里山 管理・所有

里山

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/04 15:41 UTC 版)

管理・所有

江戸期の里山は国家(将軍家や藩)が所有し、民間の利用を認めないもの(御建山などと呼ばれる)、土地は民間所有(入会地形態)であっても木材は国家所有で、伐採には国家の許可が必要なもの(御留山や御用木と呼ばれる)、土地も木材も民間所有(入会地形態)で木材伐採にも官許の不要なもの、個人所有のもの、寺社に用いられるものなど多様であった。このうち御留山を民間の材木商や村が伐採する場合には、藩に現銀による対価を支払わねばならなかった。また、民間所有の里山であっても国家に税金(山年貢などと呼ばれる)を支払うことが多かった[17]

前述のように、近世、特に石炭が燃料として普及する以前の日本列島における里山の負荷は一貫して高く、村落共同体は里山の植生崩壊を防止するために様々な規則を定めて対応した。これらの規則は「村掟」「村定」「村規則」などと呼ばれ、里山を入会地として持つ村のほとんどが、この種の規則を文書として備えていた。村掟によって定められる里山の利用規則は極めて詳細かつ厳密であった。例えば、肥料用の草は刈り取ってもよい量が家ごとに決められていることも珍しくなかったし、刈り取ってもよい時期が厳密に設定されている(「口開け」と呼ばれる)ことが多かった。村掟を破った者への制裁が予め決められており、多くは米や銀による科料の支払いと盗伐分の返還が科されていた。また、これらの他に労働奉仕も科される例や、盗伐者が科料を払えない場合の五人組による連帯責任による科料支払いが決められている例もある。

里山を切り開いて建設されたゴルフ場。

特に住民の数に対して利用可能な里山が少ない地域では、里山の管理は厳重なものであり、許可されていない場合は草を一掴み刈り取ったり、木の枝を一本折るだけでも罰せられる場合すらあった。夜間の盗伐を防ぐために持ち回りで里山の夜番をしていた村もあったほどである。これほど厳重な管理をしても里山の盗伐は頻発し、また、村々入会の里山では、里山を巡っての村と村の間での対立も続出した(山論と呼ばれる)[18]

明治期以降、里山は国有林となるか、あるいは細切れに分割されて個人所有となる、自治体に所有されるといった所有形態に移行した。このうち都市に隣接する地域の里山の多くはデベロッパーに転売されて、宅地やゴルフ場などのレクリエーション施設へと変貌していった。

現在の里山が抱えている問題の一つに、税負担の問題がある。山林の固定資産税そのものは宅地や農地に較べて安価に設定されているが、代替わりの際に発生する相続税では、山林の評価額は近隣の宅地の評価額から造成費を引いたものになる。しかし、実際に所有者がその価格で売却しようとしても、デベロッパーには足元を見られて買い叩かれるか、場合によっては買い手が付かないため、所有者は平地に持っている農地などを切り売りして資産価値のない山林を持ち続ける(その余力もない場合は相続税を支払えず破産する羽目に陥る)しかないのである[19]


注釈

  1. ^ 後に木村伊兵衛賞受賞。

出典

  1. ^ 有岡利幸『里山』 1巻、法政大学出版局〈ものと人間の文化史〉、2004年3月、1-2頁。ISBN 4588211811 
  2. ^ 佐々木高明 『日本文化の多様性』 小学館、2009年、126-127頁。なお、「ウチヤマ」は焼畑を行う土地や薪炭林、畑など。「オクヤマ」は材木を調達したり狩猟をしたりする山林で、「ダケ」は最も標高が高い部分で原生林となっている。
  3. ^ 四手井綱英 『森林はモリやハヤシではない―私の森林論』 ナカニシヤ出版、2006年、3章。ここで四手井は上述の近世の「里山」の用例に言及しつつ、日本列島の農用林を「里山」と名付けた経緯について語っている。
  4. ^ Photologue - 飯沢耕太郎の写真談話(26) 知的好奇心をくすぐる自然写真(4)”. マイナビニュース. 2019年4月26日閲覧。
  5. ^ 佐藤洋一郎、石川隆二『〈三内丸山遺跡〉植物の世界-DNA考古学の視点から-』裳華房〈ポピュラー・サイエンス〉、2004年。ISBN 4785387653 [要ページ番号]
  6. ^ Jared Diamond, "Collapse: How Societies choose to fail or succeed", Penguin Books, 2005, pp297-298.
  7. ^ Ibid, p298.[要文献特定詳細情報]
  8. ^ 別項「はげ山」に「1894年」という記述がある。
  9. ^ 太田猛彦『森林飽和』NHK出版〈NHKブックス〉、2012年、161-163頁。 
  10. ^ 有岡 2004b, pp. 67–98.
  11. ^ 穂別高齢者の語りを聞く会『穂別高齢者の語り聞き史(昭和編)大地を踏みしめて 下 冨内駅・物流拠点としての役割』穂別高齢者の語りを聞く会、2014年、213頁。 
  12. ^ 若林幹夫『郊外の社会学』筑摩書房、2007年。ISBN 9784480063502 [要ページ番号]
  13. ^ 有岡、前掲書、113-166ページ[要文献特定詳細情報]
  14. ^ 有岡、前掲書、180-184ページ[要文献特定詳細情報]
  15. ^ 内山節『「里」という思想』新潮社、2005年。ISBN 4106035545 [要ページ番号]
  16. ^ 野本寛一『生態と民俗』講談社〈講談社学術文庫〉、2008年5月、299-301頁。ISBN 9784061598737 
  17. ^ 有岡、前掲書、170-173ページ[要文献特定詳細情報]
  18. ^ 有岡、前掲書、192-230ページ[要文献特定詳細情報]
  19. ^ 市街地山林への相続税---高過ぎる評価額と物納の可能性”. バードレポート. 2019年4月26日閲覧。
  20. ^ 有岡、前掲書、35-58ページ[要文献特定詳細情報]
  21. ^ 宮本常一「世間師(二)」『忘れられた日本人』岩波書店〈岩波文庫〉、1984年。 
  22. ^ 有岡 2004b, pp. 1–5.
  23. ^ 有岡、前掲書、1ページ[要文献特定詳細情報]


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