酪農 乳牛

酪農

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/14 07:38 UTC 版)

乳牛

乳量の多いホルスタイン乳牛が主流。日本で飼育されている乳牛の98%がホルスタイン種である。ホルスタインは人間が人間のために改良に改良を重ねてきた動物である。そのため高泌乳だけでなく、人間が管理しやすくおとなしい性格がホルスタインの品種特性のひとつとなっている[3]。乳質向上のため、農家によっては数十頭のホルスタイン種のグループに数頭のジャージー種脂肪分などの成分が高い)を導入する場合もある。

搾乳

ミルカー(搾乳機)

乳牛はいかに多く搾り取るかを最大の課題とされ、改良が進められた。その結果、1頭あたり年間乳量は8,636kg(2018年農林水産省牛乳乳製品統計調査参照)にまで増加した(肉用に飼育される牛の年間乳量は1000kg程度)。そのため一日でも乳牛を搾乳しないまま放置すると、乳房炎という病気になるため、きめの細かい管理が必要である。一般的には等間隔で朝と夕に搾乳を行うことが多い。

また搾乳時に邪魔であったり、糞尿がついた尻尾が搾乳の中に入ったりすることがあるため、尻尾の切断が行われることもある。尻尾の付け根をきつく縛り、尻尾を壊死させて切断するという方法などで実施される。動物福祉の考え方に対応した乳牛の飼養管理指針」では断尾はできうる限りしないほうがのぞましい、とされている[4]

日本でも昔(1960年代頃まで)は人の手で乳搾りを行い、搾った生乳(せいにゅう)をバケツに取り、さらに牛乳缶と呼ばれる20リットル程度の金属製容器に貯蔵していたが、現代では工程のほとんどが機械化されている。 現在、日本では、畜舎内に走るパイプラインと牛の乳房をミルカー(搾乳機)で接続して搾乳するパイプライン方式が普及しているが、規模拡大(メガファームの増加)傾向に伴い、牛を搾乳室に集約して効率的に搾乳するミルキングパーラー方式や搾乳作業を自動化して省力化を図る搾乳ロボットの導入も増えている。 日本では通常、年中無休で1日2回の搾乳が一般的であるが、1日1回搾乳や季節繁殖による夏期を中心とした搾乳、先に挙げた従業員交代制による1日3回のミルキングパーラー搾乳や1日に複数回の搾乳を行う搾乳ロボットなど搾乳方式は多様化しつつある。

搾乳後の生乳はバルククーラー(生乳を冷やす冷蔵タンク)に送られ冷却・一時貯蔵、その後集乳車タンクローリーの一種)により集荷され、牛乳工場へ運ばれる。

繁殖

人と同じで出産しなければ乳が出ないため、計画的な人工授精が行われる。日本における乳用牛の人工授精の普及率は 約98%で、自然繁殖はほぼない[5]。乳生産のために雌を産む必要がある。そのため2000年代に性腺別精液が実用化され、日本国内でも2007年以降、一般向けに性選別精液の販売が開始された[6]。2014年の雌精液使用率は14%となっている[7]

初産は2産3産に比べると、乳用種ではなく黒毛和種の種を人工授精されることが多い。産まれた子牛はF1(交雑種)と呼ばれ、肉牛として肥育農家に販売される。初産でF1が多いのは、黒毛和種はホルスタイン産子と比べて牛体が小さいいっぽう、ホルスタイン雌牛の初産分娩時期は成長途中の場合が多いためである。成長しきっていない牛の初産分娩にホルスタイン種をつけると難産のリスクが高まる[8]。しかし最近の黒毛和種は肉量を増やすために大型化しているため、FIでも難産を招くことがある[9]


  1. ^ 1. 繋留方法にもいろいろあります 根室振興局
  2. ^ 仁科淳司 2007, p. 116.
  3. ^ 『最新農業技術 畜産vol11』一般社団法人農山漁村文化協会、20181105、132頁。 
  4. ^ 畜産技術協会・資料の「家畜飼養管理国際基準等対応事業」の「乳用牛」
  5. ^ 牛の雌雄産み分け技術 一般社団法人家畜改良事業団”. 20240414閲覧。
  6. ^ 『最新農業技術 畜産vol11』一般社団法人農山漁村文化協会、20181105、92頁。 
  7. ^ 『最新農業技術 畜産vol12』一般社団法人農山漁村文化協会、20200320、61頁。 
  8. ^ 『最新農業技術 畜産vol8』一般社団法人農山漁村文化協会、20151031、46頁。 
  9. ^ 『最新農業技術 畜産vol11』一般社団法人農山漁村文化協会、20181105、129頁。 
  10. ^ 資料 5 乳用牛飼養実態アンケート調査(中間とりまとめ)” (PDF). 畜産技術協会 (2008年3月10日). 2019年8月10日閲覧。 平成20年度乳用牛分科会第2回
  11. ^ “[一般社団法人農山漁村文化協会 最新農業技術 畜産vol8]”. 20151031閲覧。
  12. ^ ANIMAL WELFARE AND DAIRY CATTLE PRODUCTION SYSTEMS”. 20221125閲覧。
  13. ^ 『最新農業技術 畜産vol8』一般社団法人農山漁村文化協会、20151031、65頁。 
  14. ^ 家保便り 第 28-2-11 号平成 28 年 8 月 15 日” (PDF). 家畜保健衛生所. 2020年9月28日閲覧。
  15. ^ 酪農戸数、6.5%減少 飼料高騰、離農進行に危機感:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞. 2023年2月25日閲覧。
  16. ^ “アニマルウェルフェア”とは? 専門家が1から解説”. 20221125閲覧。
  17. ^ なぜ今、「アニマルウェルフェア」に向き合 うべきなのか ~二の足を踏む日本、「家畜を苦しませない」の世界的潮流に迅速な対応を~” (PDF). 20220529閲覧。
  18. ^ 除角のオルタナティブ ? 生まれつき角を持たない牛” (2019年2月4日). 2020年9月28日閲覧。
  19. ^ 乳用牛の飼養実態アンケート調査報告書” (PDF). 畜産技術協会. 2020年9月28日閲覧。





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