視神経脊髄炎 視神経脊髄炎の概要

視神経脊髄炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/01 04:30 UTC 版)

視神経脊髄炎
概要
診療科 神経学
分類および外部参照情報
ICD-10 G36.0
ICD-9-CM 341.0
DiseasesDB 29470
MeSH D009471
GeneReviews

歴史的背景

1894年にDevic英語版は「視神経炎を伴った亜急性脊髄炎」という1例を報告した。同じ年にDevicの弟子であるGaultは過去の症例報告とDevicの症例まとめて16例を集めて視神経脊髄炎(NMO)という名称を提唱した。その後、多発性硬化症(MS)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)との異同が長らく議論されてきた。特にNMOはMSの亜型なのかそれとも独立した疾患なのかという点が長らく議論された。独立した疾患と考えられた根拠はオリゴクローナルバンドが陰性であること、急性増悪時の髄液細胞数が50/μL以上であったり、多形核白血球が有意に増加する症例があること。剖検例では脳病変が少ないこと、壊死性病変がしばしば認められるという点でMSと異なるという意見があった。またNMOでは単相性の経過をとることも知られていた。なお、東北大学などの検討では視神経と脊髄炎がともに1回のみエピソードであれば発症間隔にかかわらず単相性NMOとし、一方いずれかが2回以上の急性増悪があれば再発性NMOとしている。単相性NMOは男女ともにみられ感染後に発症する疾患であることが多く、再発性NMOは自己免疫の背景を持った女性に多い疾患という特徴がある。このような特徴が見出されていたが独立疾患として認識されにくかったのはバイオマーカーがなかったからである。

2004年にメイヨークリニックと東北大学からNMOに特異的な自己抗体NMO-IgGが発表された。2005年にその標的抗原が中枢神経の主要な水チャネルでありアストロサイトのendfeetに密に発現しているアクアポリン(AQP)4であることがわかった。以後NMO-IgGは抗AQP4抗体と呼ばれることが多くなった。抗AQP4抗体陽性症例の解析から約9割は女性であり、発症年齢は30歳代後半とMSよりも高く、再発は平均年に1回と多く、1/3の症例で片眼が失明しており3椎体以上の長い脊髄病変は9割の症例にみられるなどNMOの臨床的な特徴が明らかとなった。2006年度のWingerchunkらが新たなNMOの診断基準を作成した。診断基準では全身性エリテマトーデスシェーグレン症候群など膠原病や膠原病類縁疾患の徴候があった場合はその病変はNMOではなく、膠原病や膠原病類縁疾患の中枢神経症状と考える。抗AQP4抗体陽性症例のうち視神経炎あるいは脊髄炎のいずれか一方のみがみられる症例もあり2007年にWingerchunkらはNMOスペクトラムを発表した。

NMOの急性期病変ではAQP4やGFAPといったアストロサイトの蛋白質が広範に欠失すること、NMOの急性増悪期における髄液GFP濃度の著名な上昇、実験では抗AQP4抗体はアストロサイト障害性をもつといったことが明らかとなりNMOをMSのような炎症性脱髄疾患に分類することが不適切と考えられるようになった。astrocytopathic diseaseと分類するべきという意見がある。

視神経脊髄炎の臨床像

  多発性硬化症(MS) 視神経脊髄炎(NMO)
NMO/MS全体からみた頻度 60% 30%
男女比 1:3 1:10
発症年齢 20~30歳代で好発、50歳以上はまれ 30~40歳代で好発、高齢発症有り
人種差、地域差 白人に多い なし(アジア、ラテンアメリカに多い傾向)
視力障害の特徴 中心暗点 両側性障害、重症、水平性半盲
脊髄障害の特徴 片側の感覚障害、運動障害 長大病変、横断性障害、強いしびれ、痛み
大脳病変の特徴 記憶障害など様々の症状 吃逆、嘔吐、視床下部障害、過睡眠、意識障害
主な合併症 なし シェーグレン症候群、橋本病など膠原病
血清抗AQP4抗体 陰性 陽性
髄液オリゴクローナルバンド 約80%で陽性 大抵陰性(約10%で陽性)
再発予防治療 ベースライン薬:IFNβ-1a、IFNβ-1b、グラチラマー酢酸塩、フマル酸ジメチル

セカンドライン:フィンゴモリド、ナタリズマブ

ファーストライン:経口ステロイド薬、免疫抑制剤

セカンドライン:リツキシマブ(保険適用外)

