過労死 背景

過労死

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/13 07:58 UTC 版)

背景

国際労働機関 (ILO) は、人道的な労働条件の確立をめざして具体的な国際労働基準の制定を進めており、多くの国際労働条約を採択している。しかし現在においても、日本やアメリカのようにILOが採択した183条約(失効5条約を除く)の多くを批准していない国、批准した条約を遵守していない国が存在している。

とりわけ、先進国の日本で過労死が多発している事象については世界的にも稀有な例として見られており、日本は先進国であるにもかかわらず労働基準法が遵守されていない国として認識されている。労働運動側は国際労働条約の批准を求めているが、産業界は反対している。

メカニズム

過労死には一般的に、以下の2種類の直接的原因が知られている。

精神疾患による自殺

働き過ぎは精神のバランスを喪失させ、への願望(希死念慮)をもたらす。「眠りたい以外の感情を失った」と訴える患者もおり、抑うつ状態うつ病である場合が多い。ただ「労働時間の長さ=自殺の危険性」というわけではなく、人により許容度が異なるが、それを職場の上司が理解していない場合が多い。また、オフの時間の過ごし方も影響する。厚生労働省の平成28年版「過労死等防止対策白書」によれば、睡眠不足の第一の原因は残業時間の長さで36.1%である[7]

心臓・血管疾患による死亡

長時間労働は疲労を蓄積させ、血圧を上昇させる。そのことにより血管は少しずつダメージを受け、動脈硬化をもたらし、脳出血や致命的な不整脈を起こしたり、血栓を作り心筋梗塞脳梗塞を引き起こす[7]

日本における過労死

2009年度(平成21年度)の厚生労働省による自殺(未遂含む)の労災認定件数63件のうち、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」ことを原因と認定されたものが23件、「勤務・拘束時間が長時間化する出来事が生じた」ことを原因と認定されたものが13件だった。また、63件のうち、労働時間数に関係なく業務上と判断した事案を除くと、時間外労働時間が100時間を超えていたものは29件である[8]

2014年(平成26年)11月1日に「過労死等防止対策推進法」が施行された[5]。同法により過労死や過労自殺をなくすため、行政機関が実態調査を行い効果的な防止対策を講じるとされており、防止の方針を具体的に定めた大綱が作られることになった[5][5]。また国は、過労死等に関する実態調査、過労死等の効果的な防止に関する研究等を行うものとされ、さらに国及び地方公共団体は、過労死等を防止することの重要性について広く国民の理解と関心を深めるための瀬策を講ずるものとされる。

これまでは、日本人が過労死する状態があるにもかかわらず、日本では「過労」という言葉をはっきりと冠した法律も無く、日本の行政は、企業経営者の都合・顔色ばかりをうかがい、過労死をきちんと体系的に防止する仕組みも作らないまま放置してきたが、同法の施行により状況改善の一歩が踏み出された。日本全国の人々に向けて、弁護士が過労死に関する無料電話相談を開始した[5]

労災認定基準

厚生労働省の労災認定基準[9] では、脳血管疾患及び虚血性心疾患等(略称:脳・心臓疾患)を取り扱っている。2000年7月に最高裁が下した自動車運転手の脳血管疾患の業務上外事件の判決を契機に[10]、2001年12月に認定基準が改正され、発症前6か月間の長期間に渡る疲労の蓄積、特に現在では労働時間の長さが「過労死ライン」として数字で明記され、認定に際して考慮されるようになった。

仕事との因果関係の立証が難しいため、脳・心臓疾患の労災請求から決定(認定または不認定)までの所要日数は、平成21年度で210日となっている[11]。また、過労死の労災認定請求のうち過労死と認められるのは5割弱である[6]

また過労による自殺については、従前は結果の発生を意図した故意として労災認定されていなかったが、1999年9月14日に発出された「精神障害による自殺の取扱いについて」(平成11(1999)年9月14日付 基発第545号) により、「業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しない」とされ、1999年11月に精神障害による労災認定にかかる判断指針が策定され、うつ病などによる過労自殺も労災として位置付けられた。1999年の判断指針はのちに廃止され、2011年に発出された「心理的負荷による精神障害の認定基準について(平成23(2011)年12月26日付け 基発1226第1号)」が認定基準となっている。

裁判

過労死を巡る争訟としては刑事、行政、民事の3種類がある。

刑事裁判

労働基準法では、法定労働時間を1日につき8時間、1週につき40時間と定め、これを超える場合には事前に労使協定を締結することを義務づけており、この上限時間も原則1年間につき360時間と定めている(労働基準法第32条、平成10年労働省告示第154号)。しかし過労死に至るケースの場合はこれらの時間を大幅に上回る時間外労働を行っており、労働基準法第32条違反、また、これらの時間外労働に対して正当な割増賃金(通常の賃金の25%以上の割り増し)が支払われていないケースがほとんどであり、同法第37条違反として労働基準監督署が事業主を送検するケースがみられた。しかし、最近では、労働基準法第32条、第37条の違反とはならない過労死の認定も多くなっている。 ただし、労働基準法第32条違反は最高で罰金30万円、同法第37条違反は最高で懲役6か月又は罰金30万円と定められており、人を死に至らせる不法行為に見合った刑罰の重さとなっていないとの批判が、主に労働者団体等から唱えられている。

行政争訟

なお、労働事件が先例として判決集に登載される場合は、被告の会社名が事件名となるが(例:「○○コーポレーション事件」)、労災不認定取消請求事件の場合は労働基準監督署長が被告となるため、過労死の起こった会社を併記するのが通例である(例:「○○労働基準監督署長(△△産業)事件」)。

