迫撃砲 構造

迫撃砲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/22 09:35 UTC 版)

構造

M2 60mm 迫撃砲第二次世界大戦期の代表的な軽迫撃砲
L16 81mm 迫撃砲。現代の代表的な中口径迫撃砲の一つであり、軽量かつ長射程で知られる。非対称の支持架が特徴
120mm迫撃砲 RT。現代の代表的な重迫撃砲の一つであり、被牽引用のトレーラーが砲架と一体になっており、迅速な移動・展開が可能である。単位時間あたりの炸薬投射量は自重7t以上の155mm榴弾砲を凌駕する

砲本体

81mmクラスの中口径迫撃砲は各部に分解して数名の兵員で運搬でき、また、120mmクラスの重迫撃砲では支持架(砲架)の構造がやや複雑になり被牽引用のトレーラー[注 5]が加わることも多いが、基本構造は同一である。

迫撃砲の主な口径は、60mm・81mm・82mm[注 6]・107mm・120mmであり、#分類で述べるように、各階梯に応じた口径のものが配備されている。現代でも実戦配備されている最大口径のものはロシアの240mm重迫撃砲2B8で、同国の自走迫撃砲である2S4チュリパンにも同砲が搭載されている。また、フィンランドイスラエルには160mm重迫撃砲が存在する。

他の火砲と比べて短い筒状の「砲身(barrelまたはcannon)」、二脚によって砲身を支える「支持架(bipodまたはmount)」、砲尾に接合された「底盤(base plate)」の、主に3つのコンポーネントで構成される。

砲身
砲身長は一般に他の火砲と比べ短く、概ね20口径未満[注 7]であり、例えばL16A2なら砲身長は1.28mで概ね15.8口径、MO120RTの砲身長は2.08mで概ね17.3口径である。砲身の構造自体は単純であるが、軽量化するため肉厚は薄く、また砲弾外径と砲腔内径の公差が射撃精度を左右するために、高品位の鋼材を精密に加工する必要がある。一部の迫撃砲には冷却力を増すため、砲身外周に放熱フィンが刻まれている。
砲身内部は施条されていない滑腔砲であることが多い。そもそも迫撃砲は低い砲口初速と曲射弾道であることから、ライフリングによって砲弾を旋転させることで得られる弾道安定の効果が低い。飛翔中の砲弾の弾道を安定させるのは、砲弾に取り付けられた安定翼によるが、この方式は横風の影響を受け易いため命中精度がやや低下する。
ただし、第二次世界大戦アメリカが使用したM2 107mm迫撃砲やその後継のM30 107mm迫撃砲陸上自衛隊が装備しているフランス120mm迫撃砲 RTの砲身はライフリングされており、弾体旋転安定方式をとるため、迫撃砲が全て滑腔砲身というわけではない。
支持架
支持架は二脚と支柱で構成され砲身中央部付近と接合し、底盤と合わせて砲身を三点支持する態様をとることが多い。しかし、一部の迫撃砲の中には二脚を用いずに、支柱が直接底盤と接合されたものもある。支柱には、照準器や砲の俯仰(上下)を操作するステアリング等が取り付けられる。
底盤
射撃時の反動は底盤を介して地面に吸収させる方式をとり、底盤は接地面に強く固定されることが望ましい。第二次大戦前までは、M2 60mm 迫撃砲のように四角形の底盤が一般的であり、この場合、射角を左右に大きく変更する場合は砲を据え直す必要があった。しかし、ソビエト連邦82mm迫撃砲BM-37で円形底盤を導入したことにより、砲尾と底盤の接合部付近を中心に砲を旋回させることで、全周360度を射撃できるようになった。120mm迫撃砲 RTの場合、砲架はトレーラーも兼ねているが、タイヤを左右それぞれ逆方向に回転させることで人力でも容易に砲を旋回させることができ、全周射界を確保している。

優れた設計思想

155mm榴弾砲M198(比較のため掲載)
総重量は7tを超え、駐退復座機・平衡機・閉鎖機や砲架など大掛かりな各種構造が覗える。しかし、単位時間あたりの炸薬投射量を比べると、重量600kg未満の120mm迫撃砲MO120RTがM198の約4倍もの大火力をもつ。(後述)
ただし射程では大きく劣り、M198の最大射程30,000mに比してMO120RTは13,000mに過ぎない。(いずれもRAP使用時)

冒頭で述べたように、砲口初速を低く抑えた上で、射撃時の反動を地面に吸収させるという点が、他の火砲と異なる最も重要な特徴であり、大きな仰角をとって射撃するのはこのためである。

