著作権表示 著作権表示の概要

著作権表示

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/17 01:54 UTC 版)

DVDのディスク上に明記された、会社名 + 「ALL RIGHTS RESERVED TM ®(アールマーク)& COPYRIGHT ©(Cマーク) 2007...」の表示。

概要

著作権表示は次の3つの要素を、通常は連続するひとつの短い文として表示する[1]

  • ©マーク[1]。(米国では©の代わりに「copyright」という英単語、あるいは「copr.」という短縮語が使われる場合もある。なお、米国ではen:phonorecord(音響作品)に関しては ℗マークをつける[1]
  • 著作物の発行年[1]
  • 著作権者の名前[1]

たとえば次のように表示する[1]

© 2017 John Smith [1]

あるいは次のように表示する。

© John Smith 2017 [注釈 1]
© 2022 Taro Nakamura  
© 2022 中村太郎

なお、イギリス著作権局は、(必須ではないのだが)誤認されてしまうことを防ぐために[注釈 2]、上記3要素の前にあえて「Copyright」と加えて、つまり合計4要素を並べて表示することを勧めている[2]。つまり、念のため次のように表示することを勧めている。

Copyright © 2017 John Smith


著作権表示を使用することが勧められる理由

イギリス著作権局は「著作権表示は任意ではあるが、それでも、あなたの作品に最低でもひとつ著作権表示をすることで、著作権侵害される可能性を防ぐことを強くお勧めする[注釈 3]。」としている[2]

アメリカ合衆国著作権局は、「発行が1989年3月1日以降の作品に関しては著作権表示をするかどうかは任意ではあるが、著作権表示をすると次のような利点がある」と指摘し[3]、次の5つの利点を挙げている[3]

  • その作品を使う可能性のある人々に、その作品には著作権があると主張されている、と気づかせることができる[3]
  • 公表する作品に著作権表示をしておくと、著作権侵害をする者が 「善意の著作権侵害」を根拠にして責任逃れをしようとしたり 差し止め請求を回避してしまうような事態を防ぐことができる[3]
  • 作品に著作権表示をしておくと、その作品を使用するために使用の許可を求める人々に対して、作品が発行された時点の著作権者が誰なのか明示することができる[3]
  • 著作権表示は発行年を明確にし、これにより匿名や仮名の作品などでも著作権保護の期間がいつまでなのかはっきりさせることができる[3]
  • 作品に著作権表示をしておくと、権利者名と権利期間が明確になるので、その作品がオーファンワークス(権利者不明作品)になってしまう事態を防ぐことができる[3]

著作権表示をすることにより、その作品に著作権があることを人々に知らせることができ、著作権者の名を知らせることができ、発行年(最初に公表した年)を知らせることができる。それに加えて、その作品に対する侵害行為が行われた場合、作品に正しく著作権表示をしてあれば、裁判所は、著作権侵害を行った者が「善意の著作権侵害だった(その作品が著作権で守られているとは知らなかったから著作権侵害してしまった)」などといった内容の主張をしても、そのような主張を一切認めない。「善意の著作権侵害」が認められてしまうようだと、著作権者は損害を被ることになり、本来受け取れるはずだった著作権料が減額され(たり、受け取れなかったりす)る。 [4]

あらかじめ著作権表示をはっきりとしておかないと、「(表示が無かったから)私は(この作品について)著作権があったとは知らず、パブリックドメインのものだと思った。だから複製を作り大量配布した」という理屈を法廷で述べられてしまえば、それがまかり通ってしまう、という法理があり(#その他の法的効果)、その複製物を見た者がやはり「当作品に著作権があるとは知らず、パブリックドメインのものと思い、さっそく大量複製した」などという理屈で複製の連鎖的作成と配布が容易に起き、自分の作品について著作権表示の無い複製が何種類か世の中に散布された段階で、結局、もう誰にも無許可(無契約)の複製の連鎖を止めようが無いという事態に陥るのである。[注釈 4] イギリスの著作権局が著作権表示を強く勧奨しているように、自分の著作権を護りたければ著作権表示をすることは重要なのである。[注釈 5]

また、まっとうに利用許諾を得るための交渉をしたい人がいる場合や、相応の著作権料を払って使用するための交渉をしたい人がいる場合もあるので[注釈 6]、そういう人々の立場からすると、著作権表示がされていないと、いったい誰に連絡をとり誰と交渉すればよいのかさっぱり分からないということになってしまうので、その意味でも著作権表示をしておくほうが良いのである。[注釈 7]


