視神経脊髄炎 視神経脊髄炎関連疾患

視神経脊髄炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/01 04:30 UTC 版)

視神経脊髄炎関連疾患

視神経脊髄炎関連疾患または、視神経脊髄炎スペクトラム疾患は、NMOSD(Neuromyelitis optica spectrum disorders)とも略され、抗AQP4抗体陽性という共通の免疫病態に対して包括的に定義された概念で、4つの臨床病型が知られている。視神経脊髄炎では確実例、空間的限局例(視神経炎もしくは脊髄炎のいずれかをもつ)、他の自己免疫疾患と合併した例、視床下部、脳梁、脳室周囲、そして脳幹の病変を有する例に大きく分類される。

NMO確実例
NMOの診断基準をみたすものである。
空間的限局例
抗AQP4抗体陽性で、視神経炎もしくは脊髄炎を単独でもつ例は視神経脊髄炎関連疾患のうち空間的限局例と呼ばれている。
自己免疫疾患を合併した例
視神経脊髄炎関連疾患は全身性自己免疫疾患でみられる自己抗体を認めることが多く、一部の例では臓器特異的、非特異的な自己免疫疾患を併発することがある。
大脳・脳幹病変を伴った視神経脊髄炎の特徴
抗AQP4抗体症例には大脳や脳幹病変が多いこと、脊髄炎や視神経炎ではなく大脳、脳幹症状で発症する症例が存在することが明らかとなっている。2006年度の視神経脊髄炎の診断基準では大脳や脳幹病変をもつケースは視神経脊髄炎関連疾患となる。最後野周辺の病変に伴う難治性の吃逆や嘔吐、視床下部病変に伴う二次性ナルコレプシー、内分泌異常、PRES[9]に類似した広汎な白質病変、腫瘍様大脳病変、錐体路に沿った脳病変、線状の傍脳室周囲、脳梁病変などが特徴として知られている。

抗体

抗AQP4抗体

抗AQP4抗体はNMOの特異的診断マーカーと考えられる自己抗体である。血清中に高力価で検出され、髄液での力価は低いことから抗体は末梢リンパ球で産出され、血液脳関門が破綻するような病態が生じた際に中枢神経系に移行して病変を生じると考えられている。脊髄中心灰白質、第三脳室周囲、延髄背側最後野周囲にAQP4の発現は多く、視神経脊髄炎の病変分布と一致している。Polmanらは血清の抗AQP4抗体測定を推奨する臨床神経徴候をまとめている。

中心灰白質主体で3椎体以上に連続する脊髄病変
両側性で重篤な視神経炎、視神経腫脹、視交叉病変、水平性半盲を伴う視神経炎
延髄中心管周囲の病変を伴い、2日以上続く難治性の吃逆、嘔吐、嘔気

かつて抗AQP4抗体価は脊髄炎の病変の長さと疾患活動性と相関すると報告されていた[10][11]。しかし2020年の報告では抗AQP4抗体価は再発、再発の重症度、疾患活動性と相関しない報告されている[12]

抗MOG抗体

抗myelin-oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体が視神経脊髄炎の原因抗体としても注目されている。抗AQP4抗体陽性者と比較して男性に多く若年であり、視神経炎と横断性脊髄炎を1ヶ月以内に続発することが多く、脊髄円錐部が障害されやすい、頭部MRIで白質病変を認めやすいといった特徴が知られている。

抗GRP78抗体

視神経脊髄炎における血液脳関門破綻に関与する自己抗体として抗GRP78(glucose-regulated protein 78)抗体が報告されている[13]

その他

抗AQP4抗体陽性のNMOではシェーグレン症候群の合併率が10~20%と高いと報告されている[14]。抗SS-A抗体や抗SS-B抗体陽性率は抗AQP4抗体陽性NMOでは抗AQP4抗体陰性NMOと比較して有意に高く、抗SS-A抗体重は症度や疾患活動性と相関すると報告されている[15]。また抗AQP4抗体陽性のでは全身性エリテマトーデスの合併率が高いと報告されている[15]。ds-DNA抗体陽性率が抗AQP4抗体陽性NMOでは抗AQP4抗体陰性NMOより有意に高く、抗核抗体陽性群は抗核抗体陰性群とくらべて重篤である[16]。また抗甲状腺抗体に関しては、抗AQP4抗体陽性のNMO患者では健常者とくらべて抗甲状腺抗体の陽性率が有意に高かった[17]抗甲状腺抗体陽性群と抗甲状腺抗体陰性群のEDSSを比較すると抗甲状腺抗体陽性群が有意に高値であった[17]

