賃金 賃金台帳

賃金

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/11/15 02:26 UTC 版)

賃金台帳

使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない(第108条)。そしてその記録を3年間保存しておかなければならない(第109条)。

賃金の確保

賃金収入は、労働者の生活の根幹を成すものであり、労働者は賃金が得られなれば生活を営むことができない。ゆえに賃金には一般の債権より優先される先取特権がある(民法第306条、民法第308条。破産時には財団債権となる)。したがって労働者は使用者の全財産に対して担保権を実行することができるが、税金や社会保険料よりは劣後する(国税徴収法第8条、地方税法第14条)。実務上は、残業代等の未払い等かなり明確な証拠が無い限り、一般先取特権の担保権執行が認められることは難しく、実際には、先取特権を用いて賃金の回収ができる場合は限定されている。

「資金繰りに苦慮している」「取引先への支払いを優先させる」などの理由であっても、労働者への賃金の支払いを滞らせる行為は許されない[5]。また、如何なる理由があろうとも、賃金の支払い遅延は遅延損害金請求の対象となる(賃金の支払い遅延による損害金を参照)。

賃金の減額

賃金の減額には明確な基準が要求され、「使用者が、個々の労働者の同意を得ることなく賃金減額を実施した場合において、当該減額が就業規則上の賃金減額規定に基づくものと主張する場合、賃金請求権が、労働者にとって最も重要な労働契約上の権利であることに鑑みれば、当該賃金減額規定が、減額事由、減額方法、減額幅等の点において、基準としての一定の明確性を有するものでなければ、そもそも個別の賃金減額の根拠たり得ないものと解するのが相当である。」とされる。[6]

賃金の未払い

第24条~第27条の規定に違反した者は、30万円以下の罰金に処せられる(第120条)。労働法上は賃金の未払いがあれば労働基準監督署がその支払をするよう指導できるが、企業に支払能力がなければそれ以上の強制は困難となる。

企業(個人企業含む)が倒産した場合、未払いとなっている賃金の一部については、一定の要件を満たした場合には、労災保険による社会復帰促進等事業の一つとして行われる未払賃金の立替払事業によって、独立行政法人労働者健康福祉機構に支払を請求することができる(詳しくは、未払賃金の立替払事業を参照)。

賃金の未払いとなる特殊な例

労働者が年次有給休暇の時季指定をした労働日について、これを欠勤とみなし当日分の賃金(各種手当含む)を支払わないことは、労働者に対する不利益取扱いにあたり(昭和63年1月1日基発1号)、賃金の未払いとなる[7]。ただし、これに伴う皆勤手当の不支給については、労働者の受ける不利益がごく少ない範囲である場合は年次有給休暇を取得する権利を阻害せず有効であると判断されている(沼津交通事件、最判平5.6.25)。また、年次有給休暇取得日の通勤手当など実費弁償的な手当の不支給については、有効とされている。

サービス残業は、割増賃金(第37条)を支払わない残業であるから、その分においては賃金の未払いとなる[8]

賃金の支払い遅延による損害金

賃金の支払いが遅延(未払い)した場合、労働者は使用者に対し、本来支払われるべき日の翌日から遅延している期間の利息に相当する遅延損害金を請求することができる。遅延損害金は、営利企業の場合は商事法定利率の年利6%(商法514条)、財団法人や学校法人など営利企業以外の場合は年利5%(民法419条、404条)となる。

労働者が既に退職している場合、支払期日までに支払われていない分の賃金(退職金は含まれない)については、賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法)6条を根拠に年利14.6%の遅延損害金を使用者に対して請求することができる。

賃金の未払いによる退職

所定の額を上回る賃金の未払いがあったために労働者が離職した場合、離職者は雇用保険における基本手当の受給において「特定受給資格者」(倒産・解雇等により離職した者)として扱われ、一般の受給権者よりも所定給付日数が多くなる(雇用保険法第23条)。具体的には以下の例による離職である(雇用保険法施行規則第36条3号・4号イ・4号ロ)。また、賃金が最低賃金法の規定による最低賃金額未満であることを理由に退職した場合もこの基準に含まれる。

  • 賃金(退職手当を除く)の額を3で除して得た額を上回る額が支払期日までに支払われなかったこと。
  • 予期し得ず、離職の日の属する月以後6月のうちいずれかの月に支払われる賃金(臨時に支払われる賃金を除く)の額が当該月の前6月のうちいずれかの月の賃金の額の85%を下回ると見込まれることとなったこと。
  • 予期し得ず、離職の日の属する月の6月前から離職した日の属する月までのいずれかの月の賃金(臨時に支払われる賃金を除く)の額が当該月の前6月のうちいずれかの月の賃金の額の85%を下回ったこと。

賃金の支払い場所

労働基準法では賃金の支払い場所についての規定はなく、民法の一般原則に従い持参債務になり(民法第484条)、賃金の債務者となる使用者は労働者の自宅において支払いを行わなければならない[9]。就業規則や労働契約等に支払い場所の定めがあれば、その定めが民法第484条に優先することとなるのでその定めに従い、定めがなくとも、労使間において賃金支払場所に関する確立した慣習があれば、その慣習が当事者間の約定として機能することになる(「事実たる慣習」、民法第92条)。




