薬剤耐性 薬剤耐性の獲得

薬剤耐性

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/23 10:18 UTC 版)

薬剤耐性の獲得

薬剤耐性は、もともとある薬剤に対して感受性であった微生物が、何らかの方法によって、その薬剤に対して上述のメカニズムを獲得することで得られる性状であり、いちど獲得された耐性は、遺伝によってその子孫にも伝えられる遺伝的形質である。この形質は薬剤耐性遺伝子によって担われている。薬剤耐性遺伝子は、その薬剤による作用から逃れるための機能を備えたタンパク質の情報をコードしており、感受性の病原体がこの遺伝子を何らかの方法で獲得することで、薬剤耐性は獲得される。

新しい化学療法剤が開発され、医薬品として使用されるようになると、間もなくその薬剤に対する耐性を獲得した病原体が現れる。通常、1年以内にはすでに耐性微生物が検出されるようになることが多い。特に同じ種類の薬剤を大量、あるいは長期間にわたって使用すると、環境や患者から分離検出される頻度が高くなる。特に、抗生物質の開発以降は、抗生物質が無効なウイルスや耐性菌などによる疾患に対しても安易な投薬が行われた結果、薬剤耐性菌の蔓延をまねいたと言われている。ただし、耐性遺伝子の獲得自体は常にほぼ一定の確率で起こっている現象であり、その薬剤が存在するかしないかには依存しない。薬剤の存在下で耐性微生物が高頻度で出現するのは、薬剤感受性の微生物と比べて薬剤耐性のものは有利に増殖できるため、薬剤が一種の選択圧として作用した結果、耐性の微生物だけが繁栄するためであると考えられている。この現象は菌交代現象と呼ばれる。

耐性獲得の遺伝的メカニズム

耐性の獲得には、その病原体が新たに独自の耐性機構を作り出す場合と、他の薬剤耐性病原体が持つ機構が何らかのかたちで伝達され、それを新たに取り込む場合がある。

新規の耐性獲得
ある薬剤に感受性の微生物が増殖していく過程で、薬剤耐性の微生物が新たに生まれることがある。細菌やウイルス、がん細胞などすべての病原体で起こりうる現象であり、これらの染色体上の遺伝子が突然変異することで起きる。
耐性の伝達
微生物によっては、外来の遺伝子を取り込んだり、同種の微生物同士で遺伝子をやり取りする仕組みを持っており、この仕組みを介して、ある微生物が獲得した耐性が、別の微生物に伝達されて新たな耐性微生物が生じる場合がある。このような仕組みは特に細菌でよく研究されている(後述)。また細菌以外にも、インフルエンザウイルスのように、分節した遺伝子を持つウイルスなども、比較的高頻度にウイルス同士で遺伝情報のやりとりが行われることが知られている。

細菌の耐性遺伝子の獲得

細菌においては、ある細菌が獲得した薬剤耐性が同種または異種の細菌に伝達されることが頻繁に見られる。耐性を獲得した非病原性細菌から、病原性細菌への伝達が起きると、化学療法による治療が困難になるため医学上の大きな問題になる。

細菌には外来性の遺伝子を取り込む仕組みが存在し、これによって同種または異種の細菌同士で遺伝子の一部のやりとりが行われている。細菌の毒素などの病原因子をコードした遺伝子がやりとりされるほか、薬剤耐性遺伝子もこの機構によって伝達されることが知られており、その細菌の突然変異によって耐性を獲得する以外に、このような外来性の耐性遺伝子を取り込むことで耐性を獲得する場合が多い。

取り込まれた耐性遺伝子は、細菌の遺伝子(染色体)そのものに組み込まれる場合と、プラスミドとして染色体とは別に細菌の細胞質に存在する場合があるが、大部分はプラスミドに存在することが多い。このようなプラスミドを耐性プラスミドまたはRプラスミド(Rはresistantの頭文字から)と呼ぶ。耐性プラスミドを持つ細菌には、性線毛とよばれる細胞表面の繊維状器官によって他の細菌にプラスミドを伝達する、接合伝達を行うものがあり、グラム陰性菌やVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)などがこれに分類される。一方、接合伝達を行わない細菌でも、形質転換や、ファージによる形質導入によって耐性遺伝子の伝達が起こりうる。


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