衛星測位システム
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機能
代表的な機能は、衛星航法システムの電波を受信することで地表面上や空中で自らの位置を知ることであるが、それ以外にも幾つかの機能が実現できる[20]。
一般的な機能
- 位置決定
- 実時間位置決定(航法)
- 高精度位置決定(測量)
- 速度決定(航法)
- 姿勢決定(航法)
- 時刻同期[20]
特殊な機能・利用法
すべての衛星航法システムに備わっているのではないが、以下のような特殊な機能を持つシステムがある。
システム構成
衛星測位システムは、利用者セグメント、宇宙セグメント、地上管制セグメントからなる。
- これに対して、航法衛星システムや測位衛星システムという時は、宇宙セグメントと地上管制セグメントからなるシステムを指す。
利用者セグメントは、主に利用者受信機である。宇宙セグメントは、主に航法衛星である。地上管制セグメントは、主に地上局/地上施設である。
利用者受信機
- 利用者受信機は、複数の航法衛星から電波で送信された航法信号を受信し、その送信時刻を測定する[注 4]。この測定は、擬似ランダム雑音 (Pseudo Random Noise; PRN) 変調信号の特性を用いて行う。
- また航法衛星の天体暦(軌道)の情報を受信し[注 5]、これにより送信時刻における航法衛星の座標が求められる。
GPS
アメリカ合衆国のグローバル・ポジショニング・システム (GPS) は、最大32機の6種類の異なる軌道平面の中地球軌道衛星によって構成される。1978年から運用され、1994年に全地球上で常時使用できるようになった。GPSは、2010年代までは世界中で最も普及している衛星航法システムであり、マルチGNSSを採用した利用者受信機でも、"GPS"が衛星測位システムの代名詞的に総称される場合もある。
Galileo
米国依存からの脱却のため、当時のヨーロッパ共同体とヨーロッパ宇宙機関は、2002年3月にガリレオと呼ばれる独自の全地球航法衛星システムを導入する事で合意した。当初、中華人民共和国も計画に参加していたが、後に離脱した。当初の予定では24億ポンドで[24]30機の中地球軌道の衛星によって2010年から運用する予定とされた。GPSと共存性・相互運用性が確保される見込みである。
その後財源や事業体制[注 7]などの課題により運用開始は2012年の予定になった。最初の実験衛星ジオベ衛星は、ロシアのソユーズロケットを用いて2005年12月28日に打ち上げられた。2016年12月25日、ようやく全地球サービス開始にこぎつけたと日本では報道された[25]。
GLONASS
旧ソ連は米国との対抗上、GPSと同様のGLONASS(グロナス)を構築しようとしたが必要な衛星を全て打上げる前にソ連が崩壊してしまい、予算の縮小から衛星打ち上げが頓挫。一部の地域で部分的に運用されていた[注 8]。ロシア連邦成立後に計画が再開され、2005年には再開後初の衛星を打ち上げ、2010年9月までに24基の衛星を打ち上げ、GLONASSは復旧した(24機中24機が運用中である。)。2011年には全世界で測位可能となり、現在は測位精度を高めるためにGLONASSとGPSを併用する受信機が登場している(GLONASS#受信機も参照)。
北斗衛星導航系統
中国は、北斗系統 と呼ばれる地域衛星系を拡張することで、2020年までに全地球規模で測位できるようにする[26]。計画はBeiDou navigation System (BDS) と中国の公式の報道機関である新華社で呼ばれる。BDS は30機の中軌道の衛星と5機の静止衛星から構成される。
地域衛星系
- 準天頂衛星システム(QZSS) - 日本
- インド地域航法衛星システム(NavIC)- インド
準天頂衛星システム
4機の人工衛星からなりGPS等の位置情報を補正して高精度の測位を可能とする日本の準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite System, QZSS)は、2018年度から運用が始まった。2023年度を目途に7機体制に拡張される予定である。
かつて、新衛星ビジネス株式会社が2002年(平成14年)に設立され、高速で移動する車輛の内部で精度25cmとされる測位精度を用いた各種事業が検討された。最初の人工衛星は、2008年(平成20年)に打ち上げられる予定であった。予算の都合で、通信・放送との複合機能衛星となっており、それらのサービスのシナジー効果が期待されていたが、採算性の面から2006年(平成18年)3月に放送・通信の事業化が断念され、純粋な測位衛星として利用されることになった(新衛星ビジネス社は2007年8月2日に解散し、財団法人衛星測位利用促進センターが、測位分野のみ継続)。