民事裁判

過労死が起こった場合、企業が管理責任を怠ったとして裁判が起こることはつきものであるが、過労死の多くは勤務中に死に至るのではなく、激務な仕事をやめ1か月から数か月後に死に至るケースが多く、また、脳・心臓疾患は日常生活の習慣(高血圧気味であった、肥満気味であった、等)が過労により増悪することにより引き起こされることも多く、企業側は因果関係がないと主張する為、長期化することが多い。

過去の事例

  • 1988年、全国の弁護士が連携して初めて「過労死110番」が開設される。当時の日本国政府や医学会も「働きすぎでは死なない」と全面否定。過労死や過労自殺に対し労働災害申請はほとんど認められず、裁判でも勝てず、労働組合も向き合ってこなかった[12]
  • 1990年12月4日、読売新聞新聞奨学生として新聞販売店に勤務していた学生が過労により死亡。同日午後3時20分頃、販売店の作業場内で嘔吐を伴う体調不良を訴えそのまま昏倒、救急車で病院へ搬送されたが、午後9時30分に死亡した。遺族は裁判に踏み切り、最終的に1999年に読売新聞社と和解が成立した。この事件などを踏まえ各社新聞奨学生の過重勤務の実態、その制度の特徴から強制労働的性質があることが日本共産党吉川春子などにより国会質疑で指摘された。
  • 1991年電通の男性社員が過労と上司からのパワーハラスメントにより自殺した「電通事件」が発生。この事件により「過労自殺」という概念が初めてクローズアップされたと言われる[13][14][15]
  • 1999年東京都小児科医の男性が病院屋上から投身自殺した。同医師は、当直の日は時に30時間を超える長時間勤務に病院の経営方針が重なり、相当な激務と心労が重なっていたと思われる。遺族側はこの自殺が過労自殺であるとして労災認定を求めて裁判を起こし、2007年3月28日に国が控訴を断念して労災認定が確定した[16]
  • 家電量販店マツヤデンキ2000年11月身体障害者枠(障害者雇用)で入社し、愛知県豊川市の店舗で販売業務に就いていた慢性心不全を抱える男性(当時37歳)が、同年12月に致死性不整脈により死亡した。男性の妻が翌2001年11月豊橋労働基準監督署に対し労働災害を申請したが認定されなかったため、2005年名古屋地裁に提訴。一審は訴えを棄却したが、二審名古屋高裁2010年4月16日に「業務の過負荷による死亡かどうかは、男性本人の障害の程度を基準とすべき」などとする初判断を示して訴えを認め、労災と認定する判決を言い渡した[17][18]
  • 2001年日本国政府は、長期間の疲労蓄積で脳や心臓の疾患が起こることを認める[12]
  • 2002年2月9日トヨタ自動車社員の男性(当時30歳)が致死性不整脈により死亡した。男性の妻が「月144時間という過酷な残業と変則的な勤務時間のため」として訴訟を起こした。名古屋地方裁判所は遺族側の主張をほぼ認め(認定した残業時間は106時間)、判決[19] が確定した。
  • 奈良県立三室病院に勤務していた臨床研修医(当時26歳)が、2004年1月に勤務中にA型インフルエンザを発症し、自宅療養をしていたが死亡した。死亡直前の2003年12月には、1日当たりの勤務時間が12〜24時間に及ぶ日が連続6日間もあり、また食事時間や休憩時間もほとんど取れない状態だった。地方公務員災害補償基金奈良県支部は2007年2月に、この男性の死を公務災害と認定し、両親に遺族補償一時金約417万円と、父親に約56万円の葬祭補償を支給したが、両親は「補償一時金に時間外手当が導入されていない」として奈良地方裁判所に訴えを起こした。2010年8月26日に同地裁は「時間外労働の存在は明確で、これを考慮しなかったことは違法」として、同支部の決定を取り消す判決を言い渡した[20]
  • 2005年2月に、産業機械商社のマルカキカイ(現・マルカ)に執行役員として勤務していて過労死した男性について、東京地方裁判所2011年5月に「実質的に労働者にあたる」として、労災の不認定を取り消す決定をした[21]
  • 1997年東急ハンズに入社した男性が、同社心斎橋店に勤務していた2004年3月に急死した。男性の妻と長男は、過重な労働が原因だったとして、同社を相手取り神戸地裁に訴訟を提起。同地裁は2013年3月13日の判決で遺族の主張を認め、同社の過重労働を認めた上で、従業員への安全配慮義務に違反したとして、遺族に7,800万円を支払うよう命じた[22]
  • 2007年7月5日、日産自動車の直系子会社ジヤトコプラントテックの男性社員が、建屋内で首を吊っているのを同社社員が発見し通報、男性は死亡した。この日に男性は工長(現場リーダー職)昇進を控えた集合教育を受けていたが、途中で席を立っており、この直後に自殺した。この教育は対象社員を一箇所に集め、数日間から数週間にわたり集中的に行われることから「『日勤教育』的色合いが濃かった」(同社社員)といい、精神的に追い込まれる社員が少なくなかったという。男性の自殺について両社は黙秘しており社内外への公表を行っていない。2008年現在係争中。[要出典]