通常の火砲は、抵抗をかけながら砲身を後座(スライド)させることで発射時の反動を緩衝する「駐退機」、後座させた砲身を元の位置へ戻す「復座機」[注 8]、砲の俯仰を円滑にするため砲身のバランスをとる「平衡機」、装薬の燃焼ガスが薬室から漏出するのを防ぐ「閉鎖機」、及びこれらの機構と砲身を含めた大きな重量を支持するための堅牢な「揺架」・「砲架」などが必要である。(右の画像を参照)

迫撃砲は、前述の反動吸収方式によって駐退復座機を省略または簡素化できるため、同口径榴弾砲と比べ極めて軽量かつコンパクトに収まる。加えて、低い初速は各部の強度を抑えることを可能にし、それだけ砲身の肉厚を薄くするなど、軽量・小型化に寄与する。砲身が軽く俯仰の仕組みもシンプルなため、平衡機も不要である。

また、後装式の火砲は装薬の爆発で生じる高圧の燃焼ガスを密閉するため砲尾に耐圧気密構造の閉鎖機構を設けるが、弾薬を装填するためには容易に開閉できねばならず、これらを相反する機能を両立させる必要がある。このため、閉鎖機の製作には高い工作精度を要求されるが、砲口装填式(前装式)の迫撃砲は閉鎖機が不要で短期間かつ安価に製造できる。

砲弾を砲身内へ滑り落とすだけの落発式によるため速射能力も高く、迫撃砲はこれらの優れた着想を組み合わせた画期的な火砲である。

なお、車載型迫撃砲では車輌のサスペンションに与える衝撃と疲労を軽減するため簡易的な駐退復座機をもつ場合がある。大口径もしくは長砲身の迫撃砲でも同様。また、後装式の場合は当然に閉鎖機が設けられる。

砲弾

81mm迫撃砲の主な砲弾。
上からM374A2榴弾(HighExplosive)、M375A2発煙弾(WhitePhosphorus)、M301A3照明弾(Illumination)

迫撃砲の砲弾は弾体と発射薬が一体化されたカートリッジ方式であり、榴弾砲に見られるような砲弾と薬嚢(装薬を包んだ袋)が別になった分離装填方式をとらない。ただし、射程の延伸を図るため、発射薬筒に増加発射薬を1から複数個取り付けるモジュール方式を採ることが一般的で、その数によって射距離を調節できる。増加発射薬を使わず、発射薬だけでも射撃は可能である。増加発射薬はリング状や袋状のものを弾体後部に取り付けるか、袋状のものを安定翼の間に挟むことで装着する。ライフリングされた砲の場合は安定翼が不要なため、その部分に増加発射薬を取り付けることもある。

発射薬筒の側面には多数の小孔が設けられており、そこから噴出した燃焼ガスが増加発射薬を点火する。発射薬筒や増加発射薬の燃焼ガスは砲弾の後半部分を加圧し、砲口に向かって推進させる。

有翼弾の場合は砲外弾道を安定させるために、安定翼の加工・組立精度に加えて、弾体の鋳造精度が重要となる。

迫撃砲に用いられる主な砲弾は榴弾発煙弾照明弾であり、派生型として対人用の破片榴弾や焼夷弾も用意されている。概ね榴弾砲と同じ弾種が揃っており、兵員や非装甲車輌などのソフト・ターゲットを目標とする。また、近年では、ストリックス迫撃砲弾や対装甲破片榴弾(PRAB)などの対装甲弾も開発・配備されている。


注釈

  1. ^ 真空中であれば砲弾は放物線を描くが、迫撃砲は最も強く空気抵抗の影響を受けるため砲弾の落下角度は垂直に近くなる。詳しくは斜方投射を参照
  2. ^ 砲口初速(muzzle velocity)とは、砲身から射出された直後の砲弾の飛翔速度のこと。単に初速ともいう。砲弾が砲身内を進んでいる間は装薬の燃焼ガスによる圧力で加速し続けるため、長砲身であるほど初速は高くなる(ただしバランスがあり、砲身長が長ければ長いほど良いとは限らない)
  3. ^ 口径」には二通りの意味があり、ストレートに砲口直径が何 mmであるかを指す場合(例えば「口径155 mm」と表記)と、砲身長が砲口直径の何倍であるかを指す場合(例えば「71口径88 mm砲」と表記)がある。後者は「口径長」を略した「口径」である。紛らわしいのが拳銃小銃機関銃などの口径表記で、例えば30口径は銃身長ではなく口径7.62 mmを指す。50口径なら12.7 mmで、これは1インチ(25.4 mm)の0.3倍、0.5倍であることから。「.30」「.50」と表記することもある
  4. ^ 砲全般の分類や用語そのものが曖昧で、厳密な分類は非常に困難。同じ用語でも国や時代によって語義やその範囲が異なることもある。また、日本語には紛らわしい和訳や造語が多いので注意を要する。例として、英語の"cannon(キャノン)"は全ての火砲を包括する名詞だが、大日本帝国陸軍において「加農(カノン砲)」とは長砲身砲を指す(帝国陸軍はドイツ式に範をとったため、ドイツ語の"kanone"に由来)。また、「榴弾」は弾種を指す用語でほぼ全ての火砲(砲種)で使用する砲弾だが、「榴弾砲」として砲自体の名称に用いられる。
  5. ^ 「被牽引用のトレーラー」とは、タイヤとトレイル(脚)で構成された車台のことで、牽引する側(牽引車)のトラクターのことではない
  6. ^ ロシア製(または旧共産圏)の中口径迫撃砲は81mmではなく82mm口径であり、ロシア軍は敵の81mm砲弾も使用できるが相手側はロシア軍の82mm砲弾を使用できない。ただし、間隙が1mm増すため射程距離や命中精度などの点で所期の性能を発揮できるわけではない
  7. ^ 砲身長10口径未満は「臼砲」とする定義もあるが、ほとんどの臼砲は更に短い砲身であることが多い
  8. ^ 駐退機と復座機は一体化されていることも多く、「駐退復座機」と称する
  9. ^ レーザー誘導を行うためには目標にレーザーを照射する観測班が必要である
  10. ^ 「壊滅」とは、部隊が30%以上の人員損耗を受け、戦闘力を大幅に喪失して補充などを受けねば戦力にならない状態を指す。「無力化」とは、部隊が10%以上の人員損耗を受け、数時間は交戦できない状態を指す。「制圧」とは、敵兵の攻撃を中断させ、掩蔽へ追い立てて応射の精度と威力を削ぐことである
  11. ^ 第一次世界大戦時において、ミーネンヴェルファーを扱うのは戦闘工兵であり、工兵科の管轄に属していた。同時期に砲兵部隊ではミーネンヴェルファーそっくりな形状と性能の臼砲を運用していた
  12. ^ ターンテーブルは360度旋回が可能なものが多く、最新型では発射時の反動による車体やサスペンションへの負担を軽減させるために駐退復座機を設けていることがある
  13. ^ 口径が90mmであるにもかかわらず「軽」と付いている理由は欺瞞用にあえて低威力であるかのように装ったためという記述も見られるが、単に同時期に開発された3種の迫撃砲中最小口径であった故の名称である。元来が第一級秘密兵器であり、存在そのものが秘匿されていた。これは化学戦での運用を第一とするガス弾投射兵器であったためであるが、通常榴弾も用意され、実戦では中国戦線で一部毒ガス弾を使用した他は通常弾で戦っている。ストークブラン式迫撃砲であるが、簡易な駐退復座機が設けられている
  14. ^ 九四式軽迫撃砲と同様、150mmクラスであるにもかかわらず欺瞞用に「中迫撃砲」と名付けられたとも言われるが、同時期に開発された迫撃砲で中間の口径であった故の命名である。ストークブラン式迫撃砲としては珍しい大型の駐退復座機が設けられ、その複雑さと大重量が仇となりほとんど生産されずに終わった。
  15. ^ 九四式軽迫撃砲から駐退復座機を省き、大型の木製床板を併用することで本体の軽量化を図った。ただし、木製床板を含めた重量は九四式軽迫撃砲よりも重くなっている
  16. ^ 九六式中迫撃砲から駐退復座機を省いた簡易版で、「長」(およそ12.9口径)と「短」(およそ9.3口径)の2種類が存在する。重量はそれぞれ「長」342kg、「短」232.5kgで、九六式中迫撃砲の722kgから軽量化が図られたものの、「長」の木製の副床板の重量は370kgに及び、本体と合わせた場合の重量はさほど変化なく、「短」は軽量化のために射程を半分以下に抑えている
  17. ^ 空挺部隊及び歩兵の近接支援火器であるが、曲射歩兵砲ではなく迫撃砲という名称が付けられている

出典

  1. ^ a b c d クリス・マクナブ, ウィル・ファウラー「3 支援火器」 『コンバット・バイブル』2003年、126〜171頁。ISBN 4-562-03624-9 
  2. ^ [1]
  3. ^ 米国国防総省国防技術情報センター(DTIC Online)
  4. ^ 「近世」の節…『戦略・戦術・兵器事典(5)~ヨーロッパ城郭編』p.82~83
  5. ^ 『図説 日露戦争-兵器・全戦闘集』p.26-27、『大砲入門』p.87-89
  6. ^ アジア歴史資料センター所蔵「迫撃砲献納の件」 [2]
  7. ^ アジア歴史資料センター所蔵「迫撃砲使用法送付の件」[3]






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