著作権表示を使用してよい人

(本当の著作権者であれば、自分の作品に)著作権表示は自由に(勝手に)つけることができる[5]。著作権表示をするのに、当局の特別な許可は必要ない。たとえばアメリカ合衆国著作権局に著作権表示をする許可を求める必要も無いし、日本の文化庁などに自分の作品に著作権表示をする許可を求める必要もない。[注釈 8]

ただし、本当の著作権者でもない者が、あたかも自分が著作権者であるかのように、虚偽の著作権表示をすることは違法である。

万国著作権条約の内容と著作権表示

条約上の根拠

万国著作権条約では3条1項に著作権表示に関する規定があり、その内容は、 1952年条約、1971年改正条約とも同一である。

締約国は、自国の国内法令に基き著作権の保護の条件として納入、登録、表示、公証人による証明、手数料の支払又は自国内における製造若しくは発行のような方式に従うことを要求するときは、この条約に基いて保護を受ける著作物で、自国外で最初に発行され、かつ、その著作者が自国民でないものについて、著作者又は著作権を有する他の者の許諾を得て発行された著作物のすべての複製物にその最初の発行の時から©の記号が著作権を有する者の氏名及び最初の発行の年とともに表示されている限り、これらの要求が満たされたものと認めなければならない。ただし、その記号、氏名及び発行の年は、著作権が留保されていることを表示するのに適当な方法で、かつ、適当な場所に掲げなければならない。

書式

万国著作権条約の著作権表示に必要な©記号

万国著作権条約に基づく著作権表示には、次の3つの表示が必要である。

  • ©(丸の中にC、丸C、マルシー)の記号 (symbol ©)
  • 著作権者の氏名 (name of the copyright proprietor)
  • 最初の発行の年 (the year of first publication)

順序は定められておらず、この順序でなくてもいい。慣習的に「©」を最初に書くことが多いが、氏名と年の順序はさまざまである。

使用する文字紀年法も特に定められていないが、国外での著作権保護のためという目的上、ラテン文字西暦を使うのが普通である。

©記号

ベルヌ条約加盟前のアメリカ合衆国の国内法では、「©」以外に「Copyright」や「Copr.」も認められていた(現在も米国著作権法第401条に規定がある)。ただし、国際的に通用することが万国著作権条約で保障されているのは「©」のみである[6]

コンピュータタイプライターの文書では、文字として登録されていない場合があるので、慣習的に「(c)」や「(C)」も使われる。

著作権者の氏名

著作者ではなく著作権者の氏名を表示する。つまり、著作者が著作権を譲渡売却等した場合は、譲渡等された者の氏名を表示する。

氏名は、周知の変名ペンネーム等)でもかまわない。ただし、周知でない変名(著名でないということではなく、誰のことかわからないということ)は認められない。

複数の著作権者がいる場合は、全ての名を書く。法的にはどんな順序でもいいが、慣習的に、二次著作物原作者と二次著作物の作者を表示する場合は、原作者を先に書く。

最初の発行の年

複数のバージョンがある著作物は最初のバージョンの最初の発行年を表示する。例えば、1990年に最初のバージョンを発行し、2000年に改定したバージョンにつける著作権表示では「1990」となる。これ以外を表示してはいけないということはないので「1990-2000」は問題ないが、「2000」だけでは間違いである。


  1. ^ 発行年と著作権者名の表示の順番は入れ替えても良い、ということ。
  2. ^ インクや紙や活字の状態など様々なことが原因で印刷の質が低下したり表示の活字のサイズが小さい場合、©マークが潰れてしまって、ただの「・」(テン)になってしまうことがあるため。また印刷がうまくできても、近視・老視その他のことが原因で視力が良好ではない人々(世の中のかなりの割合の人々)にとっては、©マークはかなり認識しづらい小さな記号でありしばしば「・」に見えるため。つまり「・2017 John Smith」などと見えてしまい、これでは見る人々に著作権表示とは理解してもらえないため。
  3. ^ 原文の英語で、strongly recommendedと表現されている。
  4. ^ 著作権を侵害する複製物が世の中に出回っても、通常、複製物には著作権侵害した人物の名はわざわざ表記されていないので、誰がその複製を作成したのか つきとめるのは大抵は困難であり、提訴することも困難である。仮に、運良く複製物を作成したと思われる人物をつきとめられた場合でも、その人物を被告として提訴して裁判を(数ヶ月や数年かけて)行っている間に、別の誰かがすでに世の中に散布されてしまった(著作権表示の無い)複製物を見て、また複製物が作成されて配布されてしまうという望ましくないことが起きがちで、あらたな(人物によって行われたと推定される)複製物を見つけるたびに疑わしき人物を探しては個別に提訴するという「いたちごっこ」の泥沼状態に陥り、著作権者は際限なく提訴を繰り返すことができるわけもなく、複製の連鎖を止められなくなるため。また、あるひとつの裁判で裁判官がたとえどのような判決を下しても、それは個別の被疑者に対する個別の判決であって、次々と新たに現れる当該作品の複製物作成者を止めることができない、たとえ裁判官がどのように判決文を書いても現実世界を止められない、という事態に陥るからである。一方、作品に著作権表示をすると、人々に対して、作者はこの作品については勝手に複製物が作られることを明らかに望んでいない、と気づかせることができ、広く世の人々に対して心理的なブレーキをかけて複製物の作成を抑制することができるのである。
  5. ^ もちろん、最初から自分の作品の著作権を護る気がまったく無いような人は、著作権表示をしなくてもよい。著作権表示の使用は、「義務」ではなく、「任意」なのである。ちょうど、玄関のドアに錠前を設置し施錠することは「義務」ではなく「任意」であるが、一般に、施錠することが(警察などによって)強く勧められ、ほとんどの人々が通常は施錠するが、一方で、空き巣や こそ泥 や強盗などに入ってもらってかまわないと考えている人の場合は施錠しない自由もある、というのと同様の論理構造になっている。
  6. ^ 実際、作品を公表した著作者には、そのような問い合わせがそれなりの頻度で来るものである。
  7. ^ また著作権表示をしておかないと、使用許可を求める人や著作権料を払って作品を使いたい人があてずっぽうに著作権者を探した結果、誤って、本当の著作権者ではない人に連絡をとってしまい、その者が真の著作権者のようなフリをしてお金を詐取してしまうということも起きる(現実世界では実際、その種の詐欺事件が、ときどき起きる)。
  8. ^ むしろ、著作権表示に関しては、いちいち許可を求めてはいけない。そんなことをしたら当局の人々は対応事務に追われ、迷惑する。
  1. ^ a b c d e f g h United States Copyright Office, "Copyright Notice"(アメリカ合衆国著作権局「著作権表示」)p.1
  2. ^ a b UK Intellectual Property Office, "Using Copyright Notices" イギリス著作権局「著作権表示の使用」
  3. ^ a b c d e f g United States Copyright Office, "Copyright Notice" pp.3-4 "Advantages to Using a Copyright Notice"(アメリカ合衆国著作権局「著作権表示」。「著作権表示を使用することの利点」の節)
  4. ^ Use of the notice informs the public that a work is protected by copyright, identifies the copyright owner, and shows the year of first publication. Furthermore, in the event that a work is infringed, if the work carries a proper notice, the court will not give any weight to a defendant's use of an innocent infringement defense—that is, to a claim that the defendant did not realize that the work was protected. An innocent infringement defense can result in a reduction in damages that the copyright owner would otherwise receive.
  5. ^ 日本弁理士会 関西会「著作権表示」
  6. ^ a b c d e f 安藤和宏 2018, p. 172.
  7. ^ 許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約(日本語)
  8. ^ ブエノスアイレス条約原文(英語)
  9. ^ a b 文化庁『著作権法入門 2015-2016』著作権情報センター、2015年10月、72頁。ISBN 978-4-88526-081-0 
  10. ^ a b c 安藤和宏 2018, p. 174.
  11. ^ a b 安藤和宏 2018, p. 171.
  12. ^ 安藤和宏 2018, p. 170.
  13. ^ 安藤和宏 2018, p. 169.
  14. ^ 半田正夫 & 紋谷暢男 1989, p. 300.
  15. ^ 半田正夫 & 紋谷暢男 1989, p. 300-301.
  16. ^ 半田正夫 & 紋谷暢男 1989, p. 301.
  17. ^ 半田正夫 & 紋谷暢男 1989, p. 302.
  18. ^ 安藤和宏 2018, p. 173.
  19. ^ WIPO-Administered Treaties WIPO Bodies > Assembly (Berne Union)
  20. ^ 大阪高等裁判所判決 2007年10月02日 、平成19(ネ)713、『著作権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件,同附帯控訴事件』。


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