  • 2008年12月、居酒屋チェーン大庄に入社した24歳の従業員が入社4か月後に長時間の残業により過労死したとして、従業員の両親が約1億円の損害賠償を求めて京都地方裁判所に訴えを提起した。原告の主張は、新入従業員を月額19万4,500円で募集していたが、その月額は80時間の残業を前提としており、それ以下の場合は減額され、最低月額は12万3,200円であった。2008年度のリクナビ求人サイトには、月額19万6,400円+残業手当と書かれていたという。京都地方裁判所は原告の請求を認容、同社と取締役4人に対し約7,860万円の支払いを命じた。判決理由は「長時間労働を前提としており、こうした勤務体制を維持したことは、役員にも重大な過失がある」「生命、健康を損なわないよう配慮すべき義務を怠った」と指摘している。過労死を巡る訴訟は会社側が責任を負うことが一般的で、取締役の賠償責任を認めた司法判断は珍しい。原告代理人の弁護士は「上場企業の役員個人の責任が認められたのは画期的」と述べた。判決により社長ら個人の賠償責任も認められ、遺族へ計約7860万円を支払うよう命じた。[要出典]
  • 2009年3月5日、過労自殺で夫を亡くした京都市在住の女性が、大阪府弁護士らの協力を得て、社員が過労死したと認定された在阪企業について、企業名などの情報公開を行うよう厚生労働省大阪労働局に請求した。この女性は企業名の公表が過労死などへの抑止力になると主張したが[23]、情報公開請求が退けられたため、女性や市民団体らが大阪地方裁判所に提訴。一審は女性らの訴えを認めたが、二審の大阪高等裁判所2012年11月29日に「情報を開示することにより、各企業の社会的評価などが低下し利益を害することが有り得る」として原告敗訴の逆転判決を言い渡した。原告側は「企業の擁護に終始した判決だ」として批判している[24]
  • 2008年4月からウェザーニューズの予報センターに試用勤務し、主にマスコミ向け天気予報の原稿作成を担当していた気象予報士が、同年5月以降、過労死の認定基準を超える134 - 232時間の時間外労働を強いられた上、同年10月1日に上司が予報士に「本採用は難しい」と告知。翌日に自宅にて自殺した。これについて京都市在住の遺族が、翌2010年10月1日に同社を相手取り、約1億円の損害賠償を求める訴えを京都地方裁判所に起こした[25]。その後、同年12月14日に同地裁で和解が成立した[26]
  • 2008年5月宮崎県新富町の女性職員(当時28歳)が自殺した。この女性職員は2008年になって同僚が休職したことに伴い、臨時職員の指導などの業務が加わり、同年2月下旬から2か月間の超過勤務時間が222時間に達していた。また町長も認識していながら適切な対応を取らなかったことが自殺の原因になったとして、女性の両親らが2011年12月に同町を相手取り、慰謝料などを求める訴えを起こした。市町村職員の過労自殺が損害賠償請求訴訟に発展した初の事例となった[27]
  • 2004年4月からマツダで勤務してきた男性が、2007年3月にうつ病になり同年4月に自殺した。これについて広島中央労働基準監督署2009年1月、自殺と仕事との因果関係を認め労災認定した。 一方、男性の両親は、長時間労働や上司からのパワーハラスメントなど、会社側が適切にサポートしなかったことが原因であるとして、同社に対し約1億1,100万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。2011年2月28日神戸地裁姫路支部は、訴えをほぼ認め、同社に対し約6,400万円の支払いを命じた[28]
  • 2007年4月、山梨赤十字病院に勤務していた男性職員が、同病院のリハビリ施設内で自殺した。この職員は1993年から同病院の調理師を務めた後、2005年にリハビリ施設に転属したが、2007年から別の施設の開設準備に他の職員が関わるようになったため業務量が急増してうつ病にかかり、自殺前1か月の時間外労働は166時間以上に及んだとされた。2012年10月2日甲府地方裁判所は「(過重な)業務と自殺との間に因果関係が認められる」として、慰謝料など約7,000万円の支払いを同病院に命じた[29]
  • 日本国政府が実施する外国人研修制度2005年12月に来日し、金属加工会社フジ電化工業(茨城県潮来市)で勤務していた、男性の中国技能実習生(当時31歳)が、2008年6月に過労で倒れ急性心不全により死亡した。鹿嶋労働基準監督署は、外国人実習生としては日本初の過労死認定を下し、遺族は労災の保険金給付の一部の約1,100万円を受け取った。遺族は受入機関にも注意義務違反があるとして、同社の他に受入機関の白帆協同組合(茨城県行方市)に対しても、約5,750万円の損害賠償を求める訴訟を水戸地裁に起こした[30]。2011年現在係争中。
  • 2008年4月居酒屋チェーンワタミに入社した女性(当時26歳)が、同年6月に自殺。遺族は長時間労働によって生じたストレスが自殺の原因として横須賀労働基準監督署に労災申請したが却下された。このため遺族は神奈川労働者災害補償保険審査官に不服申し立てを行い、同審査官は労災認定した[31]
  • 2010年2月光通信に勤務していた男性(当時33歳)が虚血性心疾患により突然死した。この男性は2006年から営業課長職に、2009年にはクレーム対応部署に異動したが、男性の両親と弁護士がタイムカード打刻記録以外での時間外労働を算出したところ、死亡前3年間で100時間超の時間外労働を行っていた月が17回(最高153時間)存在し、また携帯電話の販売で過酷なノルマが課されていた。両親は2014年6月24日に同社に対し「会社は安全配慮義務を怠り長時間労働を放置した」などとして、神戸地方裁判所に約1億6,450万円の支払いを求める訴訟を起こした[32]