一方、政府による打ち上げの動きもあり、2005年(平成17年)の第44回衆議院議員総選挙の自由民主党マニフェスト「政権公約2005」[27]の52項目にも「国家基盤としての衛星測位の確立と骨格的空間情報の整備」との記載があった。政府ではその後、内閣官房に測位・地理情報システム等推進会議が設置され、2006年(平成18年)3月には「準天頂衛星システム計画の推進に係る基本方針」[28]を発表した。それによると、国家が衛星測位の重要性を認識し、民間の資金負担がないとしても、国家が衛星測位システムを整備することを宣言した。
2010年(平成22年)9月11日に、準天頂衛星の実用試験機として初号機「みちびき」 (QZS-1) が打ち上げられた。2013年に運用が開始され、2016年現在は1機体制でL1-SAIF信号を送出しており、高精度なSBAS(衛星航法補強システム)的利用が可能である。今後、2017年に衛星3機が追加で打ち上げられ、2018年に4機体制でシステムを運用開始(2018年11月1日から正式運用開始)し、さらに2020年に初号機の後継1機と2023年に衛星3機を追加して7機体制で運用することが決定された[29][30]。
NavIC : Navigation with Indian Constellationは、インド政府の下でインド宇宙研究機関によって現在開発が進められている衛星航法システムである。2006年5月に政府は計画を承認して2014年に完成して運用を始める予定である[31]。7機の航法衛星から構成される[32]。7機の衛星は全て静止軌道から地域の地図情報を送信する。天候に関わらず7.6m以上の精度でインドとその周辺のおよそ1,500 kmの地域を網羅する[33]。最終目標はインド全域で端末も全てインド製になる予定である[34]。
DORIS
Doppler Orbitography and Radio-positioning Integrated by Satellite (DORIS) はフランスの衛星測位システムである[35]。
北斗 1
中国の地域衛星系で全地球規模のCompass ナビゲーションシステムへ拡張中。
衛星型補強系
航空機での精度向上を当初目的として、衛星航法補強システム (SBAS: Satellite Based Augmentation System) が運用されている。
また、次の地域においてSBASが計画されている。[36]
民間企業による全地球測位補強サービス
- StarFire
- OmniSTAR
公共のディファレンシャル測位補強サービス
衛星系の比較
システム | 国 | 信号方式 | 軌道 遠地点と近地点 | 衛星数 | 周波数 | 状態 |
---|---|---|---|---|---|---|
GPS | アメリカ | CDMA | 20,200 km 11h56m |
31機 | 1.57542 GHz(L1信号) 1.2276 GHz(L2信号) 1.17645 GHz(L5信号) |
運用中 |
みちびき | 日本 | CDMA | 42,165 km 23h56m |
4機 (+3機) | 1.57542 GHz(L1信号) 1.2276 GHz(L2信号) 1.17645 GHz(L5信号) 1.27875 GHz(L6信号) 2 GHz(S帯信号) |
運用中 |
ガリレオ | 欧州連合 | CDMA | 23,222 km 14.1h |
30機 | 1.164-1.215 GHz (E5a and E5b) 1.215-1.300 GHz (E6) 1.559-1.592 GHz (E2-L1-E11) |
運用中 |
GLONASS | ロシア連邦 | FDMA/CDMA | 19,100 km 11.3h |
24機(CDMA機 を打ち上げた 場合は30機) |
約 1.602 GHz (SP) 約 1.246 GHz (SP) |
再構築後運用中 CDMA運用中 |
北斗系統 (BDS) |
中国 | CDMA | 21,150 km 12.6h |
35機[37] | B1: 1,561098 GHz B1-2: 1.589742 GHz B2: 1.207.14 GHz B3: 1.26852 GHz |
運用中 |
NavIC | インド | CDMA | 35,700km | 7機 | 1.17645 GHz(L5信号) 2 GHz(S帯信号) |
運用中 |
注釈
- ^ 現在の身近な用途はカーナビゲーション、歩行ナビゲーションであるが、他にも船舶や航空機の航法支援、建築・土木では測量やブルドーザーの制御、農業ではトラクターやコンバインの自動運転などに用いられている
