落語 噺の構成

落語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/26 09:02 UTC 版)

噺の構成

マクラ、本題、落ち(サゲ)が基本構造となっている。

マクラ

本題への導入部である[3][20]。自己紹介をしたり、本題に入るための流れを作ったり、また、本題でわかりにくい言葉の説明をさりげなく入れたりする[3][20]。落語は「目の前の観客に対して語りかける芸能」である[20]。一般的に、落語家はいきなり落語の演目に突入することはほとんどなく、まずは聴衆に語りかける雰囲気をつくるために挨拶したり、世間話をしたり、軽い小咄を披露したりしてから本題に入っていく[20]。マクラは、噺の本題とセットになって伝承されてきているものが少なくない[20]

マクラの果たす役割は、小咄などで笑わせて、本題の前に聴衆をリラックスさせる、本題に関連する話題で聴衆の意識を物語の現場に引きつける、「落ち (サゲ)」への伏線を張る、などが挙げられる。古典落語の演題の中には、現在では廃れてしまった風習や言葉を扱うものがあり、それらに関する予備知識がないと、話全体や落ちが充分に楽しめないことがあり、6代目三遊亭圓生は、このような「解説のためのマクラ」の達人であった[20]

優れた演じ手はマクラも個性的であり、工夫を凝らしている[20]。近年は、マクラがそれ自体エンターテイメントになっているような「マクラが面白い落語家」が増えている[20][注 7]

寄席など、出演時間が短い場合に、マクラだけで高座を降りることもある。

本題

笑いが主体の滑稽噺が大半を占め、人情の機微をえがく人情噺がそれに次ぐ[17]。人情噺は、「大ネタ」といわれる長い噺が多い。ほかに幽霊などの怪異を描く怪談噺などがある[17](詳細は前節参照)。

本来の筋にはない、演者によって挿入されたおかしみのある部分を「くすぐり」と呼ぶ。一般的には話の筋から大きく外れないくすぐりが好まれる。

落ち(サゲ)

滑稽噺における噺の締めくくり、笑いをともなう結末のことであり、落語が、元来「落とし噺」と称されてきた所以である[3]。「落ち(オチ)」は、現在では日常語としても当たり前に使用されている[21]。落語においては、これを「サゲ」という場合がある。

人情噺の終わり方は「落ち」ではなく、「…という一席でございます」など説明のかたちで締める[3]。また、寄席などでは演じ手の持ち時間が決まっていることが多く、時代的に判り難い「落ち」が出て来たなどの関係で、本来の「落ち」まで行かず、適当にキリのよいところで話を切り上げることも多い[3][21]

これについては、広瀬和生は必ずしも「オチ」イコール「サゲ」ではないとしている[21]。説明で終わったり、本題の途中で中断したりしたものを「オチ」とは呼べないが、演じ手が落語の締めくくりのフレーズを言うことを「サゲる」と表現することから、広瀬は純粋な「オチ」も含めた締めくくりの言葉全般を「サゲ」としている[21]

なお、滑稽噺の「落ち」は、古典落語の場合、かつては「洒落」として通じ、当時は面白かったかもしれないが、今日では死語になっていたり、理解不能な概念になってしまっているものも少なくない。「サゲ」において重要なことは、聴衆に対し「噺はこれでおしまい」と納得させることと考えられるので、現代人が納得できるような「落ち(サゲ)」のあり方が求められる[21]


