腐生植物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/13 02:04 UTC 版)
特徴
腐生植物とは、種子植物の内で、植物体に光合成で自活する能力がなく、菌類と共生して栄養素を得て生活するものを指して呼ぶ言葉である。腐生は普通は菌類に対して使われる言葉で、生物死体などを分解して栄養とする生活形態のことである。ここではこう呼ぶものの、これらの植物が外界の有機物を直接摂取するわけではないし、得ている有機物の源泉も多様である。その実際の生活様式はむしろ菌類への寄生であり、最近はその実態をより正確に示すものとして菌従属栄養植物(Myco-heterotrophy)という名が提案されている。
これらの植物はほとんど、ないしはまったく葉緑体を持たない。全株が真っ白であるものや、逆にほとんど真っ黒のものもある。葉は鱗片状に退化し、茎にまとわりつく。したがって、地上から伸びた茎の先に花だけが並んでいる、といった状態になる。ごく小型の植物が多く、たとえばヒナノシャクジョウ科やホンゴウソウ科のものは多くは背丈が数センチであり、地表をなめるように観察しなければ発見できない。さらにラン科のリザンテラは全草が地下にあり、花すら地表より下で開花する。他方で同じラン科のツチアケビは高さが1m近くなり、全株が橙色で秋には大きな果実を鈴なりにつけるため非常に目立つ。同属のタカツルランはさらに大型で、つる植物となり樹木にはい上がる。
また後述のように、一見十分な量の緑葉を備え光合成で自活をしているように見えながら、実は有機物などの供給を共生菌に大きく依存しており、完全に自活してはいない植物もかなりあることが知られている。
地下部は、根があまり発達しないものが多い。地下茎のみ発達するものもある。多くのものの根は短くて太く、ここで菌類と共生している。根を失っているものでは共生の場は地下茎となる。
菌根のタイプはラン菌根、モノトロポイド菌根が代表的であり、これらは植物が菌に寄生する菌根である。中にはアーバスキュラー菌根を形成して、培養不可能な絶対共生菌として知られるアーバスキュラー菌根菌に寄生するものもある。
生育環境
多くの腐生植物は森林に生育する。一部は特に安定した原生林に近い環境を必要とするらしく、そのような種には生育環境の減少から絶滅危惧種になっているものもある。ラン科には、洋ランなど培地で発芽・生育させることができる種類と、生活環のほとんどを限られた種類の菌根に由来する種類とがあり、後者には発見例がほとんどない希少種も少なくなく、適合する菌根の種類や発生、生育条件の研究さえ手付かずでいまだに不明なものも多い。このため事実上栽培不可能であるにもかかわらず、洋ランなどと同じような安易な方法で栽培を行おうとする野生ランの栽培ブームによって乱獲されて数を減らしたものもある。
一方で、腐植を多量にすきこんだ畑地などで種の生育条件がたまたま整ってしまったため大発生する例も知られている。見かけが奇妙な植物なので、人目を引いて新聞種になることもある。
腐生植物は腐植土ではなく適合し共生する菌根菌とともに育てなくてはならないため、植木鉢に移しても育てたり栽培することはほとんど不可能である。逆に、菌類の生育環境を整え、それを利用して腐生植物を栽培した例はある。例えば木材腐朽菌に依存する種であれば適合する菌が蔓延した木材と共に、また他の植物と菌根を形成している菌根菌に依存する種であれば適合する菌と共生している緑色植物と共に植えることで、栽培に成功している例が報告されている。
菌類との関係
多くの植物は葉(や茎)で光合成をおこない、それによって生活のエネルギーを得ている独立栄養生物である。しかし、外部から有機物を取り込んで生活する従属栄養で生活する植物も存在する。その一つは寄生植物であり、他の植物の体に根などに由来する吸器を差し込んで栄養を吸収して生活している。腐生植物の場合、これに似て見えるが、寄生の対象の植物が存在しない。そこで、腐植から栄養を得ている、つまり死んだものに寄生しているのだと考え、死物寄生という用語を与えたことがあった。
その後、菌類から養分を得ていることがわかり、腐生植物という用語が使われるようになった。この用語は、これらの植物が菌類と共生し、これを通じて間接的に腐植などから栄養素を得ている、という理解で与えられたものである。しかし、植物にとって栄養的宿主となる菌は腐生菌とは限らず、光合成を行う植物に依存する絶対共生性の菌根菌と共生するものもあり、植物遺体から栄養を得ているとは限らないことが明らかになった。
腐生植物と呼ばれる植物は、栄養的宿主となる菌類が腐生性、菌根性、あるいは植物病原菌として殺生性を持つものであっても、植物が菌類に寄生している点は共通している。すなわち、これらはすべて栄養源を菌に依存する従属栄養植物であるといえる。このような栄養摂取様式を菌従属栄養と呼ぶ。腐生植物という用語は植物自体に腐生能力があるかのような誤解を招くものでもあり、共生菌も腐生性とは限らないことが明らかになってきたため、あまり適切ではないと見なされるようになりつつある。代わってより正確に栄養摂取様式を表す菌従属栄養植物という用語が使われるようになってきた。
ラン科植物はすべてが菌根を発達させるが、多くの分類群から独立に腐生植物になったものが見られる。また、ラン科植物と共生する菌にはナラタケやリゾクトニアのように強力な腐生能力を持つものが多数知られているが、キンランなど一部のランは腐生能力を持たない外菌根菌と共生してラン菌根を形成している。この場合、同じ一つの菌糸体が樹木と共生して外菌根を形成する一方でランと共生してラン菌根を形成し、光合成産物は樹木から菌糸体を経由してランに移行すると考えられている。
腐生植物と同じ種類の言葉
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