腐女子 フィクションの中の腐女子

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腐女子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/26 06:58 UTC 版)

フィクションの中の腐女子

腐女子が登場する漫画や小説もある。1997年に、児童文学作家として著名な荻原規子が少女向け異世界ファンタジー『西の善き魔女』(中央公論社C★NOVELSファンタジア)を刊行し、2巻「秘密の花園」で、閉ざされた女学校での女生徒たちによるやおい・BL同人誌文化とその活用の様子を描いた(主人公の親友の王女がカリスマ覆面BL作家)。

相田美穂は、腐女子キャラクターが登場するもっとも古い商業漫画作品は、確認できた限りでは中島沙帆子の四コマ漫画『電脳やおい少女』(1999年連載開始)1巻(2002年8月発行)であると述べている。なお本作の主人公は、非オタクのイケメン大学生の彼氏持ちであり、彼氏に対して「カミングアウト」はしていない[46]。2000年に連載が始まった阿部川キネコ辣韮の皮〜萌えろ!杜の宮高校漫画研究部〜』(1巻:2002年1月発行)には、美人だが「超ハードコアなやおい同人作家」な先輩など複数の腐女子が登場する。

2006年頃から、『となりの801ちゃん』のようにオタク男性と腐女子の彼女という関係を描く作品が現れており、2008年以降描かれる腐女子のキャラクターは多様化している[46]

児童ポルノ取り締まり・規制との関連

やおい・BLジャンルのグローバル化で、過激な性描写、未成年に見えるようなキャラクターの性描写、現実社会での性犯罪との関連などに関し、各国で問題視し規制する動きも一部で出てきている。世界的に児童ポルノ取り締まりの機運が高まる中で、やおい・BL規制問題もこの構図に取り込まれている。フィクションの未成年であっても、現実世界で規制された行為を行うと読者の間違った性認識が強化されるという考えから、現実の未成年だけでなくアニメ、コミック、ゲームの未成年の登場人物にまで規制の対象を広げようとする事例がある[16]

2008年のオーストラリアのニューサウスウェールズ州のマキュアン事件では、アニメ『ザ・シンプソンズ』のエロティックな画像所持に「人物という解釈にはフィクションの人物も含まれる」として有罪判決が出ている[16]。同年日本では、大阪府の堺市立図書館で、ボーイズラブ小説が収蔵・貸出されていることを非難する「市民の声」によって廃棄が要求され、ボーイズラブとされた5500冊の本が開架から除去される事件が起きた(参考・ボーイズラブ#堺市立図書館「BL」本排除事件)。中国では2010年に鄭州市で大々的な取り締まりがあり、ウェブ上でやおい・BLまたはスラッシュ作品を公開していた32人が逮捕されており、そのほとんどが20代の腐女子だった[16]

同年日本では、「18歳未満のフィクションのキャラクター(非実在青少年)の性描写」を大きく規制する東京都青少年健全育成条例改正案が発表され、大きな波紋を呼び、一度は否決されたが、「性犯罪近親相姦の描写」に対する規制へと修正された上で可決され、不健全指定された書籍が撤去されるなどの事実上の検閲が行われている[47]。この条例の危険性は藤本由香里を通してオタク・腐女子の間でも知られるようになり、プロ作家など一部の腐女子がロビイング活動など反対運動を行った[47]。BL作家の水戸泉は「『プロ』は自らの問題として『官憲によって表現を規制されること』と対峙すべきです」と述べている[47]。日本での非実在青少年問題には、過剰な純潔教育を掲げるカルト団体による政治への圧力も指摘されている[47]

2020年現在では、東京都青少年の健全な育成に関する条例によって毎月指定される不健全図書の大半はBL作品となっている[48][注 7]。指定された作品は都内で青少年向けに販売できなくなるほか、Amazon.co.jpにおける販売が停止される(不健全指定された書籍のタイトルなどは東京都のウェブサイト上の不健全指定図書類一覧で確認できる)。

やおい・BL規制研究の第一人者であるオーストラリアの研究者マーク・マクレランドは、腐女子のファン活動と実際の児童ポルノ犯罪の関連は全く検証されていないと述べている[16]