注釈

  1. ^ 通勤用の定期乗車券の支給は「賃金」に当たる。6ヶ月定期乗車券であってもこれは各月分の賃金の前払いとして認められるから、平均賃金算定の基礎に加えなければならない。
  2. ^ その徴収金額が実際費用の3分の1以下であるときは、徴収金額と実際費用の3分の1との差額部分については、これを「賃金」とみなす(昭和22年12月9日基発452号)。
  3. ^ 平成30年1月1日施行の改正職業安定法により、当初の明示と異なる労働条件を提示する場合には、契約締結の前に新たな明示が義務付けられる。
  4. ^ モデルや子役として報酬を受け取る児童も例外ではないが、実際には直接手渡しされることはまずなく、(紛失や盗難のリスクを回避するため)当人名義の銀行口座への振込になる。
  5. ^ その後に起きた、群馬県教職員給与減額支払等請求(最判昭45.10.30)においては、10月分及び12月分の過払いを翌年3月分から控除した件につき、「相殺をするかどうかまたはその法律上の可否、根拠等の調査研究等に相当の日時を費し、あるいは他の所管事務の処理に忙殺されていた点にあった」などの事情にとどまるときは、全額払いの原則の例外として許される場合に当たらないとして、相殺を認めなかった。
  6. ^ 保障給の大体の目安としては、休業の場合についても平均賃金の60%の休業手当の支払いが必要であることとのバランスから、労働者が現実に労働している第27条の場合については、少なくとも平均賃金の60%程度を保障することが妥当であると解されている[4]

出典

  1. ^ 三省堂「新明解国語辞典 第六版」
  2. ^ 岩波 国語辞典 第六版
  3. ^ 給料日が休日に当たる場合、支払日を繰り下げてもいいのですか?
  4. ^ 厚生労働省労働基準局編平成22年版労働基準法上巻p.378
  5. ^ 福岡労働局 監督課:Q&A[リンク切れ](Q7およびA7を参照)
  6. ^ ユニデンホールディングス事件(東京地裁平成28年7月20日)
  7. ^ 横浜地方裁判所判決 昭和51年3月4日 大瀬工業事件
  8. ^ 不払い残業(サービス残業)を撲滅しよう” (日本語). 日本労働組合総連合会. 2011年11月7日閲覧。
  9. ^ 「わかりやすい賃金の法律実務」厚生労働省労働基準局賃金時間課編著
  10. ^ 財団法人 社会経済生産性本部の日本的人事制度の変容に関する調査[リンク切れ]も参照されたい。
  11. ^ 大竹文雄 『競争と公平感-市場経済の本当のメリット』 中央公論新社〈中公新書〉、2010年、191頁。
  12. ^ 統計局ホームページ/家計調査
  13. ^ 統計局ホームページ/平成29年就業構造基本調査
  14. ^ 毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査)|厚生労働省
  15. ^ 賃金構造基本統計調査|厚生労働省
  16. ^ 賃金構造基本統計調査(初任給)|厚生労働省
  17. ^ 図5 賃金カーブ/早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)
  18. ^ a b 国民生活基礎調査|厚生労働省
  19. ^ 賃金引上げ等の実態に関する調査|厚生労働省
  20. ^ 社会保障審議会 (年金数理部会) |厚生労働省
  21. ^ 事業年報 | 協会けんぽについて | 全国健康保険協会
  22. ^ 民間給与実態統計調査|統計情報|国税庁
  23. ^ 中央労働委員会:賃金事情等総合調査の概要
  24. ^ 職種別民間給与実態調査
  25. ^ 国家公務員給与等実態調査
  26. ^ 2015年度 モデル賃金・モデル年間賃金の実態 – 賃金 - 産労調査 - 人事・労務に関する情報 - 産労総合研究所
  27. ^ 統計情報|労働政策研究・研修機構(JILPT)
  28. ^ ユースフル労働統計2015 ―労働統計加工指標集―|労働政策研究・研修機構(JILPT)
  29. ^ 中小企業の賃金・退職金事情|統計・調査|東京都産業労働局
  30. ^ 平均年収ランキング2016(平均年収/生涯賃金) |転職ならDODA(デューダ)
  31. ^ Exclusive UHNWI Analysis: World Ultra Wealth Report 2017 - Wealth-X
  32. ^ a b 民間給与実 態統計調査|統計情報|国税庁
  33. ^ a b 標本調査結果|統計情報|国税庁
  34. ^ 調査の概要|厚生労働省
  35. ^ 平成29年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省
  36. ^ 賃金構造基本統計調査 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口





賃金と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

「賃金」に関係したコラム

  • CFDのプラチナ相場の見方

    世界のプラチナ(白金)の年間採掘量は200トン前後です。金の年間採掘産量が4000トンなので、プラチナは金の約20分の1の量しか採掘されていません。下の図は、プラチナの生産量をグラフに表したものです。

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「賃金」の関連用語

賃金のお隣キーワード

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   
検索ランキング



賃金のページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの賃金 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2020 Weblio RSS