に反発の声が上がった[19]

2018年3月25日に最高指導者就任後の初外遊で中華人民共和国を訪問した金正恩にその妻の李雪主夫人や同じ党副委員長の李洙墉崔竜海らとともに同行した[20]

2018年4月27日、板門店南北首脳会談に金与正とともに同行した[21]

2018年5月7日、中国の大連習近平総書記と会談した金正恩朝鮮労働党委員長の訪中に同行した[22]

国際テロリズム容疑で米国への入国が禁止されていたが、特例によりチェ・ガンイル北米局副局長とともに[23]5月30日に中国国際航空航空機で空路ジョン・F・ケネディ国際空港より入国。ニューヨークマイク・ポンペオアメリカ合衆国国務長官と夕食会などで協議を行った[24]。北朝鮮要人の訪米は2000年の趙明禄国防委員会第一副委員長以来約18年ぶりとなった[25]。翌日、ホワイトハウスの大統領執務室を訪れ、ドナルド・トランプ米大統領へ金正恩国務委員長の親書を手渡し、予定されている米朝首脳会談について討議した[26]

2018年6月、米朝首脳会談のためにシンガポールを訪問した金正恩に金与正李洙墉らとともに同行した[27]2018年米朝首脳会談)。同年7月、首脳会談を受けてマイク・ポンペオ国務長官が訪朝した際にはカウンターパートとして対応し、強気の交渉を行ったと伝えられた[28]

2019年1月17日に訪米し、翌18日にポンペオ米国務長官と米朝首脳会談開催について協議を行った。アメリカ側は、同日、協議の結果を踏まえ2度目の首脳会談を開催することを発表した[29]。2019年2月の米朝首脳会談は交渉が決裂し、同年3月10日に実施された最高人民会議代議員選挙の代議員名簿からは名前が消えていたと報じられ、交渉責任者として責任を追及され粛清されたのではないかとも推測された[30]。しかし、最高人民会議第14期代議員選挙の当選者名簿には第306号選挙区(オッケ)と第378号選挙区(パンムン)に同じ名の記載があり、いずれかが米朝首脳会談に関わった金英哲とみられている[31]。同年4月の最高人民会議では国務委員に再選されたほか、最高人民会議常任委員会委員にも選出された[32][33]。しかし、2019年4月の露朝首脳会談に同行せず、統一戦線部長を解任されたことが明らかになった[34]

2019年5月31日の韓国『朝鮮日報』によると、北朝鮮情報筋は「労働党統一戦線部長を解任された金英哲党副委員長慈江道(ジャガンド)で革命化教育(強制労働および思想教育)中」と伝えた。しかし、6月2日夜に金正恩委員長らとともに芸術公演を鑑賞したことが、北朝鮮「朝鮮中央通信」などで報じられ[35]、金英哲の粛清説は誤報であることが分かった。ただし、同時に銃殺されたと報じられた金革哲については、名簿に名前はなかった。

2021年1月5日から開催された朝鮮労働党第8次大会で中央委員会委員に再選され[36]1月10日に開催された党中央委員会第8期第1回総会で党中央委員会政治局委員、同委員会統一戦線部長に選出されたが[37]、党中央委員会書記(旧党中央委員会副委員長)と党中央軍事委員から脱落した[38]

年譜

  • 1989年2月 - 少将、人民武力部副局長、南北当局者会談予備接触北側代表(~1990年7月)
  • 1990年9月 - 南北高位級会談代表(~1992年9月)
  • 1992年3月 - 南北高位級会談軍事分科委員会北側委員長(~8月)
  • 1992年5月 - 南北軍事共同委員会委員
  • 2000年4月 - 南北首脳会談儀典警護実務接触首席代表
  • 2006年3月 - 中将、南北将官級軍事会談北側代表(3〜7次、~2007年12月)
  • 2009年 - 上将、朝鮮民主主義人民共和国国防委員会政策室長、朝鮮人民軍偵察総局長
  • 2010年9月 - 朝鮮労働党中央軍事委員会委員
  • 2012年2月15日 - 大将
  • 2012年秋 - 中将に降格
  • 2013年2月 - 大将に復帰
  • 2015年4月 - 上将に降格
  • 2016年1月 - 朝鮮労働党中央委員会書記局書記(~2016年5月)、同党統一戦線部長(~2019年4月)
  • 2016年5月 - 朝鮮労働党中央委員会政治局員、同党中央委員会副委員長(~2021年1月)、同党中央軍事委員会委員(~2021年1月)
  • 2016年6月 - 朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員
  • 2019年4月 - 最高人民会議常任委員会委員
  • 2021年1月 - 党統一戦線部長に再任

  1. ^ 「焦点:北朝鮮のキーマンが訪米、金英哲氏とはいかなる人物か」ロイター2018年5月30日
  2. ^ 「金英哲氏に制裁科す国は合計31カ国 閉会式出席に疑問の声噴出 野党議員「韓国の地踏めば射殺」と物騒発言」産経ニュース2018.2.24 12:41
  3. ^ 統一部北朝鮮資料センター主要人物情報
  4. ^ a b 偵察総局内紛で金英徹降格 2012年11月19日
  5. ^ 北朝鮮、軍強硬派は健在 映像に延坪島指揮幹部ら 毎日新聞 2012年2月18日
  6. ^ スクープインサイド 三代目は単なるお人形さん狂乱の北朝鮮金正恩は操られている 現代ビジネス 2012年4月16日
  7. ^ 北の偵察総局長、じきじきに各国大使へ退避勧告 読売新聞 2013年4月8日
  8. ^ 北朝鮮の圧迫攻勢は金英哲氏が主導=韩国政府消息筋 聨合ニュース 2013年4月25日
  9. ^ 北朝鮮で今年15人処刑か 韓国情報機関が分析 東京新聞 2015年4月29日
  10. ^ ブーメランを受けた北朝鮮軍幹部へ 2015年9月2日 中央日報
  11. ^ 北朝鮮 金英哲偵察総局長が金養建氏の後任か 聨合ニュース 2016年1月20日
  12. ^ 対南強硬派の金英哲氏が「党書記」としてラオスへ Daily NK 2016年2月12日
  13. ^ “党大会執行部で小幅変化=核・ミサイル制裁対象者も-北朝鮮”. 時事通信. (2016年5月7日). http://www.jiji.com/jc/article?k=2016050700220&g=prk 2016年5月7日閲覧。 
  14. ^ 朝鮮勞動黨19人政治局委員名單出爐”. 大公網 (2016年5月10日). 2016年6月1日閲覧。
  15. ^ 朝鮮労働党大会「設計図なき戴冠式」(4) 金与正「中央委員」人事の意味”. THE HUFFINGTON POST (2016年5月21日). 2016年6月1日閲覧。
  16. ^ 伝統の書記局が「政務局」に改称 書記は「副委員長」に”. 産経新聞 (2016年5月11日). 2016年6月1日閲覧。
  17. ^ 김정은, 당·국가 최고위직 겸직… 아버지 시대와 결별”. 国民日報 (2016年6月30日). 2016年6月30日閲覧。
  18. ^ 北朝鮮で副首相処刑と韓国 統一戦線部長は「教育」 東京新聞 2016年8月31日閲覧
  19. ^ “保守系野党・自由韓国党が緊急総会「金英哲の来韓阻止」”. 朝鮮日報. (2018年2月23日). http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2018/02/23/2018022301001.html 2018年2月23日閲覧。 
  20. ^ “崔竜海氏、金英哲氏らが同行”. 産経ニュース. (2018年3月28日). https://www.sankei.com/article/20180328-S4KB755MVBIMTBQ476DB76YFOQ/ 2018年3月28日閲覧。 
  21. ^ “[速報]午前の南北首脳会談 北朝鮮からは金英哲・金与正氏同席”. 聯合ニュース. (2018年4月27日). http://japanese.yonhapnews.co.kr/Politics2/2018/04/27/0900000000AJP20180427003900882.HTML 2018年5月9日閲覧。 
  22. ^ “3月の訪中に含まれなかった金与正氏が同行…北の対米ラインが総出動”. 中央日報. (2018年5月9日). http://japanese.joins.com/article/j_article.php?aid=241220 2018年5月9日閲覧。 
  23. ^ 「米朝高官、首脳会談へ詰めの調整 NYで協議 」日本経済新聞2018/5/31 7:56
  24. ^ 「北朝鮮高官が米国入り、ポンペオ氏と夕食会 首脳会談めぐり協議へ」AFP2018年5月31日
  25. ^ 「正恩氏側近 米長官と協議 NY 首脳会談へ大詰め」産経ニュース2018.5.31 11:02
  26. ^ 金英哲氏と「ほぼ全てのこと」討議 トランプ大統領 毎日新聞 2018/06/02
  27. ^ “本気度にじます北の陣容 新任の人民武力相、女性楽団長も投入”. 産経ニュース. (2018年6月11日). https://www.sankei.com/article/20180611-IXMZ526TOFIUTO3PLALA4UF2VU/ 2018年6月12日閲覧。 
  28. ^ 「1回トランプ氏に電話してみろ」……金正恩の“最強の右腕”が更迭された理由”. 文春オンライン (2019年5月14日). 2019年5月22日閲覧。
  29. ^ 2回目の米朝首脳会談、2月末に開催 開催地は後日発表”. CNN (2019年1月19日). 2019年1月19日閲覧。
  30. ^ 北朝鮮、「ハノイ会談決裂」で消されそうな側近の名」『Japan Business Press』、2019年3月25日。2019年3月25日閲覧。
  31. ^ “北朝鮮代議員選挙結果を徹底分析!相次ぐ実力者らの意外な「落選」が判明! - Yahoo!ニュース” (日本語). Yahoo!ニュース. https://news.yahoo.co.jp/byline/pyonjiniru/20190313-00118076/ 2019年6月2日閲覧。 
  32. ^ 常任委員長に崔龍海、首相に金才龍氏…北朝鮮で最高人民会議 デイリーNK 2019年4月12日
  33. ^ “金正恩氏が再び国務委員長に 首相は金在龍氏に交代=北朝鮮”. 朝鮮日報. (2019年4月12日). オリジナルの2019年4月12日時点におけるアーカイブ。. https://megalodon.jp/2019-0412-0950-33/www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/04/12/2019041280016.html 2019年4月12日閲覧。 
  34. ^ “対韓国政策トップが交代 正恩氏側近の金英哲氏”. 産経新聞. (2019年4月25日). https://www.sankei.com/world/news/190425/wor1904250009-n1.html 2019年4月25日閲覧。 
  35. ^ “粛清説の金英哲氏、正恩氏の公演鑑賞に同席 北朝鮮メディア”. フランス通信社. (2019年6月3日). https://www.afpbb.com/articles/-/3228088 2019年6月3日閲覧。 
  36. ^ 북, 8차 당대회서 김정은 위원장 당 총비서로 추대 統一ニュース 2021年1月11日
  37. ^ 金与正氏、政治局委員候補から降格…北朝鮮党大会 デイリーNK 2021年1月11日
  38. ^ 金正恩氏、父と同じ「総書記」に就任…権威高める狙いか 読売新聞 2021年1月11日


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