研究分析

日本では1990年代のやおい・BL文化の拡大と共に研究が始まった。初期は精神分析学を基本とした言説が中心で、「なぜ女性が男性同性愛を描いた作品を読むのか」が議論されてきた。フェミニズムジェンダー論の観点から語られることも多かった。こうした精神分析的な研究に対する疑念や研究の新しい展望が探求されるようになり、近年では「どのようにやおい・BLジャンルを楽しむか」に研究の焦点が移っている。研究の中心はファン研究が占めるようになり、多様化する腐女子・腐男子によってどのようにやおい・BLが受容され、使用されているのかを論じることで、研究は活発化している。日本では評論・解説書の出版は盛んになっており、2006年ごろから2000年代末にかけてボーイズラブの包括的解説書の出版が増えた。2015年にはBL評論本の出版ブームが起きている[49]。海外のやおい・BLジャンルの研究でも、ファン活動、ファンとしてのアイデンティティの構築、ファン・コミュニティの構成などが研究されている[16]

日本では、やおい・BLファンの大半が「異性愛者の女性」であるというのが通説であるが、近年は腐男子など異性愛女性以外のやおい・BLファンの研究も進んでいる[16]

2015年時点では、日本の研究者が海外の研究を参照し、海外の状況を把握したうえで論を多文化的に展開することは非常に少なく、日本と海外の研究者の間での越境対話はあまりなされていない[16]

レジスタンス性

石田美紀は、日本で1970年代に少女マンガ・文学の場に現れた女性による女性のための男性同志の性愛物語は、男性身体への性的な関心を積極的に肯定する点でそれまでの女性文化とは一線を画しており、少女たちのこうした関心の根底には「わたしには何ができるだろうか」という問いかけと、「わたしにも何かできるはずだ」という信念があったと指摘している。この信念ゆえに、80年代に新しい文化になっていったのだという[17]

やおい・BLファンの活動には、伝統的な規範を脱構築すると評価されるものもある。フィリピンではやおい・BL文化に関わるのは、日本語や英語を使いこなしネットを日常的に使用できるある種の文化的エリート層であるが、フィリピンのBLコンベンション Light Out(現在Blushに改名)には明らかなエリート主義が見られ、啓蒙的な側面がある。活動の中心に同性愛問題や異性愛を超えたセクシュアリティーの可能性の希求があり、活動にはゲイの参加者も多い。ゲイ解放運動に興味があり、同性婚に賛同する人も多く、やおい・BLと現実社会でのゲイ問題が関連付けて考えられている。また中国では、やおい・BLの存在・拡大が、中国人女性のレジスタンスの手段であるとも分析されている。中国のやおい・BL同人作品では、伝統的儒教思想に基づくヒエラルキーの概念や現在の共産党支配が掲げる理想社会から逸脱した人間関係、やおい・BL規制への間接的批判、ゲイ解放を促す内容なども様々なやり方で描かれている。中国では規制に対抗するために、中国のサーバから海外のサーバにサイトを移動する腐女子もいる。韓国の腐女子は、儒教の影響が大きい韓国では、女性が性的主体としてのアイデンティティを確立できるような媒体が少ないと述べており、やおい・BLジャンルにはそれを打破する可能性があるとも考えられている[16]

精神分析的な研究

長池一美は、初期の研究は主にフェミニズムやジェンダー研究の枠組みで、「女性が男性同性愛の関係性に自らの女性性をどのように反映できるのかを意識し、いわゆる『女性』と『女性性』の再発見に焦点を当ててきたといえる」と述べている。こうした研究を通して、次のような議論が開かれてきた[16]

  1. 女性性の否定(もしくは女性性からの逃避)
  2. 女性特有のガイネーシス[注 8]的なナラティブ(物語、語り)であることの強調
  3. 精神分析の議論に触発された「なぜ」に対する女性の深層心理

なぜ腐女子になるのか、なぜやおい・BLジャンルが成立するのかという理論は様々であり、1人の論者が複数の説を挙げていることも少なくない[50]。1990年代に起こったゲイサイドからのやおい・BL批判「やおい論争」(参照・ボーイズラブ#ゲイとボーイズラブ)と2000年代位の腐男子研究を通して、やや排他的であったフェミニズム的な力学が脱構築され始めている[16]

