義務教育 義務教育の概要

義務教育

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/10/17 20:41 UTC 版)

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19世紀、小学校に通う風景

学齢と関係が深い概念なので、より深く理解するには「学齢」の項目も参照のこと。

義務教育の歴史

学校制度がまだ存在しない古代から現代の義務教育制度に通ずる社会制度は存在した。古くはスパルタにおける7歳から30歳の男性に対しての義務的な教育制度が存在し、自由民に対する文武両道の教育が行われていた。また、シャルルマーニュは802年に貴族の子弟に限定されない義務教育令を公布した。

中世になると、ルター派の諸国では民衆に対する教育に力を入れ始めたが、中でも、ドイツのゴータ公国のエルンスト敬虔公が1642年に公布したゴータ教育令は、現代の教育法規と同様に、授業時間、学級編成、教科書などの細密な規定がなされている点でかなり先進的なものであった。ゴータ教育令では義務教育の終了は「12歳を超えるか、文字が読めるようになるまで」と定められており、必ずしも一定年齢までの在学を義務付けていないという点で終了基準は課程主義(前述)と年齢主義の併用であったといえる。こういった教育制度はプロイセンフリードリヒ2世の時代まで主流であったが、基本的には下層階級の救済という目的は薄かった。

産業革命期になると、労働者階級の年少児童が工場などでの労働力として使われるようになり、劣悪な環境におかれることになった。イギリスでは19世紀前半には工場法などによって年少者の工場雇用を禁止し、19世紀後半には義務教育制度が施行されるようになった。アメリカ合衆国ではマサチューセッツ州が1852年に最初の義務教育法を制定した。ただし、これは親が貧困のために子を就学させないことを許容しているものであったため、義務教育制度の本来の対象であるはずの貧困層を救済できないものであるという批判もある。

現代的な学校の形態の起源は1807年よりプロイセンで行われた教育改革に求めることができる。1806年フランスとの戦争に敗れたプロイセンでは、ヴィルヘルム・フォン・フンボルトに意見を乞い、逃亡しない従順な徴集兵候補を育てることを目標とした厳格な義務教育プログラムを策定した[1]。あらかじめ決められたカリキュラムを時間割で管理し、個々人の習熟度を度外視して学年単位で教授する教育法はプロイセン・モデルと呼ばれ、アメリカをはじめとした諸国の教育に影響を与えた[1]

20世紀初頭のアメリカにおいては、一部の州で「義務就学年限は14歳までだが、読み書きができない場合は16歳まで」とする課程主義と年齢主義を併用した終了規定を設けていた[2]が、現在では全て年齢主義での規定になっていると思われる(ただし特別支援教育の義務教育年限は20歳~21歳までとなっている)。

義務教育の保障

世界人権宣言、及び経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(通称「国際人権A規約」)では、以下に初等教育レベルの義務教育の権利・義務を定められている。

すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等教育は、義務的でなければならない。

— 世界人権宣言 第26条1
初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとすること。 — 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第13条第2項(a)

第二次世界大戦後、先進国ではもはや年少者が工場での労働力に用いられるようなことは過去のものとなっており、積極的な「児童のための教育」の考え方が強くなった。もはや、「教育を受ける義務」ではなく、「教育を受ける権利」としての考え方に転換しているため、「義務教育制度」は「教育普遍化制度」と改称すべきだとの意見もある[3]