  • 2010年4月東京キリンビバレッジサービスキリンビバレッジの子会社)の男性社員(当時23歳)が自殺した。遺族らは、男性が2009年10月から2010年3月にかけて長時間勤務を強いられていたのが原因と主張し、品川労働基準監督署に労災申請。2011年10月5日付で同監督署は、過労による自殺として労災認定した[33]
  • 2010年10月29日医療法人社団明芳会新戸塚病院(神奈川県横浜市)に勤務していた理学療法士の男性(当時23歳)が急性心不全で死亡しているのが発見された。遺族らは担当患者の増加や、在籍していたリハビリテーション科内の研究発表会の準備業務などによる長時間勤務が原因であるとして、横浜西労働基準監督署に労災申請。同監督署は2011年10月4日付で労災認定。理学療法士の労災認定としては日本初の事例となった[34]
  • 2011年5月13日から福島第一原子力発電所事故の収束作業に当たっていた建設会社の男性社員が、翌14日以降に体調不良を訴え、その後心筋梗塞で死亡した[35]。遺族は短期間の高負担の作業による過労として、労災と認めるよう横浜南労働基準監督署に申請し、2012年2月24日に同監督署は労災と認定した[36]
  • 2011年4月末、富士通海外マーケティング本部で課長を務めていた男性社員(当時42歳)が急死した。この男性は東日本大震災で外国人上司が国外脱出するなどした影響で過重労働となり、死亡前日から過去2か月間の時間外労働の平均は最低でも月82時間に及ぶとされた。三田労働基準監督署はこの男性について、震災に伴う過労死であるとして労災認定した[37]
  • 2009年JR西日本に入社した男性が、その後2012年10月に自宅マンションで飛び降り自殺した。この男性は2011年6月から鉄道保安システムを管理する部署に配属されていた。遺族らは、職場と工事現場との往復を繰り返させられ、昼夜連続勤務や休日出勤の日数が月平均162時間にも及んだことなどが原因で、うつ病を発症したことが自殺につながったとして、同社を相手取り契約1億9,000万円の支払いを求め大阪地裁に訴訟を起こした[38]
  • 2011年4月からファミリーマート大阪府大東市内のフランチャイズ店舗で勤務していた62歳の男性が、その後2012年4月以降に別の店舗でも勤務するよう店主から命じられた。この男性は8か月後の同年12月に作業中に意識を失い脚立から転落死した。この男性と店主との間の雇用契約では、勤務時間は1日8時間とされていたが、実際には過労死ラインを大幅に超える1か月当たり218 - 254時間に及ぶ時間外労働をしていたことが明らかになった。男性の遺族は、男性の死亡原因が過労であるとして大阪地方裁判所に5,800万円の損害賠償を求め訴訟を提起。その後2016年12月22日付で、ファミリーマートと店主側が遺族に対し解決金計4,300万円を支払うことで和解が成立したことが判明した。直接の雇用関係にないフランチャイズ店の従業員に対し、本部が労働災害に解決金を支払うのは異例の対応とされる[39]
  • 2012年に自殺したアニメ制作会社A-1 Picturesソニーミュージックグループ)の元社員男性が、過労によるうつ病が原因と労災認定された。通院先の診療録には「月600時間労働」との記載があり、残業時間は多いときで344時間に上ったという[40]
  • 2012年10月過労自殺で亡くなった肥後銀行行員の遺族が、翌2013年に熊本地方裁判所に損害賠償請求訴訟を起こした[41]。この件に関して熊本労働基準監督署から労働基準法違反(過重労働)として役員ら3人が書類送検された[42]。同年11月、熊本区検察庁が同法違反で同行を熊本簡裁略式起訴した。その後、同簡裁は罰金20万円の略式命令を出し、同行は罰金を納付した。また同容疑で書類送検された取締役執行役員らは、嫌疑不十分で不起訴、起訴猶予処分とされた[43][44]。これを受け、当時の頭取が自身の月額報酬を30%カットするなど関係者の処分を明らかにしたほか、本店・支店すべての部屋に監視カメラを設置するなどの労務管理対策を実施することを表明した[45][46]。その後2014年7月18日、同行は当初の主張を撤回し、自殺と長時間労働の因果関係を認め結審し[47][48]熊本地裁は同年10月17日、銀行が過重な長時間労働に従事させた結果、行員はうつ病を発症し自殺したとして同行が注意義務を怠ったとし、銀行に約1億3,000万円の支払いを命じる判決を言い渡した[49][50][51]。判決を受け肥後銀行は、コンプライアンス意識の徹底と適切な労働時間管理態勢の強化について、なお一層安全な労働環境の構築に努めるとするコメントを発表し[52]控訴しない方針とした[50]
    • その後、自殺した男性の妻で同銀行の株主である女性が、株主としての立場で当時の役員らに対し、損害賠償を求めて同行に提訴するよう要求したが受け入れられず、このため女性は2016年9月7日に同行を相手取り、当時の役員らに同行への損害賠償を求める株主代表訴訟を熊本地裁に起こした[53]
  • 2014年10月、福井県若狭町立上中中学校の男性教諭(当時27歳)が自殺した。この教諭は同年4月から同校で勤務していたが、同年6月までの3か月間に残業が月120 - 160時間超に上ったとされ、受け持っていた生徒の無断外泊や保護者とのトラブルもあったとされた。地方公務員災害補償基金福井県支部はこの教諭の自殺の原因が公務災害であると、2016年9月6日付で認定した[54]