以下に、精神分析的な研究の見解を数例示す。

異性愛の安全なシミュレーション
榎本ナリコは、やおいを愛好する女性が(女性的役割を担っている)「受け」のキャラクターに感情移入する場合について、それによって自己の安全性が確保されるのだとしている。つまり、自己の身体の代替として受けの男性キャラクターの身体を利用することによって、自分自身は傷つかず妊娠する危険もないという安全性を手にした上で擬似的な性行為を楽しむことができるのだという[51]。ただし、榎本ナリコはやおいを愛好する女性はしばしば「受け」のキャラクターだけではなく(男性的役割を担っている)「攻め」のキャラクターにも感情移入していることを指摘しており、その場合については後述の「欲望の主体性の獲得」による説明を行っている。
谷川たまゑは、やおい愛好家の女性には結婚後も同様の趣味を続けるものも存在することなどから、異性愛を前もってシミュレートすることがやおい系作品を享受する目的だとする解釈は、実態から乖離した主張だと批判している[52]
女性性の否定・女性嫌悪
少女は第二次性徴を経ると自らの身体の女性性を自覚してそれに戸惑い・恐怖を覚え、女性嫌悪が内面化されるという形で男性同性愛の作品を好むようになるという説明。たとえば、心理学者小倉千加子[53]らがこういったの趣旨のことを述べており、社会学者の上野千鶴子[54]も一部で触れている。本人もやおいを手がける中島梓も社会からの選別のまなざしの無い空間へ逃避するできることがやおいが好まれる理由だとしている[55]
榎本ナリコは、女性が「受け」のキャラクターに感情移入する背景には女性である自分が性的な欲望を抱くことや性行為そのものへの嫌悪感があり、そのために女性として身体のまま性的な妄想に浸ることに抵抗を覚え、自身を男性にすりかえる必要性が生じると説明し[56]、女性が排除されたやおいの世界では、現実では女性が常に感じてしまう「ウーマンヘイト」から無縁でいられるということを指摘している[57]
日出処の天子』『風と木の詩』のように、男性同性愛を描いた少女漫画の内容でも女性が嫌悪の対象として描かれている[58][59][60]
また、やおい愛好家の女性が抱える「女性性に対する葛藤」は、しばしば摂食障害の女性が抱えるの同様の「女性性に対する葛藤」であるとも指摘され、本格的なやおい論の嚆矢とされる中島梓の『コミュニケーション不全症候群』でもやおいと拒食症の双方が論じられている。女性性が自覚される第二次性徴はちょうど拒食症の発祥時期と一致し、少女漫画の作品内で拒食症が取り上げられたり[注 9]、漫画家自身がその体験を持っていることがしばしばある[61]。社会的にも、やおいが浸透した時期と摂食障害が注目された時期は1970年代後半と一致しており、社会学者の熊田一雄は「摂食障害になりかねない女性たちのセーフティ・ネット」としてやおい文化が機能した可能性を指摘している[62]
一方、西村マリは、男性キャラクターを女性キャラクターの置きかえて描く「女の子ネタ」というジャンルが定着していることからやおい文化で女性性が否定されているわけではなく、むしろ男性性のほうが排除される傾向にあると述べている[63]
男性からの性的視線の遮断
男性からの性的視線の遮断という面があり、この観点からは、ヤマンバギャルとも共通点があるという意見もある[64]
性的欲望・視線の主体性の獲得
上野千鶴子[65]は、花の24年組と呼ばれた世代の女性漫画家らのルサンチマンが生んだ、ジェンダーレス・ワールドにおける性愛の実験だと述べている。
永久保陽子によれば、思春期の少年向けの漫画には性的欲求を肯定するようなメッセージが暗に含まれていることが多いが、通常の少女向けのメディアでは同様のものは存在せず、少年と同じく多感な時期にもかかわらず性的欲望を持つこと自体が抑圧されているとした上で、男性同性愛という回路を経由して異性愛的な性的欲望の方向性を隠蔽しながら充足するための装置としてやおいが機能していると述べている[66]
榎本ナリコは、読者が「攻め」のキャラクターに感情移入している場合を念頭において次のように論じている。通常の男女の性愛では、両者の生殖器の生物学的な構造上から、男性側が欲望の主体で女性側が客体となることが事実上義務付けられている。しかし、現実世界では欲望の主体性になれない女性であっても、やおい系作品の攻めの男性キャラクターに感情移入しているときは、擬似的に欲望の主体となることができる。つまり、(やおい愛好家の多くは異性愛者なので)男性を性的欲望の対象としながら、なおかつ自分自身が欲望の主体性を獲得するための方法として男性同士の同性愛関係が必要となるのである[67]
金田淳子は、前述の女性嫌悪によるやおい解釈に対して、やおい表現において回避されているのは女性性ではなく女性を性的対象としてのみ見る視線であり、やおいによってまなざす主体性(性的欲望を持つ主体性)を獲得することができるとしている[68]