- ^ 衛星航法システムの構築と保有は、財政的に比較的余裕のある工業国にとって、長期的な安全保障と社会の利便性向上の観点から重要政策と位置づけされることがある。それは地上系の電波航法が主流であったときから続く一般論である
- ^ GPSは地上約20,200 kmのほぼ円軌道をとる。傾斜角55度の6つの軌道に4機ずつの合計24機に加えて、予備に何機かを軌道上で常に用意している。周期はおよそ12時間である。GLONASSは19,100 kmの高度を120度ごとの傾斜角64.8度3つの円軌道に45度異なる8機、合計24機の衛星を配置する予定である。周期は11時間15分44秒である。ガリレオは傾斜角65度で長半径29,601.297 kmの3つのMEO (Medium Earth Orbit) 軌道内に各9機の衛星が40度ごとに離れて置かれ、合計27機が予備3機と共に置かれる。予備衛星も各軌道で1機を持ち、およそ1週間で移動を完了する。周期は14時間4分45秒17である。
- ^ 受信機測定値である信号送信時刻は、そのままの形よりも、仮の「伝播時間」(=「受信機で仮り決めした受信時刻」ー「送信時刻」)という形で表現されることが多い。「この伝播時間×真空中の光速度」は擬似距離と呼ばれる。受信・測定時刻については受信した複数の航法衛星に対して同一時刻で行われる。この受信時刻は、GPS時に同期させる場合が多い。例えば、測定レートが 1 Hz の受信機では、GPS時の正秒時との差が±1 ms 以内になるよう受信機内部で調整される。
- ^ 航法衛星の天体暦(軌道)、衛星時計のバイアスは航法メッセージ信号を復調して得る。
- ^ ただし送信時刻の受信機測定値には、航法衛星での航法信号の生成の時刻ずれ(つまり信号基準である衛星時計のずれ、バイアス)が元来含まれている。そこで正確な送信時刻を得るために、このバイアス値の情報を航法衛星から受信し利用者側で差し引くことで、ほぼ確実に5 ns(距離に換算して1.5 m)以内にバイアス誤差が除去された送信時刻を得ることができる。
- ^ 民間企業も採算の見込みが立たないと手を引いたため、本格運用開始の共同事業体の体制がととのわず、目処が立たない状況となっていた。
- ^ このことは、航法衛星システムの維持がいかに財政的な裏付けを必要とする困難な事業であるかを物語っている。
- ^ Cバンドは4-8GHz、Sバンドは2-4GHz、Lバンドは1-2GHzである。
- ^ 日本では長年の電離層観測による「臨界プラズマ周波数値」によって、TECとの相関を利用した高い精度の補正値が得られており、他国も同様の研究を行っている。
- ^ 正確には、慣習上、乾燥成分と呼ぶものは大気分子全てを非分極気体分子と見なした屈折率寄与の和(静水圧項)を指す。気体としての水(水蒸気)からの屈折率寄与については非分極項と分極項(すなわち非静水圧項)とに分け、後者を指して慣習上、湿潤成分と呼ぶ。
- ^ 中性大気の屈折率は15GHzまでの周波数帯に対して一定値を示し、衛星航法に使用される電波帯では周波数差から屈折率推定を行うことはできない。
- ^ 衛星航法システムの衛星が使用する搬送波の周波数帯は、国際電気通信連合 (ITU) の割り当てを受けているが、複数のシステム同士は2010年現在、互いの周波数は離散的に配置されている。
- ^ 従来のGPSだけが存在していた時代ではSAによる測位精度操作に大きな意味があったが、複数のシステムが並立するようになれば相対的に1つのシステムごとのSAの価値は希薄化する。
出典
- ^ a b https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC1000000063&openerCode=1
- ^ 国土地理院. “GNSS測位とは”. 2023年7月23日閲覧。
- ^ 測地観測センター火山情報活用推進官 川元智司 (2017年6月7日). “進化する衛星測位技術と電子基準点の役割”. 国土地理院. 2023年7月23日閲覧。
- ^ 田部井隆雄 ほか. “地球計測”. 日本測地学会. 2023年7月23日閲覧。
- ^ 国土地理院. “電子基準点”. 国土地理院. 2023年7月23日閲覧。
- ^ 国土地理院. “電子基準点データ提供サービス”. 国土地理院. 2023年7月23日閲覧。
- ^ “誤差数センチの衛星測位サービス、ドコモやソフトバンクが基地局活用し今秋から”. ITmedia (2019年6月3日). 2023年7月23日閲覧。
- ^ “公共測量における新技術の導入” (pdf). 国土地理院. 2023年1月9日閲覧。
- ^ https://www.gps.gov/cgsic/meetings/2015/auerbach.pdf#page=3
- ^ [1] 2011年度施行改正公共測量作業規程の準則(基準点測量)解説、アイサンテクノロジー