  • 2015年12月25日電通の新入社員でインターネット広告を担当していた女性(当時24歳)が飛び降り自殺した。この女性は同年10月9日からの1か月間だけで見ても、時間外労働がその前の1か月間の2.5倍に当たる約105時間に増えていたという。三田労働基準監督署はこの女性について、2016年9月30日付で労働災害と認定し、労災保険を支給することになった[55]。この件に関連して東京労働局2016年10月14日に、電通本社のほか、関西支社・京都支社・中部支社の3支社にも労働基準法に基づく強制調査を実施した[56][57]
  • 2015年10月、広島市の区役所で勤務していた20代の女性が自殺した。この女性は、保健福祉課で児童手当の支給などを担当していたが、2014年12月から2015年9月にかけて1か月当たり100時間前後の時間外労働が続いていた。女性の遺族はその後、地方公務員災害補償基金広島市支部に対し、公務災害認定を請求した[58]
  • 2015年2月、前身の日本道路公団時代の2013年から西日本高速道路に勤務していた男性が同社の寮で自殺した。この男性は2014年10月に第二神明道路事務所へ異動後、の補強や撤去工事など未経験の業務をさせられた上、最長で月に約178時間の時間外労働を強いられたほか、約36時間連続の勤務もあったことでうつ病を発症していたとされる。神戸西労働基準監督署は2015年12月に労災認定したが、男性の遺族は同社が社員の勤務実態を把握しておらず、長時間労働を減らす対策を怠ったことが自殺に繋がったとして、2017年2月16日に同社の本社人事部長や関西支社長、第二神明道路事務所長らを神戸地方検察庁刑事告訴した[59]。その後、同社の酒井和広社長は2018年10月31日に、業務軽減措置が不十分だったと責任を認めた[60]。一方、告発されていた男性の上司らは書類送検されたものの、2018年11月16日に同地検は上司らを不起訴処分としており、遺族らは検察審査会に審査を申し立てるとしている[61]
  • 2016年1月新潟市民病院に勤務していた女性研修医(当時37歳)が自殺した。この研修医の夫や弁護士が調べたところ、自殺までの月平均の残業時間が187時間にも上っており、2017年5月31日に労災認定された[62]
  • 2016年4月中旬、関西電力高浜原子力発電所の運転再開を巡り原子力規制委員会の審査対応にあたっていた40歳代の男性課長が、出張先の東京都内のホテルで自殺した。この課長の残業時間は3月・4月だけでも約100時間に及ぶとされた。敦賀労働基準監督署は同年内に労災認定した[63]
  • 2017年3月、国立競技場建設の地盤改良工事の下請工事に参入していた建設会社の新入社員の男性(当時23歳)が自殺。この男性は品質管理などの業務に就いていたが、自殺の約1か月前以降の時間外労働が約200時間にも及んでいたほか、施工が遅れた工事を工期に間に合わせなくてはとの義務感から精神的に追い詰められ、うつ病を発症していた。男性の遺族は同年7月12日に労災を申請した[64]。渋谷労働基準監督署は、当該の男性が勤務していた建設会社に対し是正勧告を行った上、元請である大成建設に対しても労働者の健康確保を行うよう行政指導した[65]
  • 長野県千曲市運送会社である信濃陸送に勤務していた43歳の運転手の男性は、コンビニエンスストアへの商品配送に従事していたが、2017年1月に、配送中に倒れ急性大動脈解離で死亡した。長野労働基準監督署の調査により、男性は死亡直前の1か月間の残業時間が過労死ラインとされる月100時間を超える114時間に及んでいたことが明らかとなり、同労基署は同年8月にこの男性を労災認定した[66]
  • 航空自衛隊幹部候補生学校に所属し奈良基地で勤務していた当時49歳の男性隊員が、業務に起因する疲労などでうつ病を発症し、2006年5月に自殺。男性の遺族は防衛省に対し、労働環境の改善義務を怠ったためだとして、大津地方裁判所に訴訟を起こした。その後2017年9月15日付で、防衛省側が和解金7,400万円を支払うことで和解が成立した[67]
  • NHK首都圏放送センターの31歳の女性記者が、2013年7月24日鬱血性心不全で死亡した。この記者の勤務時間は、過労死ラインの月80時間をはるかに超える159時間に達していた。東京労働局渋谷労働基準監督署は2014年5月付で、この女性記者について労災認定した[68]2017年10月4日に事実が公表され、上田良一NHK会長は「大変重く受け止めている」とし、同月に両親宅を訪問し謝罪した[69][70]
  • 和歌山県警察警備部の当時54歳の男性警視が、2016年8月に自殺。この警視は、2015年和歌山国体で交通規制などの統括責任者を務めていたが、残業時間が朝の2時か3時に及ぶことも多く、自殺直前の2015年6 - 7月の超過勤務はいずれも月200時間を超えていた。地方公務員災害補償基金和歌山県支部はこの警視について公務災害と認定[71]
  • 鳥取県倉吉市の建設課に勤めていた当時44歳の男性職員が、2013年に自殺。この男性は、工事の遅延などの処理のために自殺の直前まで14日連続の勤務となっており、時間外労働の時間は計168時間に及んでいた。遺族が鳥取地方裁判所に訴訟を提起し、その後同市が解決金として約4,000万円を支払う条件で和解が成立することになった[72]
  • ホンダの子会社であるホンダカーズ千葉の千葉市内の販売店に勤務していた当時48歳の男性が、2015年3月に新規オープンした店の店長となったが、部下の残業を減らすため自らが残業したり仕事を自宅に持ち帰ったりしており、残業時間は最大で87時間にも及んだ。男性はうつ病になり解雇された後、2016年12月に自殺。この男性について千葉労働基準監督署は、持ち帰り残業などが自殺の要因になったとして2017年6月に労災と認定した[73]
  • 野村不動産では、企画業務型の裁量労働制を、本来は企画の立案や情報分析などの業務に限って導入可能であるにもかかわらず、実際には営業担当の社員に対しても導入していたとして、東京労働局2017年12月25日に同社に是正勧告と特別指導として社名の公開を実施した。特別指導の理由として「野村不動産の不正を放置することが、全国的な順法状況に重大な影響を及ぼす」と述べている。これを受け同社では、2018年4月1日から裁量労働制を取り止めることにした[74]。この違法な裁量労働制を適用されていた50歳代の男性社員が、2016年9月に自殺しており、2017年に同労働局から労働災害と認定されている[75]
  • ルネサスエレクトロニクスの子会社であるルネサス セミコンダクタ パッケージ&テスト ソリューションズ米沢工場で2001年から2017年まで勤務していた男性は、2017年1月23日深夜に帰宅した後、翌24日未明に倒れ、搬送先の病院で死亡確認。 山形労働局米沢労働基準監督署は、男性の死亡直前の1週間で約25時間、4か月間では1カ月平均で約80時間の時間外労働を行っていたと認定した上で、達成困難なノルマが課されたことで疲労の蓄積を伴う過剰な業務に就いていたと認め、2017年12月7日付で労災認定した[76]
  • テレビ朝日ドラマプロデューサーを務めていた50歳代の男性社員が、2013年に出張先のホテルで倒れ、2015年2月心不全で死亡。この男性は、倒れる直前の3か月間の時間外労働時間が70時間から130時間にも及んでいたことが明らかとなっており、2015年7月労働基準監督署から、死亡は長時間労働に起因する過労が原因として労災認定された[77]
  • 富山県内の公立中学校(校名は非公表)に勤務していた40歳代の男性教諭が、2016年7月にクモ膜下出血により死亡。遺族側や地方公務員災害補償基金富山県支部の調査では、発症直前の2か月間の時間外労働は約120時間にも及んでおり、別の調査では、このうち部活動指導が約7割を占めていた模様である。同支部はこの教諭の遺族に対し、2018年4月に過労死と認定したが、部活動に関する時間外労働としては過去最長とされている[78]
  • 大阪緑涼高等学校2015年に就任した教頭が、2018年3月頃から帰宅が未明になることが多くなり、体調の変調を訴えるようになって、その後同月末に自殺。死亡直前の時間外労働の日数は月215時間にも及んでいた。教頭の遺族らは、校長や事務局長からの高圧的な指導や、極度の長時間労働が原因で精神障害を発症し、これらが自殺の要因となったとして、学校を運営する谷岡学園を相手取り、大阪地方裁判所に訴訟を起こした[79]
  • 学習塾を運営する栄光ゼミナール東京都世田谷区の教室長を務めていた49歳の男性が、2017年11月に勤務中に倒れその後死亡。労働基準監督署が調査したところ、この男性は死亡前の半年間の残業時間が最長で月130時間となっており、長時間労働が原因の過労死であるとして、2018年11月に労災認定された[80]
  • 奈良県庁に勤務していた当時35歳の男性職員が2017年5月に自殺。この職員は、県教委教職員課時代の14年4月から砂防・災害対策課時代にかけ、自殺するまでの半年館で1か月当たりのの時間外勤務が80時間を超えることもあり、2015年以降にうつ病を発症するなどした。地方公務員災害補償基金奈良県支部は2019年5月17日付で、この職員について公務災害と認定した[81]
  • 三菱電機の子会社であるメルコパワーデバイス兵庫県豊岡市の工場に2016年11月まで勤務していた40歳代の男性社員が、精神疾患を発症して休職し、その後別の部署に復職したが、2017年12月に自殺。この男性には裁量労働制が適用されていたが、通常の労働時間に換算して月に100時間超の時間外労働をしていた模様である。男性の家族は過労による自殺であるとして労災を申請し、労働基準監督署から2019年10月に労災認定を受けた[82]
  • 佐川急便から配送業務を請け負っていた運送業の当時51歳の男性が、2009年脳内出血で死亡。この男性の遺族は2019年に同社に対し、約4,500万円の損害賠償を求め大阪地方裁判所に訴訟を提起。この男性は死亡前の時間外労働が平均で月151時間に及んでおり、男性は個人事業主として同社と業務委託契約を締結していたが、遺族側は「実質的には会社の指揮下にあり、佐川には安全配慮義務があった」と主張し争っている[83]
  • ミシュランガイドに掲載された大阪市中央区の有名フランス料理店(店名は非公表)に2009年から勤務していた男性が、2012年に急性心筋炎を発症し、2014年に死亡。男性の妻と両親は、店側が安全配慮を怠ったとして大阪地方裁判所に提訴。 2020年2月21日に同地裁は、男性の時間外労働が月約250時間に上っていたとした上で、長時間労働に起因する疲労や睡眠不足で免疫力が低下し、何らかのウイルスに感染し心筋炎を発症したと認定し、原告に約8400万円の支払いを命じる判決を言い渡した[84]

中国

中国においては過労による死亡は 過勞死(过劳死, guolaosi)とよばれ、2014年から中国国内で報告されはじめた[85]。中国のような東アジア諸国では、多くのビジネスマンが長時間勤務した後、彼らの人脈(グアンシ, guanxi)を拡大し喜ばせなければないというプレッシャーを感じている。グアンシは中国ビジネス界の大部分を占めており、中国各地でビジネスマンは仕事場の外で仕事をするために飲食店に集まるのである。ビジネスマンにとって交際関係を広げることは重要であり、特に有力な政府職員や上司とのグアンシは大事である[86]

2017年10月には、中国で働いていた14歳のロシア人モデルが中国で過労死した。仕事で中国に2か月滞在していたが、その間に低賃金重労働を課されていた疑惑が浮上し、少女の所属していた中国の事務所が親の付き添いもなく14才の少女を働かせていたことも発覚した。ロシアの英字紙は死因について極度の疲労による髄膜炎だと報じた。背景には中国での童顔ブームがあると報じられた[87][88]

韓国

韓国においては 과로사 (過勞死) は、過労による死を指す言葉である。韓国はOECD中で最も労働時間の長い国であり、日本より年間68日多く働く計算である[89]。多くの労働者は、肉体および精神の両方に大きなプレッシャーがかかっていると感じている。多くの人が過労で死亡しており、また政府職員までも과로사で多く死亡するようになったため、この問題は国民の注目を集めるようになったばかりである[90]。過労から引き起こされる多くの問題の対策として、政府は週の労働時間を68時間から52時間へ削減する法律を制定した[91]

インドネシア

2019年インドネシア総選挙では開票作業などの重労働によって、400人以上の選挙スタッフが過労死した[92]

欧米

「日本人は働き過ぎ」とよく言われるが、アメリカの管理職は同等の労働時間と言われており仕事中に脳溢血や心臓麻痺での死亡例が存在する。また欧米は終身雇用の国ではなく解雇が容易なので、従業員の数を調整することで余分な残業代を減らす経営が行われる。そこで長時間の残業が必要とされるのは大抵が最低でも数百万ドルの報酬をもらう重役である。アメリカの企業では解雇が日常茶飯事であると同時に、職員募集も常時行われている場合が多く、転職は特に日常的に行われている。高い能力を持つ人材は他社からのスカウトも多く、労働条件が気に入らなければ退職という選択肢が現実に存在する。また法律および労働契約に違反した企業に対する損害賠償は世界に類を見ない高額さである。このため過労死が会社による強制あるいは労災とは捉えられておらず、社会現象と認識されていない。日本での過労死が「karōshi」として特別視されて報道されるのもこのためである。ただし「karōshi」は存在しないが、簡単に従業員を解雇できるため、能力の低い又は技能が時代遅れとなった人間はすぐさまワーキングプアとなり、一気に最下層へと転落することが多い。また2015年時点のアメリカ空軍では、無人航空機操縦士が酷使されている実態が明らかとなっており、彼らの労働時間は平均で1日14時間、週6日勤務となっている。アメリカ軍では状況を改善するための方策を考えている[93]。またアメリカは企業に有給休暇を義務付ける法律が存在しない唯一の先進国であり、企業が労働者に全く有給休暇を与えなくても法的には問題ではない。アメリカ経済政策研究センター英語版が2013年5月に公表した調査によると、アメリカ人労働者の4人に1人は有給休暇を全く取っていない[94]

イギリス・アイルランドを除く西欧諸国では、一般に労働規制が厳しいため一般の労働者が過酷な労働時間により脳溢血や心臓麻痺で死ぬということはほとんど考えられない。ただし不法移民を使った違法な労働環境での事故死などは考えられる。また無報酬で残業を行うという考え自体が一般的ではない。ただし役員や管理職は長時間労働を強いられることが多い一方で、業績報酬制であるため残業手当は存在しない。

ただし、職場での人間関係のこじれや、パワーハラスメントなどを理由にした自殺などの事例はヨーロッパ大陸の一般労働者でも存在する。フランスではルノーの心臓部とも言われるイヴリーヌ県のテクノセンターで、3か月の間に従業員3人が自殺していたことが2007年2月に日本の報道機関でも報じられた[95]。うち1人は遺書で「仕事上の困難」を記しており、当局が「精神的虐待」がなかったかどうか捜査に乗り出すほどの問題となっている。また、フランスでは2000年から一週間に35時間以上の労働を基本的に禁じる週35時間労働制が施行されている。そのため、一般の労働者に過労は基本的に起こりえないとされる。しかしこうして減らされた労働時間を取り戻すため、企業は労働者にさらなる成果を求める傾向にある。フランスは労働時間を減らしても高い競争力や生産性を維持しているが、労働者にはストレスが掛かり多くの暴力事件や自殺者を生み出しているとの指摘がある。フランスはG8中、ロシア日本に次いで自殺率が高い国である[96]フランステレコムでは、2008年2月から2009年9月の約1年半の間に23人もの自殺が発生して社会問題となり、職場で自殺したり仕事が原因で自殺するとの遺書を遺したケースもある[97]。この一連の自殺では1週間の間に5人が立て続けに自殺したこともある。2009年以降は、経済悪化を背景にした自殺も増加している[98]

イギリスではメリルリンチインターンシップで勤務していたドイツ人留学生が、3日連続ほぼ徹夜で仕事をした後に死亡する事件があった。過労死が疑われており、金融界の過酷な労働環境が問題視されている[99]。また、近年はヨーロッパでも働きすぎによる健康問題が深刻化しており、2003年には数百万人のイギリス労働者が過労死ラインになっているという説もある[100]

サービス残業が常態化している国もあり、2004年のオーストラリアでは労働者の約半分に残業代が支払われていないという調査がある。理由として、労働者が残業を拒否することで解雇されることを恐れているとされる[101]

スイスでは、通信大手のスイスコムチューリッヒ保険最高経営責任者が過労で自殺している。またスイスの労働法では、裁量労働制を採る企業は労働時間の管理義務が免除されている。この法律を悪用して従業員に多大な残業を課している企業もあるとされる[102]

対策

2013年、国際連合の社会権規約委員会は、日本国政府に対して立法や規制を講じるべきと勧告した[103]

ILOは、過労死及び過労自殺対策として以下を挙げている[1]

  1. 重労働・長時間労働の削減[1] - 労働時間、深夜労働、休日労働を減らす努力は、重労働・長時間労働を防ぐために不可欠である[1]
  2. 適切な医療支援および治療[1] - 企業、家族、社会全体が、医療支援のレベルを向上させ、適切な医療施設へのアクセス、および過労死・過労自殺を防止するためのカウンセリングメカニズムの改善。労働者の自殺に関する調査では、ほとんどの人がうつ病など特定の精神障害を患った後に自殺することを示している[1]
  3. 健康で効率的な作業手順および職場の設計[1] - 労働者と使用者の間の積極的かつ効果的な対話を促進する。職場衛生委員会の活動、雇用者と労働者が共同で実施するリスク評価活動は、過労や職業性ストレスのリスクを軽減するのに役立つ[1]

日本国内の動向

近年、日本では過労死の問題が注目されており、これを防ぐための取り組みが始まっている。地方議会などでは、過労死防止基本法の制定を求める動きがある[104]。2013年12月時点で、38の自治体で法制定を求める意見書が採択されており、国政においても過労死防止基本法制定を目指す超党派議員連盟が存在する[105]

また、2013年の参議院選挙では、自民党とともに共産党の議席が増えたが、その理由の一つとして、共産党の志位和夫は過労に対する訴えが評価されたからとしている[106]。2013年9月には、厚生労働省ブラック企業と呼ばれる企業の立ち入り調査を開始している[107]。しかし、過重労働を調査する労働基準監督官が過重な労働を平然と行う状況があり、過重労働をしている労働基準監督官自身の実際の労働時間は、決して答えてはいけないことになっている。

2013年12月17日、厚生労働省ブラック企業対策として、事前にブラック企業の疑いがある5111の企業や事業所を調査したところ、82%に当たる4189箇所で法令違反が確認できたとの調査結果を発表した。厚生労働省は、これらの企業に指導を行い、指導の後も法令違反を続ける企業は、名前を公表する方針を発表している[108][109]

2014年5月23日、衆議院厚生労働委員会は、全会一致で過労死等防止対策推進法案を可決した。過労死対策は、国に責任があることを初めて法律に明記している[110]

2014年6月20日、過労死等防止対策推進法成立。2014年11月に施行。規制や罰則を定めるものではないが、国の取るべき対策として以下を定めている。

  1. 過労死の実態の調査研究
  2. 教育・広報など国民への啓発
  3. 産業医研修など相談体制の整備
  4. 民間団体の支援

自治体や事業主には対策に協力すること事を努力義務とする[111]

2016年9月26日、安倍内閣により働き方改革実現会議が開催され、内閣が目標として掲げた「一億総活躍」の最大の挑戦と位置付けられた。働き方改革では、長時間労働の是正や同一労働同一賃金を目指している[112][113]

2017年3月、「働き方改革実行計画」で罰則付きの残業上限を導入すると明記した。これまでの日本の法律では、残業時間は事実上青天井で延ばせるようになっており、時間外労働に上限が設けられるのは初めてとなる[114]。残業は「月45時間、年360時間」を原則とし、繁忙期などの特例として年間上限を「720時間(月平均60時間)」にする。ただしこれでは多すぎるとの批判のほか、休日出勤して働く時間が上限の範囲外とされており「休日労働」の時間を合わせれば、年に960時間まで働かせられる制度設計になっているという批判もある[115][116]国際労働機関ガイ・ライダー英語版事務局長は、2017年5月12日の来日時にインタビューで働き方改革について「政・労・使の三者が交渉し合意したことは、非常に重要かつ適切で、歓迎したい」「残業時間に上限規制が設けられたことは歓迎するが、国際的な比較でみれば、まだ長すぎると思う」と回答している[117]


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  118. ^ 5万人を調査した結果、仕事中に客による悪質な要求などの迷惑行為を受けたことがあると回答した人は3万6000人と悪質な客の被害経験者は全体の70%に上る。労働者として客に受けた迷惑行為の内訳(複数可能)が「暴言」が49%の2万4100人、「同じ内容を繰り返す」が29%の1万4200人、「説教など高圧的態度」が27%の1万3300人で、「セクシュアルハラスメント」が約10%の4900人。精神的負担による過労死にも繋がる心身への影響について90%近い3万3400人が「ストレスを感じた」と回答している。
  119. ^  高橋洋一・ブラック企業も減る!アベノミクスの効果とは
  120. ^ 日本流「過剰サービス」は誰も幸せにしない「カネを取れないサービス」は本当に必要か
  121. ^ サービス過剰な日本人は「中国人」に学べ「お客様は神様です」意識を捨てよ
  122. ^ これって“過剰”? ニッポンのサービスが変わる - NHK クローズアップ現代+
  123. ^ 日本の過剰サービスは労働力を浪費するだけ?中国が指摘
  124. ^ 宅配便の急増 過剰サービスは見直しも
  125. ^ 過剰サービスを強要する客を撲滅、SIerは連合キャンペーンを張るべし
  126. ^ 「過剰なサービス」を求められる飲食業界、現場の従業員からは悲鳴が…
  127. ^ そりゃ過労死するわ…世界一甘やかされた客? 「やりすぎ」サービスでもまだ不満な日本人
  128. ^ 日本の過剰労働は、「お客様」の暴走が原因だ 理不尽な要求にノーといえる文化を作ろう
  129. ^ http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171109/k10011218061000.html?utm_int=all_side_business-ranking_002


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