証券化 証券化の概要

証券化

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/01 08:02 UTC 版)

概要

証券化では、売却した資産を、関連会社にとどめるのではなく、その会社から完全に切り離すことが重要となる。またその背景には、この資産売却についてこれまでと同様の財務内容の急迫を脱する一時的な方策としての側面だけでなく、

  1. 戦略的に財務内容のスリム化、つまりより小さな資産での効率的経営を追求する側面が強調されること、
  2. 資産保有がリスクアセットの保有であることが注目され、リスクアセットを売却によりバランスシートから外すことの積極的意義が強調されるようになっていること
など、企業の財務戦略としての継続的・積極的手法としての側面が強調されていることを挙げることができる。これらの現代的な特徴は、オフバランス化の効果と呼ばれることがある。

これは逆に考えると資産を第三者である投資家に売却することが可能になったということであり、そこにはそれを可能にした証券化の技術といわれる問題がある。またこのような資産を購入する投資家がいかに形成されたかという問題も検討されなければならない。

証券化の法律的技術としては、原資産を売却したオリジネーターが倒産した場合の影響をスキームに影響させないため、オリジネーターと証券化の母体となる導管(SPV)との間の倒産隔離(bankruptcy remoteness)をいかに確立するかが重要である。

また証券化では証券化で生み出された資産が、原資産に比べてより安全な資産に変換されていることも重要である。

証券化の実施にあたっては、各当事者の利益を確保するため厳格な手続が履践される。原資産は必ず厳しいデュー・ディリジェンスを受けてから倒産隔離のため真正売買される。その売買にも法律的、会計的見解が必要とされる。それにより証券には格付け機関による信用格付けが付与される。また、証券の信用補完のために損害保険会社等による保険(債務保証)が掛けられる場合もある[3]

投資家保護措置

証券化するとき投資家保護のため、オリジネーターが対象資産を処分することができないように、対象資産をオリジネーターおよびその利害関係者から分離する必要がある。そのため、オリジネーターが自ら証券を発行するのではなく、オリジネーターから資産を譲り受けた上でSPVが証券を発行する。この仕組みを倒産隔離という[注釈 2]

この倒産隔離を法的にどのように実現すべきかについては諸説があるが[注釈 3]、原資産の売却が真正売買(true sales)となっているかが問題だといえる。

真正売買の要件としては、
  1. 当事者の意思、
  2. 第三者対抗要件の具備、
  3. 価格の適正性、
  4. 会計上のオフバランス
などが挙げられる。

具体的な手法としては以下のようなものが用いられる[4]

SPV方式
証券化対象資産を保有することのみを目的とする法人(Special Purpose VehicleSpecial Purpose Companyとも。)を設立し、その出資者に議決権を与えないことで、対象資産とオリジネーターを切り離す。これをより徹底するため、出資者をケイマン諸島などに設立する持株会社とすることもある[注釈 4]
信託方式
オリジネータが信託委託者、信託免許をもつ信託会社または銀行が受託者として、委託者が当該金融資産を受託者に譲渡し、それが信託勘定に組み入れられる。信託勘定に設定された譲渡資産は、受託者自体の破産から法律により分離されなければならないとされている。ただし、破産してやっと分離されるのであり、受託資産は受託者が運用できる。この点で信託方式は倒産隔離として不完全であり、発行債券の価値が損なわれない場合であっても運用によっては投資家と利益相反する可能性が残る。信託受益権は、受託者が発行し、紙の形で保有される。
信託業法の2004年12月改正以降は、節税効果も期待されている。
知的財産権の証券化では信託会社が自ら知的財産の活用等を図ることもできる。

その他、組合を用いる方法もあるが割愛する。

資産を譲り受けたSPVが破綻することを防ぐため、SPVには証券発行以外の役割を与えないことも倒産隔離の一手法として用いられている[注釈 5]

リスクを証券化した場合は原資産が現物の場合と異なり、特別目的事業体が債務を負うため、倒産隔離は不完全なものとなる[4][注釈 6]。また、信託方式で利益相反を防ぐために国債へ投資をしていた場合は元本割れのときに原資産を目減りさせることとなる。

優先劣後構造

同一の原資産を優先劣後構造に証券化すると、優先度の高い順に、シニア債、メザニン債、ジュニア債が発行される[5]。原資産の価値が目減りしたとき、まず株式から損害を受ける。目減りがさらに多いときは、ジュニア債、メザニン債、シニア債にも順に被害が出る。ただし、この債権部分は先取特権との優先関係が問題となる。証券化の優先劣後構造は、企業金融だけでなく、一般の資産担保証券および信用リスク担保証券の発行に加え、不動産証券化でも採用されている[6]

これは証券化の経済的な技術といえるだろうが、具体的には、まず購入する債権が選別されていること、次に債権が集合されて破綻割合が統計的に予測されるものに性格を変えていることが注目される。そして、それに加えて内部的な信用補完(internal credit enhancement)として、超過担保(資産から生み出される収益の一部を支払いの担保として留保すること)などが、また外部的な信用補完(external credit enhancement)としては、損害保険会社による支払い保証や、格付け機関による信用格付けなどが加わり、証券化資産の安全性が高められている。そして債券を信用リスクの違いによって階層化し、投資家のリスク許容力に応じた債券が用意されていること(優先劣後構造という)も重要で、内部的信用補完ともいえる優先劣後構造の点も外部の投資家からみれば、安全性を高める仕組みである。

この優先劣後構造における劣後部分、つまりエクイティにあたる部分のリスクを誰が負担するか、誰が保有するかは証券化で注目される点である。このリスクをオリジネーター、つまり資産証券化を仕組む側が保有したままでは、証券化は徹底されていないともいえる。しかしリスクに見合った収益が設定されることで(これを証券の構造を階層化するという)、このリスクの高い部分についてもリスク負担を合理的に判断した第三者による投資が成立する(つまりリスクの第三者への転嫁は可能)と考えられる。

この場合のリスクはクレジットリスクである。このリスクをさらに別の投資家に転嫁する仕組みとしてクレジット・デフォルト・スワップ(CDS (credit default swap))がある。これはデフォルト時の債務支払いと、プレミアムとを交換するもので、支払い保証保険とよく似ている。問題は、CDSのリスクをいかに軽減するか、予測可能なものに変化させてゆくかである。そこで登場したのがSCDO(synthetic collateralised obligation)合成債務証券(あるいは合成担保債務証券)と呼ばれる証券である。CDSで払い込まれたプレミアムは、実際に偶発債務が生ずるまでは、安全な適格資産で運用され、偶発債務発生(イベントリスク)に備えるのだが、この仕掛けそのものを証券化し、第三者による投資を可能にする(つまりリスクを社会的に分散する)仕組みが合成債務証券なのである。

劣後部分はそのリスクの高さゆえに市場で余剰となるようにも思われるが、実際には市場構造が一定の歯止めをかけている。オリジネーターとしての銀行は、BIS規制対策として証券化を利用している。バランスシートで保有している貸出債券を証券化するとき、劣後部分はオリジネーターである銀行が保有するのが普通である。また、自己資本のさらなる活用と株主資本利益率向上を目的としても、銀行は証券化を活用している[4]

歴史

民間MBSの始まり

1968年、ファニー・メイからジニー・メイが分離した。ジニー・メイは1970年に、民間金融機関から買い取った連邦住宅局(アメリカ合衆国の経済史#世界恐慌: 1929年-1941年下部参照)保証付のモーゲージのプールを裏づけとして不動産担保証券(MBS)を発行した。1971年からはフレディ・マックが連邦住宅局等に保証されないモーゲージを買い取りMBSを発行するようになった。1977年、ソロモン・ブラザーズで働くジニー・メイ債トレーダーの考案で、グランター・トラスト(委託者課税信託)を特別目的事業体に用いた民間MBSが発行されたが、普及には課題があった。第一には、各州の証券法(青空法)に規定がないという問題があり、また、機関投資家側の会計処理が独特の入金パターンについていけないという技術的問題もあった。原資産のモーゲージが金利低下局面などに期限前弁済されると、MBSも期限前償還されたのである。そこでソロモン・ブラザーズは、オリジネータである貯蓄貸付組合との関係構築や、投資家へ情報を提供できる体制整備などを図った[1]

アービトラージ(裁定取引)目的での利用

その後、世界的なドル不足が慢性化した。このため世界で証券が氾濫した。国際機関や多国籍企業の金融ではユーロ市場が盛況となってゆくが、住宅ローンや公社債は地場金融を利用するのが普通であった。後者はユーロ市場と比べて一件の起債規模が小さかったので、それらの合理化は証券化の役割であった。これも銀行離れと関係が深い。

それはたとえば、既存のパススルーMBSを束ねて償還期間の異なる複数のクラスの債権に組み替えたものとか、雑多な債権を買い集めて優先劣後構造に組み替えたものである。後者の典型がジャンク債を束ねたものである。仕入れた証券の利回りよりも、組み替えて作り上げた証券化商品の金利払いが少なくて済むようにした。もう一つのパターンは、オリジネーターとは関係のない外部の不良債権ファンド等が、銀行の不良債権処理に参加して、買い集めた不良債権を証券化する場合である[4]

原資産のリスクは隠され不相応に高格付けされた。1985年にはブルーチップが大量に格下げされ、堕天使と呼ばれた。

MBSと信用創造

セカンダリー・バンキング商戦においては、現金の絶対量が必要とされた。USドル高とニクソン・ショックが起こり、管理通貨制度信用創造の道を拡げた。住宅ローンをMBSに証券化するとき、実は信用創造が行われていた。この場合で、OTDという規制の緩い方法が存在した。現金の絶対量は確保されたが、しかしアメリカ合衆国で流通する交換手段に現金の占める割合は極端に落ち込んだ。世界金融危機の序盤でOTDを利用した副作用がおこって、銀行で縮小したはずのバランスシートが膨れて不良債権が累積した。


注釈

  1. ^ 資産担保証券は、たとえば社債特定社債株式、あるいは知的財産権を裏づけとしたボウイ債などをいう。有価証券または動産担保融資の発行による資産流動化は、狭義のアセット・ファイナンスである[2]REIT発行も狭義にあたるときがある。広義には、担保付借入れ・担保付社債から、保有資産の単純な切り売りまでをふくむ。
  2. ^ オリジネーターが破産しても、過去に譲渡した資産が破産財団に組み入れられることを防ぎ、破産債権者等の弁済の引き当てとされることを防ぐ仕組みである。
  3. ^ 2021年現在の日本においては、倒産隔離について正面から判示した裁判例は知られておらず、確たる基準がない状態である。
  4. ^ ケイマン持ち株会社の普通株は、英国法に基づく慈善信託において慈善団体が受益権という形で保有するが、議決権を行使しないことを遵守する。これにより、ケイマン持株会社には、議決権を行使する株主が存在しない。
  5. ^ 回収業務について、SPV自身が行うのではなく、委託を受けたサービサーが行うのはこのためである。
  6. ^ たとえばユーロ危機は致命的となった。機関投資家が諸国の財政に干渉する動機の一つである。
  7. ^ CMBSREITを発行。賃料収入など不動産から上がる収益を裏づけとする。いわゆる自社ビルの不動産証券化の場合には、証券化した対象資産をそのまま当該オリジネーターに対して賃貸することが多く行われる。
  8. ^ 事業者の営む特定の事業について、その将来キャッシュフローを見合いに証券化する資金調達手法。日本国内では、ソフトバンクモバイルの携帯電話事業をはじめ、ゴルフ場事業、レジャーホテル、インターネット事業等で証券化の事例があるが、件数は少ない。イギリス等海外の国々では、輸送、パブ水道事業等の各種事業で多数実施されている。
  9. ^ キャップつき変動利付債など。
  10. ^ 銀行子会社はABCPのため信用枠を用意し、投資銀行のレポ借入を信用創造で支えていた。
  11. ^ 財務省証券やエージェンシー債等の取得・処分・引受、マーケットメイク、ヘッジ業務は例外となった。

出典

  1. ^ a b 高橋正彦 2006, p. [要ページ番号].
  2. ^ 高橋正彦2009, p. 8.
  3. ^ a b 木下正俊 2004, p. [要ページ番号].
  4. ^ a b c d e f g 北原徹 2002, p. [要ページ番号].
  5. ^ 野澤澄人 2008, p. 152.
  6. ^ 伊藤信雄 2011, p. 54.
  7. ^ 楠本博 1987, p. 77.
  8. ^ 高橋正彦2009, p. 5.
  9. ^ a b c d e f g h 柴田徳太郎 2016, 第1章.


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