漫画研究家の藤本由香里も、やおい表現に「犯る側の視線」「見る側の視線」の獲得という意義を見出しており[69]、高橋すみれも前述したようにやおい系作品では女性キャラクターがまなざす主体として描かれていることがあることから女性が性的視線の主体性を獲得できるとしている[70]
吉本たいまつは、さらに普段男性から受けている値踏みの視線をやおい・ボーイズラブという形で女性が男性へまなざし返しているとし、このことを男性が知ることが、普段無意識に女性に対して値踏みの視線をおくっていることへの自覚や女性の欲望に対する理解を促すとも述べている[71]
旧来的なジェンダー観の転覆
小谷真理は、少年向けの創作物を女性が好む形に強引に改造するやおい的欲望を、男性優位社会の中で抑圧された「ガイネーシス(女性状無意識)」を噴出させるものだと捉えた。また、それは同人文化の発展には印刷技術のハイテク化がかかわっていることからテクノロジーの問題と交錯したものだとして「テクノガイネーシス」の一種であると述べている[72]
社会学者の小林義寛はやおい文化を男性中心的なメディアを転倒するものだと捉えており[73]、社会学者の笠間千浪は旧来的なジェンダー秩序を「転倒というより転覆」させるものだとしている[74]。このほか、永久保陽子は男性向けポルノグラフィが豊富に存在するのに対し女性向けのそれは存在しておらず、女性が性愛表現を奪還しようと邁進(まいしん)してきた成果がやおいとしている[75]
トランスジェンダーの可能性
作家の榊原史保美は、その著書『やおい幻論』で、「やおいになるのは、その作者・読者がFtM(肉体は女性であるが精神は男性である状態)でかつゲイ(同性愛、もしくは両性愛)だからではないか」という説を提唱し、また自身もFtMゲイかもしれないと発言している[76]
異性愛の失望体験の回避
宮台真司は、物語の中で男女の性愛が描かれてしまうと、それによって自身の恋愛における失望体験を想起してしまうため、それを防いで純粋な妄想に浸るには男性同士の同性愛を描く必要があるのだと述べている[77]
ホモソーシャルに対する潜在的羨望
東園子は、体育会系の部活のマネージャーを志望する女子生徒や、個人単位ではなくコンビやユニット単位でファンになる女性の男性アイドルファンの存在などから、女性は(女性の間では同様のものがあまり見られない)男性のホモソーシャル的な絆に潜在的な憧れを抱いている場合があり、その欲望や表出した結果としてやおいがある可能性を示している[78]
女性版ホモソーシャル
社会学者の東園子は、腐女子が形成するコミュニティを女性版のホモソーシャルと解釈できるとしている。ホモソーシャルとは文学研究者・社会学者のイヴ・セジウィックが論じた概念で、男性同士で友情をはじめとする社会的なつながりが形成されてその間で女性は貨幣のように交換されるという構造を持ち、ホモフォビア(同性愛嫌悪)とミソジニー(女性嫌悪)という2つの特徴がある。腐女子のコミュニティでは、通常のホモソーシャルの枠組みにおいて女性が貨幣として交換されていたかわりに、物語の中の男性が欲望の対象として女性同士の間で交換される。(通常の男性の)ホモソーシャルにおける女性嫌悪についても、これを異性嫌悪と読み替えれば、(物語の中ではなく現実の)男性に対する嫌悪として腐女子のコミュニティに間に存在している(やおい系の同人雑即売会で男性の入場が禁止される例など、現実の男性を排除する傾向がある)。他方、同性愛嫌悪の傾向は腐女子のコミュニティにはあまり見受けられず、東園子はむしろ女性同士の絆を維持するための異性愛嫌悪の傾向の方が強いとしている。これは、通常の女性のコミュニティでは異性に関心を持つことが暗黙のうちに義務付けられている面があるため、そういった抑圧をキャンセルする場として腐女子のコミュニティが機能しているとみることができる[79]
翻訳家栗原知代は、腐女子のコミュニティにおける女性同士の連帯感を「シスター・フッド」(英:sisterhood)や「セパレート・レズビアン[要追加記述]」と類似するものだと指摘している[80]
関係志向の女性と所有志向の男性の差
やおい的欲望は男性オタクにみられる単一の対象に対するものではなく「受け」と「攻め」の関係性に対する欲望となっているという意見もあり、野火ノビタは「位相萌え」と呼んでいる[81]
斎藤環は、一般に男性は「所有(持ちたい)」を志向して女性は「関係(なりたい)」を志向するというジェンダー傾向があるという前提に基づき、なんの制約もなく自由に自分の欲望を追求できるはずの「オタク」という文化圏の中において消費の仕方に男女差が歴然と存在することについて、男性オタクは美少女キャラクターを「所有」しようとし、女性オタク(腐女子)の欲望は男性キャラクター同士の「関係」に向かうという形で説明できるとしている[82]

