軽油
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/24 14:36 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動英語圏では「Diesel」で、軽油(ディーゼル燃料)の意味となる。日本のガソリンスタンドでは、セルフ式スタンドの普及により誤給油を防ぐ理由から「軽油」の代わりに「ディーゼル」と表記されている場合がある。中国語では「柴油」[注 2]といい、「軽油」は別物の「軽質ナフサ」あるいは「軽質コールタール」を指す。
消防法において第4類危険物(引火性液体)の第2石油類に灯油とともに属する。消防法での指定数量はガソリンの200リッターに対して5倍の1000リッターだが、これは貯蔵方法についての基準を示すもので、ガソリンの5倍安全という意味ではない。ガソリンの引火点が-40℃に対して引火点が常温より高いことから比較的安全とされているが、軽油も液温が引火点である45℃を超えてしまえば引火の危険性はガソリンと変わらず、何らかの事情で霧状になると常温でも引火するため取り扱いには注意が必要である。
概要
原油の蒸留によって得られる沸点範囲が180 - 350 ℃ 程度の石油製品(炭化水素混合物)である。主成分は炭素数10 - 20程度のアルカンである。精製直後は無色であるが、出荷前にエメラルドグリーンなどに着色される(精製会社により異なる)。
用途
主にディーゼルエンジンの燃料として用いられる。
自動車(特に大型車)・鉄道車両・船舶用のディーゼル燃料が日本の軽油の消費量の95%を占めるが、建設機械・農業機械の燃料、窯業・鉄鋼用の燃料、電力用内燃力発電における発電機燃料としても使用されている。高出力で熱効率(燃費)が良いため、負荷の大きいバスやトラック等に向いており、またガソリンよりも税金(軽油引取税等)が安い利点もある。
西ヨーロッパでは日本に比べると、ガソリンに対する価格的なメリットが無く、車両価格においてもガソリン車のそれを上回るにもかかわらず、自家用車でのディーゼルエンジン搭載車両の割合が非常に高い(→ディーゼル自動車)。北米では、軽油の方がガソリンよりも高いので、自家用車用途ではほとんど普及していない。
フォルクスワーゲンが、一時期環境に良いことをアピールして売り出したが、アメリカ合衆国でのディフィートデバイス排気ガス不正事件により頓挫してしまった。日本は、生成される軽油の量に対して使用量が下回っているので、軽油は輸出されている。そのため、近年のディーゼル車の普及は、売らざるを得ない軽油を自ら消費できるという点において、日本の経済にとっても有益となっている。マツダが自社のディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」を展開する折、この供給のバランスの悪さに触れ、「ディーゼル車の普及により国内での軽油使用量を増やすことで、日本のエネルギーバランスを最適にし、CO2排出量を削減しながら貴重な輸入資源を無駄なく効率的に使うことができる」と主張している。
ディーゼルエンジンを用いる軍用車輌にも使われているが、アメリカ陸軍では、1988年から「単一燃料コンセプト(SFC)」として、ジェット燃料のJP-8へと使用燃料を統一するテストを開始しており、戦車・装甲車・貨物自動車・ヘリコプターから偵察用バイクまで、事実上の灯油であるJP-8を使用するようになっている。
品質
ディーゼル用軽油としての要求性状は
- 始動・燃焼を順調に行うため着火性の良いこと。すなわちセタン価が高いこと。
- 燃焼を均一に行うために噴霧状態を良くすることが必要である。そのため、燃料中に不純物を含まず、かつ、粘度が適当であること。
- 不完全燃焼による炭素(すす)の生成を防止するため、アスファルトなどの高沸点留分が少ないこと。
などである。
これらをふまえた上で、軽油の規格は次のとおりとされる。
試験項目 | 試験方法 | 種 類 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
特1号 | 1号 | 2号 | 3号 | 特3号 | ||
引火点 ℃ | JIS K 2265 | 50以上 | 45以上 | |||
蒸留性状 90%留出 温度 ℃ |
JIS K 2254 | 360以下 | 350以下 | 330以下(*1) | 330以下 | |
流動点 ℃ | JIS K 2269 | +5以下 | -2.5以下 | -7.5以下 | -20以下 | -30以下 |
目詰まり点 ℃ | JIS K 2288 | - | -1以下 | -5以下 | -12以下 | -19以下 |
10%残油の残留 炭素分質量% |
JIS K 2270 | 0.1以下 | ||||
セタン指数(*2) | JIS K 2280 | 50以上 | 45以上 | |||
動粘度(30℃) mm2/s | JIS K 2283 | 2.7以上 | 2.5以上 | 2.0以上 | 1.7以上 | |