- ^ [2] 平成 22 年度 -公共測量- 作業規程の準則の一部改正 第2編 基準点測量 新旧対照表、国土地理院、赤字で示されている箇所。
- ^ U.S. Department of State, Civil GPS Service Interface Conference 2015-2018
- ^ NASA, 9th Multi-MGA Asia conference presentation, https://www.multignss.asia/, October 2017
- ^ https://www.gps.gov/cgsic/meetings/2017/auerbach.pdf#page=3
- ^ http://202.127.29.4/meetings/icg2016/index.html
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- ^ http://qzss.go.jp/news/archive/irnss-1g_160502.html
- ^ https://www.isro.gov.in/
- ^ https://www.wassenaar.org/
- ^ a b c d e f ヴェレンホーフ、リヒテンエッガ、ヴァスレ著、西修二郎訳、『GNSSのすべて』、古今書院、2010年2月10日初版第1刷発行、ISBN9784772220088
- ^ en:GNSS positioning calculation#The solution illustrated
- ^ El-naggar, Aly M. (2012-06-01). “New method of GPS orbit determination from GCPS network for the purpose of DOP calculations” (英語). Alexandria Engineering Journal 51 (2): 129–136. doi:10.1016/j.aej.2012.06.002. ISSN 1110-0168 .
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- ^ “Boost to Galileo sat-nav system” (英語). BBC News. (2006年8月25日) 2008年6月10日閲覧。
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- ^ 政権公約2005
- ^ 準天頂衛星システム計画の推進に係る基本方針 (PDF)
- ^ “宇宙基本計画(平成28年4月1日閣議決定)” (PDF). 内閣府宇宙基本計画. 宇宙開発戦略本部. p. 17 (2016年4月1日). 2016年12月20日閲覧。
- ^ “宇宙基本計画工程表(平成27年度改訂版)” (PDF). 内閣府宇宙基本計画. 宇宙開発戦略本部. p. 3 (2015年12月8日). 2016年12月20日閲覧。
- ^ “April 15 launch to give India its own GPS” (英語). The Economic Times. (2010年4月12日)
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- ^ “Launch of first satellite for Indian Regional Navigation Satellite system next year” (英語). THE HINDU. (2016年11月12日)
- ^ “India to build a constellation of 7 navigation satellites by 2012” (英語). livemint.com. (2007年9月5日). オリジナルの2012年5月26日時点におけるアーカイブ。
- ^ DORIS information page
- ^ http://www.navipedia.net/index.php/Other_SBAS
- ^ China to send third navigation satellite into orbit
- ^ GPS without limits
- ^ Why are there altitude and velocity limits for GPS equipment?
- ^ COCOM Limits
- ^ 例えばBroadcomは、http://ja.broadcom.com/products/GPS/GPS-Silicon-Solutions/BCM47511
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