  1. ^ a b マット・リドレー『進化は万能である: 人類・テクノロジー・宇宙の未来』大田 直子, 鍛原 多惠子, 柴田 裕之, 吉田 三知世訳 早川書房 2016 ISBN 9784152096371 pp.233-235.
  2. ^ 米国での初等・中等教育の垂直的編制における一般教育と職業教育との関連問題 31ページ 2010年8月1日閲覧。
  3. ^ a b 桑原敏明・真野宮雄『教育権と教育制度』、第一法規出版
  4. ^ 混同している例:『「教育」の常識・非常識―公教育と私教育を巡って(早稲田教育叢書)』 安彦忠彦 112ページ - 『現代教育制度論』 熊谷一乗 80ページ - 両書ともアマゾンのなか見検索で閲覧可能。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao ap 学校制度(学制)-諸外国との比較”. 教育再生会議 (2013年11月26日). 2017年9月1日閲覧。
  6. ^ ノーマライゼーションを実現する障害者のための特別学校”. Scandinavian Tourist Board. 2009年2月21日閲覧。
  7. ^ a b c d 井上和幸、佐野茂、広岡義之 編『教育学基本マニュアル改訂版』創言社、2001年、83頁
  8. ^ a b 井上和幸、佐野茂、広岡義之 編『教育学基本マニュアル改訂版』創言社、2001年、85頁
  9. ^ 中央教育審議会義務教育特別部会 (2005年2月28日). “各国の義務教育制度の概要”. 我が国の義務教育制度について. 文部科学省. 2009年8月27日閲覧。[リンク切れ]
  10. ^ 編集部「国外脱出を迫られる「ホームスクーリング」の家族」、『週刊金曜日』第699号、金曜日、2008年4月。
  11. ^ 複線型教育の必要性 中村豊久 2010年8月1日閲覧。
  12. ^ ドイツマスコミスキャン~学校忌避に禁固3か月 JanJan 竹森健夫 2010年8月1日閲覧。
  13. ^ 井上和幸、佐野茂、広岡義之 編『教育学基本マニュアル改訂版』創言社、2001年、86頁
  14. ^ 学校教育法 第16条、第17条
  15. ^ 学校教育法 第144条
  16. ^ 学校教育法施行令
    第20条 小学校、中学校、中等教育学校及び特別支援学校の校長は、当該学校に在学する学齢児童又は学齢生徒が、休業日を除き引き続き7日間出席せず、その他その出席状況が良好でない場合において、その出席させないことについて保護者に正当な事由がないと認められるときは、速やかに、その旨を当該学齢児童又は学齢生徒の住所の存する市町村の教育委員会に通知しなければならない。

    (教育委員会の行う出席の督促等)
    第21条 市町村の教育委員会は、前条の通知を受けたときその他当該市町村に住所を有する学齢児童又は学齢生徒の保護者が法第17条第1項又は第2項に規定する義務を怠つていると認められるときは、その保護者に対して、当該学齢児童又は学齢生徒の出席を督促しなければならない。
  17. ^ 学校教育法 第18条
  18. ^ 4年制の尋常小学校の場合、第3学年修了で義務教育終了とみなされたかどうかは不明である。
  19. ^ 茶谷[2013:44]
  20. ^ 沖縄夜間中学にも不況の波:珊瑚舎スコーレの動画においては、アナウンサーが自主夜間中学に対してこれは義務教育であるとしている。
  21. ^ なお、学齢期を超過した者であっても、各教育委員会の判断において、新たに入学・編入学を許可することは禁止されていない。
  22. ^ 京都市内の公立中学校・不登校の在日4世を退学に 母子で国賠訴訟[リンク切れ](民団新聞)
  23. ^ 在日外国人の義務教育・中学校退学事件、国家賠償請求 JANJAN
  24. ^ 勝訴!在日コリアン4世中学生不就学裁判【大橋】
    「原告Aは、2度目の退学届の受理に際して、HN校長から、退学と転学の違い及び退学によって原告Aが被る不利益について説明を受けなかった結果、指導要録の引継ぎや卒業認定の問題等、退学によって被る不利益について十分に検討することができず、原告母による退学届の提出に対して主体的に関与することができなかったことにより精神的苦痛を被ったと認められる。」(中略)「以上の諸規定、通達等及び原告Aが現に近衛中学校に在籍していたことなどからすると、憲法26条の規定する教育を受ける権利が外国人に及ぶかどうかという問題は措くとしても、原告Aは、引き続き近衛中学校に在籍し続け、あるいは、転学に当たっては指導要録等の引継ぎを受けるなどして、卒業の際には卒業認定を受けるべき法的利益を有していたと認めるのが相当である。」
  25. ^ 歴史の節で前述のように、原文においては完全な年齢主義だが、移行措置と戦時特例により課程主義が残った。
  26. ^ より正確に表現するには、「尋常小学校、国民学校初等科の非卒業者」などと学校を個別に挙げることになる。
  27. ^ 戦前の制度において「義務教育の修了」の語句を用いた場合は、学齢期間中に尋常小学校を卒業したことを意味し、「義務教育の終了」の語句を用いた場合は、前記のことの他、尋常小学校を卒業しないうちに学齢を超過したことも意味する。なお学齢超過後に尋常小学校を卒業した場合に「義務教育の修了」と言えるかについては本来微妙である。
  28. ^ 児童手当法 - 「義務教育終了前の児童(十五歳に達した日の属する学年の末日以前の児童をいい、同日以後引き続いて中学校又は盲学校、聾学校若しくは養護学校の中学部に在学する児童を含む。以下同じ。)」





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