病理

視神経脊髄炎の病理像は視神経や脊髄に壊死性変化を伴う炎症性脱髄性病変を特徴とする。視神経脊髄以外に脳幹大脳にも病変が出現する。急性期に好中球や好酸球の浸潤が目立ち、血管壁の肥厚や硝子化を伴う顕著な壊死性変化が主体となる。2002年にLucchinettiらは肥厚した血管壁にrim状やrossette上に免疫グロブリンや活性化補体が沈着していることを見出し、液性免疫の関与を報告した[18]。2004~2005年に視神経脊髄炎患者血清中に抗AQP4抗体が発見され[19]、2007年には視神経脊髄炎剖検例の急性期炎症性病巣では広範に抗AQP4抗体の発現が低下していることが報告された。特に免疫グロブリンや活性化補体の沈着する血管周囲でAQP4は脱落し、アストロサイトは高度に変性していた[20]。一方、AQP4の脱落に比してMBPの染色は保たれる傾向にある。亜急性期から慢性期に線維性グリオーシスが認められるが、壊死性変化や空洞化を伴う頻度も多い。これらの知見から視神経脊髄炎の病態はAQP4を標的とした自己抗体・補体介在性のアストロサイト障害が主であり、脱髄は二次的変化と捉えられるようになった[21][22]。視神経脊髄炎の脊髄灰白質病巣ではAQP4とEAAT2の両者が発現低下する。アストロサイトによるグルタミン酸の取り込みが低下し二次的なオリゴデンドロサイト障害が生じると示唆されている[23]。AQP4の動態とグルタミン酸毒性が病変の形成に重要な役割を果たす可能性が指摘されている。

視神経と脊髄の病理

視神経脊髄炎の視神経炎と脊髄炎の病理学的特徴は、脱髄を超えた広範なAQP4の発現消失、壊死・脱髄・スフェロイド形成を伴う重度の神経軸索傷害、活性化補体と免疫グロブリンの血管周囲の沈着と血管の器質化、顆粒球を中心とした炎症細胞浸潤があげられる。早期活動性病変では、脱髄と神経軸索傷害に先行し、アストロサイトに発現するAQP4とGFAPが消失する[18][24][20][25][26][27][21]。これらの変化は脊髄炎のみの限局型視神経脊髄炎でも認められる。中枢神経系でAQP4はアストロサイト、脳室上衣細胞、放射状グリア(ミュラー細胞、クララ細胞)に発現し、神経軸索髄鞘に発現しない。

脳室周囲器官の病理

視神経脊髄炎では二大病変である視神経、脊髄の他に延髄最後野も侵されやすい。延髄最後野病変は難治性の吃逆嘔気の原因となる[28]。延髄最後野は血管内皮密着結合を欠き、血液脳関門が脆弱な脳室周囲器官である。そのため抗AQP4抗体が容易に中枢神経内に侵入しやすい部位と考えられている。病理学的には広範なAQP4の消失、活性化補体の血管周囲・アストロサイト・マクロファージへの沈着と血管の器質化、顆粒球などの炎症細胞浸潤が特徴である。一方、アストログリオーシスが目立ち、明らかな脱髄や神経軸索傷害が乏しく、生理的にEAAT2の発現も乏しい部位であることから視神経炎や脊髄炎とは異なった分子メカニズムの関与も想定されている[28]

大脳の病理

視神経脊髄炎の大脳白質病変は広範なAQP4の発現消失に加え、マクロファージ内の補体沈着とオリゴデンドロサイトのアポトーシスMAGの優先的消失が併存する場合がある[29]。Lucchinettiによると多発性硬化症の早期活動性脱髄病変は病理学的にパターンⅠ~Ⅳに分類されている[30]。その分類に従えばマクロファージ内の補体沈着は多発性硬化症のパターンⅡの特徴を示しており、オリゴデンドロサイトのアポトーシスやMAGの優先的消失は多発性硬化症のパターンⅢの特徴を示している。多発性硬化症ではintraindividual homogeneity(個体内の均一性)とinterindividual heterogeneity(個体間の不均一性)が提唱されている[30][31]。その説に従えば多発性硬化症では一人の個体内で1つの同じパターンを示す。一方、自己免疫性アストロサイトパチー[22]である視神経脊髄炎では1人の個体内でパターンⅡとパターンⅢの脱髄病変が併存する症例がいることから脱髄形態はintraindividual heterogeneity(個体内の不均一性)を示す可能性がある[29]

多発性硬化症の大脳皮質の脱髄と対照的に視神経脊髄炎の大脳皮質には脱髄は認めない。しかし視神経脊髄炎の皮質Ⅰ層のアストロサイトではAQP4の発現低下と皮質Ⅱ層の神経細胞数の低下と反応性アストロサイトとミクログリアの増加が指摘され視神経脊髄炎は多発性硬化症と異なる機序で神経変性病態が存在する可能性が示唆されている[32]。この神経細胞数の低下は注意力低下など認知機能低下に関連すると考えられている[32]

血液脳脊髄液関門の病理

視神経脊髄炎では血液脳脊髄液関門の破綻が報告されている[33]。剖検例では軟膜上衣細胞脈絡叢にAQP4が顕著に脱落し、補体沈着やミクログリア活性化を効率に伴い、軟髄膜炎、脳室炎、水頭症への関与が示唆された。


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