赤外線 発見

赤外線

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/26 14:48 UTC 版)

発見

1800年イギリスウィリアム・ハーシェルにより赤外線放射が発見された。彼は太陽光をプリズムに透過させ、可視光スペクトルの赤色光を越えた位置に温度計を置く実験を行った。この実験で温度計の温度は上昇し、このことから彼は、赤色光の先にも目に見えない光が存在すると結論づけた[6]。この発見に刺激され、翌1801年にはドイツヨハン・ヴィルヘルム・リッターにより紫外線も発見されている[7]

1850年にはイタリアマセドニオ・メローニが、赤外線には反射、屈折、偏光、干渉、回折がみられ、その性質は可視光と同じであることを実験によって示した。

用途

熱源

カーボンヒーター。ピーク波長は遠赤外線領域で、輻射の大部分が赤外線である。

遠赤外線(熱線)の放射は、対象物に熱を与える効果があり、暖房や調理器具などとして利用されている。多くの暖房器具は輻射を利用しているが、暖房効果における輻射の比率には大小がある。主に輻射による暖房器具として、こたつ電気ストーブなどがある。燃焼を使う器具は温度が高いため可視光の比率が多いが、温度の低い触媒燃焼を利用する器具もある。輻射を利用した調理器具としては電気オーブンやオーブントースターが挙げられる。また塗装の工程で塗装面に熱を与えて硬化させる場合には輻射を利用した専用のヒーターが用いられる。リフロー方式によるプリント基板のはんだ付けでは、基板及び部品の加熱に用いるリフロー炉において遠赤外線がしばしば使用される。

上述の通り、遠赤外線は身体の内部から温めると言われるが、これは誤りであり、数ミリ程度しか浸透しない。物質の内部から温める効果としては、遠赤外線よりも波長が長い電磁波であるマイクロ波のほうが、より顕著である。その一方でマイクロ波は対象となる物質によっては、透過したり反射されたりするため、加熱が困難、不可能な場合もある。

透明なシリコーン樹脂製の型にプラスチックのペレットを充填し、近赤外線で加熱・成型する「光成形法」が、金型による射出成型よりも低コストな製造法として注目されている[8][9]

センサ

赤外線カメラによって作成されたサーモグラフィー

近赤外線と遠赤外線は、センサ目的に各分野で広く用いられている。

赤外線は可視光に比べて波長が長いため、散乱しにくい性質を利用して、煙や薄い布などを透過して向こう側の物体を撮影するために用いることができる。また目に見えないという特性もあるため、夜間に被写体を近赤外線光源で照らしても被写体に気付かれることなく撮影することができることから、警備・防衛用途や、野生動物の観察・研究用途にも広く用いられている。これらの用途には、主として近赤外線が用いられる。

一方、あらゆる物体はそれ自身の温度によった遠赤外線を出している(黒体放射)ため、対象物の放つ遠赤外線を感知するセンサは、光源が無い場所でも目標を発見することが可能である。また黒体放射においては、温度に応じて異なる強度の赤外線が放射されることから、対象物の温度を測定することができる。これを利用した技術がサーモグラフィーである。

リモートセンシング衛星

地表や海面の温度を調べるのはもちろんのこと、植生の状況をモニタリングするために近赤外域や中間赤外域(短波長赤外域)が使用される。植生は太陽光の可視域の反射が低く、近赤外域の反射が非常に強いという分光反射特性をもつ。可視赤色域と近赤外域を用いた植生指数が多数提唱されている。

赤外線天文学

赤外線で星や銀河等を観測することにより、他の波長の電磁波ではわからない現象を調べることができる。例えば我々の銀河系中心方向には視線方向に、可視光を吸収してしまう星間物質があるため可視光線では観測できないが赤外線を検出することにより、銀河中心付近の星の分布などを調べることができる。

通信手段

赤外線通信 (D901iS)

近距離赤外線通信規格IrDAの携帯電話への普及により、赤外線通信が一般に認知され、使用されるようになった。電波で通信する方式に比べて、信号が空間的に広がりにくく(回折を起こさず)、障害物があると通信できない欠点はあるものの、それは第三者に傍受されにくいというセキュリティ上の大きな長所でもある。