注釈

  1. ^ これは、日本芸術文化振興会「落語の歴史:落語家のはじまり」
  2. ^ 下谷神社の境内には、正岡子規の「寄席はねて 上野の鐘の 長夜哉」の句碑とともに「寄席発祥之地」の碑がある。
  3. ^ 可楽門下には朝寝房夢羅久(初代)、船遊亭扇橋(初代)、林屋正蔵(初代)、三遊亭圓生(初代)のほか、可楽(2代目)、喜久亭寿楽(初代)、萬笑亭亀楽(初代)、三笑亭佐楽(初代)、東亭鬼丸(初代)、自笑亭里楽、宇治新口(初代)、三笑亭古楽(初代)、三笑亭可上(初代)、三笑亭可重(のちの2代目可上)、三笑亭世楽、つるや萬助、初代川島歌遊(初代)、よたん坊ゆ又、瀧亭鯉丈(初代)、菅良助(初代)、菅良助(2代目)などが確認されている。
  4. ^ 現在、学生落語の全国大会として、“落語の祖”といわれる安楽庵策伝の名を冠した「全日本学生落語選手権・策伝大賞」が年1回、岐阜市で開催されている。
  5. ^ 角岡賢一は、これを便宜的に「擬古典」と称している。「上方落語演目の意味的分類」
  6. ^ 角岡によれば、そもそも、落語の起源には歌舞伎や浄瑠璃の要素が濃く、落語はこれらを簡略化した一人芝居としての性格をもっており、(狭義の)「芝居噺」の演目も数のうえでは決して少なくなかったが、大抵の場合は創作者一代限りで絶えてしまったという。「上方落語演目の意味的分類」
  7. ^ 「マクラが面白い落語家」として広瀬和生が挙げているのは、「マクラの小三治」として知られる柳家小三治(10代目)のほか、立川志の輔柳家喬太郎立川志らく桃月庵白酒(3代目)である。広瀬(2010)pp.85-87

出典

  1. ^ a b c 落語芸術協会「落語ってなに?」
  2. ^ a b c d 上方落語協会「歴史」
  3. ^ a b c d e f g h i j 『CD付 落語入門』(2008)p.14
  4. ^ a b c d 日本芸術文化振興会「落語の歴史:笑い話を楽しむ」
  5. ^ a b c d e 日本芸術文化振興会「落語の歴史:落語家のはじまり」
  6. ^ a b c d 柳家花緑(2002)pp.44-47
  7. ^ a b 落語”. 日本文化いろは事典. 2016年1月18日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h 日本芸術文化振興会「落語の歴史:興行としての成立」
  9. ^ a b c d e f 日本芸術文化振興会「落語の歴史:江戸落語のにぎわい」
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n 『CD付 落語入門』(2008)pp.4-5
  11. ^ 日本大百科全書(小学館)。
  12. ^ 桜庭由紀子 (2019年8月15日). “戦争が落語を禁じた日。はなし塚に葬られた53の禁演落語”. 和楽web. 小学館. 2020年10月15日閲覧。
  13. ^ a b c 広瀬(2010)pp.13-26
  14. ^ a b c d e f g h i 広瀬(2010)pp.27-36
  15. ^ a b c d e f g h 角岡賢一, 「上方落語演目の意味的分類」『龍谷大学国際センター研究年報』 2013年3月 第22号 p.46-69, 龍谷大学国際センター, NCID AN10538881
  16. ^ 落語系情報サイト"噺;HANASHI"「落語用語辞典」
  17. ^ a b c d 『CD付 落語入門』(2008)pp.16-17
  18. ^ 桂米朝(1978)pp.95-96
  19. ^ 落語のすゝめ「枝雀のオチの分類法」
  20. ^ a b c d e f g h 広瀬(2010)pp.80-87
  21. ^ a b c d e 広瀬(2010)pp.88-95
  22. ^ a b c d e f g h 落語芸術協会「落語の表現」
  23. ^ NHK for School 国語10minBOX「落語」scene05 登場人物の立場を表す決まり・scene06 人物を演じ分けるしぐさ
  24. ^ 『CD付 落語入門』(2008)pp.120-121
  25. ^ a b c 朝日新聞(asahi.com)「SP落語、CD全集に復刻 コレクター2人が音源提供」(2006年11月17日)2014年1月19日閲覧
  26. ^ a b c リアルライブ「名司会者・玉置宏を精神的に追い詰めた事件」(2010年2月15日)2014年1月19日閲覧
  27. ^ NHK広報局・報道資料(平成20年12月8日)「『ラジオ名人寄席』音源無許可使用について」
  28. ^ a b 「落語三昧」草柳俊一
  29. ^ a b 落語三昧「音の博物館・極楽亭(極楽亭プロジェクト 発起人草柳俊一)」
  30. ^ 4代目桂文我公式Website「桂文我倶楽部」
  31. ^ 岡田則夫のブログ「巷間芸能研究室」
  32. ^ くだん書房:目録:マンガ:雑誌:集英社”. www.kudan.jp. 2023年4月18日閲覧。 “週刊少女コミック 1975年3月30日号(14) (新連載)すなこ育子「お笑いを一席!」巻頭8ページカラー”





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