分析への当事者の拒否感

1970年代の少女マンガにおける少年愛ものが誕生し注目を集めた時から、「彼女たちはなぜこうした物語を好むのか」という疑問も生まれ、以後当事者に向けて連綿と問いかけられている[83]。永久保陽子によれば、この問いへの拒否感にはやおい・ボーイズラブにポルノグラフィとしての側面があることが関係しているという。男性の場合、若年者向けのものを含む多くのメディアで男性の性的欲望を肯定するようなメッセージが流布している社会的状況があるが、女性の場合は性的欲望を持つことを自認することすら抑圧されており、欲望の対象を事細かに分析されることには耐えられないのだと考えられる[84]。BL作家の水戸泉は、同人が広く知られ、多くの作家が同人経由でプロデビューする昨今でも腐女子が隠れていたいと願うのは、「性的主体としての自分の存在を隠したい、好奇の視線にさらされたくないという保身」であり、保身そのものは決して否定されるべきではないと述べている[47]。世間から隠れていたいという思い、同じ腐女子からの同調圧力から、マスコミの取材に応じる腐女子は少ない[47]

石田美紀は「彼女たちはなぜこうした物語を好むのか」という疑問は「実に居心地の悪いものである。質問者に悪気がないときほど、居たたまれない。なぜなら、それが口に出されることじたいが、やおい・BLとその支持者が問題視されている証であるし、またその問いに真剣に答えようとすればするほど、モテるのかどうか、恋人がいるかどうか、性的経験はどのようなものか・・・というあけすけな問いを果てしなく呼び起こしてしまうからだ。」と述べている。この問いかけには回答者に全人格をさらけ出すことを求めるような不思議な強制力があり、腐女子自身も問いそのものを内面化してしまい、何とか答えようと焦り、答えに詰まった時は「ほっといてください」と開き直る。やおい・BLジャンルが腐女子の実存に関わる一方、パラレルな存在と言っていい「男性向け魔法少女もの」の愛好者の男性たちは、腐女子を苛む状況から全く自由で、なぜこうした作品を好むのか問われたり、自問したり、自身の実存について考えることはほとんどない。この差異は世間における男女の立場の違いから生じる[83]。近年では、腐女子の実存をほじくるのではなく、豊かな表現領域としてやおい・BL作品をただ論じることも増えている。

斎藤環は、やおい分析が当事者から嫌われる理由として、一般に女性の欲望は(ジャック・ラカンのいう)「他者の享楽」であり、それは言語による理解を超越しているため経験することができても語ることはできないということが関係しているかもしれないと推測している[85]

石田仁はこのような腐女子たちの態度を「一時的な自律ゾーニングの営み」と評価し、やおい表現がゲイ男性の表象を横奪している可能性についての議論を無化するものとして批判している[86]




注釈

  1. ^ 例えば中島梓の『タナトスの子供たち―過剰適応の生態学』(筑摩書房、1998年)で使われている。
  2. ^ 漫画『私がモテてどうすんだ』の著者ぢゅん子は、腐女子の主人公について「もっとも主人公になりたくない人物」と語っている。
  3. ^ ブログに掲載された情報によると筆者は30代男性で、「最近, ネット上の某掲示版で腐女子(たぶん[ふじょし]と読む)の見習いをしている. 腐れた女子という意味で, まあ女子になることはできないが, この 腐れという言葉が面白い. 」と書かれている。
  4. ^ 熱狂的・狂信的な声優ファンは声豚という蔑称で呼ばれることもある。
  5. ^ 10歳以下 353票 7.8%、11 - 15歳 2684票 59.5%、16 - 18歳 604票 13.4%、19 - 25歳 263票 5.8%、25歳以上 605票 13.4%
  6. ^ 小学生 41%、中学生 37%、高校生 11%、大学生 11%
  7. ^ この不健全指定のほとんどは、上述した2010年の条例改正で導入された新基準ではなく、「著しく性的感情を刺激するもの」という旧基準(1964年の条例制定当時からある基準)に基づいて指定されている。
  8. ^ 「ガイネーシス」はアリス・ジャーディンの発案した概念で、女性を主体としたコンテクストを表現したものを意味する。慶応義塾大学の巽孝之は、ジャーディンは「西欧近代家父長制の支配的言説が『時間』軸に沿った男性原理と断じ、そのような支配的言説自身が把握しえず制御しきれぬ『空間』領域を――従来は『自然』『他者』『物質』『狂気』『無意識』とからめて『女性的含意』を与えられてきた領域を――聖書創世記の起源神話genesisを模して『ガイネーシス』gynesisの名で呼んだ。」と述べている。
  9. ^ 例えば大島弓子の漫画『ダイエット』など。

出典

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