薬物依存症 原因

薬物依存症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/11 01:38 UTC 版)

原因

1度の使用で依存が形成されることはなく、依存は継続的に使用された場合に形成される[8]。依存症者は本来、意思が弱い・ろくでなしということではなく、治療が必要な病人である[8]

薬物のもたらす快感は反復的な使用のもっとも重要な原因である可能性は高い[26]。すべての薬物が依存症を引き起こすわけではなく、薬物が引き起こす快感は、急性の作用(ラッシュ)と続く多幸感から成り立ち、依存へとつながる精神的な動因がもたらされる[26]。喫煙や注射はラッシュを大きくし依存の可能性を高めるし、比較して、経口摂取された場合には多幸感は長く続く[26]。急速に代謝される薬物は、より強い耐性と離脱症状を生じ可能性がある[26]

依存症を引き起こすことが知られている薬物は違法薬物、処方箋医薬品、市販薬などに区別される。 アメリカ依存医学会英語版によると、以下のように分類される。

これらの薬物は、1961年の麻薬に関する単一条約からはじまる国際条約において、医療用途がないスケジュールIと、医療用途があり乱用の危険度によりスケジュールII以下で分類される物質が乱用の危険性がある物質であり、規制の対象となる。その中に身体的依存を示す物質と示さない物質とが含まれる。各国は国際条約に批准しているため、アメリカでは規制物質法、イギリスでは1971年薬物乱用法、日本では麻薬及び向精神薬取締法をはじめとした薬物四法で規制されている。そのほかに例外化されているタバコアルコールは、最も公衆衛生上の被害をもたらしている薬物依存症の原因となる物質である。

依存性

薬物依存症の可能性については、個々の薬物ごとにそれぞれ異なる。その薬物の摂取量、摂取頻度、物質、投与経路、薬物動態などが、薬物依存形成の要素である。

薬物を使用したことがある者が生涯において依存症へと移行する累積的な割合は、ニコチン使用者で67.5%、アルコール使用者で22.7%、コカイン使用者で20.9%、大麻使用者で8.9%[31]

LSDやMDMAのような幻覚剤では精神依存は多少あるが、身体依存はないと理解されている[1]。すぐに耐性が生じることから、乱用され難しく、離脱症状の存在も不明瞭である[14][32]

医学雑誌『ランセット』に示された、20の薬物について、依存症の専門家による点数付けを平均した身体的依存、精神的依存、快感の平均尺度が0 - 3の範囲で示された。カフェインは研究に含まれていない[1]

薬物 平均 快感 精神的依存 身体的依存
ヘロイン 3.00 3.0 3.0 3.0
コカイン 2.37 3.0 2.8 1.3
アルコール 1.93 2.3 1.9 1.6
たばこ 2.21 2.3 2.6 1.8
バルビツール酸 2.01 2.0 2.2 1.8
ベンゾジアゼピン 1.83 1.7 2.1 1.8
アンフェタミン 1.67 2.0 1.9 1.1
大麻 1.51 1.9 1.7 0.8
LSD 1.23 2.2 1.1 0.3
エクスタシー 1.13 1.5 1.2 0.7

離脱症候群と耐性

離脱症候群(古くは退薬症候)とは、摂取した薬物が身体から分解や排出され体内から減ってきた際に起こるイライラをはじめとした不快な症状である。このような離脱症状を回避するために、繰り返し薬物を摂取することは、依存症の診断基準を満たす。またアルコールのように、振戦(手の震え)などの身体に症状が生じる場合もある。

離脱症状と依存症には因果関係はないというのは、離脱症状が軽度であれば離脱は困難ではなく、断薬できるということは依存症の定義を満たさないためである[33]

耐性とは、連用することによってその薬物の効果が弱くなることである。これを薬物に対する耐性の形成と呼ぶ。耐性が存在しない薬物もある。薬物が効きにくくなるたびに使用量が増えていくことが多く、最初は少量であったものが最後には致死量に近い量を摂取するようになることすらある。耐性が形成されやすい薬物として、アンフェタミン類、モルヒネ類(オピオイド類)、アルコールなどが挙げられる。

生理学的な説明

依存性薬物の作用機序は様々であるが、その多くに直接的にせよ間接的にせよ共通しているのが、脳内で本来働いている物質と同様に働き、脳がその違いを区別できないアゴニストとしての作用によるものである。典型的な例としてはオピオイド(例: ヘロインモルヒネアヘン等)が挙げられる。特定の受容体に対して本来正常に機能している内因性の脳内物質(この場合はβ-エンドルフィンなどいくつかあるオピオイド受容体のアゴニストまたはアンタゴニストといった内因性リガンド)に代わり、通常(内因性のアゴニスト)ではありえないほど強力かつ長時間アゴニストとして作用することによって作用する。また、それらに対して拮抗的に作用するのがナルトレキソンナロキソンなどのアンタゴニストである。

身体的依存性のある薬物の血中濃度が低下してくると、生理的、心理的に不快な離脱症状として多彩な症状が生じる。オピオイドの場合は、どれほど耐えがたい離脱症状であっても通常致命的ではない。この離脱症状の辛さは、再び薬物を摂取したいという欲求の強力な誘因の一つとなる。

離脱症状はアゴニストとして働いていた物質が単に身体にとって不十分になれば程度の差はあれ生じる。しかし、個々の薬物の摂取後の血中濃度や薬物動態と症状の発現や程度は必ずしも相関しないことも多い。そうして断薬を継続すれば、慢性的な薬物摂取のため低下していた内因性アゴニストの分泌や受容体の数、感受性等が徐々に回復して正常化していき、そうすることで離脱症状も徐々に薄れていく。最終的に、離脱症状と身体的依存の状態から完全に回復する。しかし一般的に行われている治療では、それでもまた薬物中毒者に戻ってしまう人々の割合、すなわち再発率は高いことが多くの研究によって明らかになっている。

ミクログリアについての基礎研究

薬物依存は、中枢神経系ミクログリアと強い関連が示唆されている。マウスを用いた実験では、メタンフェタミンコカインモルヒネエタノールなどがミクログリアを活性化させる。ミノサイクリンの前投与は、メタンフェタミンやモルヒネの条件付け場所嗜好 (CPPを阻止し、マウスの精神的依存を抑制した[34][35]。コカインの反復投与によって誘発されたマウスの自発運動亢進が、ミノサイクリン投与によって大幅に抑制された[36]。動物実験でミノサイクリンなどのテトラサイクリン系がエタノール摂取量を大幅に減少させたため、重度アルコール依存症の有望な治療薬であると期待される[37][38]


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