硫黄分 質量% | JIS K 2541-1, JIS K 2541-2, JIS K 2541-6 又は JIS K 2541-7 |
0.0010以下 | ||||
密度(15℃) g/cm3 | JIS K 2249 | 0.86以下 | ||||
備考 | 夏季用 | 冬季用 | 寒冷地用 |
(*1)動粘度(30℃)が4.7mm2/s以下の場合には、350℃とする。
(*2)セタン指数は、セタン価を用いることもできる。
- 地方税法上の軽油の規格
- 比重:温度15度において、0.8017を超え0.8762まで
- 分留性状90%留出温度:267度を超え400度まで
- 残留炭素分:90%を留出した後の残油に含まれている炭素分の重量が残油総重量の0.2%以下
- 引火点:130度以下
- 関税定率法上の軽油の規格
- 比重:温度摂氏15度において、0.8757以下
- 分留性状90%留出温度:310度を超え400度まで
- 揮発油等の品質の確保等に関する法律上の軽油の規格
低硫黄化(脱硫)
環境規制に対応するため、自動車の触媒やディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)に悪影響を及ぼす硫黄分を減らす、低硫黄(サルファーフリー)化が1992年(平成4年)に5,000 ppm から2,000 ppm へ、1997年(平成9年)からは500 ppm へと段階的に進められ、日本国政府の規制においては2005年(平成17年)から50 ppm へ、東京大気汚染訴訟後の2007年(平成19年)から10 ppm へと、さらなる低硫黄化が進められた[2]。
日本では2004年(平成16年)末、自動車排出ガス規制に関連する「自動車燃料品質規制値」の変更に伴い、軽油に含まれる硫黄の許容限界は、従来の0.01 %質量以下から0.005 %質量(50 ppm )以下へと改められ[3]、2007年(平成19年)からは10 ppm 以下へと改められた[2]。
なお、石油連盟に加盟する元売りにおける、50 ppmおよび10 ppmの供給は、日本国政府の規制より早く、50 ppmは1年9ヶ月早い2003年(平成15年)4月より、10 ppmは2年前倒しで2005年(平成17年)1月から自主的に供給する形となった[4]。
これらは世界的にも早く、欧州連合やアメリカ合衆国では広範囲な地域に供給が及ぶため単純な比較は出来ないものの、EUやアメリカよりも早く、統一したサルファーフリー軽油の供給が成されたことになる。なおEUの規制では50 ppmが2005年から、10 ppmが2009年から、アメリカでは2006年6月1日より15 ppm(ノンロード用除く)となっている[5]。
燃料内の硫黄分は、噴射ポンプと噴射ノズルの潤滑のためには必要な要素であったため、脱硫した軽油には潤滑剤(材)が添加されている。
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注釈
出典
- ^ “「軽自動車に軽油」―減らない燃料の給油ミス”. 日本自動車連盟 (2010年2月22日). 2010年2月27日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2019年12月1日閲覧。
- ^ a b c “品質への取り組み - 北海道製油所 - 出光興産”. 出光興産. 2009年4月20日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2009年3月29日閲覧。
- ^ 自動車燃料品質規制値 (PDF) (環境省)
- ^ サルファーフリーについて - 石油連盟(2004年9月)2018年6月21日閲覧
- ^ “1編6章2節 環境規制と燃料品質動向 | 石油便覧 - JX日鉱日石エネルギー”. 2014年11月30日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2014年11月28日閲覧。
- ^ 第3編第1章第5節 軽油|石油便覧 JXTGエネルギー
- ^ “プレミアム軽油の販売終了について”. JX日鉱日石エネルギー (2010年11月26日). 2011年9月10日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2010年12月25日閲覧。
- ^ プレミアム軽油販売終了のお知らせ(コスモ石油)
- ^ “5編1章5節 軽油 | 石油便覧 - JX日鉱日石エネルギー”. 2015年2月18日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2015年2月18日閲覧。
- ^ 寒冷地ではバッテリー、冷却液、軽油はどんな影響を受けますか?
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