腐女子 コミュニティ

腐女子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/26 06:58 UTC 版)

コミュニティ

溝口彰子は、「三浦しをんが述べているように 、ヤオイを『読む』ことはヤオイ(のコミュニティの成員としての人生)を『生きる』ことである。」と述べている[11]。当事者からは、おそらく女性特有の傾向だが、「萌え」は誰かと分かち合って初めて楽しく、それができないと苦しいという意見もあり、同じ嗜好を持つ腐女子としてのアイデンティティの基盤には、腐女子の間の連帯性をベースにするコミュニティへの帰属がある[16]。溝口は、腐女子のコミュニティは、好きな作品について感想を述べあうことでは性的ファンタジーを交換する「ヴァーチャル・レズビアン」空間として機能していると述べている[11]。KDDI研究所の大戸朋子は、二次創作を行う腐女子コミュニティへの調査から、ある腐女子がコミュニティ成員であり続けるためには、常に対象に対する「愛」を発表し続けなくてはならないと指摘している。近年主な活動場所になっている Twitter や Pixiv などのネットワークは情報の消費速度が速く、呟いた瞬間に過去のものになるため、コミュニティの成員であるため自身の「愛」を二次創作作品や呟きによって表示し続けなくてはならず、語ることをやめれば「愛」がない(なくなった)と判断されてしまう。大戸は、後期近代にみられるアイデンティティの問題と関係を指摘しており、後期近代にみられるアイデンティティは流動的で、その都度再定義・再構築しなければならず、他者による「私」の肯定、つまり「個としての存在の肯定」を強く必要とすると述べている[30]

pixivでは、ユーザーはイラストや漫画、小説といった作品、好きな作品のブックマーク、好きなユーザーのフォローを通してプロフィールを形成し、ある種のコミュニティを形成していく。女性ユーザーが多く、その多くを腐女子が占めるが、男性ユーザーに比べ女性ユーザーは互いの作品に対する評価や交流、好意的フィードバックが盛んで、女性の方がクリエイターの創作意欲を沸き立たせるような行動を取っているという意見もある。女性ユーザーの「共感」は特定のカップリングに対して示される場合が多いため、クリエーターのジャンルやカップリング、「愛」の対象が変われば、所属するコミュニティが変わり、それまでのフォロワーが離れていくことも多い。読者の好意的な反応が、今のジャンル・カップリングの作品を書き続けてほしいというプレッシャーになることもある。

ホープ・ドノヴァンはアメリカの腐女子のやおい・BL消費を文化人類的視点で分析し、前資本主義的な、資本主義に帰属しないコミュニケーションが構築されていると述べた。例えばBLファンサイト Aarinfantasy では無料で作品をダウンロードすることができ、見返りに「thank you」ボタンを押すという形になっており、金銭目的ではなく、純粋にやおい・BL作品を共有したいという欲求によって成立している[16]

名藤多香子は、腐女子を含む女性の同人サークルにおいては、先輩から後輩に対して敬語をはじめとする礼儀作法の類を厳しく教え込まれたり、それに反した構成員をコミュニティから排除するケースもあったと述べている[44]

日本での現実のファン活動は、腐女子が自ら創作した漫画や小説の冊子を販売する同人誌即売会が多い。やおい・BLジャンルの研究者は他のピュラーカルチャー研究同様に愛好者が多く、若手研究者を中心に2009年に設立された「大阪腐女子研究会」などの研究グループもある[45]。欧米では、お祭りのように一日中いくつもの活動が同時に行われ、来場者が興味のある催しに顔を出すコンベンションが多い。日本ではイベントの開催に社会的な制約はないが、性的な表現への強い規制や同性愛嫌悪、女性の性的欲望と行動に制限のある国の場合、イベントの開催は容易ではない[43]




注釈

  1. ^ 例えば中島梓の『タナトスの子供たち―過剰適応の生態学』(筑摩書房、1998年)で使われている。
  2. ^ 漫画『私がモテてどうすんだ』の著者ぢゅん子は、腐女子の主人公について「もっとも主人公になりたくない人物」と語っている。
  3. ^ ブログに掲載された情報によると筆者は30代男性で、「最近, ネット上の某掲示版で腐女子(たぶん[ふじょし]と読む)の見習いをしている. 腐れた女子という意味で, まあ女子になることはできないが, この 腐れという言葉が面白い. 」と書かれている。
  4. ^ 熱狂的・狂信的な声優ファンは声豚という蔑称で呼ばれることもある。
  5. ^ 10歳以下 353票 7.8%、11 - 15歳 2684票 59.5%、16 - 18歳 604票 13.4%、19 - 25歳 263票 5.8%、25歳以上 605票 13.4%
  6. ^ 小学生 41%、中学生 37%、高校生 11%、大学生 11%
  7. ^ この不健全指定のほとんどは、上述した2010年の条例改正で導入された新基準ではなく、「著しく性的感情を刺激するもの」という旧基準(1964年の条例制定当時からある基準)に基づいて指定されている。
  8. ^ 「ガイネーシス」はアリス・ジャーディンの発案した概念で、女性を主体としたコンテクストを表現したものを意味する。慶応義塾大学の巽孝之は、ジャーディンは「西欧近代家父長制の支配的言説が『時間』軸に沿った男性原理と断じ、そのような支配的言説自身が把握しえず制御しきれぬ『空間』領域を――従来は『自然』『他者』『物質』『狂気』『無意識』とからめて『女性的含意』を与えられてきた領域を――聖書創世記の起源神話genesisを模して『ガイネーシス』gynesisの名で呼んだ。」と述べている。
  9. ^ 例えば大島弓子の漫画『ダイエット』など。

出典

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