終身雇用 論点

終身雇用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/11/12 23:47 UTC 版)

論点

終身雇用は、戦後の高度成長に適した制度として発展した。しかし、長期に渡る経済停滞によってさまざまな問題点が顕在化し、経済学者や評論家などから終身雇用の見直しが提案されている[17][18]

企業内教育と経済合理性

企業側から見た長期雇用の利点は、長期的な展望に基づく企業内教育による人材育成への投資が行いやすいという点である[19]。人材育成のための企業の教育投資は、企業からすれば短期的な利益に繋がらないコストであるために、労働市場の流動化は企業が社員に対する教育投資を減らすことに繋がる懸念がある。

また、教育訓練に対する従業員の意欲や、企業忠誠心を高く維持することができる。

仮に需要が低下し雇用が過剰になったとしても、それが一時的で、将来的に需要が回復するのならば、すでに費用を投じて教育訓練を施している従業員を雇い続けるのが合理的である。将来の教育訓練費用を節約できるからである。このような余剰労働力を労働保蔵(labor hoarding)とよぶ。

一方で、需要の低下した状態が長期に渡ると、労働保蔵は企業収支を圧迫し続ける。経済協力開発機構(OECD)の調査結果によれば、労働者の平均勤続年数が短い国ほど高い生産性の伸び率を示す傾向にある[20]

労働者の消費心理への影響

労働者側にとっても、雇用が長期間継続され収入が安定するという見込みは、生活の安定と心理的な安心感に貢献している。住宅ローンのような長期的展望に基づいた生活を予測しやすいという利点もある。

しかし、この影響を受けるのは終身雇用に守られた正規労働者に限られる。労働者全体のおよそ三分の一を占める非正規労働者にとっては、これは当てはまらない。

適切な労働力配置への妨げ

終身雇用のもとでは人員整理や転職が難しく、経済の変化に伴う企業間・産業間の適正な労働力配置の妨げになるということが指摘されている[21]

企業にとっては、業績が悪化して労働力が余剰となった場合にも、終身雇用に守られた労働者の整理解雇は困難である。労働者にとっても、他の企業による中途採用の機会が乏しく、また年功賃金による若い頃の「出資」を回収する必要性から、企業の業績が悪化したとしても途中で辞めることは非合理的な選択となる[21]

意識調査によれば、現在の職場に不満を持つ労働者の割合は、アメリカ人の8%に対し、日本人では20%と大きな差がある[21]

技術革新

終身雇用は技術革新の導入を容易にしたという指摘がある。終身雇用下では余剰人員が配置転換によって他部門に吸収されるために、技術革新による失業への脅威を減らし、新技術の導入を容易にしたというものである[22]

正規労働者と非正規労働者の格差

企業は業績変動に合わせて雇用調整を行う必要がある。しかし、終身雇用のもとでは、正規労働者整理解雇は困難である。そこで、契約社員派遣社員などの非正規労働者が景気変動のリスクを受ける形となる。

正社員の終身雇用を前提とした日本型雇用が均等待遇実現を阻んでいる[21]

女性差別

女性は出産・子育てで休職期間ができるので、長期雇用前提の制度下では、補助的な役割しか与えられない傾向にある。女性の社会進出が進む中で、キャリア志向の女性にとっては子供を持つことの機会費用が大きく、少子化の一因となっている[21]

転勤や単身赴任

終身雇用の代償として、供給労働力を調整するため、出向、転勤など企業内労働市場、企業グループ内労働市場の中での異動が行われる。欧米では、幹部を海外法人に派遣するような場合を除けば、ほとんど存在しない[21]

長時間労働

終身雇用は、正社員の長時間の残業の原因となっているという指摘がある[23]。なぜならば、終身雇用を前提とした雇用システムでは、不況期に余剰労働力の整理を行いにくいため、好況期の人手不足に対して、新規採用ではなく正社員の長時間労働で乗り切ることを迫るためである。終身雇用を名目とした、正社員の長時間労働の要求に対して、労働者側が断わりにくい土壌があるのではないかと指摘されている。




  1. ^ James C, Abegglen (1958). The Japanese factory: Aspects of its social organization. 
  2. ^ J.アベグレン 『日本の経営』 占部都美、ダイヤモンド社、1958年
  3. ^ ジェームス・C・アベグレン 『新・日本の経営』 山岡洋一、日本経済新聞社、2004年12月10日、1版1刷、p27。ISBN 4-532-31188-8
  4. ^ 関口 (1996) pp.1-2
  5. ^ 『朝日新聞』2014年7月12日付「あのときそれから」1958年 終身雇用
  6. ^ 関口 (1996) p.45
  7. ^ 関口 (1996) p.75
  8. ^ 関口 (1996) pp.38-39
  9. ^ 関口 (1984) p.83
  10. ^ 野村 (2007) p.106
  11. ^ 関口 (1996) p.172
  12. ^ 濱秋ら (2010)
  13. ^ 「日本/ヨーロッパ各国の年代別転職率」
  14. ^ 【会社の寿命】今や"寿命"はわずか5年
  15. ^ 「会社の寿命30年」説を検証 - 日経NEEDSで読み解く
  16. ^ NIRA研究報告書
  17. ^ 勝間和代 (2009年4月4日). “終身雇用を見直そう” (日本語). 2011年2月21日閲覧。
  18. ^ 柳川範之 (2009年4月). “緊急提言 終身雇用という幻想を捨てよ―産業構造変化に合った雇用システムに転換を―” (日本語). 2011年2月21日閲覧。
  19. ^ 関口 (1996) p.236
  20. ^ THE NEW ECONOMY BEYOND THE HYPE The OECD Growth ProjectFigure IV.6. Low tenure countries tend to enjoy high productivity growth
  21. ^ a b c d e f 『労働市場改革の経済学-正社員保護主義の終わり-』(八代尚宏、2009年)
  22. ^ 占部 (1987) p.29
  23. ^ 関口 (1996) p.55





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