賃貸借
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/21 07:10 UTC 版)
賃貸借の終了
賃貸借の終了原因
民法上の原則
期間満了
期間の定めのある賃貸借においては契約期間が満了すれば終了する(616条・597条)。この場合に当事者はその期間内に解約をする権利を留保することも可能である(618条)。ただし、特別法(借地借家法及び農地法)により修正を受けている。
解約申入れ
期間の定めのない賃貸借または619条により黙示の更新がなされた賃貸借においては解約の申入れにより、申入れの日から所定の期間を経過することにより終了する(617条)[46][47]。解約の申入れ後直ちに賃借人が目的物を返還したとしても、特約がない限り賃借人は所定の期間分の賃料支払い義務を引き続き負う。
- 土地の賃貸借 1年
- 建物の賃貸借 3ヶ月
- 動産及び貸席の賃貸借 1日
ただし、特別法(借地借家法及び農地法)によりこの規定は修正を受けている。
解除
賃貸借も契約である以上、賃借人に賃料不払や契約上の用法義務違反があれば債務不履行となり賃貸人からの解除が認められるが、これを安易に認めると特に不動産賃貸借においては賃借人は居住や営業といった生活の基盤を失うことになるため、判例は当事者間の信頼関係が破壊されたと認められるか否かを基準とする信頼関係破壊の法理によっている(最判昭39・7・28民集18巻6号1220頁)[48][49]。なお、債務不履行が悪質なものである場合について無催告解除も認めている(最判昭27・4・25民集6巻4号451頁)[50][51]。ただし、解約告知については農地法により修正を受けている。
また、民法は以下の場合につき賃借人に解除権を認める。
- 賃借人の意思に反する保存行為
- 賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるとき(607条)。
- 減収による解除
- 不可抗力によって引き続き2年以上賃料より少ない収益を得たとき(610条)。
- 賃借物の一部滅失等
- 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる(611条2項)。
- 2017年改正前の民法では賃料減額請求ができる場合(賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるとき)に、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができるとされていた。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)では賃借物の一部滅失等による賃料の減額(611条1項)とは異なり、賃借物の一部滅失等で残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは賃借人の帰責事由の有無にかかわらず賃借人は解除できることになった(611条2項)[7]。なお、賃借人に帰責事由があり賃貸人に損害が生じたときは債務不履行として賃貸人は損害賠償請求ができる[7]。
- 無断譲渡・無断転貸
- 賃借人が賃貸人の承諾を得ずに第三者に賃借物の使用又は収益をさせたとき(612条2項)
目的物滅失
賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する(616条の2)。616条の2は2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で明文化されたもので[8]、それまでも賃貸借の目的物が火災等で滅失しあるいは老朽化により使用困難となった場合には履行不能となり賃貸借は終了するとされていた[52][53][51]。
この場合、(1)双方に帰責事由がないときは危険負担の問題となり、(2)賃貸人に帰責事由があるときは賃貸人に債務不履行責任が発生し(賃貸借の性質上、全部滅失した場合には賃料債務は発生しないと解されている)、(3)賃借人に帰責事由があるときは理論的には賃料債務は残るが賃貸人は債務を免れた利益(賃料相当額)の償還義務(536条2項後段)を負うため実質的に賃料債務は消滅する(端的に賃貸借契約の性質から使用収益がない以上は賃料債務は発生しないと構成する学説もある)[54][51]。
借地借家法上の制限
期間満了における更新請求・使用継続
- 借地契約の場合
- 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したとき又は借地権者が土地の使用を継続するときは、建物がある場合に限り、原則として従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされる(借地借家法第5条第1項本文・第2項)。例外として借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでないとされているが(借地借家法第5条第1項但書・第2項)、この異議については借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができないとされている(借地借家法第6条)。
- なお、転借地権が設定されている場合においては、転借地権者がする土地の使用の継続を借地権者がする土地の使用の継続とみなして、借地権者と借地権設定者との間について借地借家法第5条第2項の規定が適用される(借地借家法第5条第3項)。
- 借家契約(普通借家権)の場合
- 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとされる(借地借家法第26条第1項)。
- 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とされる(借地借家法第26条第2項)。
- 建物の賃貸人による借地借家法第26条第1項の更新拒絶の通知は、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない(借地借家法第28条)。
- なお、建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について借地借家法第5条第2項の規定が適用される(借地借家法第26条第3項)。
- 借家契約(定期借家権)の場合
- 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、借地借家法第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる(借地借家法第38条第1項前段)。
- 借地借家法第38条第1項の規定による建物の賃貸借において、期間が1年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の1年前から6月前までの期間に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない(借地借家法第38条第4項本文)。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から6月を経過した後は、この限りでない(借地借家法第38条第4項但書)。
解約申入れの制限
- 借地契約の場合
- 期間の定めのない借地権は30年存続することとなる(借地借家法3条)[55]。
- 借家契約(普通借家権)の場合
- 期間の定めのない借家権において、建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合には、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から6月を経過することによって終了する(借地借家法第27条第1項)[55]。借地借家法第27条第1項・第3項の規定は建物の賃貸借が解約の申入れによって終了した場合に準用される(借地借家法第27条第2項)。
- 建物の賃貸人による建物の賃貸借の解約の申入れも借地借家法第26条第1項の更新拒絶の通知の場合と同様、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければすることができない(借地借家法第28条)。
なお、借地借家法第38条第1項の規定による定期借家権のうち、居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては当該一部分の床面積)が200平方メートル未満の建物に係るものに限る)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は建物の賃貸借の解約の申入れをすることができることとされている(借地借家法第38条第5項前段)。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から1月を経過することによって終了する(借地借家法第38条第5項後段)。
農地法上の制限
農地又は採草放牧地の賃貸借の当事者は、農地法第18条第1項但書の各号のいずれかに該当する場合を除いて、政令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければ、賃貸借の解除をし、解約の申入れをし、合意による解約をし、又は賃貸借の更新をしない旨の通知をしてはならないとされている(農地法第18条第1項)。
賃貸借終了の効果
賃貸借の解除をした場合には、その解除は将来に向かってのみ効力を生ずる(620条前段)。この場合において、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償の請求を妨げない(620条後段)。
この場合に損害賠償請求権及び費用償還請求権についての期間の制限は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない(621条・600条)。
注釈
出典
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