ザウルスなどの以前の機種では、ASK方式が用いられていた。

また、屋外で使う自動車用ドアロック・ワイヤレスリモコンは周囲の明るい光が妨害源となり赤外線通信には不向きであるので電波を利用するものが多いが、強烈な光に晒されることのない屋内で使われる家電製品のワイヤレスリモコンは電磁ノイズの影響を受けない赤外線を利用しているものがほとんどである。

音の伝送

のワイヤレス伝送を行う場合に、電波を使わずパルス変調した赤外線を光源から発信し、受光器で受信して復調する機器がいくつか存在する。家庭用ではヘッドフォンで使用され、業務用ではカラオケマイクロフォン同時通訳を聞く際のレシーバに使用されている。

電波と異なり壁を透過しないので外部との混信や盗聴の心配が少なく、マルチチャンネル化も容易で利便性が高いが、一方で送受信器の間に大きな物体があるなど赤外線が届かない条件もしばしば起きるため、使用場所の形状によっては送受信器のうち固定器側について数を増やしたり、人や物に遮られない高所に設置するなどの検討が必要になる。また移動器側も衣服のポケットに入れたり、手で握るなど赤外線を遮らないよう注意する必要がある。受信機に太陽光などの強力な熱線が当たると受信センサーの赤外線が飽和して伝送が不調になる場合もある。

静脈認証

生体認証の一方式として使用される。皮膚への浸透深度は近赤外線域では数mm(最大6 mm)である。短波長側(0.7 - 0.8 µm)の近赤外光は静脈認証[10]や医療用の一部の検査装置[11]などに利用される。静脈認証は静脈血内のヘモグロビンが近赤外光を強く吸収する性質を利用している[12]

赤外分光法

全ての分子には、ある決まった周波数の電磁波を吸収する性質がある。これを赤外線の領域で調べる手法が赤外分光法 (IR法) であり、分子内部における原子の振動状態を通じて物質の構造に関する知見を得ることができる。赤外領域の基準振動がスペクトル分析の基本であるが、吸収が大きすぎるため、近赤外領域にある、吸収の少ない倍音、三倍音を観測することもある。近赤外の分光法は赤外に比べ感度が極めて低く、そのため利用が遅れていたが、分析手法の発達により、非破壊検査・測定に利用されるようになった。

熱紋

熱紋とは熱源から放射される赤外線の固有の波長分布や形状を指し、熱紋をデータベースと照合することにより熱源を同定することができる。


  1. ^ a b c 赤外線”. 天文学辞典. 日本天文学会 (2023年2月9日). 2023年4月1日閲覧。
  2. ^ 赤外線の話 - 図5 膜厚が異なる水膜の赤外吸収スペクトル
  3. ^ 社団法人遠赤外線協会「遠赤外線とは?・遠赤外線技術」
  4. ^ 日本生体医工学会監修「MEの基礎知識と安全管理 改訂第5版」p51
  5. ^ 「太陽系探検ガイド エクストリームな50の場所」p83-84 デイヴィッド・ベイカー、トッド・ラトクリフ著 渡部潤一監訳 後藤真理子訳 朝倉書店 2012年10月10日初版第1刷
  6. ^ 「宇宙観5000年史 人類は宇宙をどうみてきたか」p133 中村士・岡村定矩 東京大学出版会 2011年12月26日初版
  7. ^ 「宇宙観5000年史 人類は宇宙をどうみてきたか」p133-134 中村士・岡村定矩 東京大学出版会 2011年12月26日初版
  8. ^ 光成形、マイクロ波成形のしくみ、ディーメック
  9. ^ 35年前の初代G-SHOCKが新品相当に復活。“光成形”レストアサービス、Impress Watch、2018年10月31日、同年11月25日閲覧
  10. ^ マイクロソフト Enterprise Web「IT先進企業 日立製作所」[リンク切れ]
  11. ^ 近赤外線トポグラフィによる脳機能計測 (PDF) (一例)[リンク切れ]
  12. ^ 実用化が進む生体認証技術 (PDF) - 静脈認証技術とその適用事例(沖電気)
  13. ^ 人間にもスーパービジョンが!?不可視とされていたはずの赤外線が特定の条件下で見えることが判明(米研究)”. カラパイア (2014年12月6日). 2020年11月21日閲覧。


「赤外線」の続きの解説一覧




赤外線と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「赤外線」の関連用語

赤外線のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



赤外線のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの赤外線 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS