観察者効果
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/01 14:51 UTC 版)
自然科学
科学における観察者効果とは、観察するという行為が観察される現象に与える変化を指す。例えば、電子を見ようとすると、まず光子がそれと相互作用しなければならず、その相互作用によって電子の軌道が変化する。原理的には他の直接的でない観測手段でも電子に影響を与える。実際の観察をしなくても、電子が観測可能な位置に単に入っただけでも、理論上はその位置が変化してしまう。
物理学では、より一般的な観察者効果として、機器による観測で観測対象の状態を必然的に変化させてしまうことを指すこともある。例えば電子工学において、電流計や電圧計は測定対象の回路に接続する必要があり、それら計器が接続されることで測定対象の電流や電圧が影響を受ける。同様に温度計は温度を記録するために何らかの熱エネルギーを放出しなければならず、測定対象の温度に影響を与えている。
量子力学の不確定性原理は観察者効果とよく混同される。ハイゼンベルクは当初、測定による撹乱で不確定性が現れると説明して、不等式を導入した。これは観察者効果を示している。一方でこれとは別の不等式として、同一の量子状態の系を多数用意して測定をしたときの標準偏差についての関係式(ケナードの不等式またはロバートソンの不等式)があり、通常こちらが不確定性関係の式と呼ばれる。この式は量子系自体のゆらぎを表しており、1回ごとに1つの物理量を誤差なく正確に測定したときの関係式であって、測定による撹乱の効果ではない。ハイゼンベルクの測定による撹乱についての不等式は、2003年に小澤正直によって修正された。
量子力学における関連する問題として、系には測定に先駆けて存在する属性があり、それらは系を後に測定することと対応している。このような仮定を「実在論」(realism)と呼ぶが、この実在論という用語は哲学的実在論や科学的実在論よりも限定的な意味とされている[1]。量子力学における最近の実験で、実在論にサヨナラを言わなければならない結果が得られたと言われているが、その論文の筆者は単に「我々は…実在論のある直観的属性を放棄する必要がある」とだけ書いている[2][3]。これらの実験は、測定行為と測定対象の系との関係を示した。尚、射影公準を提唱したジョン・フォン・ノイマンは、1932年の著書 『量子力学の数学的基礎』において、物心並行論(精神が物理現象に直接的に影響を与えることはないとする考え)は「科学的世界観にとって基本的な要請」とする観測者の意識が現象を決定するかのような考え方には否定的な前提から、実験系と測定側の境界をどこにでも置けなければならないことを導いた[4]。
コンピュータ関連用語
ここより前の節やここより後の節で説明されている「観察者効果」や、あるいは不確定性原理(正確にはこちらについては誤解のことが多いが[要出典])からの類推で、コンピュータにおいても「観察者効果」といった用語が使われる現象がある。いくつかの例を挙げる。
プロセス実行中にプロセスの出力を観察する行為はプロセスに影響を与える。例えば、プロセスの進行状況を記録するためにデータログを採取すると、プロセスはその採取処理の負荷の分だけ低速になる。さらに、プロセス実行中にそのファイルを見るという行為によって、対象プロセスでI/Oエラーが生じる可能性があり、結果としてプロセスが停止することにもなる。
単一CPUで性能測定を行うとき、測定対象プロセスと測定プロセスが動作すると測定プロセスによって測定対象プロセスの性能情報が影響を受け、不正確になる(特に最近のキャッシュメモリやパイプラインに依存したCPUではその傾向が強くなる)。
実行中プログラムのソースコードを修正しながらデバッグするとき(出力を追加したり、ログ採取したり)、あるいはデバッガを使って実行する場合、ある種のバグによる現象は変化したり発生しなくなったりする。そういった類いのバグは、一般に特定が非常に難しいことが多い(特異なバグ参照)。
- ^ Norsen, T. Against "Realism"
- ^ Quantum physics says goodbye to reality
- ^ An experimental test of non-local realism
- ^ J.v.ノイマン「量子力学の数学的基礎」p.333
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