視神経脊髄炎 病態

視神経脊髄炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/01 04:30 UTC 版)

病態

視神経脊髄炎の病態に関して抗AQP4抗体によるアストロサイト障害、抗体産出とリンパ球、IL-6による病態修飾、抗AQP4抗体の血液脳関門の通過に関して述べる。

抗AQP4抗体によるアストロサイト障害

AQP4は中枢神経系では主にアストロサイトの足突起や上衣細胞に発現し、細胞膜上四量体を形成している。AQP4にはM1とM23の2種類のアイソフォームがあり、M23アイソフォームで構成される四量体はさらに重合して直交格子状配列(orthogonal arrays of particles、OAPs)を形成する。M1とM23の比率が主に直交格子状配列の大きさを規定し、AQP4の抗原性に関わっていると考えられている。この抗原性違いが視神経脊髄炎でAQP4が発現する、骨格筋、肺、腎などの組織が障害されないことのひとつの要因とされている。AQP4は水チャネルとしての機能の他、アストロサイトの移動や細胞接着に関与することも報告されているが発現制御機構や生理学的役割にはいまだ不明点も多い[34]。マウス・ラットを用いた動物実験において、抗AQP4抗体陽性患者由来のNMO-IgGの投与によって視神経脊髄炎患者病理に類似したアストロサイト脱落を伴う中枢神経病変が再現され[35][36]、抗AQP4抗体が病変形成に重要であることが確認された。抗AQP4抗体によって引き起こされるアストロサイト障害には補体が非常に重要な役割を果たしている。抗AQP4抗体により活性化された補体系が古典経路を介して膜侵襲複合体を形成しアストロサイトの破壊を生じると考えられている。視神経脊髄炎患者病理では特に急性期に活性化補体の沈着が認められ[37]、急性期視神経脊髄炎患者の髄液においては膜侵襲複合体形成過程で産出される補体成分の一つであるC5aの上昇がみられる[38]。また動物モデルにおいて視神経脊髄炎病変を引き起こすためには、NMO-IgGにより活性化される補体がNMO-IgGと同時に存在することが必要であり、補体を介した組織傷害が特に急性期病変形成において重要と考えられる。IgGによる補体活性化にはIgG分子が複数近接して存在する必要があるが、アストロサイト膜表面の直交格子状配列に多数の抗AQP4抗体が結合することで補体の活性化が生じやすくなっている可能性がある。また形成された膜侵襲複合体が周辺の髄鞘や神経を障害するbystander injuryが急性増悪初期の神経障害に関与する可能性が指摘されている。補体非依存性のアストロサイト障害機序も指摘されている。患者体内に存在する抗AQP4抗体は主にIgG1と考えられており、Fcγ受容体を介して好中球、マクロファージ、NK細胞といった自然免疫系細胞を活性化することで[39][40]、局所の炎症反応を増幅させアストロサイト障害を起こすことが考えられる。またin vitroではアストロサイト膜表面に発現するAQP4分子にNMO-IgGが結合するとFcγ受容体依存性にAQP4内在化が生じることが報告されており[41]、AQP4やアストロサイトの機能的障害が病態に関与する説もある。脱髄や神経軸索の障害はアストロサイト変性や機能障害に引き続いておこると考えられているがその機序の詳細は明らかないなっていない。膜侵襲複合体によるbystander injuryやグルタミン酸毒性関与する可能性が指摘されている。またこれらの機序とは別にモデルマウスではアストロサイト脱落後に脱髄が生じていない神経軸索にもごく早期から形態変化が生じていることが示唆されているが[42]、不可逆な神経障害がいかに生じるか不明点は多い。

かつて抗AQP4抗体価は脊髄炎の病変の長さと疾患活動性と相関すると報告されていた[10][11]。しかし2020年の報告では抗AQP4抗体価は再発、再発の重症度、疾患活動性と相関しない報告されている[12]

抗体産出とリンパ球

視神経脊髄炎における抗AQP4抗体の産出はB細胞から分化した形質細胞によって行われると考えられている。視神経脊髄炎患者の末梢血中では形質細胞の前段階である形質芽細胞が増加しており、IL-6の作用によって形質芽細胞の生存と抗体産出が促進される[43]。抗体産出は主に末梢で起こっていると考えられており、髄液中に存在する形質細胞も基本的には末梢に由来するものとされているが、髄腔内での抗体産出が起こっていることを示す報告もある。急性期の視神経脊髄炎患者ではIL-17IL-21などのTh17細胞関連サイトカインが上昇していることが報告されている[44]。視神経脊髄炎急性期病巣では好中球が多数認められるが、Th17細胞は好中球浸潤を促進することが知られておりTh17細胞が組織障害に関与する可能性がある。

IL-6による病態修飾

視神経脊髄炎患者の血清・髄液ではIL-6が高値であることが報告されている。IL-6は様々な細胞で産出され、T細胞・B細胞のほか、中枢神経系でも神経細胞・アストロサイト・ミクログリア・血管内皮細胞で産出される[45]。IL-6受容体は膜型と可溶型があり、いずれも細胞膜上のglycoprotein 130 (gp130)と複合体を構成し、細胞内にシグナル伝達を行う。IL-6の作用は多岐にわたり、視神経脊髄炎においてはIL-6は末梢血中の形質芽細胞の生存を促進し、抗体産出を促すことが報告されている。またIL-6はTh17細胞の分化にも寄与しており、Th17細胞を介した組織傷害を悪化させている可能性がある。NMO-IgGによってアストロサイトにおけるIL-6産出が増加し、血管内皮細胞にIL-6シグナルが作用することで血液脳関門の透過性を亢進させるという報告もある[46]。以上のようにIL-6は視神経脊髄炎の病態に多面的に関わることが示唆されている。

抗AQP4抗体の血液脳関門通過

抗AQP4抗体が中枢神経系に組織障害を起こすには、通常は血清中に抗AQP4抗体が認められるのみでは不十分であり、抗体血液脳関門を通過して中枢神経系へ移行するためにT細胞などの他の要素が必要と考えられている。各種サイトカインやT細胞浸潤に伴う血液脳関門透過性亢進に関与するほか、視神経脊髄炎における血液脳関門破綻に関与する自己抗体として抗GRP78(glucose-regulated protein 78)抗体が報告されている[13]。GRP78は別名BiP/HSPA5であり熱ショック蛋白70ファミリーに分類されすべての細胞の細胞質に局在し分子シャペロンとして機能する[47]。GRP78は分子シャペロンとして細胞の恒常性を維持する機能だけでなく癌細胞では細胞表面に局在することが報告されている。抗GRP78抗体は前立腺癌、大腸癌、胃癌、肝細癌のほか関節リウマチシェーグレン症候群、CNSループスでは血中で認められる[13][47]


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