記者クラブ 歴史

記者クラブ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/03 14:55 UTC 版)

歴史

取材互助組織として発足

日本の記者クラブの歴史は明治時代にはじまった。1890年(明治23年)、第1回帝国議会が開催されたが、議会側が示した新聞記者取材禁止の方針に対して、『時事新報』の記者が在京各社の議会担当に呼びかけ「議会出入記者団」を結成し、取材用傍聴席の確保や議事筆記の作成で協力を図った[25]。10月にはこれに全国の新聞社が合流し、名称を「共同新聞記者倶楽部」と改めた。しかし、実態は数人の記者のたまり場にすぎず、中級官僚に面会できる程度であった[16]大正時代に入ると本格的な記者クラブがつくられた。昭和初期までに、取材の自由を勝ち取っていった[26]。この時期の記者クラブのほとんどは記者が個人個人で直接加入するものだった[27]

翼賛クラブ化

しかし太平洋戦争が始まると記者クラブは変質することになる。まず、日米開戦前の 1941年5月新聞統制機関「日本新聞連盟」が発足。11月28日、「新聞の戦時体制化」が決定され、日米開戦後に新聞連盟の設けた「記者会規約」により加盟は記者個人から会社単位となり、役所の発表を取材して右から左へ発表報道をおこなう翼賛クラブが1官公庁1クラブだけ認められた。取材組織として公認され、国家体制に組み込まれた記者クラブ制度が始まった[16]。記者クラブはだんだんと政府発表を政府の意向通りに報じる「御用クラブ」と化していき、東條内閣が倒れ、朝日新聞出身の緒方竹虎が国務大臣兼情報局総裁として小磯内閣に入閣し、新聞への検閲を緩めようとしたころには、検閲と自己規制で委縮した新聞には統制緩和を生かす力はもはや残っていなかった[27]

GHQの圧力

戦後、GHQは記者クラブの解体を執拗にせまった。報道の自由や取材の自由を踏みにじる組織であるとして取材組織から世界一般の親睦団体への転換をせまった。これを受けて、1949年10月26日日本新聞協会は『記者クラブに関する方針』を作成した。記者クラブを「親睦社交を目的として組織するものとし取材上の問題にはいっさい関与せぬこと」と規定した。ジャパン・ロビーの圧力を受けてGHQは態度を軟化させ、公共機関に対しては記者室などの便宜供与をおこなうべきとする方針を取り、記者クラブは超法規的な措置として受け入れられた[26]。1958年(昭和33年)には、記者室の使用を許可する大蔵省管財局長の通達が出た。

建前と実態の乖離

記者クラブは親睦団体の建前のもと、戦争中と同じように取材組織としての活動を続けていたが、報道協定を巡って建前と実態の乖離が表面化した。役所は報道協定などによって報道制限や取材制限をもとめた。対して親睦団体は報道の自由や取材の自由を旨とした。1960年代までは報道協定が発覚すると除名処分をおこなっていたが、こういった対立の末1970年以降、記者クラブの指揮権を公然と認めるようになった[16]。このころからテレビやラジオも記者クラブ制度に加わっていった。 1978年、日本新聞協会は記者クラブの目的について「親睦」に加えて「相互の啓発」を挙げた(78年見解)[28][29]

外国人記者からの批判

しかし、平成時代に入ると記者クラブ体制は見直しをせまられた。1990年代、バブル景気により日本経済の国際的影響力が増大し、外国人記者の活動が活発化してくると日本国内でも記者クラブに対する疑問の声が強まった[16][30]。 1992年、外務省の「霞クラブ」が外国人記者を正式会員として受け入れ[31]、1993年に日本新聞協会は、外国報道機関の記者について「原則として正会員の資格でクラブへの加入を認めるべきである」との見解を発表した[32]。 1995年には江藤隆美総務庁長官のオフレコ発言のリークが問題となり、翌1996年、新聞協会はオフレコ取材は重要な手段だが乱用すべきではなく「安易なオフレコ取材は厳に慎むべき」との見解を発表した[33]

特権廃止と開放の動き

1996年、鎌倉市は記者クラブに属さない報道機関にも記者室と記者会見を開放した(ただし企業の広報誌、宗教団体の機関誌、政党機関誌は対象外)[34][35]

こういった流れのなかで、記者クラブの既得権益は、親睦団体という建前では維持しにくくなった。1997年、日本新聞協会は記者クラブを「公的機関が保有する情報へのアクセスを容易にする『取材のための拠点』」と改めた(97年見解)[36][29]

2001年、長野県が田中康夫知事(当時)のもと、脱・記者クラブ宣言を行い特権廃止の動きは県レベルまで拡大した。

2002年、新聞協会は、記者クラブは「取材・報道のための自主的な組織」であるとの見解を出した[37]。日本新聞協会は2003年12月10日にも「記者クラブ制度廃止にかかわるEU優先提案に対する見解」を出して抵抗していた[38]。記者クラブの閉鎖性・排他性・便宜供与は揺るがなかった。2009年、政権交代が起きて以降、記者会見オープン化が徐々に行われた。

2005年3月24日ライブドアインターネットメディアとして初めて気象庁記者クラブに加盟を申請。しかし、2006年3月15日、前社長・堀江貴文証券取引法違反で起訴されたことを理由に申請を出席者の全会一致で却下[39]

2005年7月9日、フリージャーナリスト(ルポライター)寺澤有と船川輝樹週刊現代副編集長が、警察庁とその記者クラブ加盟社15社を相手どり、警察庁庁舎内で行われる記者会見などに出席し質問することを妨害してはならないとの仮処分申請東京地方裁判所東京高等裁判所に申し立てるが棄却[40]最高裁判所特別抗告している。

2010年3月4日、日本新聞労働組合連合(新聞労連)が記者クラブの全面開放をもとめる声明を発表[41][42]

性格規定の変遷

  • 大正から昭和10年代、「取材の自由を獲得する戦いの前線基地」[26]
  • 1949年9月、GHQの警告
  • 1949年10月28日、親睦機関 - 「記者クラブに関する編集委員会の方針」(49年方針)
  • 1978年、親睦機関かつ若干の調整的役割 - 「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」(78年見解)

注釈

  1. ^ a b 97年見解
  2. ^ フランスのテレビドキュメンタリー「近くて遠い大統領 〜ホワイトハウス記者のジレンマ〜」でホワイトハウス記者団や記者室の内部、米国の大手メディアが優先的に取材をしている様子が詳しく報じられた。このドキュメンタリーは日本でもNHKが放映した。

出典

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