疫学
NMOの発症年齢はMSよりも10歳ほど遅く30~40歳代が多い。50歳以上の初発例も珍しくない。シェーグレン症候群全身性エリテマトーデス橋本病など自己免疫病を合併する例が多い。再発頻度は年に1~2回でMSよりも多い。
妊娠
MSでは妊娠中は再発頻度が低下すると考えられているがNMOではむしろ再発しやすくなるという報告がある。
視神経炎
NMOの初発症状では視力障害が多い。MSでは片側性の視力障害が多いのに対してNMOでは両側性の視力障害を呈することが多い。視野異常としてはMSではよくみられる中心暗点に加えてNMOでは両耳側半盲(視交叉病変)、非調和性同名半盲(視索病変)、水平性半盲などがみられることが特徴である。
脊髄炎
NMOの脊髄炎はMRIで3椎体以上におよぶ中心灰白質を侵す長い横断性脊髄炎を呈するのが特徴である。
大脳病変
当初、NMOでは大脳病変は認められないとされていたが、その後大脳病変はまれではないことが明らかになった。大脳基底核視床下部脳幹などはAQP4が豊富に発現している部位でありNMOでは病変を認めることも多い。これらの部位を反映して難治性吃逆、嘔吐、内分泌異常、過睡眠、意識障害といった症状を示すことがある。
MRI
  多発性硬化症(MS) 視神経脊髄炎(NMO)
大脳病変 側脳室から垂直方向の半卵形病変、皮質下U-fiber病変など 第三、第四脳室周囲、脳幹(特に延髄背内側)などに分布
脳梁病変 10mm以下で浮腫なし 10mm以上で浮腫あり(大理石様パターン)
造影効果 オープンリング状 雲状
視神経病変 片側の視神経炎 両側性、視神経腫脹、視交叉病変、視索病変
脊髄病変 長さは通常2椎体未満 3椎体以上の長大病変、横断面で脊髄中心部の分布
視神経の評価としてはSTIR法が適切である。脊髄では3椎体以上の長い病変で横断面では脊髄中心部の病変が特徴的である。NMOの大脳病変の好発部位はAQP4が豊富に発現している第三脳室周囲、第四脳室周囲、中脳水道の周囲、延髄背内側、視床下部などで多い。またMSと比べると左右対称で広範な病巣をきたす傾向がある。MSで特徴的な側脳室近傍や脳梁病変を認めるNMOも存在するため鑑別は困難であるが病巣の大きさがMSでは10mm未満と小さく浮腫も伴わないがNMOの脳梁病変は10mm以上で大きく浮腫を伴いFLAIR画像では病変の周囲が高信号で内部が低信号を呈する大理石パターンを認める。造影MRIではMSはオープンリング状の造影効果をよくみられるが、NMOでは雲状造影効果を認めることが特徴であると報告されている。NMOは脊髄にはリング状増強効果を伴う病変をしばしば認める[1][2]。3椎体以上の長い病変(longitudinally extensive spinal cord lesion)は視神経脊髄炎に特異的な所見ではない[3][4][5]。具体的には全身性エリテマトーデスサルコイドーシス[6]シェーグレン症候群血管炎ベーチェット病多発性硬化症ADEM、HTLV-1などの感染症、腫瘍、栄養障害などでも3椎体以上の長い病変は認められる。
髄液検査
MSで高頻度に認めるオリゴクローナルバンドが検出されることは少ない。髄液一般所見では蛋白やIgGインデックス上昇がみられることがある。また髄液細胞数も増加して多形核球優位のこともある。NMOでは血清中に抗AQP4抗体をみとめるが髄液中で認められることは少ない。髄液中のGFAP(glial fibrillary protein)がNMOの臨床所見と相関すると報告されている。視神経脊髄炎で髄液糖が低下し、髄液細胞数が増加したため細菌性髄膜炎と鑑別が必要となった報告がある[7][8]血液脳関門の破綻による糖輸送障害や髄液細胞数の増加による髄液糖の消費亢進によって髄液糖低下が起こると考えられている。

  1. ^ Acta Neurol Scand. 2015 Jul;132(1):37-41. PMID 25639599
  2. ^ J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2017 Mar;88(3):218-225. PMID 27913626
  3. ^ Nat Rev Neurol. 2011 Nov 1;7(12):688-98. PMID 22045269
  4. ^ Mult Scler. 2012 Mar;18(3):271-85. PMID 21669935
  5. ^ Curr Opin Neurol. 2014 Jun;27(3):279-89. PMID 24792338
  6. ^ Ann Neurol. 2016 Mar;79(3):437-47. PMID 26677112
  7. ^ Neurol Sci. 2009 Feb;30(1):51-4. PMID 19145403
  8. ^ 臨床神経学 2016 56 569-572
  9. ^ 高血圧脳症のうちMRI画像で両側後頭葉を中心にT2強調像で高信号を示すもの
  10. ^ a b Brain. 2007 May;130(Pt 5):1235-43. PMID 17449477
  11. ^ a b Brain. 2008 Nov;131(Pt 11):3072-80. PMID 18945724
  12. ^ a b Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2020 May 28;7(4):e727. PMID 35413004
  13. ^ a b c Sci Transl Med. 2017 Jul 5;9(397):eaai9111. PMID 28679661
  14. ^ J Neurol. 2021 May;268(5):1938-1944. PMID 33416998
  15. ^ a b Mult Scler Relat Disord. 2022 Feb;58:103494. PMID 35051897
  16. ^ Brain Behav. 2021 Jan;11(1):e01865. PMID 33319460
  17. ^ a b J Neurol Sci. 2016 Jul 15;366:3-7. PMID 27288767
  18. ^ a b Brain. 2002 Jul;125(Pt 7):1450-61. PMID 12076996
  19. ^ J Exp Med. 2005 Aug 15;202(4):473-7. PMID 16087714
  20. ^ a b Brain. 2007 May;130(Pt 5):1224-34. PMID 17405762
  21. ^ a b Ann Neurol. 2016 Apr;79(4):605-24. PMID 26836302
  22. ^ a b Brain Pathol. 2014 Jan;24(1):83-97. PMID 24345222
  23. ^ J Exp Med. 2008 Oct 27;205(11):2473-81. PMID 18838545
  24. ^ Brain. 2007 May;130(Pt 5):1194-205. PMID 17282996
  25. ^ Neurology. 2009 Nov 17;73(20):1628-37. PMID 19917985
  26. ^ Acta Neuropathol. 2013 Jun;125(6):815-27. PMID 23579868
  27. ^ PLoS One. 2013 Aug 22;8(8):e72919. PMID 23991165
  28. ^ a b Neurology. 2011 Apr 5;76(14):1229-37. PMID 21368286
  29. ^ a b Ann Neurol. 2012 Sep;72(3):385-94. PMID 23034911
  30. ^ a b Ann Neurol. 2000 Jun;47(6):707-17. PMID 10852536
  31. ^ Ann Neurol. 2014 May;75(5):728-38. PMID 24771535
  32. ^ a b Ann Neurol. 2013 Jan;73(1):65-76. PMID 23378324
  33. ^ Acta Neuropathol. 2017 Apr;133(4):597-612. PMID 28184993
  34. ^ Cells. 2020 Dec 7;9(12):2622. PMID 33297299
  35. ^ Brain. 2010 Feb;133(Pt 2):349-61. PMID 20047900
  36. ^ Ann Neurol. 2009 Nov;66(5):630-43. PMID 19937948
  37. ^ Brain. 2021 Sep 4;144(8):2401-2415. PMID 33711152
  38. ^ J Neuroimmunol. 2013 Jan 15;254(1-2):178-82. PMID 23017732
  39. ^ Acta Neuropathol. 2012 Jun;123(6):861-72. PMID 22526022
  40. ^ Ann Neurol. 2011 Dec;70(6):943-54. PMID 22069219
  41. ^ Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 May 23;114(21):5491-5496. PMID 28461494
  42. ^ Brain. 2022 Jun 3;145(5):1726-1742. PMID 35202467
  43. ^ Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Mar 1;108(9):3701-6. PMID 21321193
  44. ^ J Clin Neurosci. 2011 Oct;18(10):1313-7. PMID 21795048
  45. ^ Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2020 Aug 20;7(5):e841. PMID 32820020
  46. ^ Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2016 Dec 19;4(1):e311. PMID 28018943
  47. ^ a b Nat Rev Cancer. 2014 Apr;14(4):263-76. PMID 24658275
  48. ^ Araki M, et al. Efficacy of the anti–IL-6 receptor antibody tocilizumab in neuromyelitis optica, A pilot study. Neurology 2014; 82(15): 1302-1306. {{doi: 10.1212/WNL.0000000000000317}}
  49. ^ http://www.ncnp.go.jp/press/press_release140315.html
  50. ^ Cree, Bruce A C; Bennett, Jeffrey L; Kim, Ho Jin; Weinshenker, Brian G; Pittock, Sean J; Wingerchuk, Dean M; Fujihara, Kazuo; Paul, Friedemann et al. (2019-10). “Inebilizumab for the treatment of neuromyelitis optica spectrum disorder (N-MOmentum): a double-blind, randomised placebo-controlled phase 2/3 trial” (英語). The Lancet 394 (10206): 1352–1363. doi:10.1016/S0140-6736(19)31817-3. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0140673619318173. 
  51. ^ Nat Rev Neurol. 2011 Nov 1;7(12):688-98. PMID 22045269
  52. ^ Mult Scler. 2012 Mar;18(3):271-85. PMID 21669935
  53. ^ Neurology. 2011 Jun 14;76(24):2089-95. PMID 21670438
  54. ^ Neurol Clin. 2013 Feb;31(1):307-18.1PMID 23186906
  55. ^ Nat Clin Pract Neurol. 2008 May;4(5):284-8. PMID 18317500
  56. ^ Arch Neurol. 2008 May;65(5):629-32. PMID 18474738
  57. ^ Intern Med. 2023 Jun 1;62(11):1653-1657. PMID 36288992
  58. ^ eNeurologicalSci. 2018 May 23;11:17-19. PMID 29928713


「視神経脊髄炎」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「視神経脊髄炎」の関連用語

視神経脊髄炎のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



視神経脊髄炎のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの視神経脊髄炎 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS