解雇 欧米における解雇

解雇

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/12 15:30 UTC 版)

欧米における解雇

アメリカ

随意雇用原則

アメリカには日本の解雇権濫用法理にあたる法理がなく、随意雇用原則(at-will employment doctrine)が確立されてきた[15]。不況による雇用量の過剰に対してレイオフによって迅速に人員削減をするのがアメリカ企業の手法であり、解雇の立法規制や判例法理の発達は限定的である。

随意雇用原則がある一方で、伝統的には労働協約によって解雇とする正当事由を定めるなど、労働協約で組合員である被用者の解雇を規制してきた[15]。しかし、労働組合組織率の低下に伴い、労働協約による規制力が縮小し、これに呼応して1960年代以降は差別規制法制を通して解雇を含めた労働条件が規制されるようになった[15]

随意雇用原則は差別禁止法制のほか、報復としての解雇や内部告発者に対する解雇、陪審員や兵役さらに選挙権行使を理由とする解雇などが制定法で禁止されている[15]。また、随意雇用原則は先述の労働協約に定める正当事由(just cause)のない解雇にあたる場合も制限され、労働協約による苦情処理や仲裁手続による救済を求めることができる[15]。このほか各州のコモンローによる制約がある[15]。例えば、カリフォルニア州では雇用契約は「at will」すなわち相互の自由意志に基づくものとされ、期間の定めのない雇用契約では使用者の判断で特段の理由なしにいつでも労働者を解雇できる[16]。ただし解雇予告手当に相当するものの支払いは必要とされる。

企業内ADR

雇用関係規制の増加と複雑化に伴い、個別企業内における裁判外の代替的紛争処理(alternative dispute resolution:ADR)も発達してきている[15]

イギリス

イギリスでは、余剰人員であること(レイオフ)、および個人の能力、資格、行動に起因する解雇は公正(Fair)とされる[17]。余剰人員理由の場合には、ビジネス上解雇が避けがたいことを証明する必要はない[17]

イタリア

イタリアでは、やむを得ない経営上の理由、および従業員個人の重大な契約違反といった、正当な理由もしくは正当な動機のみFairとされる[18]。余剰人員理由の解雇の前には、敗者復活戦(社内の別ポジションに異動させる)が広く判例で求められている[18]レイオフ者には6か月間の優先的な再雇用権がある[18]

なお人種、宗教、性別、労働組合活動などといった、差別を反映した解雇はUnfairとされる[18]

スペイン

スペインでは法律により労働者の解雇に厳しい制約がかかっている。そのため、外国企業の投資敬遠、外国人労働者の流入といった事態を招いている、という指摘がある[19]

オランダ

オランダでは、経済的余剰人員であること、および個人の行動や能力不足を理由とした解雇はFairである[20]。経済的理由の場合は、会社の財務データと人員余剰である根拠を示す必要があり、具体的には26週間以内に別の適切なポジションを用意できないことが条件である[20]。余剰人員の選定は、社歴および年齢に基づいて行われる[20]

個別的理由であっても、以下の条件において無期雇用を解雇することができる[20]

  • 従業員が満足のいく方法で仕事をできなくなっ、もしくは仕事に不向きの場合[20]
  • 従業員が自分の仕事に良心的拒否を申し出て、会社が代わりの仕事を用意できない場合[20]
  • 従業員と雇用主に深刻な対立がある[20]
  • 従業員が長期間、仕事をすることができない[20]
  • 勤務中の盗難や泥酔など、不適切行動をとった場合[20]

また、個人の能力不足やパフォーマンス不足に起因する場合の解雇は、合理的な期間内に別のポジションを用意できない場合にのみ可能である[20]

ドイツ

ドイツでは、経済的・経営的理由、および個人の資質(たとえばスキル不足や能力不足)による解雇はFairであるが、裁判所はこの決定について、恣意的・不合理ではないか審議可能である[21]

余剰人員理由の場合には、社会的理由(社歴、年齢、扶養)を考慮する必要があり、それがない解雇はUnfairとされる[21]。解雇前には再訓練を試行する必要がある[21]

ドイツ企業の雇用調整は、日本企業(解雇規制が極めて強い)とアメリカ企業(解雇自由の建前)の中間にあるとされてきた。ドイツでは整理解雇について日本の「整理解雇の四要件」と同様の要件が課されているが、人員整理の前提となる企業縮小や合理化措置などについては、憲法上保障された企業主としての決定の自由が強調され、それに対する司法審査は、明白な非合理性のない限りなじまないとされてきた[22]。事実上解雇ができなかった雇用制度を改革するため、ゲアハルト・シュレーダー首相の政策「アジェンダ2010」の下、法律を改め、解雇をしやすくしたところ、ドイツ企業は競争力を取り戻すために相次いで大幅な解雇を実施した。短期的には失業者が500万人を超えたが、長期的には、雇用の流動性が高まり、逆に労働市場が拡大して失業者は減った。もっともシュレーダー首相は国民の不満を一身に浴びて退陣を余儀なくされた。

ノルウェー

ノルウェーでは、経済的理由(事業リストラ)および個別的理由による解雇がFairである[23]。 経済的理由の場合、選択は客観的に正当な形で行う必要があり、裁判所はその選択について審議可能である[23]。判例では、社歴、年齢、資格、社会的配慮が選択基準となっている。レイオフの場合は再雇用で優先権を持っており、その期間は1年間である[23]。 また個別的理由も可能であるが、雇用契約の重大な違反(不誠実,長期欠勤など)に限定される[23]

なお対象者に別のポストが確保可能な場合には、経済的理由による解雇はUnfairである[23]。年齢、労働組合活動、兵役、妊娠、病気休暇による解雇もUnfairである[23]

スウェーデン

客観的な理由がない解雇はUnfairとされ、その理由は2か月以上前に存在していた理由でなければならない[24][24]

個人に帰する理由では、業務能力の欠如、違法行為、協業上の問題、ハラスメント、労働拒否、刑事犯罪などが解雇理由となる[24]。年齢や病気などによる能力低下の場合は、雇用主は転勤、再訓練、他の仕事への異動を試みる必要がある[24]

余剰人員理由である場合には、解雇が不可欠であることを証明する必要はないが、従業員には以前の職に優先的に再就職する権利(最長9カ月間、勤続12カ月以上の者のみ)が与えられる[24]レイオフ人員の選択は社歴の短いものからである[24]


  1. ^ a b c d e 高橋裕次郎 監修『すぐに役立つ労働法のしくみと手続き』三修社、2002年、148頁
  2. ^ a b OECD 2020.
  3. ^ 米英独仏の例について労働政策研究・研修機構 2012
  4. ^ a b c d 労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2019」 労働政策研究・研修機構、2021年9月15日閲覧。
  5. ^ 高橋裕次郎 監修『すぐに役立つ労働法のしくみと手続き』三修社、2002年、165頁
  6. ^ a b c 高橋裕次郎 監修『すぐに役立つ労働法のしくみと手続き』三修社、2002年、164頁
  7. ^ ただし、労働契約法には罰則がないので、違反したとしても刑に処されることはない。
  8. ^ 民法626条では、「雇用の期間が5年を超え、又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは、当事者の一方は、5年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる」と定めるが、そもそも労働基準法14条により3年(特別の場合は5年)を超える契約はできず、民法626条が適用されるのは、家事使用人のような労働基準法の適用除外者に限られる。最も家事使用人であっても労働契約法は適用されるので、実際に家事使用人に対しいつでも契約の解除を出来ると考えるのは妥当ではない。
  9. ^ 西谷敏『労働法第2版』p.406~407
  10. ^ 即時解雇通告前に平均賃金を正確に算定することが実際問題として不可能な場合、解雇予告手当を概算払いとして即時解雇を通告し、不足額をその後速やかに提供する場合には、その即時解雇は有効となる(昭和24年7月2日基収2089号)。
  11. ^ 認定は天災事変等の場合には様式第2号、労働者の責に帰すべき事由の場合は様式第3号によることとされる(施行規則第7条)。
  12. ^ 西谷敏『労働法第2版』p.406では最高裁のこの立場を「労働者は、使用者が「即時解雇に固執」したという、証明困難な場合にしか予告手当を請求しえないことになる。」として批判し、下級審の選択権説を「妥当」としている。
  13. ^ 例えば、松山地裁判決昭和26年2月8日
  14. ^ a b 『裁判と社会―司法の「常識」再考』ダニエル・H・フット 溜箭将之訳 NTT出版 2006年10月 ISBN 9784757140950
  15. ^ a b c d e f g 労働政策研究・研修機構「3.アメリカにおける個別労働紛争の解決に関する調査結果」 労働政策研究・研修機構、2021年9月15日閲覧。
  16. ^ http://www.mayitpleasethecourt.com/journal.asp?blogid=1261 Posted by J. Craig Williams on Saturday, August 05, 2006 at 00:43
  17. ^ a b OECD 2020, Country: United Kingdom.
  18. ^ a b c d OECD 2020, Country: Italy.
  19. ^ 「スペイン:不動産バブルの崩壊と排他主義」『日経ビジネスオンライン』日経BP社、2008年4月3日付配信
  20. ^ a b c d e f g h i j OECD 2020, Country: Netherlands.
  21. ^ a b c OECD 2020, Country: Germany.
  22. ^ 西谷敏「ゆとり社会の条件」労働旬報社p189
  23. ^ a b c d e f OECD 2020, Country: Norway.
  24. ^ a b c d e f OECD 2020, Country: Sweden.


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